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第三章 ランク戦開催

71話 やさかにのまがたま

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フクオウは自分の目の前で起きている光景が、理解できていなかった。


「ぐあっ!」
「ぎゃっ!」


周りにいるクランの仲間たちが、突然斬られ、血飛沫を上げながら倒れていくのだ。

それは八岐大蛇から恐ろしい殺気を感じた矢先の出来事だった。


「なっ…いったい何が起きて…!?」


あちらこちらで理由もわからず倒れていく仲間の声に混乱して、フクオウは判断を鈍らせていた。

目に見えない何かに、自分も襲われるのではないかという恐怖も相まって、フクオウはその場から動けなくなっていた。


「フクオウさん!これは何が起き…がぁ!!」


駆け寄ってきた仲間が、フクオウの目の前で無惨にも斬り伏せられる。

その表情を見てハッとしたフクオウは、湧き上がる怒りを覚えた。


「八岐大蛇ぃぃぃぃ!!!貴様ぁぁぁ!!」


そう叫び、八岐大蛇へと振り向くと大きく声を荒げた。

…が、


「ぐあぁっ!!」


背中に熱いものを感じ、何かに斬られたのだとその痛みで気がつく。

下から上への斬撃を受けて体が少しだけ宙に浮き、そのまま片膝をつくフクオウ。

突然のダメージに驚きと焦りを感じつつも、斬られた感覚に覚えがあることに気づいた。


「ぐっ…この斬撃は…しかし、見えぬのはなぜだ!?」


《ほう。あいつ、なかなかタフじゃねぇか。しかも…気づいたか?》


一撃で倒れなかったフクオウを、嬉しそうに見つめる八岐大蛇。


《だがなぁ、気づいても見えないんじゃなぁ…ククク》


小馬鹿に笑う八岐大蛇の視界には、フクオウたちの間を駆け回る数体の何かが映っていた。

それらが、困惑し立ち止まっているプレイヤーたちに向けて、持っている刃を無慈悲にも振り下ろしている。


《まぁ、次であいつも終わりだろ。》


鼻で笑う八岐大蛇の言う通り、フクオウの後ろにはすでに刃を構えた何者が立っている。

そして、躊躇することもなくその刃を振り下ろした。

しかし…

ガキンッ!!

金属音が響き、笑っていた八岐大蛇はその光景に目を見開いて驚いた。

後ろで響いた音に気づいたフクオウが振り向けば、そこには上から振り下ろされた"何か"を防ぐタケルの姿があった。


「タ…タケル殿…!?」

「フクオウさん!みんなを一箇所に集めてほしい!」


そう言って、フクオウへポーションの瓶を一本投げ渡すタケル。


「すまん…しかし、一箇所に集まると言うのは…」

「説明は後でするから!今は急いで!」


ポーションで傷を癒しながらうなずくと、フクオウはクランメンバーたちに指示を出す。


「みんな落ち着け!!敵の姿は見えぬが、こんな時こそ落ち着いて対応するのだ!怪我を負っていない者は、我の周りは集まれぇぇぇ!!」


その言葉を聞いたクラン『SCR』のメンバーたちは、フクオウの周りに少しずつ集まり始めた。

その様子を確認しながらフクオウがタケルにたずねる。


「ここからどうするのだ!敵が見えないことには変わりないぞ!」

「大丈夫!!僕らのクランメンバーは奴らの姿が見えているんだ!」

「なんだと!?なぜお主らには視えるのだ?」

「理由はこれさ。」


タケルが手のひらを開くと、そこには一つの勾玉が握られている。


「これは『八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)』って言うんだけど、あるクエストの報酬で手に入れたんだ。」

「やさかに…の…?なんだそのアイテムは?」

「これは八岐大蛇攻略アイテムらしい。存在はたまたま知ったんだけど、ちゃんと手に入れておいたのさ。」


再び離れたところで金属音が響く。

フクオウがそちらに目を向ければ、目に視えない何かからSCRの仲間たちを守りつつ、こちらに向かってくるオサノやカヅチたちの姿がうかがえる。


「本来は目には視えないけど、このアイテムのおかげで奴らが視えるようになるんだ。今周りには八岐大蛇のスキルで奴の分身体が数体暴れ回っている。しかも、ランクが低いものは一撃でやられるほど奴らは強い。初見では対応は難しい相手だよ。」


