生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか

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番外編 フェルトンside④

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それから数年後。

正式な後継者がはっきりと決まらない中、父上……国王フィルネルが病により死去した。

私が10歳。兄上31歳。アムール7歳だった。

その時、私は再び王位継承権を放棄する宣言をする事を心に決めた。

今を逃したらもうこんなタイミングは来ないだろう。


今回はランバードも何も言っては来なかったので、私は父上の葬儀の際、全国民の前で王位継承権を放棄する宣言をした。

その後、多少の混乱が起きたが兄上が鎮静させ、無事国王となり、息子のアムールが8歳で王太子となった。

この件に関してはランバードの言う通りにして正解だった。

今ならわかる。

私が最初に継承権放棄を考えた6歳の時、今回のように宣言をしてもきっとあの頭の硬い者たちはどんな事をしてでも諦めなかっただろう。

こんなスムーズに事は進まなかった。

父上が亡くなり、多少なりとも公務をこなすようになった10歳の私が継承権放棄を宣言し、兄上が鎮静させたことで全てが上手くいった。

この頃から私は自身の中にいる忌わしいランバードを少し認め始めた。



それから月日が流れ、兄上の政権も落ち着きをみせて国全体が以前より豊かになった。

兄上はやはり優秀だ。私など太刀打ちできない。
兄上は国民達から賢王と呼ばれその地位を確かなものとした。

歳が離れた兄上……ランドルは私にとって尊敬できる兄であり、信頼できる父のような存在でもあった。


14歳の頃、その兄上よりアムールの片腕として王城に留まり政務を手伝って欲しいと頭を下げられた。

私は将来ユリマーリアと一緒になる事を望んでいたから王政に携わるつもりなど全くなかった。

ユリマーリアとは秘密にやりとりをしていた事もあり、中々逢うことは叶わない状態ではあったが、既にこの時には文通を通して互いの気持ちを伝え合っていた。

王位継承権を放棄したからには年頃になったら王城を出なくてはならない。だから、いずれこのドイル国を出て行き、ユリマーリアと共に生きていくと考えていた際のお願いだった。


私の気持ちはすでに決まってきた。
しかし、ランバードがそれを拒否した。

『この国を出る事はできない。お前はランドルの願いを受け入れろ』


なぜだっっ⁉︎
ユリマーリアと共になるのが何故悪い?
ユリマーリアとの交流をお前は許したじゃないか?
この国から私が出ても何の支障もないはずだ。
なのに、なんで止めるんだっっ⁉︎

私の怒りに対してのランバードはなにも答えない。

ただ、その決意を口にしようとすると声が出せなくなる。
最近は収まってきていた苛立ちがまた募る。


そんな時に助け舟を出してくたのはその時には唯一無二の友人であったエリアーナだった。


「私、アムール王太子殿下の婚約者候補の一人として選ばれたわ」
久々に顔を合わせるや否やエリアーナが私に告げていた。

「おめでとう」
私がそう応えるとエリアーナは私を睨みつける。

「めでたくなんかないわ。お父様が今、陛下に猛抗議してるわ。当たり前よね。お父様の実の姉であり現国王正妃であるナリエ叔母様を蔑ろにしてる現国王と側室の間に生まれたアムール子供に私を嫁がせるなんて……この国は本当に考え方がロクでもないわ」

エリアーナは顔を真っ赤にして抑えられない感情を吐き出すように大声で叫んだ。

「確かにな……」
私も王族を取り巻く環境に呆れて、思わずため息を吐く。

そんな私の顔をエリアーナはジッと覗き込む。

「私、貴方が好きよ」
「はっ?」

突然の告白に私は目を見開き固まってしまうが、エリアーナはそんな私を気にする事なく真剣な瞳を私にむける。

「でも貴方はユリマーリア嬢が好きなんでしょう?」

私は一瞬迷いながらも頷くとエリアーナはニッコリと笑う。

「ここで提案があるの」
「提案?」
「そう。わたしの父は純血主義者よ。それにナリエ叔母様の事もあり今の王家には反感をもっている。お父様は王家はもうだめだと王家に見切りをつけて自らの公爵家の血筋を守る為に貴方と私の婚姻を望んでる。

私自身は純血者なんてクソくらえって思っているけど、私はお母様が死んでから再婚もせずに私に愛情を注いでくれたお父様の願いを叶えたい。父が望む通り私と貴方の子供を……純血者である子供を次期公爵家の後継にしたい。
貴方の弱みに漬け込んだ酷い提案である事はわかっているわ。
でも、その条件を飲んでくれたらユリマーリアを貴方の側室として難なく迎える入れられるように私が手配してあげる。悪い話じゃないでしょう?」

エリアーナは興奮気味に言ってくる。

「それは……私にとってはありがたい話のように思えるが……ユリマーリアがそれを許すか? それに君にも失礼ではないか? 公爵はそんな話を許すのか?」

私が戸惑いを見せると、エリアーナは呆れたようにため息をつく。

「私が提案しているのだもの。私の事やお父様の事は気にしなくていいわ。それにユリマーリアが許すも何も貴方にはこの選択肢しかないわよ。貴方の中の人ランバードがこの国を出て行く事を拒否しているのでしょう?それに無理に国を出た所でこの国が純血とする貴方を逃すわけないわよ。まぁ……ユリマーリアには貴方が上手く説明することね。私も出来る限りの協力するわ」

エリアーナが言う事はもっともだった。
この提案は確かに私にとってこの上ない魅力的なものだ。
私が国外に出る事をランバードが拒んでいるのであれば、私にはどうすることもできないだろう。ユリマーリアと共になるのであれば、ユリマーリアにドイル国に来てもらうしかない。

ただ、継承権を破棄した私自身にそんな権限はない。

エリアーナがこの国の血筋主義について反感を持っているのは知っている。その辺りでは私と同じ考えの持ち主だ。

公爵が純血主義である事も内心良く思っていない。
ただ、エリアーナが自身の父を敬愛しているのも確かだ。



しかし、私の中の良心が痛んだ。
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