49 / 50
第三章 交差する物語
1-6 お久しぶり
しおりを挟む春樹たちが魔導研究発表会の専用会場に到着する頃には、すでに他の参加グループは集まっていた。
春樹たちの研究所が、どうやら最後のようで、ヤゴチェたちヘムイダル研究所もすでに受付を終えているようだ。
ヤゴチェが、嫌でも気づくほど舐めるようにこちらを伺っている。
春樹たちはそれを無視して、自分たちの待機場所へと移動し腰を下ろすと、会場内をぐるりと見渡した。
会場の広さは、現世界で言うコンサートホールほどで、前方にステージとスクリーンが設置されている。春樹たち研究者たちはステージの方を向いて、左側から発表順に並んで座り、待機している状態である。
春樹たちの座る席は、ステージから階段状に高くなっていく形状で、春樹たちの後ろに研究所や王宮の関係者たちが座っていて、一番後ろと左右側面に入場する入口がある。
そして、後方の入口の上には、大きなガラス窓が帯状に連なった階層があり、ミズガル王以下、要人たちが発表会を観戦する部屋になっているようだ。
「あと少しで開会ですね。これから王を始めとする要人たちが、入場してくるんですね。」
「そうだな。今年は開催150年記念だし、他の国からも来賓が来ているはずだぜ。さっきはヤゴチェの奴のせいで話そびれたが、アルフレイムからも国王が来ているらしい。」
「アルフレイムからも…?」
「おうよ!あそこの王様が他国に来るなんて、かなり珍しいからよぉ。なんたってエルフの国の王様だろ?今回の観戦者はそれ目的のやつも多い筈だぜ!」
それを聞いて、アルフレイムでの記憶が蘇ってくる。
(みんな、元気にしてるかな…もう3年も経ったのか…)
春樹が、そう物思いに耽っていると、ベンソンが正面を向いて春樹に声をかけた。
「おでましだぜ!」
その瞬間、場内に管楽器の音が激しく響き渡る。ファンファーレのような曲が短く演奏されると、会場内が暗転する。
静かにどよめく会場内。
次の瞬間、一筋のスポットが差し込んだかと思えば、正面のステージには、煌々と照らされた1人の男性が立っていたい。
青と黒を基調とした縦縞のストライプスーツを纏い、黒縁の眼鏡を携えた男。
「皆さま、本日は第150回魔導研究発表会へお越しいただき、誠にありがとうございます!」
男はそう言って、丁寧にお辞儀する。
「あれがうちの王様。名はキクヒト王だ。」
「あれが…」
ベンソンの言葉に反応し、春樹はステージ上で口上を述べる男を、じっと見据える。
初めて見る人間族の王。
名前も、どこか現世界っぽく、何故だか親近感が湧いた。
「それでは、本日この記念となる大会へ、ご足労いただいた来賓をご紹介しよう!」
挨拶が終わると、ミズガル王は来賓紹介に移る。再び暗転し、王の声とともに来賓が始まった。
「まずはアルフレイム王!」
その瞬間、後方の要人席の一つの明かりが灯り、アルフレイム王と側近の顔が現れる。春樹はそれを見て、驚愕する。
「えっ???!!!あっ、あれっ…て!?」
黒と白の髪を後ろで一つの三つ編みに束ね、フォーマルなスーツに身を包み、立って手を振る女の子。オールバックの髪型と綺麗な淡いピンクの唇が、子供っぽさを全く感じさせていない。
その後ろには白髪の男性執事と、緑髪・レンズの分厚い丸眼鏡が特徴的な女の子が立っていた。
「あれがアルフレイムの国王か。初めてお目にかかるが…容姿とは裏腹に、力強さと言うか、なんか凄みを感じるな。」
ベンソンが横で頷いていることも、頭に入ってこないほど、春樹は動揺していた。
(うっ、うそだろ?ルシっ、ルシファリスがアルフレイムの国王だったなんて!クラージュさんと…リジャンまでいる!)