後ろで話すタケルの言葉を聞いてフクオウは察した。


「そうか…お主は一度…」

「あぁ…僕らは今日のために…『八岐大蛇』を倒すために準備してきたんだ。だから…任せてほしい。」


そこへガージュが鎧を揺らしながら現れる。


「タケル!生存者はみな一箇所に集めたぜ!」

「ありがとう、ガージュ!八岐大蛇の分身体は全部で4体、『孤高の旅団』メンバーはそれぞれを迎撃!フクオウたちは酒の準備をしてくれ!」


いつの間にか周りに集まっていたメンバーたちは、その言葉にうなずくとそれぞれ散開していった。


「うむむ…なんだかもどかしいな。我らも戦いたいのであるが…」

「みんなには死んでほしくないんだ。今、やられた君の仲間たちはシェリーが回復してるから、君たちは彼らを保護して酒の準備を頼むよ。」

「そうだな。約束は約束だ。仕方ない…今回はお主に任せる。」


フクオウは少し悔しげな表情を浮かべたが、やむなしとうなずいた。

そして、向き直ると仲間たちに向けて声を張る。


「皆、聞いてくれて!我らSCRは予定通り、酒の準備を進める!半分はやられた仲間の保護に回れ!残りは我と共に来い!」


フクオウの言葉にSCRのメンバーたちは大きく声を上げてそれに応えた。





「うおりぁぁぁ!」


オサノは目の前にいるモンスターへ刀を横薙ぎに振り抜いた。
しかし、そいつは持っていた剣でその攻撃を受け止める。

八岐大蛇と同様に蛇のような竜のような頭をしており、背中から4本の腕が生え、背丈はオサノと同じくらいだが脚はなく、胴体と尻尾だけで立っている。

それが八岐大蛇の分身体の正体であった。

分身体は全部で4体おり、オサノと同様にカヅチ、ソウタ、ガージュがそれぞれ対応に当たっている。


「シャァァァァ!!」


カウンター気味に分身体が拳を繰り出した。
しかし、オサノはバックステップをとってそれをかわすと、再び分身体へ向けて突進する。


「スキル『あらなみ』…」


踏み込んだと同時にスキルを発動。
分身体が振り下ろした剣を、突進しながらも下から振り上げた刀で打ち上げる。

大きく剣を弾かれ、その反動で体勢を崩した分身体。
オサノはその隙を逃さず、懐に飛び込むと流れるように連撃を繰り出した。


「グギャァァァァ!!!」


肉を断つ生々しい音が響き、胴体を細切れにされて断末魔を上げた分身体は、そのまま光の粒子となって消えていった。


「ふぅ…」


オサノは立ち上がり、刀を振り下ろすと鞘に収める。
そして、仲間たちの状況を確認しようと振り返った。

視線の先でソウタが同じく分身体を細切れにしている様子がうかがえた。

しかし、オサノよりも細かく原形を留めないほどに。


「ソウタの奴、まだキレているのか…」


あきれながらそうこぼすオサノは、その横で戦うカヅチとガージュに目を向ける。

ガージュは敵の攻撃を盾で防ぎつつ、持っている大きな盾でジリジリと押し込んでいっている。

カヅチの方はというと、相対する分身体は彼女に腕を斬り落とされ、残りの1本でなんとか剣を構えている。
が、その様子は満身創痍。

それぞれ優勢、まもなく決着がつく。

そう考えてオサノは八岐大蛇へと視線を向けた。


「こいつは何を考えているのか…」


視線の先ではニヤニヤと笑う八岐大蛇の姿がある。

フクオウの仲間たちがやられる姿をただ単に見ていただけで、今も自らは追い打ちをかけることもなく、八つの頭を揺らめかせている。

オサノがそんなこと考えていると、分身体を倒したソウタがやってきた。


「僕ら、あきらかに舐められてるよ。」

「あぁ…そうだな。分身体を放っただけで何もしてこないとは…」

「あたしらのことを馬鹿にしてんね!ムカつくよ!」


分身体をそれぞれ倒し終えたカヅチとガージュも二人に合流する。


「ガハハハハハハ!仕方ないだろぉ、俺たちは前回逃げ帰ったんだからな!舐められるのも当然だ!」

「ガージュ…君ってやつは。デリカシーとプライドが皆無だね。」


あきれて皮肉を言うソウタにガージュは大きく笑うだけ。

そんな四人を見て八岐大蛇が楽しげに口を開いた。


《驚いたぜ。てめぇら、本当に強くなったんだなぁ。》

「たいそう余裕なんだな。僕らだって前回とは違うんだ。足元すくわれるなよ。」


八岐大蛇はその言葉に大きく笑い声をあげた。


《いいぞいいぞ…ならば次の段階といこうか!》
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