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第一章 アクセルオンライン

24話 錬金術と大喰らい

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「改めまして、わたくしは真理を求める者フレデリカ=アールノストですわ。」

「ど…どうも…」


リビングに移動した一行は、フレデリカの自己紹介を受けていた。
その姿を見ながら、イノチは驚きを隠さずにいる。

桜色の長い髪は後ろで一つにまとめ上げ、
黄色と黒を基調としたナポレオンジャケットに、腰から下に伸びる紺のロングスカート。

そのロングスカートは一箇所だけ大きく開いたスリットがあり、白く透き通った太ももがちらついている。


(これって…どういうことだ…?)


目の前にいるフレデリカというキャラクター。

イノチがこの『アクセルオンライン』を始める前に、プレイしていたソシャゲのキャラクターにそっくりなのだ。

風貌、名前、セリフ、その全てがソシャゲのキャラと一緒であることに、イノチは混乱していた。


(よく考えればエレナだって、容姿は違うけどソシャゲのキャラと名前が一緒なんだよな…これってなんか関係あるのかな…)

「イノチさま…?大丈夫でしょうか…」

「…えっ?あぁ…大丈夫大丈夫!ちょっと考え事してただけだから!」


テーブルに湯呑みを置きながら、イノチの様子を心配してメイが声をかけてきた。

よほど長く考え込んでいたのだろうか、エレナとフレデリカも、イノチの方をじっと見ている。


「BOSS…彼女が自己紹介してるわよ。」


頬杖をついたまま、エレナもイノチに声かける。


「あぁ…ごめんごめん!フレデリカだったね。よろしく!俺はイノチ、でこっちはエレナ。んで、こちらはこの館の世話をしてくれているメイさんね!」

「皆さま、よろしくですわ!」


順に紹介するイノチに対して、フレデリカは再び、丁寧に頭を下げて挨拶した。


「で、フレデリカはどんなことができるの?」

「わたくし…?わたくしは…」


イノチがフレデリカの詳細を確認しようとしたその時である。


「ちょっと待った!」


エレナがそれを遮った。


「なっ…何だよエレナ?フレデリカの話を聞こうと思ったのに!」

「BOSS…?その前に私たちに言うことがあるんじゃない?」

「え…言わなくちゃならないこと?」


エレナとメイが、ジッとイノチを見据えている。


(あ…勝手にガチャを回したこと、怒ってんな…これ…)


二人の目線に気まずさを感じながら、イノチは頭をかいて頭を下げた。


「わっ…悪かったよ。嘘ついてガチャ回しちゃってさ…」

「それもだけど!それだけじゃないでしょ!」


エレナが声を荒げてテーブルを叩き、メイがその横で首を縦に何度も振っている。


「そっ…それだけじゃないって…他に何があんだよ!」

「しらばっくれても無駄よ!お風呂で何をしていたのか!ちゃんと白状してもらうわよ!!」

「はっ…はぁ~!?」


フレデリカを指差して問い詰めてくるエレナに、イノチは驚いて声を上げた。
エレナの横で、お盆を抱いたメイが首を何度も縦に振っている。


「ちょっ…ちょっと待てよ!なんか勘違いしてないか!?確かにガチャは勝手に回しちゃったけど、別にフレデリカとなんかあったとか、そういうんじゃないぞ!?俺はガチャの演出で気絶しちゃったんだって!なぁ、フレデリカ!!」


イノチが必死に弁解し、フレデリカに同意を求めた。

だが、三人の視線を受けたフレデリカは少しキョトンとした後に、顔を赤らめ、目を閉じながら、顔を逸らした。

それを見て、エレナとメイがイノチに振り向き、ジト目を向けてくる。


「だぁぁぁぁ!!フレデリカ!変な誤解を生むような態度はやめんかぁぁぁ!!」






【名前】フレデリカ=アールノスト(UR)
【性別】女
【種族】ドラゴニュート
【タイプ】魔法アタッカー(+1)
【得意武器】剣、銃
【備考】大喰らい、口癖が「ですわ」