「おい、春樹。…ん?春樹?おいって!」
上を見上げたまま、動かない春樹にベンソンが声をかけると、春樹は正気に戻る。
「大丈夫か…?」
「えっ?…あ…あぁ、すみません。はじめて王様を見たんで、ついつい見惚れちゃって…」
「しっかりしてくれよ?本番はこれからなんだぜ!」
「だっ、大丈夫ですよ!任せて任せて…」
春樹はベンソンをなだめながら、再び見上げると、ルシファリスと目があった。しかし、彼女は特に何の反応も示さず、くるりと振り返り、準備されていた席へと腰を下ろすのであった。
(まっ、まぁ、国王ならここに来ててもおかしくはないんだけど…この発表会にあいつが興味あるとは思えないんだが…)
他の要人たちが紹介されていく中、春樹はルシファリスたちが来た理由を考えながら席へと座り込んだ。
そんな春樹とは裏腹に、要人席ではルシファリスが高笑いしていた。
「アハハハハ!見た見た?!あいつの顔!『マジかよ』って顔してたわね。マジウケるわ!ハッハハハハハ!」
「ハルキ殿、かなり驚いておりましたな。しかし、元気そうで何よりですな。」
「やっぱり異世界人はおかしいぜ。3年前に言語を覚えたばかりの奴が、今度は最先端を行く国の、最高峰の研究発表の場にいるなんてよ!」
ルシファリスは、正面を向いて考え事をしている春樹に目をやる。
「あいつ…必死に考えてるんじゃない?私たちが来た理由を。」
「だろうな。あいつの性格を考えれば、かなり混乱してるんじゃないか?」
リジャンはそう答え、クラージュも無言で頷いている。
「ところでリジャン!?」
ルシファリスは、リジャンへと向き直る。
「どうした?」
ボサボサな髪と分厚い丸眼鏡を、自分へと向けるリジャンへ、ルシファリスは一言吐き出すように告げた。
「あんた、口調と姿があべこべなのよ。気持ち悪いから、興奮するのか静かにするのか、どっちかにしなさいな。」
「ウッ…しっ、仕方ねぇだろ…外に出るのは…苦手なんだよ。」
ルシファリスの指摘に、リジャンは珍しく小さくなる。
「ったく!国内では元気いいくせに、外に出ると、なよなよしちゃって!」
ルシファリスはそう言って、大きくため息をつく。
「しかし、キクヒトも相変わらずよね。事情を話すなり、『盛大にしてやろう』とか言い出して…。こんなの、ただ自分が目立ちたいだけじゃない。」
ルシファリスは、ステージ上で楽しげに来賓を紹介し続けるミズガル王をチラッと見る。
「たしかに。王自ら、開催の挨拶、ましてや来賓紹介までするのは、恐らくこの国…いや、キクヒトさまだけでしょうな。」
ルシファリスの愚痴に、クラージュが同調する。
「まぁ、いいわ。今日はハルキの成長の確認の他にもやる事があるから、じっくりと見させてもらいましょう。」
会場ではすでに、各研究所の紹介に移っていて、春樹たちアルバート研究所がちょうど紹介されていた。ルシファリスは足を組み直し、立ち上がる春樹を見ながら、ニヤリと笑うのであった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
世界を滅ぼす?魔王の子に転生した女子高生。レベル1の村人にタコ殴りされるくらい弱い私が、いつしか世界を征服する大魔王になる物語であーる。
ninjin
ファンタジー
魔王の子供に転生した女子高生。絶大なる魔力を魔王から引き継ぐが、悪魔が怖くて悪魔との契約に失敗してしまう。
悪魔との契約は、絶大なる特殊能力を手に入れる大事な儀式である。その悪魔との契約に失敗した主人公ルシスは、天使様にみそめられて、7大天使様と契約することになる。
しかし、魔王が天使と契約するには、大きな犠牲が伴うのであった。それは、5年間魔力を失うのであった。
魔力を失ったルシスは、レベル1の村人にもタコ殴りされるくらいに弱くなり、魔界の魔王書庫に幽閉される。
魔王書庫にてルシスは、秘密裏に7大天使様の力を借りて、壮絶な特訓を受けて、魔力を取り戻した時のために力を蓄えていた。
しかし、10歳の誕生日を迎えて、絶大なる魔力を取り戻す前日に、ルシスは魔界から追放されてしまうのであった。
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
さようなら、私の初恋。あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
チートな転生幼女の無双生活 ~そこまで言うなら無双してあげようじゃないか~
ふゆ
ファンタジー
私は死んだ。
はずだったんだけど、
「君は時空の帯から落ちてしまったんだ」
神様たちのミスでみんなと同じような輪廻転生ができなくなり、特別に記憶を持ったまま転生させてもらえることになった私、シエル。
なんと幼女になっちゃいました。
まだ転生もしないうちに神様と友達になるし、転生直後から神獣が付いたりと、チート万歳!
エーレスと呼ばれるこの世界で、シエルはどう生きるのか?
*不定期更新になります
*誤字脱字、ストーリー案があればぜひコメントしてください!
*ところどころほのぼのしてます( ^ω^ )
*小説家になろう様にも投稿させていただいています
移転した俺は欲しい物が思えば手に入る能力でスローライフするという計画を立てる
みなと劉
ファンタジー
「世界広しといえども転移そうそう池にポチャンと落ちるのは俺くらいなもんよ!」
濡れた身体を池から出してこれからどうしようと思い
「あー、薪があればな」
と思ったら
薪が出てきた。
「はい?……火があればな」
薪に火がついた。
「うわ!?」
どういうことだ?
どうやら俺の能力は欲しいと思った事や願ったことが叶う能力の様だった。
これはいいと思い俺はこの能力を使ってスローライフを送る計画を立てるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる