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第一章 これは政略結婚
10.あきらめない妹
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「たった二人の姉妹ですもの。それにお姉さまの縁談の相手に興味があるわ。いいでしょう? 結婚したら私の義兄になる方だし」
つい先日まで平民だとバカにしていたのに、この変わりよう……。
あきれてマリアンヌの顔を見つめていると、逃がさないと言わんばかりに、腕にギュッと力が入った。
ここまでくるとマリアンヌは意地でも引かないことは、昔からの経験で嫌というほど知っている。
「私の一存では決められないわ」
「じゃあ、お手紙で聞いてみてよ。妹も連れて行きたいって」
マリアンヌはグイグイと詰め寄ってくる。
「……じゃあ、聞いてみるけれど、これで断られたらその時は納得してね」
この調子では勝手についてきそうだ。それだけは避けたい。
たとえ断られても、大人しく引き下がる姿は想像つかないけれど、念を押す。
「わかったわ」
途端に上機嫌になったらマリアンヌがパッと腕を離した。
「私も準備をしなくちゃね。どんなドレスにしようかしら」
もう行く気になっている。
お願いだから断って欲しいと願ってしまう。
「先日、お姉さまに贈られたドレスの中から選んでもいいわね」
「それはダメよ。送り主の了承もなしに勝手には貸せないわ」
「本当にケチね。借りるだけじゃない」
マリアンヌは不満気に頬を脹らませた。その前にあなたに貸したもので、返ってきていない物がたくさんあるのですけど。借りるイコールもらったと、同じ意味だと考えているから厄介なのだ。
「まあ、いいわ。先週、新しいドレスが出来上がってきたのだし。それにするわ」
また新調したのかと、呆れて物も言えなくなる。
「あとお姉さまのお相手の友人で素敵な方がいたら、私を紹介してよね」
顔をグイッと近づけてきたマリアンヌは強調する。
「あくまでも貴族よ、貴族。平民は論外だからね!」
マリアンヌは言いたいことだけ言うと、サッと去っていった。その後はぐったりと疲れた。まるで嵐が去ったあとのようだ。シルビアも同じ気持ちだったらしく、表情が強張っている。
「ドレスはクローゼットにしまっておいて。あと手紙を書くわ」
断られることを願いながらお礼状と共に手紙を書いた。
******
あっという間に舞踏会の当日になり、時間より早めに馬車に乗り込んだ。
「うふ、楽しみね」
目の前の座席にはいつも以上に着飾ったマリアンヌが座った。
「そうね……」
重い気持ちを押し殺し、返事をした。
先方に出した手紙の返事はすぐに届いた。
舞踏会への妹の出席も快く返答してくれ、なおかつ――。
「すごいじゃない、このドレス。私にもマダム・シャーリーのドレスを贈ってくださるなんて、優しい方ね」
上機嫌なマリアンヌ、妹にもドレスが届けられたのだ。
私とデザインは違うが、薄い黄色で華やかなバックリボンが印象的だ。マリアンヌのイメージぴったりで、似合っている。
もしや、妹と会ったことがあるのかしら?
だから、こんなにイメージ通りのドレスを贈ることができるのかしらと、ふと脳裏をよぎる。
だが正直、ここまでしなくてもいいのに、と思ってしまった。
「あっ、ほら、見えてきたわ。会場のサウル伯爵家よ」
庭園に明かりがともり、遠くからでも華やかな場所だとわかる。
はしゃぐマリアンヌを前にして、どこか気乗りしない私は曖昧に返事をした。
やがて馬車の停留所に止まり、そこからは歩いて屋敷を目指す。
周囲も着飾った人たちが集まっていた。皆、今日の招待客なのだろう。
やがて屋敷が見えてくると、扉に寄りかかって腕を組む人物が視界に入る。
あれは……。
後ろになでつけた金色の髪に横顔からでもわかる端正な顔だち。
グレンだ。
パッと人目を惹く彼は周囲の視線を集めていたが、特に気にした様子でもない。
その姿が視界に入ると、心臓がドクンと音をたてた。
「どうしたの? お姉さま」
いきなり足を止めた私を不思議に思い、マリアンヌが声をかけた。
それと同時にグレンがこちらに視線を向けた。
私を視界に入れると、パッと表情が明るくなる。そして優しく微笑んだ。
隣を歩いていたマリアンヌが息をのみ、凝視しているのがわかった。
「よく来てくれたな」
私を真っすぐに見つめながら近づいてくる彼から、視線を逸らせなかった。
「お、お姉さま……?」
マリアンヌが先に我に返り、私のドレスの裾を引っ張った。
「本日はお誘いありがとうございました。また、このような素敵なドレスもいただき、感謝しております」
深々と頭を下げたあと、マリアンヌへと視線を投げる。
「妹のマリアンヌでございます」
マリアンヌは真っ赤な顔になり、しどろもどろだ。
「えっ、えっと、ドレス、ありがとうございました」
グレンは私たち姉妹を交互に見つめると、フッと微笑んだ。
「よく似合っている。会場では美人姉妹だと注目を浴びるだろう」
笑顔を向けられ、ドキドキしてしまった。
「待っていたんだ、中へ行こう。皆に紹介したい」