イノチは携帯で、キャラクター詳細画面を見ながら、フレデリカについて確認していた。

頬には二つの手のひらの跡を残して。


「ちくしょう…恨むぜ、フレデリカ。」

「やましいことをしていたのは、BOSSなのでしょう?次はうまくやることですわ!」


楽しげに笑うフレデリカを見て、イノチはため息をついた。エレナは頬杖をついて、ムスッとした顔で紅茶をすすっている。

メイはというと、デザートを用意するため、厨房へと行っているようである。


「はぁ…もういいや、終わったことは忘れよ…。しかし、フレデリカって種族が『ドラゴニュート』なんだ。見た目は人間だけど…変身とかできるのか?」

「変身?あぁ…竜の姿にですわね。できないこともないけどしないですわ。」

「なんで?かっこいいのに…」

「いやですわ…あんなごっつい体なんて…全然美しくないですもの。」


フレデリカはそう言って紅茶をすすった。
そこに今度はエレナが問いかける。


「魔法アタッカーってことは、魔法が得意なわけでしょ?何ができるの?」

「得意な属性は火と雷で、主に広範囲系ですわ…逆に回復とかは苦手ですわ。」

「なるほどね…なら、エレナが前衛で、フレデリカは中衛ってとこかな。しかしなぁ、現時点ではフレデリカに装備させる武器や防具がないんだよなぁ…」

「お風呂でガチャしたじゃない。何かでなかったの?」

「…出てない。」


皮肉っぽく言うエレナに、イノチは一言だけ返した。

すると、自分の装備の話をしていることに興味を持ったのか、フレデリカが口を開いた。


「素材があれば武器などは錬成できるのですわ。わたくし、錬金術の心得もありますので。」

「え…!?そうなの?そんな情報どこにも載ってないけど…」


イノチはそう言って、携帯でフレデリカの詳細を見直した。すると、『タイプ』欄に『+1』と書かれていたのを見つけ、それをタップしてみる。


「…ほんとだ。アルケミスト(錬金術師)って書いてある…」


フレデリカはニコリと笑い、話を続ける。


「わたくしの得意武器は剣、もしくは銃ですわ。銃の素材はレアなものが多いのですけれど、剣であれば簡単な素材から作れますですわ!」

「おぉ!なら…たとえば今、俺が持っているモンスターとかの素材でなにか造れないかな?」


イノチはそう言うと、アイテムボックスからいくつかの素材を取り出した。


『ゴブリンの牙(N)×15』
『ゴブリンのツメ(N)×18』
『ホブゴブリンの牙(R)×2』
『ビッグベアの牙(N)×4』
『ビッグベアのツメ(N)×6』
『ウルブズの牙(N)×26』
『ウルブズの毛皮(N)23』
『鉄(N)×3』


「う~ん…ホブゴブリンの牙と…鉄がありますわね。これで『ファングソード』が造れますわ!」

「マジか!それなら、フレデリカの武器問題もいったんは解消だな!…すぐに造れるもんなの?」

「もちろんですわ!」


フレデリカはそう言うと、二つの素材を持って少し広いスペースに移動する。そして、床にそれらを並べて置くと、両手を合わせて目を閉じた。


「万物を創生し得る神の名の下に、我、等しき対価をここに捧げん。」


フレデリカがそこまで言うと、彼女の両手が輝きを放ち始めた。

そのままフレデリカが、その手を床に置いた素材へ向けると、それらも輝き始め、ゆっくりと重なり合っていく。


「おおお~本格的な錬金術だ!すっげぇ!」

「はい。出来上がりですわ!」


フレデリカから受け取ったそれは、まさに名前のとおりの形状をしている。

『ファングソード』

イノチはそれをいろんな角度から楽しげに眺めると、再びフレデリカへと手渡した。


「ありがとう、フレデリカ!とりあえずこれは、君が装備しておいてね!」


フレデリカは無言のまま、笑顔でそれを受け取った。

すると、タイミングを諮ったかのように、メイが部屋に入ってくる。
手に持つおぼんには、手作りスイーツが3つのっている。


「皆さま、おっ…お待たせいたしました。」

「やったぁ!待ってました!メイのデザートは格別にうまいのよね!」

「フッ…フレデリカさまの…歓迎の意味を込めて作った…んです。」


喜ぶエレナ。
対して恥ずかしそうに作ったスイーツをテーブルへと並べていくメイ。


「メイさん、感謝なのですわ!」


フレデリカがそう言うと、テーブルに並んだスイーツ全てが一瞬で空になった。

何が起きたのか分からず、全員がキョトンとする中、フレデリカだけが口をもぐもぐさせ、満足気な笑みを浮かべている。


「ちょっ…え…?フレ…デリカ…?あんた…まさか?」

「えぇ、おいしいですわ!」


にこりと微笑むフレデリカ。
それを見たエレナは、状況を理解し始め、ついには大声をあげた。


「あんた!!何してくれてんのよぉぉぉぉぉ!!」


悲痛の声が暗い夜空に響き渡るのであった。
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