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5話 訪問美女とナゾの依頼
しおりを挟むドアを開けた先。
目の前に立っていたのは苛立った様子で腕を組み、俺を睨んでいるおっぱ……あ、いや……女性でした。
「え……えっと……どちら様でしょうか?」
突然の訪問者に俺は動揺を隠せずに問いかけるが、相手は睨みつけてくるだけで返事はない。
訪ねてきたってことは用があるはずだろうけど、しゃべってくれないと話が進まないじゃん。
そう内心でぼやきつつ、視線をおっぱ……いや、彼女へと向ける。
朝日で輝く銀色の長い髪が風に揺れる。
細身のロングパンツに包まれたスラっとした長い脚と折れそうなくらい細いウエストは、今まで街では見たことがないレベルのスタイルで、ついついその美貌に見惚れてしまう。
そして何より、大きく開いた胸元から見える双丘の存在感に俺の視線は抗うことができないらしい。
しかし、どこかで見たような双丘だな。
「君……初対面の女性の胸ばかり見るのは最低なんじゃない?」
「え……?いや……それは……その……」
ばっちりばれてら……
ごもっともな指摘に、俺はついついあたふたしてしまう。
そういえば、前に街の女の子から聞いた話だと、女性って男の視線には敏感で相手が自分のどこを見ているかは目を瞑っていてもわかるとかなんとか。その時の俺は、自分は絶対にばれないぜとか高を括っていたけど、所詮は俺も平凡男性の一人だったようだ。
ていうかそもそも、こんな巨乳を前にして見ない男がいるものか。でっかい乳は男のロマン。この大きな双丘には夢と希望が詰まっているんだ。そんな至宝的存在に興味がない奴なんてこの世には存在しないと俺は思っている。もしも仮にいたとしたら、そいつは漢じゃない!俺が必ずそいつを説得する!目を覚ませってね。
「……さっきから一人で何を考えているの?」
「え……?」
どうやら気持ちが動きに現れていたらしい。彼女の一言で、俺は自分が変なポーズをしている事に気づかされた。
そして、そんな俺の動きを見た彼女は怪訝な視線……まるで異物を見るような視線をこちらに送っている。
「ご……ごめんごめん。ちょっと妄想世界へ旅に行ってました。」
「妄想……?ちょっと言っている意味がわかりませんけど……とりあえず話を進めていいかしら?」
言っている意味が理解できずに眉を顰めてそう告げる彼女に対して、俺は苦笑いとともに頷いて見せる。
ていうか、この人なんでこんなに偉そうなんだ?話を進めていいかって言うけど、そもそも俺が問いかけた時に答えてくれればもっと早く話が進んだんじゃないかな。
しかし、そう思っても口に出さない事が女性との会話では重要である。
余計な事を言ってしまうと、そこから話がおかしな方向へと進む……そう街娘のエルダから教えてもらった事がこんなところで役に立つとは。
今度、エルダには香水の原料となる薬草をいくつか見繕ってやろう。
俺がそうやって一人で頷いていると、彼女は呆れたようにため息をついて口を開いた。
「今日は君にお願いがあってここに来ました。」
「お願い……?」
「えぇ、そうです。」
予想していなかった発言に驚いた。
お願いって事は指定薬草の採取とかかな?でも、それはギルドに申請してもらわないと受けられない決まりだし。たまにそれを知らない人が直接依頼に来る事があるけど、彼女のお願いってもしかしたらその類だろうか。
「薬草採取のご依頼でしたら、まずはギルドへ申請してもらう必要が……」
「違います。」
念のため、俺は定型的な対応文で伝えてみたがどうやら違ったらしい。彼女は俺の言葉を即座に遮った。
「……違いますか。じゃあ、何でしょう。俺に依頼が来る案件なんて薬草関連しか思いつかないんで。」
俺は頭を掻きながら再び苦笑いを浮かべて様子を見る事にした。だって、依頼なんてそうそう来るもんじゃないし、他に思いつかないんだから仕方がない。
だが、今度は彼女の方が何やら動揺し始めたようで、どこか切り出しにくそうな雰囲気でモジモジとしている。
いったい何なんだろう。早くしてくれないと昨日のブラックボアの死骸処理する時間がなくなるんだけどな……などと考えながらなかなか切り出してくれない彼女に痺れを切らした俺は、小さくため息をついて気を取り直すと優しい笑顔で問いかけてみた。
「とりあえず、ここじゃなんですから中へ入りませんか?この時期の朝はまだ冷えますから。」
女性はその言葉に少し驚き気味だったが、それが彼女の心を落ち着かせたらしい。
彼女も気を取り直すように一息をつき、真剣な眼差しをこちらに向けてこう告げた。
「いえ、それには及びません。なぜなら、今この時を持ってここが私の住まいになるのだから。」
「ここが君の……住まいにね……はっ!?えっ!?」
一瞬、言っている意味がわからずに聞き返すが、それに対して彼女は毅然とした態度を崩さない。
「聞こえなかったのならもう一度言います。私は今日からここに住みます。これは決定事項であって、あなたに拒否権はありません。」
地面を指差したまま異論は許さないと視線で伝えてくる彼女に対して、俺は言葉を失ってしまうのだった。
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