婚約者を妹に奪われて政略結婚しましたが、なぜか溺愛されているようです。

夏目みや

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第四章 航海の旅

39.声をかけてきた二人

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 それから船長室に戻った。

「夕食の時間だよ」

 やがてマルコが呼びにきたので甲板へ向かう。
 甲板ではすでに葡萄酒片手にお祭り騒ぎだった。その様子に驚いて目を丸くする。

「出航した日の夜はいつもこうなんだ。航海がうまくいくように海の女神アーレイ様に葡萄酒を捧げ、皆でお祝いするんだ」

 酒が入っているせいか、皆が陽気になっている。
 たいまつが焚かれ、丸い輪になり、めいめいに夕食を食べている。

「はい、これ。ルシーのぶん」

 マルコは丸いパンとスープを持ってきてくれた。

「ありがとう」

 スープを口にする私をマルコはジッと見ている。

「美味しいわ」
「良かった」

 ホッとしたマルコは自分も一緒になって食べ始めた。
 正直、スープは口に含んだ時、驚いた。舌触りがドロッとしてなんともいない香りに、初めて食べる味だった。丸いパンは今まで食べた中で一番固かった。

 食べ慣れない味だけど、せっかく準備してもらった。それに貴重な食糧を分けてもらったのだから、全部食べなくちゃ。
 固いパンはいつも以上に咀嚼すれば、なんとか食べられた。スープだって不思議な料理と思えば、まあ悪くない。
 床に直接座り込み、男性の格好をしてパンに噛りついている自分。
 グレンが見たらなんて言うかしら? 彼の驚く顔、そして反応が見てみたい気がする。

「よーマルコ。食ってるか」

 その時、背後から声がかけられた。
 振り返ると、背が高くひょろっとした男性が腕を組んで立っている。その隣には肩幅がガシッとした筋肉質の男性がいた。どちらも私と同じ年齢ぐらいだろうか。

「ちゃんと食べてるよ」

 マルコは返答し、私に顔を向けた。

「ルシーに紹介するよ。シドとタッグ」

 なんだか異様にジロジロ見られている気がするんですけど……。
 彼らは私にぶしつけな視線を送るが気にせず、ペコッと頭を下げた。

「よ、よろしく」

 これでいいのかしら?
 挨拶した途端、シドとタッグは真っ赤な顔になり、ソワソワし始めた。

「あっ、ああ。わからないことがあれば、なんでも聞けよ。このシド様が教えてやるからよ」

 シドを押しのけるように、タッグはグイッと前に出てきた。

「いや、それよりも俺に聞け。タッグだ。シドはいびきがうるさいからダメだ」
「人のこと言えんのかよ!! タッグの歯ぎしりは災害級だぞ」
「いや、おまえこそ!!」

 言い合いを始めた二人をポカンとして見つめた。

「皆さん、面白い方ですね」

 やがて笑いが込み上げてきて、思わずクスクスと笑ってしまう。

 そこでハッとする。

 いけない、私は男性のふりをしなければいけないのだ。さっき、マルコに注意されたばかりじゃない。
 ゴクリと息を飲み決意する。

「よ、よろしく頼む……ぜ」

 これでいいのかしら?

 なるべく低い声を出すように頑張ったつもりだ。
 だがシドとタッグはポカンと大口を開けている。

 私、挨拶の仕方を間違ったのかしら?
 内心焦った時、彼らはドッと爆笑した。それにマルコまで。
 なにがそんなに面白かったのだろう。

「マルコ」

 盛り上がっているとクロード船長が、マルコを呼んだ。顎でクイッと指示をする。するとマルコは立ち上がる。

「はいはーい。ルシー、もう戻るよ」

 手を取り、私を立たせた。

「えっ、もう?」
「まだここにいろよ?」

 シドとタッグが引き止めにかかるが、マルコは首を縦には振らなかった。

「船長の言いつけだよ」

 すると二人は大人しく引き下がる。

「げっ……それじゃあ、うん、しょうがないよなぁ……」
「あっ……ああ、そうだな」

 二人は渋々とうなずく。

「では、おやすみなさい……」

 言いかけてハッとする。私ってば気をつけると言ったばかりじゃない。
 またもや声を低く出すように努める。

「お、おやすみだ……ぜ」

 これで良かったのかしら。だが二人はなぜか、またもや爆笑の渦に包まれている。

「はいはい、おやすみだぜ、ルシー!!」
「おやすみだぜ、また明日な、ルシー!!」

 しかし彼らは手を振って返事をくれたので、嬉しくなった。

 船長室に戻る途中、マルコが口を開く。

「やっぱり来たか、シドとタッグ。あいつらは絶対、構ってくると思った」
「でも二人共、とても楽しい人たちね」

 私の知らない世界を知る彼ら。日頃、接する機会がないからこそ、もう少し話してみたかったな。

「男性の声を出すように頑張ったんだけど、どうだった? 私、意外に上手じゃなかった? あの二人も、上手く騙されてくれたみたいね」

 私今回で、ちょっと自信がついたかもしれない!

 胸を張るとマルコが黙った。

「…………それ、本気で言ってる?」
「ん? ええ、そうだけど」

 急に真剣な声を出したマルコは、深くため息をついた。
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