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第一章 運命を変えてやる!

1.目覚めたら断罪前って最高じゃない!

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 意識が覚醒し、ハッと目覚める。

 視界に入ってきたのは、天使の絵が描かれた天井。
 パチパチと瞬きを繰り返しながら、体を起こす。
 
 私、暗くてじめじめとした塔にいたはずじゃ……?
 
 それがなぜ、昔住んでいた自室で目覚めるのだろう。

 夢を見ているのかしら? それとも、まだ夢の続き?

 両手を広げ、まじまじと見つめると、ふと違和感を覚えた。
 
 手、こんなに小さかったかしら。
 
 部屋を見回すと、確かに自分の部屋なのだが、十六歳の誕生日に気に入って購入したソファも、暖炉の上に飾っていた、絵師に書かせたレインハルトの絵画もなかった。

 その代わりに部屋にあるのはぬいぐるみや、子供の使うようなおもちゃが転がっている。

 確かに私の部屋なのだけど、なにかが違う。どこか懐かしい気はするけれど。
 
 やはり私は死んでしまって、これは夢なのかしら。
 
 さきほどまでの苦しい・悔しい・妬ましいといった三重苦の感情は鮮明に思い出せる。

 考えるだけで、胸の奥がギュッと苦しくなるもの。
 状況を確認しようと思い、ベッドから降りた。
 
 そしてふと、壁に備えつけられていた鏡が視界に入る。
 そこには、ウェーブのかかった腰までの茶色の髪に白い肌、神秘的な紫色の瞳でこちらを見つめる私がいた。
 
 えっ!?
 
 驚いて目を見開き、鏡に駆け寄った。

 鏡に写るのは紛れもない私。だが、決定的に違うことがある。
 
 幼くなっている。
 
 私は十八歳だったはずが、どう見ても十歳ぐらいだ。背だって低い。
 ペタペタと顔を触って確かめるが、感触があるので夢ではない、これは現実だ。

「嘘でしょうーーーーー!!」

 思いっきり叫んだ。

 心臓がドクドクと脈打ち、息が苦しくなってくる。

 もしかして時間が逆戻りした!? 私が強く願ったから?

 すぐには信じられないが、鏡に写るのは紛れもない幼い自分だ。
 呆然として口を開けた。

「……ふふふっ」

 やがて、笑いが込み上げる。

 だってこんなにラッキーなことってある?

 無念の死を遂げた私が、時間が巻き戻っているだなんて。
 すべてやり直せるのなら、あんなに悔しい思いをするのはもうごめんだ。

 だったら、これはチャンスよ。

 それに今思えば、なぜあそこまでレインハルトに執着したのか。自分でもわからない。

 前世の私は自分でも特殊な性格だった、うん。

 それゆえに人間関係がうまく築けず、唯一優しくしてくれたレインハルトに夢中になった。
 なりすぎだろ、と冷静になった今では思う。
 
 塔で過ごしている間、考える時間だけはたくさんあった。

 頭が冷えてくると、レインハルトのどこにそんなに魅力があったのか不思議になった。確かに見た目はかなりいいけれど、エミーリアにコロッと騙されて、ばっかじゃないの。
  
 もっとも執着ゆえに破滅の道を進んでしまった私が一番、ばかやろう。そこは反省すべき点だ。

 でも、すべてやり直すチャンスを与えてくれて、神様ありがとう。

 もうレインハルトに執着しないと誓うわ。

「今世では絶対絶対、王子と聖女に関わらない!! 私は私の人生を歩んでやる!! 王子は聖女と仲良くやっていればいいのよ!!」

 気が付けば大声で叫んでいた。

*****

 時間がループしたと知ったのなら、まずはやるべきことがある。

 ただ日々を過ごすだけでは、またあの断罪ルートを繰り返す羽目になるからだ。
 だが、せっかく巻き戻った人生。もう同じことは繰り返すまい。
 今後の計画を練る必要がある。

 その前に、今がどの時点なのか探る必要がある。

 私とレインハルトの婚約が発表されたのが、帝国アカデミーに通うと同時、12歳の時だ。

 家柄だけで決められた婚約だったが、私は有頂天になって、レインハルトの側にべったりと張り付いていた。どんなに嫌がられても、婚約者の権利だと主張した。レインハルトのすべてを知りたがった。
 
 今なら理解できる。それじゃあ、嫌われるって。

 だからお願い、今はまだレインハルトと婚約前でありますように。

 そう願わずにいられない。

   まずは、状況を整理しよう。

 私、レイテシアは両親を早くに失くし、父の友人だったローレンス家に引き取られた、いわば養女だ。
 血の繋がりのない兄と父と屋敷で暮らしている。
 
 最初からこの家に馴染めなく、兄となったハロルドからは、さんざん虐められた。

 兄が私を軽んじているので、使用人たちもいつしか私をバカにするようになった。そして根性はねじ曲がり、性格がゆがんでいった。

 虐める兄はもちろんのこと、私を陰でバカにしている使用人を嫌い、いつも部屋で一人ぼっち。魔術の怪しい本を読み漁り、いつか周囲を見返してやりたいと思っていた。
 
 気に入らない相手がいれば呪いの人形を作って、チクチク針で刺していた。机の引き出しやクローゼットにはそんな人形であふれかえっていた。

 いつか額から第三の目が開き、呪った相手を魔力で燃やせるようになると信じて疑わなかったあの頃。

 変な本の読みすぎだ。
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