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第二章 魔法学園へ!

25.父に続いて兄もおかしい。

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 エントランスフロアでは父が待機しており、私たちに気づくとゆっくりと振り返る。

「お待たせしました」
「そんなに慌てることではない。転んだら大変だろう」

 フッと微笑む姿はハロルドに似ている。

 父との関係はループ前よりも良好な関係を築いていると思う。父はどんなに忙しくとも夕食は私たちととるようにしてくれてるし、威圧感もあるから恐縮しちゃっていたけれど、単に口数が少ない人だと気づいた。それからは夕食時に学園での出来事を話すことが日課になっていた。

「お父様、ドレスありがとうございました」

 父はゆっくりとうなずくと、拳をグッと握る。

「うちの娘が世界で一番、可愛い!!」

 な、なに言っているの。

 お父様ってば、こんなキャラだったかしら!?

 記憶の中の父とはあまりにも性格が違い、混乱する。

「おおげさですよ、父上」

 ハロルドは冷静に息を吐き出す。

「世界一までは、言い過ぎです。せいぜいこの国一番でしょう」

 本当、どうしたこの二人!? 今世ではローレンス家の二人はおかしい。

「む、そうか。では、近隣諸国を合わせても一番だろう」
「まあ、それぐらいでしょうかね」

 二人の目に私は絶世の美女にでも写っているのか。それとも二人の目が変なのか、はたまた頭が沸いているのか。

 最近の二人は突拍子もないことを言い出すので驚くばかりだ。

「お父様、レイテシアのダンスパートナーは、レインハルト様だそうです」

 ハロルドはブスッとして不貞腐れた態度を崩さずに伝えた。

「俺がエスコートしてやろうと思っていたのに」

 その後もぶつぶつと小声でなにかつぶやいている。意外に面倒くさい奴だ、ハロルドって。

 そんな彼を無視し、父は私を真っすぐに見つめる。

「――レイテシア、お前に伝えることがある」
「はい、なんでしょう」

 父からの言葉を聞き逃すまいと耳を傾ける。

「お前はこれから――」

 言いかけて首を横にふる。

「いや、なんでもない。今日のダンスパーティを楽しみなさい」
「……? はい、お父様」

 なんだろう、言葉の続きが気になる。だが、父が黙ってしまったのなら、無理やり聞き出すわけにもいかない。

 必要ならあとからでも言ってくるだろう。

 その場は多少気になったが、三人で馬車に乗り込んだ。


******


「うわぁ、綺麗」


 学園につくとすっかりパーティ会場に変わっていた。ダンスパーティの会場となるフロアは花やバルーンで飾りつけされ、立食形式となっている。

 会場では輪になって踊っているペアもいれば、おしゃべりに夢中になっている人もいる。

 父は大人たちが集まる保護者席に早々に向かった。

 皆が精いっぱい着飾り、楽しんでいる雰囲気を肌で感じる。私も楽しくなってきた。

「あ、お兄様、このテリーヌ美味しそう。ちょっといただきましょうよ」
「お前は本当、色気より食い気だな」

 苦笑するハロルドを気にせず、皿を手にして料理を取り分けた。

「レイテシア」

 声がかけられて振り向くと、そこにいたのは正装に身を包むレインハルトだった。

 ま、まぶしいぐらいに輝かしい存在だ。

 その時、ハロルドがスッと私の前に立ちはだかる。

「これはこれは、レインハルト様。今日は妹のパートナーになってくださるそうで。あなた様ほどのお方なら、いくらでもお相手を選べたでしょうに、なぜにうちの子猿なのですかね」

 若干言い回しに棘があるわ。てか、子猿って誰よ。

「ああ、どうしてもレイテシアと踊りたかったんだ」

 食べかけのテリーヌが喉にグッと詰まりそうになった。ハロルドはどこか苦々しい顔を浮かべているが、レインハルトに気にした様子はない。

「いこう」

 スッと差し出された手を見つめる。

 レインハルトはその仕草の一つ一つが、周囲から注目を浴びている。女性たちがチラチラと視線を向け、彼の動向を気にしている。

 まあ、パートナーといっても一回踊れば彼も気が済むだろう。

 息をスッと吸い込むと彼の手を取る。そして踊りの輪の中へと進んだ。

 貴族たちは礼儀作法としてダンスを一通り踊れるように習うのだが、レインハルトはさすがといもいうべき、優雅な立ち振る舞いだった。

 シャンとした姿勢に手の置く位置、私をリードしてステップを踏む姿は完璧だった。彼は思い通りにならないことは、あるのだろうか。

「すごいわね」

 思わず本音がこぼれ出る。

「なにがだ?」
「勉強に剣術、おまけにダンスまで。あなたに不得意なことってあるの?」

 結局、私は勉強で彼に敵うことはなかった。

「帝国アカデミーに行っても頑張ってね。……勝ち逃げされたみたいで悔しいけれど」

 最後ぐらい優しい言葉をかけてもいいかな、ふと思った。

 そうよ、彼とはいいクラスメイトだった。ループ前は彼にべったり張り付くだけの私だったが、今世では関係性が変わった。よきライバル、というのか。

 だからこそ、笑顔でさよならしよう。

 レインハルトは目を細め、唇をギュッと結んだ。ゆっくりと息を吸い込むと、形のよい唇を開く。

「お前は――俺がここを去ってもなんとも思わないのか?」
「えっ?」

 それはどういう意味だろう。不思議に思うと同時に握りしめられた手にギュッと力がこもる。

『これで断罪ルート回避は確定~~!! そちらは聖女と仲良くね』

 とは、口が裂けても言えない雰囲気だ。

 彼の視線を真正面から受け止める。ジッと私に視線を向けているレインハルトの表情は真剣そのものだ。
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