上 下
19 / 64
第二章 魔法学園へ!

17.彼の入学理由

しおりを挟む
 そこにいたのはサラサラとした黒髪を持ち、赤い瞳を向けているレインハルト・バトラーだった。
 
   ま、まさかの同じクラス……!!

 反射的に顔を勢いよく、背けてしまう。
 しかもよりによって、隣の席!?

 神様、どうしても彼に私を断罪させたいのですか。

 ひどすぎる、先ほど立ち向かうと決めたばかりの運命だったが、こうまでくると呪われているとしか思えない。涙が出そうだ。

「また会ったな」

 低い声がかけられ、おずおずと顔を向ける。レインハルトは笑みを浮かべている。

「……なんでいるの」

 思わず聞いてしまう。不躾な質問に、レインハルトは目をパチクリとさせた。

「貴族、ましてやあなたの立場なら、帝国アカデミーに通うのが普通じゃない。いったい、どういうこと?」
「失礼だぞ、貴様!!」

 その時、背後から怒声が聞こえ、振り返る。

 そこにいたのは黒髪に黒ぶちのメガネをかけた、背が高くひょろっとした細身の男子生徒。彼はメガネの中央をクイッと指で押す。

「レインハルト様になんたる口をきくのだ!!」

 誰、この人……。
 急に現れた人物は、ギャーギャー息巻いている。

「やめろ、レオネル」

 突如、レインハルトの低い声が響く。レオネルと呼ばれた生徒は目を見開き、ハッと我に返る。

「失礼しました」

 ガバッと頭を下げるレオネルに、レインハルトはため息をつく。

「紹介しよう。彼はレオネル。俺の側近だ」

 わざわざお付きを連れてまで、この学園に通うのか。ますます彼の考えは読めない。

「俺の立場だからこそ、この学園を選んだんだ」

 首を傾げる私に、レインハルトは続ける。

「この学園は貴族だけではなく、様々な身分の人々と接する機会があるだろう。帝国アカデミーで貴族だけの繋がりを持つより、貴重な体験となるはずだ」

 予想外の返答を聞き、うなった。

 確かに大人になれば嫌でも貴族としか付き合わなくなるだろう。だけど、一国の王太子がたった一人の共だけだなんて。しかも同じ歳の生徒。なにかあった場合、対処できるのだろうか。

 チラッと見れば、レオネルと目が合った。彼はメガネの中央をクイッと指で押す。

「なにか? 私がレインハルト様の側近で不満でも?」
「いえ、別に……」

 考えが見透かされたようだ。結構目ざとくて内心ギクッとする。

「私の喜びはレインハルト様のお側にいること!! この命をかけて尽すく、それこそが私の生まれてきた使命!!」

 また暑苦しいのがきたわね。

 彼はループ前にはいなかった。いたら絶対忘れない、こんなに濃いキャラ。

「それよりも――」

 レインハルトは私の顔をジッとのぞき込む。

「レイテシア・ローレンス」
「えっ?」

 急に名前を呼ばれたので驚いた。彼はいたずらが成功したような顔で微笑んだ。

「お前の名前、次に会った時までに当てる約束だっただろう?」
「どうして……」

 どこで私の名前を知ったのだろう。心臓がドクドクと音を出した。

「名簿の一覧を見て気づいた。ローレンス家は建国祭にも出席する侯爵家。式で見かけて間違いないと確信したし、入学前のテストで次席だったと教師が話していた」

 なに、その推理。鋭すぎてぐぅの音も出ない。

「それで、貴族が入学する帝国アカデミーに通わずに、どうしてここに入学したんだ? レイテシア」

 しかも同じ質問を返されたーー!!

 にっこりと微笑むレインハルト。あなたから逃げたくてこの魔法学園を選んだの。だけど、どうして同じ学園、よりによってのクラスメイトに隣の席。

「なんだか、俺たち、こんなところで会うなんて、運命感じないか?」

 ちょっと止めてよ、運命なんてあなたの口から聞かされると、背中がぞわぞわするんですけど。私は運命を変えたくて必死なんだから!!

 ちょっと頬を染めるレインハルトを前にして、私の思惑とは全然別の方向に作用しているとは、口が裂けても言えなかった。

 その後、レインハルトは周囲の注目を集めていた。だが、ちょっと遠巻きにされている感じで、皆がチラチラと視線を投げるけれど、誰も話しかけようとはしなかった。一国の王太子なのだから、この反応は当たり前だろう。私たちの教室は異様な緊張感が漂っている。

 やがて教師が入室し、皆がそれぞれ挨拶をすることとなった。席の端から順番に自己紹介をし、ついにレインハルトの番になった。

「式でも挨拶をしたが、レインハルト・バトラーだ。ここでは身分という垣根を越えて、皆と仲良くしたいと思っている。敬語など堅苦しいことは抜きにして、個人として付き合ってくれたら嬉しい」