スッと差し出された手を取ると、ギュッと力が込められた。
私の心臓、どこかおかしくなってしまったみたいだ。
顔の火照りが気になりながら、屋敷に入った。
つい先日まで平民だとバカにしていたのに、この変わりよう……。
あきれてマリアンヌの顔を見つめていると、逃がさないと言わんばかりに、腕にギュッと力が入った。
ここまでくるとマリアンヌは意地でも引かないことは、昔からの経験で嫌というほど知っている。
「私の一存では決められないわ」
「じゃあ、お手紙で聞いてみてよ。妹も連れて行きたいって」
マリアンヌはグイグイと詰め寄ってくる。
「……じゃあ、聞いてみるけれど、これで断られたらその時は納得してね」
この調子では勝手についてきそうだ。それだけは避けたい。
たとえ断られても、大人しく引き下がる姿は想像つかないけれど、念を押す。
「わかったわ」
途端に上機嫌になったらマリアンヌがパッと腕を離した。
「私も準備をしなくちゃね。どんなドレスにしようかしら」
もう行く気になっている。
お願いだから断って欲しいと願ってしまう。
「先日、お姉さまに贈られたドレスの中から選んでもいいわね」
「それはダメよ。送り主の了承もなしに勝手には貸せないわ」
「本当にケチね。借りるだけじゃない」
マリアンヌは不満気に頬を脹らませた。その前にあなたに貸したもので、返ってきていない物がたくさんあるのですけど。借りるイコールもらったと、同じ意味だと考えているから厄介なのだ。
「まあ、いいわ。先週、新しいドレスが出来上がってきたのだし。それにするわ」
また新調したのかと、呆れて物も言えなくなる。
「あとお姉さまのお相手の友人で素敵な方がいたら、私を紹介してよね」
顔をグイッと近づけてきたマリアンヌは強調する。
「あくまでも貴族よ、貴族。平民は論外だからね!」
マリアンヌは言いたいことだけ言うと、サッと去っていった。その後はぐったりと疲れた。まるで嵐が去ったあとのようだ。シルビアも同じ気持ちだったらしく、表情が強張っている。
「ドレスはクローゼットにしまっておいて。あと手紙を書くわ」
断られることを願いながらお礼状と共に手紙を書いた。
******
あっという間に舞踏会の当日になり、時間より早めに馬車に乗り込んだ。
「うふ、楽しみね」
目の前の座席にはいつも以上に着飾ったマリアンヌが座った。
「そうね……」
重い気持ちを押し殺し、返事をした。
先方に出した手紙の返事はすぐに届いた。
舞踏会への妹の出席も快く返答してくれ、なおかつ――。
「すごいじゃない、このドレス。私にもマダム・シャーリーのドレスを贈ってくださるなんて、優しい方ね」
上機嫌なマリアンヌ、妹にもドレスが届けられたのだ。
私とデザインは違うが、薄い黄色で華やかなバックリボンが印象的だ。マリアンヌのイメージぴったりで、似合っている。
もしや、妹と会ったことがあるのかしら?
だから、こんなにイメージ通りのドレスを贈ることができるのかしらと、ふと脳裏をよぎる。
だが正直、ここまでしなくてもいいのに、と思ってしまった。
「あっ、ほら、見えてきたわ。会場のサウル伯爵家よ」
庭園に明かりがともり、遠くからでも華やかな場所だとわかる。
はしゃぐマリアンヌを前にして、どこか気乗りしない私は曖昧に返事をした。
やがて馬車の停留所に止まり、そこからは歩いて屋敷を目指す。
周囲も着飾った人たちが集まっていた。皆、今日の招待客なのだろう。
やがて屋敷が見えてくると、扉に寄りかかって腕を組む人物が視界に入る。
あれは……。
後ろになでつけた金色の髪に横顔からでもわかる端正な顔だち。
グレンだ。
パッと人目を惹く彼は周囲の視線を集めていたが、特に気にした様子でもない。
その姿が視界に入ると、心臓がドクンと音をたてた。
「どうしたの? お姉さま」
いきなり足を止めた私を不思議に思い、マリアンヌが声をかけた。
それと同時にグレンがこちらに視線を向けた。
私を視界に入れると、パッと表情が明るくなる。そして優しく微笑んだ。
隣を歩いていたマリアンヌが息をのみ、凝視しているのがわかった。
「よく来てくれたな」
私を真っすぐに見つめながら近づいてくる彼から、視線を逸らせなかった。
「お、お姉さま……?」
マリアンヌが先に我に返り、私のドレスの裾を引っ張った。
「本日はお誘いありがとうございました。また、このような素敵なドレスもいただき、感謝しております」
深々と頭を下げたあと、マリアンヌへと視線を投げる。
「妹のマリアンヌでございます」
マリアンヌは真っ赤な顔になり、しどろもどろだ。
「えっ、えっと、ドレス、ありがとうございました」
グレンは私たち姉妹を交互に見つめると、フッと微笑んだ。
「よく似合っている。会場では美人姉妹だと注目を浴びるだろう」
笑顔を向けられ、ドキドキしてしまった。
「待っていたんだ、中へ行こう。皆に紹介したい」
スッと差し出された手を取ると、ギュッと力が込められた。
私の心臓、どこかおかしくなってしまったみたいだ。
顔の火照りが気になりながら、屋敷に入った。
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