生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか

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番外編 エリックside④

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殿下とアエリア、2人の間に何が起きているのか私には知る事も出来ないし、何か力になりたいと思っても何をする事もできない。

そして、マリーナもその頃から人が変わったように感じるようになった。

「どこが変わったのか?」と問われたらなんと答えたら良いか分からないが、いつも通りにみんなと接しているが時折見せる笑みが……マリーナの纏う雰囲気が何となく怖い。

マリーナはこんな子だったか?

何かがおかしい……そう感じるのに、何がおかしいのか明確な判断材料がない。

なんだか私1人が蚊帳の外で周りが急速に変わっていっている感じ。


そんな違和感を感じ始めたある日の早朝、政務に行く為の仕度をしていると侍女も付けずに屋敷を出て行くマリーナの姿を見かけた。

何故だかすごく気になった。
私は迷う事なく仕度を中断してバレないようにマリーナを追いかけた。

マリーナが向かったのは屋敷の裏路。
使用人達が行き来に使うくらいで、普段私達が行く様な場所ではない。

そこでマリーナを待ち受けていたのはグランドールメイル帝国の皇帝陛下だった。

何故メイル陛下が⁉︎
もう帝国に帰ったはずでは?
それより、何故こんな人気のない場所でマリーナと?

心臓の音が耳元で鳴っているかのようにドクドクと大きくなる。

私は2人に気づかれないように近くの茂みの中に身を潜めると、2人の会話が聞こえる場所までコッソリ近づく。

近づくと、明らかにメイル陛下は体調が悪そうで真っ青な顔をしていた。それに対してマリーナは気にする素振りなく話を続ける。

そのマリーナの姿は私が知るマリーナとはかけ離れた姿だった。


そこで聞いたのは衝撃な内容だった。
マリーナはマリーナではない?
いつから? 前世? 加護の力? 魅了???

衝すぎて話の半分も理解できなかった。
飛び交う会話の内容に混乱をしていると、マリーナがメイル陛下に何か攻撃をして足止めすると笑いながら屋敷へと戻っていった。

そんなマリーナの後ろ姿を眺めながら、私はその場から動けなくなっていた。

しばらく呆然と立ち尽くしていると、メイル陛下の焦った声が聞こえてハッと我に返る。

私は戸惑いつつもメイル陛下の元に向かい、何か力になりたい旨を伝えた。

メイル陛下は一瞬戸惑いを見せたが、私の顔をジッと見つめると「協力感謝する」と言って私の腕に触れた。

触れられた部分から何かが抜けていく感覚が私を襲う。

「……やはりアエリアと違いすぐには無理だな……トゥイ。先に行ってケンビットとアエリアを頼む」

「御意」

メイル皇帝の近くにいた従者の1人がその場からフッといなくなった瞬間、私に触れていたメイル陛下の手がぐっ強く握りしめられる。

「すまない。時間がない」

そう言われるのと同時に身体から魂が抜けるような感覚を覚えて倒れそうになる。それを銀髪のメイル陛下の従者が支えてくれた。

「陛下……」
「大丈夫だ。王城に急ごう」
「しかしまだ……」
「大丈夫だ。だいぶ回復している。エリック……だったか? 助かった。この礼はまた「私も連れて行ってください」

私の言葉に2人は目を見開く。

「マリーナが何か良からぬ事をやろうとしているのですよね? アエリアが危ないのですよね? 2人は私の大切な妹です。私も連れて行ってください」

「しかし……危険で…「分かった。時間がない。自身の身は自身で守れよ」

戸惑う銀髪の従者に反して、メイル陛下はじっと私を見つめてから息を吐く様に言った。そして再びメイル陛下は私の腕を掴むと、今度は暖かい空気に包まれ私は見知らぬ部屋の一室にいた。

「ここは……」
「話している時間はない。急ごう」

私は現状を把握しきれないままメイル陛下と従者の後を追った。

殿下の執務室前にいたアエリアの姿を見てホッとした。
そして、咄嗟にアエリアを守る為に自身がアエリアの前に立った。

しかし、そこから目の当たりにした光景は現実離れした世界で私には何もできるはずもなく、アエリアを守るはずがただただ立っていることしかできなかった。

変わり果てたマリーナがアエリアを攻撃して、それを殿下が守って……殿下の腹部からは血が溢れていた。そして、なぜか私の記憶はそこで途絶えてしまった。

結局私は何もできなかった。

気づいた時にはあまりの衝撃的な光景が脳裏に甦り、混乱して取り乱してしまったが、メイル殿下の2人の従者になだめられてすぐ落ち着きを取り戻せた。


そして、その頃には全ての事が終わっていた。

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