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第六章 これからの私たち
58.嫉妬
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なんだかグレンの態度を見ていると、よくこのお店に来るのかしら。そんな風に思えてしまう。
でも特別甘いものが好きだったわけでもないし、誰と来ているの?
ここは女性を連れてくるのに、うってつけのお店じゃない。
なんだか胸の奥がモヤモヤする。
「紅茶とスコーン、それにラズベリーのパイにクリームを多めに添えて」
一方グレンは私の心中を知らず、給仕の女性に注文する。
私の好みを熟知しているが、メニューにも詳しいようだった。
「あの、グレン……」
グッと唇を噛みしめ、彼の顔を見つめる。
ん? と小首を傾げて私を見つめるグレン。端正な顔立ちがなんだか憎たらしく見えるのは、気のせいではないはずだ。
「言っておくけど――」
コホンと咳払いする。こんなことは最初が肝心だ。
「私、あなたの女性関係に口をはさむ気はなかったの。……最初はね」
だってこんな気持ちになるとは、あの頃は想像すらしていなかった。
目を真っすぐに見て伝えなければ。
グレンは口をポカンと開け、私をまじまじと見つめた。
だけどここまで口にしておいて、怖気づいてなるものですか。
「こんなに可愛らしいお店にエスコート、慣れている風だったけど、誰と来たのか、過去は聞かないわ」
そう、大事なのはこれからだ。昔のことはあえて問い詰めないことにする。気になるけど、聞いてもいいことはない。
そこで勢いよく、ビシッと指を突き付けた。
「だけど、もうダメだから!! この店も、ほかの店にも女性と二人っきりで来るのは。一緒に行くのは私だけって約束してくれる?」
言った、言ってやったわ……!!
面倒くさい女だと思われるかもしれないが、はっきりさせておきたい。嫌なことはきちんと話しておかないといけないと学んだ。
「……は」
グレンは呆れたのか、顔を少し上げ、急に顔をくしゃりとゆがめた。そして声を上げて笑い出した。
「俺が? 女を連れてだって?」
やけに愉快そうな様子に内心面白くはない。
「そうよ」
キッパリと言い切った。
自分でも驚くけど、案外嫉妬深い性格だったみたいだ。
「まいったな……」
顔の半分を手で覆うグレンは、肩を揺らした。
笑われていることにムッとしていると、グレンは笑いを止め、両手を組んだ。
「他の女なんていないさ」
キッパリと言い切った。その様子に嘘はないのだと思えた。これ以上追及するのは止めようかしら。
「じゃあ、なぜ何度も来た様子なの?」
追及するのは止めようと思ったくせに、口から出たのは別の言葉だった。
「ここは俺の店だからだ」
「そう、あなたの……えっ!?」
驚いて目をパチパチと瞬かせた。
「ここだけじゃない、この並びにある飲食店の三軒と裏通りにある装飾店もだ」
「し、知らなかった……」
それならば詳しくて当然と思えた。
やだ、私ってば早とちりして恥ずかしい。真っ赤になり、頬を抑えた。
「そうだったの。勘違いしてごめんなさい」
謝罪するもグレンは気を悪くした風ではない。むしろ、声を出して笑い、上機嫌に見えた。
「で、本題はここからだ。この店をやってみないか?」
「私が……?」
驚いて聞き返すとグレンは静かにうなずいた。
「以前、事業をやってみたいと言っていただろう?」
確かに言ったわ。お金を稼いでみたいと。彼は覚えていてくれたんだ。
「手始めに店の運営を任せる。悩むことは専門家に相談するもいいし、俺に聞いてくれ」
「いいのかしら……?」
「ああ、人を雇うのもすべて、好きにやってみるといい。ここは俺の店でもあるが、ルシナの店だ。困ったら俺の名前を出せばいい」
この国で女性が事業をするのは、まだ偏見がある。
それなのに彼は、自分の名を使ってやっていいとまで言ってくれる。
「ありがとう。私、頑張るから」
まずは勉強し、グレンに教わることから始めよう。
やがて運ばれてきた焼き菓子と紅茶を堪能する。サクッとしたパイに舌鼓を打つ。
紅茶のカップを手にし、その香りにホッとする。
「――逆に質問なのだが」
グレンがカップを手に持ちながら、首を傾げた。
「俺はそんなに他の女性を連れ歩いていそうなのか?」
唐突な質問に私が慌て、カップをひっくり返しそうになった。
「えっ、そ、それは……」
口ごもり、目をさまよわせてしまう。
するとグレンは大きなため息をつく。
「どうやら俺の愛情が疑われているみたいだな」
ゆっくりとカップをテーブルに置くと、手を組んだ。
「ーーこれから、わからせるしかないな。じっくりと」
グレンは目を細め、不敵な笑みを見せる。
「お、お手柔らかにお願いします」
そう答えるのが精いっぱいだった。
まるで捕獲者のような鋭い目を向けられたら、ひとたまりもない。ガクガクしているとグレンはフッと微笑む。
「だが俺が他の女性と仲良くしていると思い、嫉妬か……」
それからもグレンは頬を染め、なにやらつぶやいた。
「可愛すぎる……」
グレンったら、真顔でなにを言っているの!! こっちまで恥ずかしくなるじゃない。
その発言を聞き、ポッと頬が赤くなってしまった。
でも特別甘いものが好きだったわけでもないし、誰と来ているの?
