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第二章 魔法学園へ!
22.揺れる心
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彼をジッと見ていると、隣にいたロンが急に声を出す。
「あっ、僕、今日家の用事を頼まれていたのを思い出した!! 急いで帰らないと!!」
そういうやいなや小走りになる。
「じゃあね、また明日」
手を上げてさっさとこの場から去ったロンの背中を見送った。いきなりだったので、あっけに取られた。
この場に残されたレインハルトと私は顔を見合わせた。なにか私に言いたいことがあるのだろうか。思い切って切り出す。
「私に用でもあるの?」
レインハルトは私の目を真っすぐに見つめる。情熱的に輝く眼差しを逸らさずに、形のよい唇を開く。
「――ダンスパーティのパートナーは決まったのか?」
「え? 決めていないけど……」
予想外のことを聞かれ、驚いた。
「じゃあ、俺と組まないか?」
「へ?」
驚きすぎて間抜けな声が出た。
ダンスパーティでパートナーになんてなったら、どうしても目立ってしまう。いくらレインハルトが帝国アカデミーに行き、ここに聖女はいないとしても、噂になるのは困る。
万が一、エミーリアの耳に入ってしまい、私を敵視するようになることは避けたい。
「む、無理よ」
焦りながら手を振る。
レインハルトの眉がピクリと動く。
「なぜだ。決まった奴はいないのだろう?」
「そうだけど――」
モゴモゴと口ごもる。
「あなたこそ、私じゃなくてもいいんじゃない? それこそ、あなたから誘われたい生徒は大勢いると思う」
一度だけでいいから彼と踊りたいと夢見ている人もいるはずだ。
レインハルトはこの学園で一目置かれている存在だし、憧れている生徒は一人や二人ではない。
だがレインハルトは小さく息を吐き、首を横にふる。
「俺はレイテシア、お前を誘っているんだ」
彼の口から名前が呼ばれ、心臓がドクリと音を立てた。真っすぐに視線が射抜かれ、頬が熱くなってくる。
「他の誰でもない、お前がいい」
はっきりと告げられ、カバンを両手でギュッと抱え込んだ。
「む、無理よ!!」
気づけば思わず叫んでしまった。
レインハルトは私の勢いにのまれたのか、目を見開く。
「あ、あなたとは踊れないから!! 他をあたってちょうだい!!」
後ずさりしながら言うだけ言うと、踵を返す。そのままダッシュで走り去る。
心臓がドクドクと、音をたてている。
なんで、どうして私を誘うの。放っておいてくれたらいいのに!! 傷つけてしまったかもしれないが、これでいいのだ。どこでエミーリアの耳に入るのか、わからない。
確かにループ前の私だったら、レインハルトから誘われたのなら有頂天になり、喜びのあまり卒倒していただろう。でも今は違うの。前の二の舞はごめんだわ。
だけどなぜか、レインハルトの傷ついたような顔が脳裏から離れなかった。
******
翌日、放課後になり、私は学園の裏手にある、森の小道で魔力の練習をしていた。ここは滅多に人も来ないし、集中できる場所だ。
教室にいると誰かは必ずいるし、なによりレインハルトがいる。昨日の気まずい別れから、口をきいていない。
でもさすがに私の態度はひどかったかしら……。
反省していないわけでもない。……いやいや、でもループ前に彼が私にしたことに比べたら、可愛いもんでしょ!? 所詮、ちょっと言い過ぎただけだし。
レオネルが側にいたら、私のことを死刑だとか侮辱罪だとか、わめきちらしたに決まっている。うるさいのがいなくて良かった。
昨日の帰りからずっとこんな調子でレインハルトのことを考えている。
気分が晴れないのは、人を傷つけた自覚があるからだ。
それにレインハルトは帝国アカデミーに転入するって話だし、最後ぐらい優しくしてやっても良かったのかもしれない。なんだかんだいいつつ、彼を勉強のライバルだと思っていた。だからこそ、奮闘することができたのかもしれないし。
そこでふと気づく。
でも高等部から彼はいなくなるとすると、私は誰を目標にして頑張ればいいのだろう。繰り上げで一位を取れても気分的に嬉しくない。
それに彼と今後会うのは、年に数えるぐらいしかないだろう。主に建国祭などの公式行事で。それなら最後ぐらい、ダンスパートナーになってやれば良かったかしら。特に深い意味もないだろうし。
なんだか、モヤモヤした気分を引きずっている。
やはり場所を変えても集中できないので、今日はもう止めて帰ろう。
踵を返そうとした時、茂みがガサリと音を出して揺れた。
なにかいるの!?
身構えると同時に茂みから飛び出してきたのは、黒くて大きな羽を持つ、ウォーターバットだった。
これは先生が言っていた魔物だわ!!
そうだ、ここには近づくなって注意されていた。うっかりしていた。
ウォーターバットはそんなに手ごわい魔物ではない。だがウロチョロと飛び回り、すばしっこい。標的を定めると集団で襲ってくる。
一匹が茂みから飛び出すと、次々と飛び出してくる。
えっ、ちょっと待ってよ!!
焦って両手を振り回すが、あっという間に十匹ぐらい集まった。
私の血なんて美味しくないから!!
走って逃げようとするも、執拗に追いかけてくる魔物たち。
「あっ!」
足がもつれて転んでしまった。頭上ではウォーターバットが飛び回り、今がチャンスだとばかりに近づいてくる。
だ、誰か助けて……!!
