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26話 身に迫る危険!?

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 青々と生い茂る木々たちが、さらに生命力を増す季節が訪れた。太陽の強い陽射しと心地よい風が様々な生命の香りを運ぶこの季節では、森に生息する植物たちの動きも活発になる。
 本来なら薬草士として心が躍る季節の到来だが、俺の心の奥にはどこか拭い切れないもどかしさがあった。

 ターとディネルースがこの家に住み着いて約1ヶ月の時が経とうとしているが、皮肉にも俺自身この生活に慣れつつある。生業である薬草士の仕事も再開し、相変わらず普段どおりの日々を過ごしている事がなんとも恨めしい。

 ディネルースはやらかした後だったので、人に毒を盛るようなやつと一緒に住めないと一旦は追い出したんだが、それを嫌がった彼女は家の前で泣いて懇願してきた。
 最初のうちは心を鬼にして無視をしていた。だが、朝から晩まで永遠と泣き続ける彼女の根性に俺は負けた。負けてしまったのだ。ギルドに差し出してもいいのではと考えもしたが、ギルド長の愛娘エルダにこれがバレた事を想像するとギルド長の般若の様な顔が浮かんでしまい、それも気が引けてしまった。

 結果、ターに加えてディネルースまでもが、この家に住み着く事になってしまうハメに。

 優柔不断だと笑われるかもしれないが、俺だってなんとかして2人をこの家から追い出そうと考え、わざと冷たくあしらってみたり、理不尽な事で怒ってキツく当たったりといろんな事を試してみた。
 だが、ターなんか初めから俺の言う事なんか聞いてやいないし、ディネルースについてはそんな俺の態度を見て、逆に頬を赤らめる始末だ。

 俺の性格を見透かしているかの様な態度に初めは苛立っていたが、今はもう諦めしか残っていない。
 これ以上、平穏な暮らしをめちゃくちゃにされたくなかった俺は、心の奥底で彼女たちを受け入れてしまったのだろう。邪魔されなければいいと。いつも通り平穏に暮らせればそれでいいんだと。


 それで今日に至るわけだが、そうなると今度は別の問題が想定された。
 俺の稼ぎは1か月で1人が生活できる分しかない。食材だってその他の日用品だって俺1人分でギリギリだ。ターが来てからはあまり考えずにやってきたが、2人がここに住む事で増える費用をどう稼ぐか。甲斐性なしだと思われるかもしれないが、俺はそれが当面の問題だと考えて思い切って2人に相談してみた。
 しかし、2人からの返事はシンプルなものだった。


「お金?あぁ……心配ないわ。必要な分は自分で稼ぐから。」

「そうですわ。ユウリ様にご迷惑はおかけしません。」


 その言葉には正直驚いた。
 だが、その日を境に2人は本当に自分で稼ぎ始めたのだ。もともと手に職を持っていたのだろうか。本当のところは本人にしかわからないが、彼女たちは時にはお金を、時には食材を手に入れ、うちに納め出したのである。
 本当に甲斐性なしになってしまった様で、その時は何ともいたたまれない気持ちになったが、そもそもなんで俺がそんな気持ちにならないといけないのかと考え直し、すぐに切り替えた。

 そんな訳で、今はこの家で3人暮らし。
 本当なら1人で静かに暮らしていたはずの生活に、花が添えられた……そう思う事にしている。


「さてと。そろそろ仕事に行くけど、2人はどうする?」


 朝食を食べ終えた俺は、背伸びをしながらそう尋ねる。もちろん、今日の朝ご飯に毒は入っていない……はずである。
 俺の問いかけに対して、ディネルースは食器を洗いながらこの後は家の掃除をすると言った。それにお礼を告げて今度はターへ視線を向ける。


「ターはどうする?」

「……今日はあなたについて行こうかな。」


 ターは何やら少し考えた後にそう答えたので、俺は頷いて準備ができたら呼びに来る旨を彼女へ伝え、玄関へと向かう。
 そうして、ドアを開けようとしたその時だった。


「こぉんにちわぁ~!」 


 突然ノックする音が聞こえ、ドアを挟んで反対側から男性の挨拶が聞こえてきた。それは聞き覚えのない声であり、しかもどこか甘ったるさを含んだ声色に戸惑いが隠せない。


「は……はい。」


 ゆっくりとドアを開ける。
 そして、顔を出して恐る恐るその訪問者へと視線を向けると、そこには坊主に近い桃色の短髪が特徴的で、鼻と耳に独特のピアスを付けている男性の姿があった。
 

「あらぁ~!あなたがユウリちゃん?」

「え……あ……は……はい。」

「んん~!思った以上に可愛いじゃない!!お姉さん、恋しちゃうかも!!」


 それを聞いた瞬間、全身に電撃の様な悪寒が走った俺はドアを思いっきり閉めていた。


「ちょっとちょっとぉ~!いきなり閉めるなんてあんまりじゃなぁ~い?開けなさいよぉ~!」

「あーすみません!うちは間に合ってます!」


 突然閉められた事に対してドア越しに怒る男に、俺はそうお断りを入れた。何が間に合っているのかは自分でもわからないが、とりあえず俺にそういう趣味はない。


「それがお客さまに対する態度なのぉ~?失礼しちゃうわぁね!お姉さん、激オコしちゃうわよ!」


 激オコというのが何なのかよくわからないが、たぶん怒るぞと言いたいのだろうと推測する。だが、そう言われても本能が危険信号を灯しているのだ。こちらとしても、自分の身は自分で守らなければならないので、どうかご了承願いたい。


「えっと……とりあえず、お……お帰りいただけますか?」

「なんでとりあえず帰らなきゃならないのよ!せっかく来たのに!いいから早く開けなさいよ!」


 そう言って、強行策に出る男。
 ガチャガチャとドアをこじ開けようとしてくる相手に対して、俺は必死にドアノブを押さえて応戦した。ここで負ければ俺自身の身に危険が及ぶ。この防衛戦は絶対に死守せねばならない。
 だが、この戦いは長くは続かなかった。


「もう……面倒臭いわね!いいわ、このまま本題に入らせてもらうから。」


 男はそう呟くと、ドアを開けるのを諦めてガサゴソと何かをし始めたらしく、聞き耳を立ててみるとどうやら手紙の様なものを開いている様だ。


「え~と……あ、これね。コホンッ……ユウリ=ドラッグスさま、あなたを温泉旅行へご招待します。日頃の疲れを癒しにぜひお越しくださいませ。温泉協会長より。」


 それを聞いた俺の頭にはハテナが浮かんでいた。
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