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第六章 これからの私たち
57.知らなかった一面
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それはきっとあれよね、私たちの気持ちが通じあったことを言っているのよね。
「そ、そうなのね……」
そんなことを言われては、首から真っ赤になるしかない。
変なの。さっきまでおいしいと感じていたのに、私も急にお腹いっぱいになった気がする。それよりもソワソワして落ち着かない。
カップを手にし、紅茶で喉を潤す。チラッとグレンに視線を向ける。
こんな可愛い一面もあるんだ。男らしくて素敵な人なのに。私にだけ見せる顔なのかしら。
そう思ったら嬉しさがこみ上げる。
「ふふっ」
笑いがこぼれたのでグレンが顔を上げた。
「私も嬉しいわ。今まで知らなかったあなたの一面が見れたみたいで」
そのまま自然と口に出してしまった。
「でもこれからもっと、お互いを知ることになるかもしれないわね」
そう、契約ではなく心で結ばれた結婚なら、そうなるはずよ。
「これからの人生、ずっと一緒にいるのだから」
言葉にしてハッとする。
グレンが真面目な顔で私をジッと見つめていたからだ。
苦々しい顔を見せ、唇を噛みしめているグレン。
私、ちょっと先走りすぎたかもしれない……。
「あ、あのね、そんなに重い話をするつもりじゃーー」
「――どうしたらいいんだ」
グレンの低い声が食堂に響き渡る。
「今すぐ抱きしめたくなった」
「えっ……」
予想もしなかった言葉にあっけにとられる。しかも真顔でなにを言っているのか。
その時、ジールが両手を合わせた音が、大きく響いた。
「ああ、そうだった!! 庭園の掃き掃除を忘れていた。皆のもの!! 食堂の外へ!!」
そのかけ声で給仕たちが一斉に、食堂から飛び出していった。シルビアまで。
皆が食堂から出たのを見届けたジールはニッコリ微笑むと、重厚な扉をパタンと閉めた。
「えっ、皆どこへ……」
食事中じゃなかったの!?
顔をキョロキョロさせていると、グレンがスッと立ち上がる。
私の側まできて、スッと両手を伸ばす。
そのまま私の両脇に手を入れて、静かに立たせた。
「えっ、あの……グレン?」
彼は私を引き寄せるとグッと抱きしめた。
「愛しくてたまらない。どうしてくれようか」
腰を折り、私の肩口に顔を埋める彼から、くぐもった声が聞こえた。
ああ、こんなにも私を想ってくれる人が、今までいただろうか。
そっと手を伸ばし、彼の背中を静かに擦る。
グレンはビクリと身を震わせたあと、静かに顔を上げた。
熱っぽい視線を向けられ、そっと唇に指が触れた。
静かに近づいてきた端正な顔立ちにゆっくりと目を閉じる。容赦なく私の口内に侵入してくる彼に応えようとするも、私には精いっぱいだった。
やがて呼吸が苦しくなり、意識がもうろうとする。
逃げようとしても腰をガッシリつかまれて逃げ場がない。顎に手を添えられ、逃がすまいとの気迫を感じる。
その時、パッとグレンが離れた。
「ルシナ……?」
ぐったりと彼に寄りかかり、荒く息を吐きだした。
「しっかりするんだ」
両肩をつかみ、顔をのぞき込まれる。
それをあなたが言う!?
「か、加減してください」
それだけ言うのが精いっぱいだった。
「今日は休んでいるといい」
グレンはクッと微笑む。確かに全身が痛いしだるい。特に腰が。
心配そうに顔をのぞきこむグレンをキッとにらむ。
「だ、誰のせいでこうなっているかと……」
プルプルと震える手を握りしめ、精いっぱいの抗議をする。
だがグレンは満面の笑みを見せ、悪びれない。
それどころか、額に軽く口づけを落とす。
「今日は部屋で過ごすといい。昼食も部屋でとり、ゆっくりしていてくれ」
「ええ、そうするわ」
彼に体を支えられ返事をすると、グレンは優しく微笑む。
「今日はどうしても行くところがあるんだ」
一瞬、グレンの目が鋭くなった気がした。
「なるべく早く帰ってくるから」
だがそれもすぐに優しい眼差しに変わる。
私を見つめる彼の目を見て、小さくうなずいた。
******
そして翌日。
今日もゆっくりしていようと部屋にいた時、扉がノックされた。
返事をすると顔を出したのはグレンだった。読んでいた本から顔を上げ、席を立つ。
「今日は出かけたいんだが、都合悪いか?」
どこに行くつもりだろう。瞬きをして考えたあと、ふんわりと微笑む。
「いいえ、大丈夫よ」
外の空気を吸えるのは嬉しい。グレンはそっと腰に手を沿えると、私をギュッと引き寄せた。
「馬車を待たせてある。行こう」
グレンに手を引かれ、馬車に乗り込んだ。
******
「ここは……」
馬車を降りた先は、先日訪れたスイーツの店だった。
ここでベンと妹と会い、連れ去られた苦い記憶がよみがえる。若干、渋い顔をしていたのだろう。
グレンが顔をのぞき込む。
「すまない。嫌な記憶を思い出させてしまったな」
気遣う視線を投げる彼に首を振った。
「約束してくれ。次回から、自分一人で決断せずに相談してくれると」
「わかったわ」
うなずくと彼はホッとしたようだ。店の扉を開けると、店内にいた給仕たちが出迎えてくれた。
「これはグレン様、ようこそいらっしゃいました」
店の奥から料理長らしい人物が直々に駆け寄ってきた。
「テラス席をご案内いたします」
「ああ、行こう」
グレンは私を連れていった。
「そ、そうなのね……」
そんなことを言われては、首から真っ赤になるしかない。
変なの。さっきまでおいしいと感じていたのに、私も急にお腹いっぱいになった気がする。それよりもソワソワして落ち着かない。
カップを手にし、紅茶で喉を潤す。チラッとグレンに視線を向ける。
こんな可愛い一面もあるんだ。男らしくて素敵な人なのに。私にだけ見せる顔なのかしら。
そう思ったら嬉しさがこみ上げる。
「ふふっ」
笑いがこぼれたのでグレンが顔を上げた。
「私も嬉しいわ。今まで知らなかったあなたの一面が見れたみたいで」
そのまま自然と口に出してしまった。
「でもこれからもっと、お互いを知ることになるかもしれないわね」
そう、契約ではなく心で結ばれた結婚なら、そうなるはずよ。
「これからの人生、ずっと一緒にいるのだから」
言葉にしてハッとする。
グレンが真面目な顔で私をジッと見つめていたからだ。
苦々しい顔を見せ、唇を噛みしめているグレン。
私、ちょっと先走りすぎたかもしれない……。
「あ、あのね、そんなに重い話をするつもりじゃーー」
「――どうしたらいいんだ」
グレンの低い声が食堂に響き渡る。
「今すぐ抱きしめたくなった」
「えっ……」
予想もしなかった言葉にあっけにとられる。しかも真顔でなにを言っているのか。
その時、ジールが両手を合わせた音が、大きく響いた。
「ああ、そうだった!! 庭園の掃き掃除を忘れていた。皆のもの!! 食堂の外へ!!」
そのかけ声で給仕たちが一斉に、食堂から飛び出していった。シルビアまで。
皆が食堂から出たのを見届けたジールはニッコリ微笑むと、重厚な扉をパタンと閉めた。
「えっ、皆どこへ……」
食事中じゃなかったの!?
顔をキョロキョロさせていると、グレンがスッと立ち上がる。
私の側まできて、スッと両手を伸ばす。
そのまま私の両脇に手を入れて、静かに立たせた。
「えっ、あの……グレン?」
彼は私を引き寄せるとグッと抱きしめた。
「愛しくてたまらない。どうしてくれようか」
腰を折り、私の肩口に顔を埋める彼から、くぐもった声が聞こえた。
ああ、こんなにも私を想ってくれる人が、今までいただろうか。
そっと手を伸ばし、彼の背中を静かに擦る。
グレンはビクリと身を震わせたあと、静かに顔を上げた。
熱っぽい視線を向けられ、そっと唇に指が触れた。
静かに近づいてきた端正な顔立ちにゆっくりと目を閉じる。容赦なく私の口内に侵入してくる彼に応えようとするも、私には精いっぱいだった。
やがて呼吸が苦しくなり、意識がもうろうとする。
逃げようとしても腰をガッシリつかまれて逃げ場がない。顎に手を添えられ、逃がすまいとの気迫を感じる。
その時、パッとグレンが離れた。
「ルシナ……?」
ぐったりと彼に寄りかかり、荒く息を吐きだした。
「しっかりするんだ」
両肩をつかみ、顔をのぞき込まれる。
それをあなたが言う!?
「か、加減してください」
それだけ言うのが精いっぱいだった。
「今日は休んでいるといい」
グレンはクッと微笑む。確かに全身が痛いしだるい。特に腰が。
心配そうに顔をのぞきこむグレンをキッとにらむ。
「だ、誰のせいでこうなっているかと……」
プルプルと震える手を握りしめ、精いっぱいの抗議をする。
だがグレンは満面の笑みを見せ、悪びれない。
それどころか、額に軽く口づけを落とす。
「今日は部屋で過ごすといい。昼食も部屋でとり、ゆっくりしていてくれ」
「ええ、そうするわ」
彼に体を支えられ返事をすると、グレンは優しく微笑む。
「今日はどうしても行くところがあるんだ」
一瞬、グレンの目が鋭くなった気がした。
「なるべく早く帰ってくるから」
だがそれもすぐに優しい眼差しに変わる。
私を見つめる彼の目を見て、小さくうなずいた。
******
そして翌日。
今日もゆっくりしていようと部屋にいた時、扉がノックされた。
返事をすると顔を出したのはグレンだった。読んでいた本から顔を上げ、席を立つ。
「今日は出かけたいんだが、都合悪いか?」
どこに行くつもりだろう。瞬きをして考えたあと、ふんわりと微笑む。
「いいえ、大丈夫よ」
外の空気を吸えるのは嬉しい。グレンはそっと腰に手を沿えると、私をギュッと引き寄せた。
「馬車を待たせてある。行こう」
グレンに手を引かれ、馬車に乗り込んだ。
******
「ここは……」
馬車を降りた先は、先日訪れたスイーツの店だった。
ここでベンと妹と会い、連れ去られた苦い記憶がよみがえる。若干、渋い顔をしていたのだろう。
グレンが顔をのぞき込む。
「すまない。嫌な記憶を思い出させてしまったな」
気遣う視線を投げる彼に首を振った。
「約束してくれ。次回から、自分一人で決断せずに相談してくれると」
「わかったわ」
うなずくと彼はホッとしたようだ。店の扉を開けると、店内にいた給仕たちが出迎えてくれた。
「これはグレン様、ようこそいらっしゃいました」
店の奥から料理長らしい人物が直々に駆け寄ってきた。
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「ああ、行こう」
グレンは私を連れていった。
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