その時、周囲をまばゆい光を包む。そのまぶしさに目を閉じる。
恐る恐る目を開けると、ウォーターバットたちは地面に落ちて震えていた。
「あっ、僕、今日家の用事を頼まれていたのを思い出した!! 急いで帰らないと!!」
そういうやいなや小走りになる。
「じゃあね、また明日」
手を上げてさっさとこの場から去ったロンの背中を見送った。いきなりだったので、あっけに取られた。
この場に残されたレインハルトと私は顔を見合わせた。なにか私に言いたいことがあるのだろうか。思い切って切り出す。
「私に用でもあるの?」
レインハルトは私の目を真っすぐに見つめる。情熱的に輝く眼差しを逸らさずに、形のよい唇を開く。
「――ダンスパーティのパートナーは決まったのか?」
「え? 決めていないけど……」
予想外のことを聞かれ、驚いた。
「じゃあ、俺と組まないか?」
「へ?」
驚きすぎて間抜けな声が出た。
ダンスパーティでパートナーになんてなったら、どうしても目立ってしまう。いくらレインハルトが帝国アカデミーに行き、ここに聖女はいないとしても、噂になるのは困る。
万が一、エミーリアの耳に入ってしまい、私を敵視するようになることは避けたい。
「む、無理よ」
焦りながら手を振る。
レインハルトの眉がピクリと動く。
「なぜだ。決まった奴はいないのだろう?」
「そうだけど――」
モゴモゴと口ごもる。
「あなたこそ、私じゃなくてもいいんじゃない? それこそ、あなたから誘われたい生徒は大勢いると思う」
一度だけでいいから彼と踊りたいと夢見ている人もいるはずだ。
レインハルトはこの学園で一目置かれている存在だし、憧れている生徒は一人や二人ではない。
だがレインハルトは小さく息を吐き、首を横にふる。
「俺はレイテシア、お前を誘っているんだ」
彼の口から名前が呼ばれ、心臓がドクリと音を立てた。真っすぐに視線が射抜かれ、頬が熱くなってくる。
「他の誰でもない、お前がいい」
はっきりと告げられ、カバンを両手でギュッと抱え込んだ。
「む、無理よ!!」
気づけば思わず叫んでしまった。
レインハルトは私の勢いにのまれたのか、目を見開く。
「あ、あなたとは踊れないから!! 他をあたってちょうだい!!」
後ずさりしながら言うだけ言うと、踵を返す。そのままダッシュで走り去る。
心臓がドクドクと、音をたてている。
なんで、どうして私を誘うの。放っておいてくれたらいいのに!! 傷つけてしまったかもしれないが、これでいいのだ。どこでエミーリアの耳に入るのか、わからない。
確かにループ前の私だったら、レインハルトから誘われたのなら有頂天になり、喜びのあまり卒倒していただろう。でも今は違うの。前の二の舞はごめんだわ。
だけどなぜか、レインハルトの傷ついたような顔が脳裏から離れなかった。
******
翌日、放課後になり、私は学園の裏手にある、森の小道で魔力の練習をしていた。ここは滅多に人も来ないし、集中できる場所だ。
教室にいると誰かは必ずいるし、なによりレインハルトがいる。昨日の気まずい別れから、口をきいていない。
でもさすがに私の態度はひどかったかしら……。
反省していないわけでもない。……いやいや、でもループ前に彼が私にしたことに比べたら、可愛いもんでしょ!? 所詮、ちょっと言い過ぎただけだし。
レオネルが側にいたら、私のことを死刑だとか侮辱罪だとか、わめきちらしたに決まっている。うるさいのがいなくて良かった。
昨日の帰りからずっとこんな調子でレインハルトのことを考えている。
気分が晴れないのは、人を傷つけた自覚があるからだ。
それにレインハルトは帝国アカデミーに転入するって話だし、最後ぐらい優しくしてやっても良かったのかもしれない。なんだかんだいいつつ、彼を勉強のライバルだと思っていた。だからこそ、奮闘することができたのかもしれないし。
そこでふと気づく。
でも高等部から彼はいなくなるとすると、私は誰を目標にして頑張ればいいのだろう。繰り上げで一位を取れても気分的に嬉しくない。
それに彼と今後会うのは、年に数えるぐらいしかないだろう。主に建国祭などの公式行事で。それなら最後ぐらい、ダンスパートナーになってやれば良かったかしら。特に深い意味もないだろうし。
なんだか、モヤモヤした気分を引きずっている。
やはり場所を変えても集中できないので、今日はもう止めて帰ろう。
踵を返そうとした時、茂みがガサリと音を出して揺れた。
なにかいるの!?
身構えると同時に茂みから飛び出してきたのは、黒くて大きな羽を持つ、ウォーターバットだった。
これは先生が言っていた魔物だわ!!
そうだ、ここには近づくなって注意されていた。うっかりしていた。
ウォーターバットはそんなに手ごわい魔物ではない。だがウロチョロと飛び回り、すばしっこい。標的を定めると集団で襲ってくる。
一匹が茂みから飛び出すと、次々と飛び出してくる。
えっ、ちょっと待ってよ!!
焦って両手を振り回すが、あっという間に十匹ぐらい集まった。
私の血なんて美味しくないから!!
走って逃げようとするも、執拗に追いかけてくる魔物たち。
「あっ!」
足がもつれて転んでしまった。頭上ではウォーターバットが飛び回り、今がチャンスだとばかりに近づいてくる。
だ、誰か助けて……!!
その時、周囲をまばゆい光を包む。そのまぶしさに目を閉じる。
恐る恐る目を開けると、ウォーターバットたちは地面に落ちて震えていた。
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