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第二章 始まる争い

12話 お主…アホか

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「えっと…これをこうして…ほい!」


イノチは、目の前にあるキーボードをタッーンと叩くと、ふさがっていた頭上に穴が空いた。

そこから体を通して抜け出すと、崩れた岩盤の上に出る。


「これを見る限り、あいつの風魔法の威力…半端ないな…」


イノチが辺りを見回せば、綺麗に整っていた壁や天井は全て破壊され、えぐられたような傷跡がところどころにうかがえた。

それも長い通路の角から角まで全部においてだ。


「まだ近くにおるかもしれん…細心の注意を払えよ…」

「大丈夫だって!」


なんの根拠もない大丈夫という言葉ほど、信用しない方がいい。

先ほどまで殺されかけていた人間が放つ言葉かと、ウォタは心の中でつぶやいた。


「しかし、50階層のボスのはずなのに、なんでまた45階層に姿を現すかなぁ…」

「おおかた…我やゼンの気配に影響されたのではないか?」

「確かにそうかもな…そもそもあいつ、上から落ちてきたしな…………………って、ウォタ!?」

「なっ…なんだ…突然?」


突然、驚いた声で話しかけてくるイノチに、ウォタは怪訝な表情を浮かべる。


「お前たちの気配を追ってってことは、またすぐここにくるんじゃ…」

「それなら、今ごろもう見つかっとると思うが。」

「だよね…じゃあ、なんで来ないんだろう…」

「この呪いのせいで、我の力が弱まっとるからだろうな。」


ウォタはそう言って首飾りの中から出てきた。その体には、紫色のアザのようなものが見受けられる。


「これは、対象を殺せはしないが、その力を最低限にまで弱めることができるようだな…まったくをもって力が出せん。」

「もう苦しくないのか?」

「だいぶ落ち着いたようだ…」


それを聞いて一安心したイノチは、ハッとする。重要なことに気がついたのだ。


「ウォタ…あくまで推測なんだけどさ。」

「なんだ?」

「あいつ…ゼンを追いかけてたりしないよね…」

「う~む…あり得るかもしれんな。ゼンのやつ、力だけは我より強いからなぁ…やつの的になり得る可能性は高い。」

「まずいな…やつは階層を移動できるみたいだし、このままだとミコトたちが狙われる可能性が…」

「この呪いが解けさえすれば、なんの問題もないのだがな…」

「はぁ~ウォタが戦えない以上、俺がやるしかないんだけど…接近すれば触手、離れれば広範囲魔法だろ…どうするかなぁ…」


あごに手を置いて悩むイノチ。
その様子を見かねて、ウォタが口を開いた。


「お主のその装備…『ハンドコントローラー』とか言ったか?それは汎用性がかなり高そうであるな。しかも、話によると相手に触れても使えるのだろう?」

「あ…あぁ、これか?確かにそうだな…自分以外なら使えるみたい…ただし、厳密に言うと、触れるだけじゃダメなんだよ。」

「具体的にはどうするのだ?」

「対象に触れた後、ソースコードを調べて書き換えなくちゃいけないんだ。」

「むっ…?コード?書き換え…?」


ウォタの頭にハテナが浮かんでいて、イノチは苦笑いする。


「ごめんごめん。要はさ、触れた後作業する時間が必要なんだ。だいたい1分くらいかなぁ…」


ゲンサイとの戦いの後、イノチは自身が装備する『ハンドコントローラー』について、その性能を調べ、テストを繰り返していた。

判明したその使用方法はいたって簡単だった。

『ハンドコントローラー』に魔力を込めた状態で自分以外の対象に触れると、画面とキーボードが発現する。

そこには、プログラミングの世界でよく見られる、ソースコードによく似た文字列が並んでいて、それを解析し、書き換えることで、対象に影響を与えるのだ。

その効果はさまざまだった。

主な効果の一つは、対象の能力向上だ。
『超初級ダンジョン』で、虫の群れから逃げる時、エレナの俊敏性を上げたのが例に挙げられる。

他にも、先程の地面の『沈下』のように対象の形を自在に変えることもできる。

イノチはこの能力を『書換(かきかえ)』と呼ぶことにした。

ちなみに、ゴブリンを倒した時やリュカオーンの"絶対防御"を解除したのも、この『書換』の効果によるものだ。

ゴブリンの場合は、『condition(状態)』を生から死に書き換えたことで倒せた。

一撃で倒せる能力とかチートだろ、と思われるかも知れないが、自分のランクよりレベルが低いモンスターに対してのみ…それも格段に差がある場合のみ可能らしい。

そして、もう一つは対象の情報を識別する能力『解析』。

これは、魔力を目に集中させると発動するもので、ギルド総館でウォタの情報を読み取ったものがそれである。

相手の弱点まで分かるため、こっちの方がチートっぽいが、あくまでわかるだけ。

その情報をどうするかはイノチ次第である。

ちなみに『書換』の際、イノチは無意識に『解析』を使っており、二つで一つの力というわけなのだ。


「なるほどな…相手の力を見極め、それに干渉するというわけだな。しかし、それには対象に触れていなければならんし、時間も要するか…リュカオーンの"絶対防御"を破るあたり、かなり強力な力ではあるが…諸刃の剣であるのう。」

「そうなんだよ…だから、あの『ウィングヘッド』を倒すには、一定時間動きを止めて近づかないとならない…どうするかなぁ…」


崩れた通路を越え、45階層の出口を探しすため、イノチとウォタは入り組んだ通路を歩いていた。

ダンジョンボスである『ウィングヘッド』を攻略するための作戦。

どう動きを止めるか。


「あの風魔法がなぁ…」


ぼやくイノチにウォタが声をかける。


「あまり不用意に進むなよ…やつ以外にもモンスターはいるのだからな。」

「わかってるって!あっ…」

「…どうした?」


何かに気づいたイノチ。
歩くのをやめて何かを考えている。


「おい…イノチ…?」

「よく考えたらさ…ウォタのその呪い…解けるんじゃないか?」

「…そうか!お主のその力で…」

「なんで早く気づかなかったんだろ…よし!さっそく取り掛かろう!」


ドサッ


イノチがウォタにそう告げ、右手に『ハンドコントローラー』を発現させた瞬間だった。

突然目の前に落ちてきたそれは、赤黒く、異臭を放っており、なにか強い力で丸く押し潰されたような形をしている。


「…なっ…なんだ?これ…」


イノチは恐る恐る近づき、目を凝らして見てみると、目玉や歯、体毛のようなものが見える。

イノチはそれがなんなのかすぐに気づいた。


「げっ…!!これ、モンスターの死骸か…!?なんでこんなことに…?!あでっ!」


驚いて後退りしたイノチの背中に、何か硬いものが当たる。

頭をさすりながらゆっくりと振り向けば、そこには見覚えのある異形型モンスターの姿があったのである。


「グオォォォォォォォォォ!!」

「はっ?!『ウィングヘッド』!!!なんで!?」

「なんでじゃない!!早よ逃げんか!!」


ウォタの言葉に、イノチが反射的に駆け出すと無数の触手が地面をえぐり取る。


「うっ…うそだろぉぉぉぉぉぉ!!」

「お主はアホか!!だから、注意しろといたのだ!!」


鬼ごっこラウンド2

いざ、開戦!!
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