ここは女性を連れてくるのに、うってつけのお店じゃない。
なんだか胸の奥がモヤモヤする。
「紅茶とスコーン、それにラズベリーのパイにクリームを多めに添えて」
一方グレンは私の心中を知らず、給仕の女性に注文する。
私の好みを熟知しているが、メニューにも詳しいようだった。
「あの、グレン……」
グッと唇を噛みしめ、彼の顔を見つめる。
ん? と小首を傾げて私を見つめるグレン。端正な顔立ちがなんだか憎たらしく見えるのは、気のせいではないはずだ。
「言っておくけど――」
コホンと咳払いする。こんなことは最初が肝心だ。
「私、あなたの女性関係に口をはさむ気はなかったの。……最初はね」
だってこんな気持ちになるとは、あの頃は想像すらしていなかった。
目を真っすぐに見て伝えなければ。
グレンは口をポカンと開け、私をまじまじと見つめた。
だけどここまで口にしておいて、怖気づいてなるものですか。
「こんなに可愛らしいお店にエスコート、慣れている風だったけど、誰と来たのか、過去は聞かないわ」
そう、大事なのはこれからだ。昔のことはあえて問い詰めないことにする。気になるけど、聞いてもいいことはない。
そこで勢いよく、ビシッと指を突き付けた。
「だけど、もうダメだから!! この店も、ほかの店にも女性と二人っきりで来るのは。一緒に行くのは私だけって約束してくれる?」
言った、言ってやったわ……!!
面倒くさい女だと思われるかもしれないが、はっきりさせておきたい。嫌なことはきちんと話しておかないといけないと学んだ。
「……は」
グレンは呆れたのか、顔を少し上げ、急に顔をくしゃりとゆがめた。そして声を上げて笑い出した。
「俺が? 女を連れてだって?」
やけに愉快そうな様子に内心面白くはない。
「そうよ」
キッパリと言い切った。
自分でも驚くけど、案外嫉妬深い性格だったみたいだ。
「まいったな……」
顔の半分を手で覆うグレンは、肩を揺らした。
笑われていることにムッとしていると、グレンは笑いを止め、両手を組んだ。
「他の女なんていないさ」
キッパリと言い切った。その様子に嘘はないのだと思えた。これ以上追及するのは止めようかしら。
「じゃあ、なぜ何度も来た様子なの?」
追及するのは止めようと思ったくせに、口から出たのは別の言葉だった。
「ここは俺の店だからだ」
「そう、あなたの……えっ!?」
驚いて目をパチパチと瞬かせた。
「ここだけじゃない、この並びにある飲食店の三軒と裏通りにある装飾店もだ」
「し、知らなかった……」
それならば詳しくて当然と思えた。
やだ、私ってば早とちりして恥ずかしい。真っ赤になり、頬を抑えた。
「そうだったの。勘違いしてごめんなさい」
謝罪するもグレンは気を悪くした風ではない。むしろ、声を出して笑い、上機嫌に見えた。
「で、本題はここからだ。この店をやってみないか?」
「私が……?」
驚いて聞き返すとグレンは静かにうなずいた。
「以前、事業をやってみたいと言っていただろう?」
確かに言ったわ。お金を稼いでみたいと。彼は覚えていてくれたんだ。
「手始めに店の運営を任せる。悩むことは専門家に相談するもいいし、俺に聞いてくれ」
「いいのかしら……?」
「ああ、人を雇うのもすべて、好きにやってみるといい。ここは俺の店でもあるが、ルシナの店だ。困ったら俺の名前を出せばいい」
この国で女性が事業をするのは、まだ偏見がある。
それなのに彼は、自分の名を使ってやっていいとまで言ってくれる。
「ありがとう。私、頑張るから」
まずは勉強し、グレンに教わることから始めよう。
やがて運ばれてきた焼き菓子と紅茶を堪能する。サクッとしたパイに舌鼓を打つ。
紅茶のカップを手にし、その香りにホッとする。
「――逆に質問なのだが」
グレンがカップを手に持ちながら、首を傾げた。
「俺はそんなに他の女性を連れ歩いていそうなのか?」
唐突な質問に私が慌て、カップをひっくり返しそうになった。
「えっ、そ、それは……」
口ごもり、目をさまよわせてしまう。
するとグレンは大きなため息をつく。
「どうやら俺の愛情が疑われているみたいだな」
ゆっくりとカップをテーブルに置くと、手を組んだ。
「ーーこれから、わからせるしかないな。じっくりと」
グレンは目を細め、不敵な笑みを見せる。
「お、お手柔らかにお願いします」
そう答えるのが精いっぱいだった。
まるで捕獲者のような鋭い目を向けられたら、ひとたまりもない。ガクガクしているとグレンはフッと微笑む。
「だが俺が他の女性と仲良くしていると思い、嫉妬か……」
それからもグレンは頬を染め、なにやらつぶやいた。
「可愛すぎる……」
グレンったら、真顔でなにを言っているの!! こっちまで恥ずかしくなるじゃない。
その発言を聞き、ポッと頬が赤くなってしまった。
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