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第三章 帝国アカデミーへ!

40.ダンスパートナー

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 アカデミーで開催される夜の舞踏会は、パレードの話で持ちきりだった。

 魔獣が現れたこと、そしてエミーリアの力がいかに素晴らしかったのか、人々は噂した。

「すごいね、昼間の聖女の活躍話で持ちきりだ」

 レナードが感心した声を出す。

「そうね」

 あっさりと興味なさげに返答する。

「これより、ダンスパートナーを決めます」

 会場に司会の声が響いた。

 ダンスパートナーはフォーチュンクッキーによって決められることになっている。

 進行役が手にトレイを持って登場する。

 トレイの上には焼き上がったクッキーがたくさん載っていた。
 二つ折りになった形の焼き菓子の中から、一つだけ選ぶ。

「皆さん、クッキーがいきわたりましたか?」

 司会の楽しそうな声が会場に響く。

「それでは一斉に開けてください。同じ数字が書かれている二人がパートナーです!!」

 会場が盛り上がる中、レナードが先にクッキーを割る。

「僕は13だ」
「えっ、私も!!」

 同じ数字の書かれた紙を見せ合い、笑ってしまう。

「良かったわ、レナードで。知らない人にあたったら、どうしようかと思っていたの」
「それは光栄だな」

 こんな偶然はあるのかしら。でも下手に気を遣う相手じゃなかったことに安堵する。

「皆さん、パートナーがそろいましたか?」

 会場は盛り上がり、各自が自分の相手を探している。

「レイテシア」

 ふと声がかかる。

「何番だった?」

 振り返るとそこにいたのはレインハルト。彼が手にしていた紙には7と書かれていた。

「私はもうパートナーを見つけたわ」

 隣に並ぶレナードにチラリと視線を投げる。レインハルトはあからさまに落胆した。

「よりによってお前か……」

 苦い顔を見せるが、レナードは苦笑するのみだ。

「……レイテシアを頼んだぞ」

 すっごい渋々とした表情だ。

「レインハルト様!!」

 げっ、エミーリア。

 彼女が手にしているのは7番の紙だった。

「レインハルト様が7だとお聞きしました」
「ああ、そうだ」
「光栄ですわ」

 パッと顔が輝いたあと、優雅に腰を折るエミーリア。

 ちょっと、これ出来レースなんじゃない? 本日の主役の二人がペアだなんて、上手くいきすぎてるでしょ。

 でもまあ、別にいっか。二人で仲良くやっていればいい。

 ソソソッと後退する。
 エミーリアが私に視線を向ける。

「レイテシア様、レインハルト様と――」
「ああ、仲良くやってくださいね」

 どうぞどうぞ、私に遠慮せずに。シッシッと手で追い払いたい気持ちをグッとこらえる。

「いきましょうか、レナード」

 ペアはダンスを一曲終わるまでの間。その後はどう動こうと自由だと聞いた。
 だったら早々とダンスを終え、解放されるのみだ。

 レナードの腕に手を絡める。そっと顔を上げ、レナードに微笑む。
 レインハルトは眉間に皺を寄せている。その腕に、エミーリアは手を絡ませていた。

 レナードと一曲ダンスを踊り始めた。

「考えてみれば、レナードとこうやって踊るのも懐かしいわね」
「そうだね、小さい頃以来だ」

 小さい頃はダンスの練習相手として、屋敷で練習したこともあったっけ。

「あの頃より、足を踏まれなくなったな」
「失礼ね。上達したって言ってくれない?」

 その時、ステップを踏み間違え、まんまとレナードの足を踏みつけた。

「あっ!!」
「痛っ!!」

 顔をしかめたレナードに思わず苦笑い。

「ごめんなさい。ちょっと調子に乗ったみたいだわ」
「大丈夫、これぐらい。やっぱり変わっていないようだね」

 そして二人で顔を見合わせて笑う。

 フッと視線を感じたので顔を向けると、レインハルトと視線が絡みあう。

 反射的にバッと逸らす。

「どうしたの?」

 不思議そうに顔をのぞきこむレナードは顔を上げる。すると事態に気づいたようだ。

「ああ、レインハルト様ね。気になって仕方ないんだろうな」

 レナードは苦笑する。

 きっとレインハルトは、私のダンスが下手だとか思っているのだろう。
 でも今日、足を踏まれるのはあなたじゃない、レナードだ。だから安心して欲しい。

 一曲を踊り終えると、さすがに汗をかいた。それに慣れない靴を履いたからか、靴擦れができたみたいだ。足が痛い。

「楽しかったね」
「ええ」

 レナードは気づいていないようだ。せっかくの楽しい気分に、水を差すようなことは言いたくない。黙っていることにしよう。

「もう一曲踊る?」
「いえ、私はいいわ。他の方と踊ってきたら?」

 一曲踊ってしまったら、あとは誰と踊ってもいいルールだ。

「友人を作るチャンスだし。それにほら、レナードと踊りたい女性もいると思うわ」

 そう、さきほどからチラチラと熱い視線を感じる。レナードは注目されているのだ。きっとお近づきになりたい女性もいるだろうに。彼の出会いを邪魔してはいけない。

「喉が渇いたから水を飲んでくる」

 レナードに手を振って別れを告げる。

 実際、靴ずれが痛いので、もう踊るどころではない。ちょっと休みたい。

 水を飲んだあと、そっと会場を抜け出した。盛り上がっている場は、どうも得意ではない。

 それにどうせ、私一人抜け出したって気にする人もいないだろう。

 庭園まで行き、夜の風に当たる。ここからでも会場のにぎわいが聞こえる。

 やがて庭園の噴水のところまで来た。
 ふちに腰を掛け、水の流れる音を聞きながら、静かに息を吐き出した。

「レイテシア」

 不意に暗闇から声がかかり、ビクッと肩を震わせた。
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