生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか

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番外編 フェルトンside②

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それから私は私の中にいる“ランバード”について色々調べ始めた。


“ランバード・アーデノル・ドイル”

ドイル国の建国者。初代国王。
ドイル国にとって偉大な人物であるはずなのにこの国に残っている史実は少なく情報はほとんど無いに等しかった。

何故、そんな人物が私の意識の中にいるのか?
何の意味があるのか……?

考えた所で疑問が膨らむだけで答えなど出てはこない。


その一件以降、私が何か行動しようとする度にランバードは私に何かしら語り掛けてくる。

しかし、私の問いには一切答えない。


私は段々腹が立ってきた。
自分の事なのに自分の思い通りに動けない。
自分の頭の中を常に見られているようで、行動するより前に否定される。

私は表面上は何もないように繕いながらも、内心では常にイライラしていた。


そんな私の内なる苛立ちをいち早く気付いたのは、よくナリエ妃に会いに来ていたナリエ妃の実弟である現バルメルク公爵ガルムの一人娘エリアーナだった。



王城の庭園の外れにある庭師以外は踏み入まないであろう木々が生い茂った小さな森の奥にある私だけの秘密基地があった。

イラつきが治らない時はいつも隠れるようにここに来て誰にも見られず一人で気持ちを落ち着かせていた。

その日も私は自身の行動をランバードに否定され、誰にも当たる事のできない気持ちを晴らすためにその場に行くと溢れる苛立ちを解放するかのように握りしめた小石を投げたり、普段は使わないような暴言を吐いたりひと暴れしていた。

何の前触れもなくエリアーナはそこにやって来た。


「こんな所で貴方はなにをしているの?」

エリアーナとは今まで何度か顔を合わせた事はあった。

同じ純血者ということで私自身勝手に親近感を覚えていたが、会うといつも私を睨んできていたので嫌われていると思っていた。

なので、話しかけられたのはこの時が初めてだった。

「私は気晴らしにちょっと遊んでいただけだよ。そんな事より君はどうしてこんな所にいるの? 女の子が1人来るような場所ではないだろ?」

苛立ちを隠すように穏やかに答えたつもりが、エリアーナは私に向かって明らかに不機嫌な表情を向ける。

「その言葉そのまま貴方に返すわ。こんな所、王子様が1人で来るような場所ではないでしょう? それに、貴方は何故いつも苛立っているの?」

「別に苛立ってなんていないよ」

私が満面の笑みを浮かべて答えると、エリアーナは子供らしくない大きなため息をついて私を睨みつけた。

「その微笑み嫌いだわ。嘘くさい。貴方、行動がいつもおかしいわよね。自分の思い通りに動かないというか何かに一人耐えてるというか……何をそんなに我慢をしているの? 何にそんなに怒っているの? 正直、不愉快……と、いうより見ていて惨めよ。誰にも気づかれないとでも思っているの? そんな生き方苦しくない?」

「っっ……‼︎」


エリアーナの言葉に溜まっていた苛立ちが我慢の限界を超える。

周りのせいではない。
自分自身の中にいる存在のせいで自分の思い通りに動けないのだ。

苦しいに決まっている。


苦しい。苛立つ。悔しい。
この気持ちがわかるはずが無い。
こんな自分でも理解しきれていない意味不明な状態を両親や周りの者に話せるはずもない。

怒りが最高潮に達してしまった私は自分の胸の内をエリアーナに全てぶつけてしまった。

こんな馬鹿げた話信じてもらえるとは思っていない。
でもこの苛立ちをどこにもぶつけられないのはきつかった。

全てぶちまけて少し落ち着きを取り戻した瞬間、「しまった」と思ったが、エリアーナは特に驚いたり引いたり怒ったりせず「そうなの? 貴方も大変なのね」とだけ言って「もっとぶちまけてしまいなさいよ。その方が人間らしくて良いわ。私、聞くことくらいならできるわよ」と笑った。

それから私はエリアーナと会って色々話すようになった。

エリアーナはサバサバした性格で、王子である私に対しても媚びたりする事はせず、キツイことでも何でも思った事、言いたい事をハッキリと言ってくる。

そんなエリアーナと話すのは気楽で楽しかった。

そして、自身の心の内を話す事で、溜まっていた苛立ちは少しづつ落ち着き、年齢と共にこの自身に起こっている現象も自然と受け入れられるようになっていった。


そして、自身の中にいるランバードの事を受け入れ、感情を抑えられるようになってきた8歳の頃、父上から初公務としてカサドラリド王国の産業祭に行くように言われた。

毎年行われるこのカサドラリド王国の産業祭には王族として正式な招待を受けていてここ数年はずっと王太子夫妻が参加していた。が、今年は兄上が別の公務と重なってしまい、ナリエ妃も体調が優れないため第2王子である私が行く事となったのだ。

正直、王子としての公務に気分は乗らなかったが、この件に関して不思議とランバードは何も言ってこなかったので私は父上に言われるままカサドラリド王国の産業祭へ行く事を承諾した。

そして、私はそこで1人の少女と出会った。

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