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第四章 立ち向かうと決めた、運命に!

43.辛い記憶

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「ま、待って!!」

 私も走って彼らに追いつきたいが、いかんせん周囲は真っ暗だ。いきなり灯りが消えたことで目が慣れない。こんな時、やみくもに動いては危険だ。

 ジッとして目が慣れるまで辛抱強く待った。

 なぜいきなり灯りが消えたの? そもそもあの二人どこへ行ったのだろう。まるで示し合わせたようにいなくなった……。

 まさか最初から暗闇の中、私を置き去りにするつもりだった?

 背筋がゾクッとした。

 最初からどこか様子がおかしかったもの。これは計画的犯行に違いない。いくら私のことを嫌っていても、これはないんじゃない!?

 考えていると頭に血がのぼる。
 洞窟に一人置き去りだなんて、なにが目的なのか。単なる嫌がらせか。

 やっぱりあの二人の呪いの人形を作ってやる!! そして針でチクチクさしてやろうか。

 その時、洞窟の奥から吹いてきた風が頬を擦り、我に返る。

「ダメダメ、呪いの人形作りは生涯封印だから」

 ピシャリと頬を叩いた。

 まずはこの洞窟から無事に脱出することだ。あの二人を問い詰めることは、それからでもできる。

 それに目も少しずつ、暗闇に慣れてきた。ここでジッとしていても仕方ない。でも、もしかしたら誰か助けに来てくれるかしら?

 ふと脳裏に浮かんだのはレインハルト。

 剣を携え、聖女のパレードの時も真っ先に私を助けに来てくれた。
 ふと、そんなことを考えていたら、涙が出そうになった。

 ダメ、今世ではレインハルトには頼らないと決めたはずでしょ。彼はどうせ、エミーリアと恋仲になるのだから、いくら私が信頼を寄せても無駄なのよ。

 そうよ、今世では自立よ、自立! 幽閉されて終わるのも、男にすがる人生も歩まないと決めたのだから。

「さあ、行こう」

 自分自身を奮い立たせるためにも、声を張り上げた。

 そして再び、なにかの音が聞こえることに気づく。

 これはなんの声なのかしら? もしや洞窟の奥で動けなくなった人が助けを求めているとか?

 そうだ!! 確か、持ってきていたはず。

 私は背負っていたリュックの中を漁る。気が動転していて忘れていたが、一通りの準備をしてきたことを思い出す。

 ガサゴソとリュックの中を漁り、取り出したのはランタン。マッチをこすって火を灯すと、周囲を明るく照らす。

 奥にはなにがあるのだろう。
 こうなったら私一人でも洞窟をクリアしてやろうかしら。
 そうして私は洞窟の奥へと足を進めた。

******


 しばらくすると洞窟全体に靄がかかっていることに気づく。

 これは霧? 

 やはり、ここは引き返そう。奥に進むのは危険だと本能が告げている。

 その時、頭がクラッときて、足元がふらついた。

 いけない、転んでしまう。頭を抑え、自分自身を奮い立たせた。

 顔を上げた時、見えた光景に息を呑んだ。

 えっ、どうして――!!

 目の前に広がるのは華やかな舞踏会の広間。

 突如、エミーリアが姿を現す。綺麗なドレスを着て笑みを浮かべ、ダンスを踊っている。楽師たちが奏でる音楽が聞こえる。彼女の手を強く握りしめ、愛しい者へ向ける眼差しを送っているのはレインハルトだ。

 彼らは二人の世界に入り、お互いしか視界に入っていない。

 胸がギリリと痛んだ。

 この光景は覚えている。舞踏会で二人が踊る姿を見て、嫉妬にかられ胸が引き裂かれそうだったもの。

 ループ前に見た光景。なぜここで再現されているの。

 クルクルと目の前で軽やかにダンスを踊る二人。

 もう、止めてよ!!

 心が悲鳴を上げた時、場面が切り替わる。

 古い石畳の冷たく、閉ざされた空間。高い場所に位置する窓から、かろうじて光が差し込む。粗末な机と椅子、ベッドが並べられている。

 ここは――私が最期を迎えた時忘れの塔だわ!!

 なぜ、ここにいるのだろう。

 息を呑み、目を見開く。足を動かすことが出来ない。

 そう、嫉妬に駆られた私は、エミーリアの策略にはまって、この部屋で最後を過ごした。ネズミだって蛇だって平気になった。

 さまざまな感情が交差して胸が苦しい――。

「レイテシア」

 突如、肩に触れる感触がある。そして、すごい勢いで揺さぶられる。

 ハッとして我に返ると、周囲は薄暗い洞窟の中だった。力強く両肩を掴まれ、視界に飛び込んできたのは、よく知った顔だった。

「無事で良かった!!」

 えっ……!? レインハルト……?

 そのまま強く抱き寄せられた。驚きのあまり目を瞬かせ、唇が震える。

 混乱する頭を抑え、ドクドクと鳴る心臓を落ち着かせようとした。

「あれ、なんで私ここに……。塔にいたはずじゃ……。それにあなた!!」

 キッとレインハルトを見つめた。

「エミーリアと踊っていたはずでしょう? 彼女はどうしたの!?」

 レインハルトは眉をしかめ、険しい表情を浮かべる。

「なにを言っているんだ?」

 まるで私がおかしいことを言っているとでもいいだけなレインハルトにカッときた。

「エミーリアと踊っていたじゃない!! 微笑みを浮かべて楽しそうに!!」

 そうよ、あなたは私の気持ちなんてお構いなしで、優しい眼差しをエミーリアに向けていた。いつもいつも。 

 側で見ていた私がどれだけ惨めな気持ちになっていたかだなんて、知らないでしょう!!

 彼の腕に掴みかかり、詰め寄った。

 レインハルトは冷静だった。そっと手を伸ばし、私の頬に触れる。

「頼むから落ち着いてくれ。話ならあとからいくらでも聞くから」

 触れた指の先が冷たくて、ビクンと体を震わす。レインハルトは指を頬に滑らせた。

「よほど怖かったのか。……泣くな」

 彼に言われて初めて気づいた。私は泣いていた。
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