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第二章 始まった結婚生活
24.私からの贈り物
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「あとーーこれからは、早く帰ってくる」
いきなりどうしたのだろう。宣言してきた彼を不思議な気持ちで見つめた。
「一緒に食事を取るようにするし、遅くなる場合は必ず連絡する」
「えっ?」
「付き合いも控えて帰ってくる」
ど、どうしたんだろう、この人。
いきなりの変わりように動揺してしまう。
「だから俺以外の男と会ってはダメだ、絶対に」
最後は力強く念を押された。
どうやらまだ誤解されているみたいなので、解かなくては。
「でもベンとは偶然会っただけで――」
「いや、いい!! その口から、名前すら聞きたくない!!」
グレンは頭を大きく振り、話を遮った。どうしたのだろう、彼はベンと面識があって、好きではないのだろうか。
目をパチパチと瞬かせて見ていると、彼は咳払いする。その頬は赤かった。
そして彼の視線がテーブルに向けられていることに気づく。どうやら気になっているらしい。
「今日の購入品なの」
袋を開けて中から出したのは青いハンカチ。目の覚めるような色合いはとても綺麗だ。
「素敵な色だと思って、あなたの瞳を思い出したの」
「…………」
「ここに名前を刺繍して贈るわ」
するとそれまで黙って聞いていたグレンが、大きく目を開いた。
「これを俺に……?」
私は小さくうなずいた。
「ええ、いつもいただいてばかりだから」
彼はわざわざ私が贈らなくても、こんなハンカチなど何枚も持っているだろうが、気持ちの問題だ。
「刺繍の腕はあまり上手じゃないかもしれないから、期待はしないで欲しいのだけど……」
彼からの贈り物攻撃はやりすぎで困ってはいたが、お返しとはまた別だ。今は純粋に、感謝の気持ちを少しでも返そうと思えた。
グレンはぐっと一歩前に進む。
「それはいつできる?」
「えっ、それは……」
「明日? それとも明後日?」
彼の発言に面食らう。
それは私に夜通し刺繍をしろと言っているのだろうか。ぐいぐいと踏み込んでくる彼に、いささか戸惑う。
「さすがに明日は厳しいわ」
笑って返答するとグレンは肩を落とした。
その様子が残念に思っているように見えて、ちょっと驚いてしまう。
本当に彼は私からのお返しを欲しがっているのかしら? ……まさかね。
「出来上がったら、すぐに渡すから」
そう約束し、グレンは部屋から出て行った。
******
「さてと……」
一人になってベッドに腰かけ、一息ついた。今日はいろいろなことがあった一日だった。街へは行けたけどベンに会うし、グレンと一緒のマリアンヌを見かけるしで。
でも、こうやってグレンと直接話せる機会があって、良かったのかもしれない。じゃなければ、ずっと妹との関係を疑う羽目になっただろうから。
勝手に先走って泣きわめいた私に呆れただろうな。でも彼は優しかった。すぐに謝罪の言葉を口にした。
今日は歩き回った上に、いろいろありすぎて疲れているはずなのに、眠気がこない。グレンと話したことで目が冴えた。
こんな時は起きているに限る。時がきたら自然と眠たくなるだろう。
スッとベッドから立ち上がった。
******
翌朝、朝食の時間になり階下へ行く。
「おはようございます」
すでにグレンは席について紅茶を飲んでいた。私は昨日、遅くまで起きていたせいで、寝不足だ。眠い目をこすりながら、席につく。
「眠そうだな」
グレンに気づかれていたことで慌てた。
「ちょっと昨夜は遅くて」
自分で言ったあと、カアッと頬が赤くなった。昨日の彼とのやり取りを思い出したからだ。
泣き顔を見られたなんて嫌だわ、恥ずかしい。
だが彼は昨夜の出来事に特に触れてくることはない。グレンは紅茶を飲み終えると、そっと席を立った。
「先に出る。ゆっくり食べるといい」
