生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか

文字の大きさ
上 下
30 / 53
連載

番外編 エリックside 〜アエリアとのお出掛け〜

しおりを挟む
ハリスの事件から2ヶ月後。
殿下がドイル国の真実を公表して国の改革を始めた。

はじめこそ貴族社会を中心に多少の混乱はあったものの、国民達は改革に対して好意的でドイル国が何のしがらみのない自由な国になるのはそんな遠い未来の話ではないかもしれない。

ドイル国は今、過去の呪縛から解き放たれて新たな道を進もうとしている。

私もあの事件後すぐに政務局を辞めて殿下の側近として改革に携わらせてもらっている。

殿下とはこの2ヶ月でかなり信頼関係を気付けてきた。
昔の気まずさはもう無い。


そして、それから数ヶ月経ち、国内の改革が落ち着いてきた頃、帝国との同盟が正式に締結される事が国中に伝えられた。

そして、それと同時にアエリアが帝国に行く事を私は父から教えられた。


アエリアが帝国に行けばもう今まで以上に会う事は難しくなる。

私は心の中で複雑な思いがうごめく。



『アエリアも今度一緒に街に行こう。その時にはアエリアに似合いのものを買ってあげるよ』

もう何回も約束をしていながらも一度も叶えられなかったアエリアとの約束。このまま果たせずに終わってしまうのだろうか?

最初に約束した時、アエリアは満面の笑顔だった。でも、次第にアエリアは約束の度に悲しげな微笑みを向けるようになっていった。

毎回、誘おうとアエリアの部屋の前まで行くが、妃教育で疲れ切ったアエリアの表情が脳裏に浮かぶ。

マリーナにも「アエリアに無理させたくないわ」と言われて次第に誘うのを遠慮するようになっていた。

アエリアに無理をさせたくなくて……アエリアと殿下の時間を邪魔したくなくて……先延ばしになってしまっていた約束を私はどうしてもはたしたかった。


私は殿下と父に理由を話してなんとか丸1日休みをもらうとアエリアの元に向かった。

「アエリア。明日、一緒に街に買い物へ行かないか?」

私がアエリアの部屋に行き声を掛けるとアエリアはキョトンとした顔をする。

「明日……ですか?」
「あぁ。前から約束していただろう?」

私がそう言うとアエリアは一瞬驚いた顔をしてから嬉しそうに微笑んだ。



翌日、街へ行くためにアエリアをエスコートして馬車に乗り込んだは良いが、私はアエリアと今までこのように2人きりで過ごした事が全くない事にその時はじめて気付いた。

いざとなると何を話したらいいか分からない。

アエリアは嬉しそうに馬車の外を眺めている。
一つ一つの動作が上品でひいき目で見なくてもアエリアは美しい淑女だった。

いつのまにかこんなに大きくなっていたんだな……

私がオムツを替えてあげていた時の面影はもうない。
当たり前の事なのに、改めて感じてしまう。


馬車が着いたのはマリーナとよく来ていた可愛らしい雑貨屋だった。

女性が気に入りそうな店をそこしか知らなかったので深く考えずにきてしまったが、入口に立った瞬間に少し胸が痛む。

「ここはお姉様と来られていたお店ですか?」
「あぁ……よく来てた。マリーナの好きな店だ」

嘘を言う必要もないので私が答えるとアエリアは優しく微笑えむ。

「連れてきて頂きありがとうございます。お兄様」

そう言ってアエリアは迷いなく店の中に入って行く。

所狭しと並べられた商品に驚きつつ、目を輝かせて小さな子供のように色々な物を見ているアエリアに私は近づく。

「気に入ったものがあったら買ってあげるよ」

私が言うとアエリアは嬉しそうに頷く。

年頃の女の子に関わらず、今までこのような店にすらきた事がなかったんだな……

「ここに来る度にアエリアにお土産をと思っていたけど何を買ったらアエリアが喜んでくれるかわからなかった。母達やマリーナ、マリテレス。サラの喜ぶ物はわかるのにアエリアには何を買ったらいいか迷ってしまってずっと買ってあげられなかった。だからずっとアエリアをここに連れてきてあげたいと思っていたんだ」

私が目の前に置かれていたウサギの形の小物入れを手に取り呟くと、アエリアはその小物入れを私から受け取り微笑む。

「なんでも嬉しいですよ。だってお兄様が私の為に思い悩んでくださったものならきっと素敵な物ですもの。お兄様……今日の記念に私の為に何か選んで下さいませんか?」

アエリアの言葉に涙が出そうになった。

私は悩みに悩んでアエリアの赤茶の髪に合いそうな銀細工の髪飾りを選んだ。

「素敵ですね。お姉様が言っていた通りお兄様はセンスがいいですね」

アエリアはそう言ってその髪飾りを付ける。

私は耐えきれず涙を溢してしまう。

「似合うよ。アエリア」

私がそう言ってアエリアの髪に触れるとアエリアは私の手に自らの手を重ねる。

「一生大切にしますね。お兄様」


嬉しそうに笑うアエリアをみて私は胸がいっぱいになった。
しおりを挟む
感想 583

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。 でも貴方は私を嫌っています。 だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。 貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。 貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。