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第四章 立ち向かうと決めた、運命に!

46.未来の発明家からの贈り物

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「それでね、聞いてよ!! 私のことをすごく目の敵にしている女性がいるの。肌で感じるわ、私たちは合わないって」

 ここぞとばかりにロンに愚痴をこぼす。

 ロンはストローに口つけて、フルーツジュースをズズズッと吸った。

「苦手だからこそ近寄らないようにしていたけど、敵意むき出しなんだから。だからね、私は立ち向かうと決めたの」
「ふーん。大変そうだ」
「なかなか尻尾を掴ませないと思うけど、私に接する時だけ見せる、腹黒な部分を皆に知らせてやりたいわ」
「それで、その仲良くなれない女の人って、僕の知っている人?」

 ロンからの質問にドキッとする。

 いくら世間の話題にあまり興味のないロンでも、聖女であるエミーリアの話題は耳にしたことがあるだろう。

 それにこの街でエミーリアのことを知らない人はいない。先日、あんなに派手なパレードが行われたんだもの。こんな公共の場で堂々と聖女の不満を口にするのは、誰が聞いているのかわからない。

 だが、日頃のうっぷんを聞いて欲しい。

「実はね、聖女といわれているエミーリアと犬猿の仲なのよ」

 ロンに顔を近づけ、こそっと耳元で愚痴を吐く。

「ププッ!! 聖女とそんなことになっているなんて、なにしているんだよ」

 案の定、ロンは噴き出し、面白がっている。

「笑わないでよ。こっちは真剣なんだから」

 ムッとして口を尖らせた。ロンは笑いすぎて、にじんだ涙を拭きとりながら言った。

「そっか。じゃあ、ちょうど良かったな」

 ロンはいつも肩からかけているカバンの中をガサゴソとあさり、そっとテーブルに差し出した。

「これプレゼント」
「なにこれ? 可愛いわね」

 それは小さなブローチだった。目の部分が小さく光っている、赤いてんとう虫だった。

「いつの間に発明家からアクセサリ職人に鞍替えしたのかしら?」

 冗談を言いながら、ブローチを光にかざしてみた。うん、とても可愛いデザインだ。ロンはこっちのセンスがあるんじゃないのかしら? 

「それ胸元につけておいて。その女性と接した時、てんとう虫のお尻のスイッチを押して」
「毎回押せばいいの?」
「いや、一度でいいよ」
「ええ、わかったわ」

 小さな赤いてんとう虫のブローチ。未来の発明家が作った作品だもの。きっとすごい仕掛けが隠されているに違いない。

「あと、これも見て」
「なにこれ? 杖?」
「名付けて微笑みの杖さ」

 ロンがスッと差し出したのは、先端に小さなクリスタルがついている杖だ。

「これは人を笑顔にするんだ」

 可愛らしいデザインだけど、どんな効果があるのだろう。

「えいっ」

 突如、ロンが私に向けて杖を振る。杖の先からボンッと音がして、銀色の煙が飛び出した。

「わっ、びっくりした」

 音に驚いてのけぞったあと、思わず笑ってしまう。

「ほら、笑顔になった。効果は抜群だ」

 ロンはニコニコと笑みを見せ、満足している。

 単なるオモチャじゃないか。

 そのまま机に突っ伏した。

 自信満々に胸を張るロンだけど、ブローチの仕掛けも、あまり期待しないでおこう。
 ……うん。

「先日のパレードで、魔獣と対面したらしいね」
「えっ、どこでそれを聞いたの?」
「そりゃあ僕だって、一市民として世間の行事に興味だってあるさ」

 珍しいこともあるものだ。世間の噂にうとい彼が興味を持つだなんて。

「その時、レインハルト様が登場して皆を守ってくれたそうじゃないか。学園でもその話題で持ち切りだったよ。レインハルト様はヒーローのように崇められていた」
「ああ、そうね。……でも、パレードを襲った魔獣がなぜ、街に出現したのかしら? いつもは人里離れた場所に生息しているはずでしょ。それに倒れた魔獣の足首に、気になることがあったの」

 あの時の違和感を初めて口にする。そして私は持ってきたアンクレットをロンの前にそっと差し出した。

「これがね、魔獣の足につけられていたの」

 ロンは興味深そうにアンクレットを手にする。

「これは……」

 ロンの瞳が輝き出す。

「なにかわかる?」

 私はグイッと身を乗り出した。

「ちょっと預かっていてもいい?」

 ロンは発明家を目指すだけあって、怪しい物に興味がひかれる。そして同じようなマニアックな物知りたちに顔が効く。

「いいわ。なにかわかったら教えてちょうだい」

 とりあえず気になっていたアンクレットをロンに渡すことができ、ホッとする。

「なんだか、アカデミーに行ってから大変そうだね」

 しみじみとロンが口にする。

「ええ、そうなのよ」

 しかもたった一人でエミーリアに対峙すると決めたものだから、正直心細い。返り討ちに合わないとも言い切れないのだ。

「でも私はもう逃げないって決めたから」

 ロンの目を見つめ、宣言する。ロンはニヤリと微笑む。

「そっか。じゃあ僕からレイテシアに贈り物があるんだ」
「えっ、このブローチ以外にもあるの?」

 ワクワクと期待してテーブルから身を乗り出した。ロンはカバンから次々と取り出した。

「ほら、これ。新しい発明品」

 ロンはその小さなカバンのどこに詰め込んでいたのかと不思議に思うほど、テーブルの上に発明品をざっと並べた。

「すごい、よくこんなに考えたわね」

 毎月のお小遣いからロンに渡し、私は彼の才能を買っているのだ。ロンは律儀にこうやって定期的に見せてくれる。

「これは集まれコバエ。机に置くとコバエが集まる。これは拡声機。目覚ましの音が物足りない時は使うといいよ。ただ威力はすさまじく、屋敷中に響き渡ると思うから気をつけて」

 起きる前に鼓膜がやぶれてしまうんじゃないかな、それは。

「集まれコバエって……」
「食べ物を放置しているとコバエが集まるだろう? それを一門打尽にできるのさ」

 そもそも食べ物を放置しなければいいのでは? そう思ったが黙っていた。

 そうして私は大量のガラクタにも思えなくもないロンの発明品の説明を聞いたあと、帰宅したのだった。
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