そのまま部屋を出て行こうとした。
「待って」
椅子から立ち上がり、彼を引きとめた。
いきなりどうしたのだろう。宣言してきた彼を不思議な気持ちで見つめた。
「一緒に食事を取るようにするし、遅くなる場合は必ず連絡する」
「えっ?」
「付き合いも控えて帰ってくる」
ど、どうしたんだろう、この人。
いきなりの変わりように動揺してしまう。
「だから俺以外の男と会ってはダメだ、絶対に」
最後は力強く念を押された。
どうやらまだ誤解されているみたいなので、解かなくては。
「でもベンとは偶然会っただけで――」
「いや、いい!! その口から、名前すら聞きたくない!!」
グレンは頭を大きく振り、話を遮った。どうしたのだろう、彼はベンと面識があって、好きではないのだろうか。
目をパチパチと瞬かせて見ていると、彼は咳払いする。その頬は赤かった。
そして彼の視線がテーブルに向けられていることに気づく。どうやら気になっているらしい。
「今日の購入品なの」
袋を開けて中から出したのは青いハンカチ。目の覚めるような色合いはとても綺麗だ。
「素敵な色だと思って、あなたの瞳を思い出したの」
「…………」
「ここに名前を刺繍して贈るわ」
するとそれまで黙って聞いていたグレンが、大きく目を開いた。
「これを俺に……?」
私は小さくうなずいた。
「ええ、いつもいただいてばかりだから」
彼はわざわざ私が贈らなくても、こんなハンカチなど何枚も持っているだろうが、気持ちの問題だ。
「刺繍の腕はあまり上手じゃないかもしれないから、期待はしないで欲しいのだけど……」
彼からの贈り物攻撃はやりすぎで困ってはいたが、お返しとはまた別だ。今は純粋に、感謝の気持ちを少しでも返そうと思えた。
グレンはぐっと一歩前に進む。
「それはいつできる?」
「えっ、それは……」
「明日? それとも明後日?」
彼の発言に面食らう。
それは私に夜通し刺繍をしろと言っているのだろうか。ぐいぐいと踏み込んでくる彼に、いささか戸惑う。
「さすがに明日は厳しいわ」
笑って返答するとグレンは肩を落とした。
その様子が残念に思っているように見えて、ちょっと驚いてしまう。
本当に彼は私からのお返しを欲しがっているのかしら? ……まさかね。
「出来上がったら、すぐに渡すから」
そう約束し、グレンは部屋から出て行った。
******
「さてと……」
一人になってベッドに腰かけ、一息ついた。今日はいろいろなことがあった一日だった。街へは行けたけどベンに会うし、グレンと一緒のマリアンヌを見かけるしで。
でも、こうやってグレンと直接話せる機会があって、良かったのかもしれない。じゃなければ、ずっと妹との関係を疑う羽目になっただろうから。
勝手に先走って泣きわめいた私に呆れただろうな。でも彼は優しかった。すぐに謝罪の言葉を口にした。
今日は歩き回った上に、いろいろありすぎて疲れているはずなのに、眠気がこない。グレンと話したことで目が冴えた。
こんな時は起きているに限る。時がきたら自然と眠たくなるだろう。
スッとベッドから立ち上がった。
******
翌朝、朝食の時間になり階下へ行く。
「おはようございます」
すでにグレンは席について紅茶を飲んでいた。私は昨日、遅くまで起きていたせいで、寝不足だ。眠い目をこすりながら、席につく。
「眠そうだな」
グレンに気づかれていたことで慌てた。
「ちょっと昨夜は遅くて」
自分で言ったあと、カアッと頬が赤くなった。昨日の彼とのやり取りを思い出したからだ。
泣き顔を見られたなんて嫌だわ、恥ずかしい。
だが彼は昨夜の出来事に特に触れてくることはない。グレンは紅茶を飲み終えると、そっと席を立った。
「先に出る。ゆっくり食べるといい」
そのまま部屋を出て行こうとした。
「待って」
椅子から立ち上がり、彼を引きとめた。
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