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第二章 魔法学園へ!

16.重い足取り

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 その後、どうやって講堂から出たのか記憶にない。
 フラフラになりながら人の流れにのり、そのままクラス分けの掲示板の前まできた。

 掲示板に皆が群がっているが、もうどうでもよかった。そのぐらい私は投げやりだった。

「おい、どうしたんだよ」

 肩をグッと掴まれて我に返る。そこには心配そうにのぞきこむハロルドの姿があった。

「さっきから話しかけても上の空だし。具合でも悪いのか?」

 いえ、不測の事態に頭がついていかないだけです。

「クラス、どこだった?」
「さぁ……どこでしょう」

 心ここにあらず。遠い目をして答える。

 ハロルドは呆れたように肩をすくめた。
 そして私に背を向けると、大勢の人が群がる掲示板までスタスタと近づく。すぐさま戻ってきてグイッと顎で指示した。

「お前はAクラスだ。ほら、行くぞ」

 ハロルドは私の手首をグッと掴むと歩き出した。

「まったく、ここまできて、緊張しているとか言うなよ。お前らしくない。あれだけ入学を待ちわびていたじゃないか」

 ハロルドの言葉に我に返った。

 そうよ、私はこの魔法学園に入学したくて頑張った。周囲に根回しし、やっとこぎつけた。
 
 それもすべてバッドエンドを回避する、つまりレインハルトと繋がりを切るためだったのに……!!

 関りを持たなければ大丈夫だと思っていたが、考えが甘かったのだろうか。

 なぜレインハルトがこの学園に入学しているわけ? シナリオ無視しているんじゃないわよ!!

 ルートを変更するのは私だけで十分なんだから。

 貴族が通う帝国アカデミーに大人しく通ってなさいよ。あなたは王太子なんだから。どこをどうやって田舎の魔法学園に通うことになっているのか、私にはさっぱり見当がつかない。

 大人しく帝国アカデミーに通って、そこで聖女と出会って仲良くやってればいいのに!!

 考えているとフツフツと怒りにも似た感情がこみあげる。

 ここで私のバッドエンドフラグが折れる予定だった。だが、レインハルトが魔法学園にやってきた。

 つまり、まだフラグは折り切れていないということだ。

 だが、レインハルトと必要以上に関わらなければ、まだ未来はわからない。そうよ、あきらめるにはまだ早い。

 しっかりするのよ、レイテシア。いくら予想外だったといっても、まだ結末は決まっていない!!

 ハロルドに手を引かれながら、拳をギュッと握りしめる。

 やがて教室の入り口にたどり着いた。プレートにはクラスAと表記されている。

 ハロルドは手をパッと離すと、私と向き合った。

「……お前、いきなり、知り合いもいない学園に来て不安なんだろう」
「へっ……」

 その時、急にハロルドが神妙な声を出してきた。私は驚いて目をパチパチと瞬かせた。

「大丈夫だ。お前には俺がついている」

 両肩をガシッと掴み、顔をのぞきこむ。

 私のことを元気づけようとしてくれている……?

 私がジッと見ているとハロルドはきまり悪そうに視線を逸らした。

「と、とにかくだな。お前をいじめる奴がいたら俺に言えよ」
「お兄様……」

 そうだ、ループ前はハロルドから、こんな優しい言葉をかけられたことはなかった。つまり、未来はまだわからない。レインハルトとの関係だって、今後どう変えていくのか結局は自分次第だということだ。

 関わりたくなければ避けて通ればいいだけのこと。

 以前のように彼にべったりはりつくことは、もうしない!! 彼の私室に忍び込んだりもしないもの!!

「ありがとう、お兄様」

 ハロルドから声をかけられたことで、すごく勇気が出た。そうよね、私の学園生活はまだ始まったばかり。

 私はもう以前のレイテシアじゃない。

 背筋を伸ばし、顔を上げて前を向く。

「お兄様、私はいじめられたら自分の手で撃退しますわ。けれど、どうしても手に負えない相手でしたら、その時はお兄様が、蛇を投げつけてやってくださいませ」
「ああ、何匹でも投げてやる」

 ハロルドは肩を揺らして笑う。

「なんだか元気が出たみたいだな。さっきまで死にそうな顔していたぞ」
「今、生気を取り戻しましたわ」
「よし、じゃあ、行ってこい。頑張ってこいよ」
「ええ」

 ハロルドに見送られながら教室へと一歩、踏み出した。

 * * * * * *

 ここが、私の学ぶ教室なのね。

 大きな窓からは陽ざしが入り込み、机と椅子がずらりと並んでいる。よく見ると机には名前の書かれたプレートが貼ってある。自分の席に座れということだろう。
 
 私はプレートを一つずつ確認すると、後ろの窓際の席だった。
 
 やった、いい席だわ。

 喜んで椅子に腰かけた。

 窓から景色は見えるし、黒板もよく見える。外は森林が広がっている。
 今後は校外授業であの森に薬草を探しに行ったりするのだろうか。期待に胸を脹らませながら、景色を眺めていた。

 その時、隣から椅子を引く音が聞こえる。

 ああ、隣にも人が来たらしい。仲良くなれるかしら。

 げっ!!

 パッと顔を向けた瞬間、笑顔が凍り付いた。
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