 笑顔で堂々と挨拶をするが、クラスメイトたちは、完全に気圧されている。そりゃそうだ。

 やがて私の番になる。

「レイテシア・ローレンスです。この学園では薬草について学びたいと思っています。よろしくお願いします」

 月並みな挨拶をし、ぺこりと頭を下げて着席する。

「なぁ、お前、薬草士でも目指すのか?」
「そうだけど。この学園は薬草士を多く選出していると聞いたから」

 そうよ、私はバッドエンドを回避目的だけでなく、己の力を最大限に伸ばすために、この学園にきた。力をつければ、ある程度は自分の身に何が起きても対処できるはず。

 まずは、このクラス、いや、学年のトップを狙うのだ。

 そのためにも、レインハルトにだって負けてなどいられない。

 息を深く吸い込み、決意する。

「俺も負けていられないな」

 トップ入学がなにを言いますか。けど、見ていなさいよ。その座を奪ってやるわ。メラメラと熱くたぎる闘志を燃やす。

「言っておくけど、私も負けないから」

 宣言すると、一瞬、おや、という顔をした。

 なによ、私ごときがレインハルトに宣戦布告をしたのが面白かったのかしら。

「そうか。お互いがいい刺激になるといいな」

 満面の笑みを見せたレインハルト。美形の微笑みに当てられて、一瞬胸がドキリとした。慌てて視線を逸らす。

 いけない、いけない。彼の笑顔に惹かれて、ループ前の二の舞になったらごめんだわ。今世では、まずは恋愛は封印すると決めたんだから。暗い塔に閉じ込められて一生を終えるだなんて、もう二度と味わいたくない。

 やがて最後の生徒の自己紹介になった。

 その男子生徒はボサボサの頭で、前髪が長く、目が見えない。あれで前を歩けるのか気になるぐらいだ。おまけに制服はダボダボでどうみてもサイズが大きい。誰かのお下がりなのだろうか。

「ロン・フランクスです。よろしくお願いします」

 えっ……!?

 抑揚のない声で挨拶をする彼の名前を聞き、驚いて声が出そうになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?

木山楽斗
恋愛
聖女であるアルメアは、無能な上司である第三王子に困っていた。 彼は、自分の評判を上げるために、部下に苛烈な業務を強いていたのである。 それを抗議しても、王子は「嫌ならやめてもらっていい。お前の代わりなどいくらでもいる」と言って、取り合ってくれない。 それなら、やめてしまおう。そう思ったアルメアは、王城を後にして、故郷に帰ることにした。 故郷に帰って来たアルメアに届いたのは、聖女の業務が崩壊したという知らせだった。 どうやら、後任の聖女は王子の要求に耐え切れず、そこから様々な業務に支障をきたしているらしい。 王子は、理解していなかったのだ。その無理な業務は、アルメアがいたからこなせていたということに。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

妾の子と蔑まれていた公爵令嬢は、聖女の才能を持つ存在でした。今更態度を改められても、許すことはできません。

木山楽斗
恋愛
私の名前は、ナルネア・クーテイン。エルビネア王国に暮らす公爵令嬢である。 といっても、私を公爵令嬢といっていいのかどうかはわからない。なぜなら、私は現当主と浮気相手との間にできた子供であるからだ。 公爵家の人々は、私のことを妾の子と言って罵倒してくる。その辛い言葉にも、いつしかなれるようになっていた。 屋敷の屋根裏部屋に閉じ込められながら、私は窮屈な生活を続けていた。このまま、公爵家の人々に蔑まれながら生きていくしかないと諦めていたのだ。 ある日、家に第三王子であるフリムド様が訪ねて来た。 そこで起こった出来事をきっかけに、私は自身に聖女の才能があることを知るのだった。 その才能を見込まれて、フリムド様は私を気にかけるようになっていた。私が、聖女になることを期待してくれるようになったのである。 そんな私に対して、公爵家の人々は態度を少し変えていた。 どうやら、私が聖女の才能があるから、媚を売ってきているようだ。 しかし、今更そんなことをされてもいい気分にはならない。今までの罵倒を許すことなどできないのである。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう
恋愛
 聖女認定の儀式をするから王宮に来いと招聘された、クルード女公爵ハーミア。  数人の聖女候補がいる中、次期皇帝のエミリオ皇太子と婚約している彼女。  周囲から最有力候補とみられていたらしい。  未亡人の自分でも役に立てるならば、とその命令を受けたのだった。  そして、聖女認定の日、登城した彼女を待っていたのは借金取りのザイール大公。  女癖の悪い、極悪なヤクザ貴族だ。  その一週間前、ポーカーで負けた殿下は婚約者を賭けの対象にしていて負けていた。  ハーミアは借金のカタにザイール大公に取り押さえられたのだ。  そして、放蕩息子のエミリオ皇太子はハーミアに宣言する。 「残念だよ、ハーミア。  そんな質草になった貴族令嬢なんて奴隷以下だ。  僕はこの可愛い女性、レベン公爵令嬢カーラと婚約するよ。  僕が選んだ女性だ、聖女になることは間違いないだろう。  君は‥‥‥お払い箱だ」  平然と婚約破棄をするエミリオ皇太子とその横でほくそ笑むカーラ。  聖女認定どころではなく、ハーミアは怒り大公とその場を後にする。  そして、聖女は選ばれなかった.  ハーミアはヤクザ大公から債権を回収し、魔王へとそれを売り飛ばす。  魔王とハーミアは共謀して帝国から債権回収をするのだった。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

処理中です...