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第五章 反撃

54.すべて己に返る

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 その時、私をかばうように前に立ったのはレインハルトだった。

「俺の婚約者を侮辱するのは止めてもらおう」

 エミーリアはフラッと立ち上がると手を伸ばした。

「お前さえいなければ、私の未来は約束されていたはずなのに……!!」

 エミーリアは手の中で、巨大な魔力の塊を作り出す。それはバチバチと音を出し、瞬く前に手の上で支えられないほどの大きさとなる。

 冷や汗が流れ、ゴクリと喉を鳴らした。

 まずい、自暴自棄になったエミーリアがなにを考えているのか、想像がつく。

 あの魔力の塊を一度に放出してはひとたまりもないだろう。

 聖女と崇められたエミーリアが作り出したとは思えないほどの、禍々しい魔力に固唾を飲む。

 だが、こうしてはいられない。

「皆さん、避難して!!」

 私のかけ声と共に我に返った人々は、散り散りに逃げだした。
 広間には悲鳴が響き渡る。

 エミーリアの目は血走り、完全に暴走している。

「お前さえ、いなければ完璧だった。私の邪魔をする者は消え去るがいい!!」

 叫ぶと同時に手を大きく振りかぶる。魔力の塊を私目がけ、投げつけようとしている。


「レイテシア!!」


 その時、レインハルトが両手を広げ、私をかばう。

 ダメ、あなたはこの国の王子として、大事な存在。それにエミーリアの罪を暴き、ここまで暴走させた私の責任。

 渾身の力を込め、レインハルトを突き飛ばすのと、エミーリアが魔力の塊をぶつけるのと同時だった。

 あっ…………!!

 魔力を受け止めた全身が重い力を感じ、胸が圧迫され苦しい。
 
 息ができない。

 このまま、終わってしまうの……!?

 チラリと脳裏をかすめた時、周囲をまばゆい光が包んだ。

 胸元が火傷したかと思うほど、熱を帯びた。そこから金色の光が輝くと、やがてその光は私の全身を包み込んだ。

 瞬時に光が魔力の塊を跳ね返す。

 エミーリアはその勢いにひるんだ。防御の体勢を取る間もなく、魔力の塊は彼女に直撃すると弾け飛んだ。

 すさまじい衝撃音と突風が吹き、倒れそうになる。

 その時、全身がギュッと包まれた。

 驚いて顔を上げるとレインハルトが私をきつく抱きしめている。

「大丈夫か?」
「えっ、ええ」

 返事をすると彼の安堵した顔が視界に入る。

 私はまだ熱を持つ胸元を確認する。

 これはレインハルトからもらった魔力返しのペンダント……!!

 このおかげで、エミーリアからぶつけられた憎悪の魔力を跳ね返した。
 さきほどまで綺麗だった広間が、今は無残にガラスが割れ、床に散らばってグシャグシャだ。

「きゃああああ!!」

 突如、悲鳴がこだまする。

 まさかカウンターとなって返ってくるとは思ってもいなかったのだろう。弾き返された魔力を一身に浴びたエミーリアは頭を抑え、もだえ苦しみ始めた。

「ああああ、いやああああ」

 そして、エミーリアの全身からくすぶるような煙が出ている。あれはいったいなに? 

 いぶかしんで見ていると異変に気づく。

 エミーリアの流れるような金の髪はくすんだ灰色へ。張りと艶のあった肌は皺とシミが現れた。

 実年齢より倍以上、年をとって見えた。いや、それよりも老婆だ。

「なんてことを……」

 その時、前に魔力の授業で教師が言っていたことを思い出す。

『聖なる力を邪心を持って使えば、悪しき力に変わる』

 まさにそれだ。聖女の持つ力が悪しき力に変わり、エミーリア自身に跳ね返った。

 エミーリアはブルブルと震えながら、自身の手を見つめた。皺が増え、陶器のように滑らかだった肌は無残にも変わり果てた。

「あっ、ああああ、嫌、嫌よ、嫌!!」

 異変を感じとったのだろう。自身の顔を両手でさする。
 皺だらけになった両手を見つめる。

「こ、こんなことがあってたまるものですか!! 私、私の美しさを返して!!」

 泣き叫ぶエミーリアは、その場に崩れ落ちた。

 国王が目で合図を送ると、衛兵は静かにうなずいた。

 頭をかきむしって発狂している脇を、衛兵が二人がかりでガッシリと押さえ込む。

 エミーリアは泣き叫びながら、そのまま連行されていった。

 その背を見送り、エミーリアの後ろ姿が見えなくなった時、気が抜けた。


 これで終わった……。


 ループ前と同じ運命を回避したんだ。

 緊張が解け、ずるずると床にへたりこんだ。
 散り散りになった建国祭の広間を見ていると、影を感じて顔を上げる。

 レインハルトが脇に立っていた。

「あ……」

 彼は苦々しい表情を浮かべている。

「お前はなに無茶をしているんだ!!」

 いきなり怒鳴られてびっくりして目を丸くした。

「危なかっただろう、あのまま守護の力が効かなかったら、お前は吹き飛んでいたぞ!!」
「怒鳴らなくても聞こえているわ」

 両手で耳を押さえ、抗議の声を上げながら、立ち上がった。
 さらに声を張り上げようとしたレインハルトだが、唇をギュッと噛みしめる。

 いきなり両手をスッと伸ばしたので、ビクッとして身構えた。

「無事でよかった……!!」

 そのままギュッと抱きしめられた。優しく安堵したように耳元でささやかれた。

「ケガはしていないか?」

 恥ずかしくて身をよじろうとしても、力強い手は私を離そうとしない。
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