64 / 290
第一章 アクセルオンライン
63話 幕間 〜接触〜
しおりを挟むその街道には、早朝からでも多くの人々が行き交っている。
私もその中の一人だ。
ときおり、砂埃を巻き上げながら、商人たちの馬車が人々の横を通り過ぎていく。
『クニヌシの森』はすでに抜け、小高い丘から見下ろす眼下には、朝もやのかかる荘厳な山の姿と、その麓に腰を据える街が映し出されている。
『イセ』の街。
『アソカ・ルデラ山』の麓に広がる大きな街。
あそこに彼がいるのだ。
そうつぶやくと、私は再び歩み始めた。
・
城門を抜け、街の中へと足を進める。
それと同時に目に入るのは、真っ直ぐと伸びる中央通り。
宿屋や食堂、その他様々な商店が軒を連ね、その通りは多くの人で賑わっているようだ。
観光街『イセ』とはよく言ったもので、朝からでも活気に満ち溢れている。
そのまま中央通りを歩いていけば、たくさんの人々の喧騒が聞こえてくる。
呼び込みをする者、外に並べられたテーブルで食事をする者、店前で商談する者などなど。
それらの雰囲気と、鼻を刺激するいろんな朝餉の料理の香りを楽しみつつ、中央通りの終わりで、T字路にぶつかった。
一度足を止め、正面を見上げれば『美風呂亭(びぶろてい)』という看板のかかる、かなり煌びやかな宿屋が立ち誇っている。
赤と黒を基調としたデザインに、屋根から見下ろす金のシャチホコ…
こ…これはなかなかのセンス…
周りの建物との調和など一切考えていないそのデザイン性に、建てた者のセンスを疑った。
その建物を一瞥した私は再び歩き出し、T字路を左へと進んでいく。
こちらの方向に進めば『アソカ・ルデラ山』の山道へとたどり着くのだが、今回の目的は山登りではない。
私の目的は、山道への入り口を過ぎた先にあるのだ。
山道の入り口を通り過ぎる際、鉱山士たちが準備を行なっているのがうかがえた。
これから鉱石の採掘へと向かうのだろう。
道具を馬車へ積み込む者や、地図のようなものを広げ、数人で話し合っている者たちなど、皆楽しげに話している。
先ほどの中央通りといい、この街は平和だと感じる。
彼らを横目に見送り、しばらく通りを歩いていく。
…しかし、上の方々も暇を持て余し過ぎではないだろうか。
前回の開催からそう時間は経っていないのに、またランク戦をやろうだなんて。
他にやることはないのか、なんて言ったら怒られるどころじゃ済まないのはわかっているが…
そのお陰で、計画を前倒しにしなくてはならなくなってしまったんだから、少しくらい文句を言ってもバチは当たらないはずだ。
上への愚痴や今後の計画を考えながら歩いていたら、いつの間にか目的の場所が視界に映る。
立派な門構えと、高い柵に囲まれた広い庭の先にある大きな館。
街の少し外れにある彼の館。
ここが今回の目的の場所だ。
しかし…まだ朝は早い。
今すぐ訪ねてもいいのだが、最初の心証は良くしておきたいのも正直なところ。
さて、どうするか。
なんて考えていると、勝手口と思われるドアからメイドが一人、姿を現した。
彼女はすぐ横の倉庫へ入っていき、少しすると薪をいくつか持って出てきた。
推測するに、朝食の準備をしているのだろう。
そのメイドの様子をジィッと見つめていると、彼女はこちらに気がついたようだ。
薪を勝手口の横に置き、トトトッと駆け寄ってきて私に声をかけてきた。
「どちら様でしょう。なにか…御用でしょうか?」
訝しげに問いかけてきたメイドに、私は少し考えて口を開いた。
「ここの主人に話があって参った次第です。しかし、まだ朝も早く…こんな時間に伺うのも失礼かと悩んでいたところでした。」
「…話というのはどのような件で…」
「それは…できれば主人に会って直接話したいのです。"ウンエイ"と名乗っているとお伝えいただければ、主人もすぐお分かりになるかと…」
その言葉を聞いたメイドは、「少々お待ちを」と一言だけ言い残して、勝手口の中へと戻って行った。
その後ろ姿を見ながら、私は思いにふける。
たった1週間程度で、ここまで手にしたプレイヤーは今まで見たことがない。
大きな館とメイドに加え、ガチャでもURキャラやSRの武器まで…
少なくとも3年はかかるレベルだ。
そもそも、館とメイドは設定された入手アイテムでもなんでもないから、余計に驚いてしまう。
それは、彼が自力で手に入れた結果なのだから。
そんなところも含めて、モニター越しに見ていた彼が実際はどんな人物なのか、想像するだけでワクワクしてくる。
こっそりと管理者画面を小さく立ち上げ、対象オブジェクト欄にある項目の中から、彼の館を選択する。
【点在対象確認】
クラン名:ガチャガチャガチャ
所属プレイヤー:イノチ『78』、ミコト『71』
獲得キャラ:エレナ(R)、フレデリカ(UR)、ゼン(SUR)、ウォタ(SUR)
これを見ただけで惚れ惚れしてしまう。
過去に、ここまで高レアリティを揃えたプレイヤーはいなかった。
それに、どうやらあの少女とクランを設立したようだ。
チュートリアルガチャで、スーパーウルトラレアのファイアードラゴンを引いたあの子と…
『クラン』のネーミングセンスは疑わしいが、彼らのこれからを想像しただけで、背中がゾクゾクして身震いしてしまう。
バンっ!
突然、遠くに見える勝手口が音をたて、勢いよく開いた。
パンを加えたまま、驚いた表情を浮かべてこっちを見てくる彼を見て、私は苦笑する。
さて、ここからが本番だ。
彼らにとっても…私にとっても…
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる