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番外編 ケンビットの闇 〜幼少期〜

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ケンビット・アーデノル・ドイル
私はドイル国現国王の側妃の子。

母上が当時王太子だった父上と恋人関係になり、私を身籠った事により母上は父上の側妃となった。

父上には幼少の頃より正妃となるべき決められた婚約者がいたにも関わらず、私ができたことにより元々いた婚約者より先に王太子の妃となった母上。

この国の国王が側室を迎えること自体は決して珍しい事ではない。
でも、それは正妃との子が望めない時や王族の血を絶やさない為の手段であって、正妃になりうる婚約者が居ながら先に側妃を娶るという事は前例のない事だった。故に私と母上は周りから好奇な目で見られる事が多かった。

そんな中でも父上が母上を愛しているのは見ていて分かっていたし、母上は父上を愛し、誰に何を言われても何をされても父上を信じ気丈に振舞っていた。
そんな父上と母上は私に対しても愛情を持って接してくれていた。ただ、周りの声は私の存在そのものを非難するものも多く、周りの人々の言葉から私自身自分の立場を物心がついた幼い頃から分かっていた。


『どうせ父上と正妃ミリア様の間に子供が産まれたら私は何の役にも立たない人間。必要のない、望まれない存在』

そう感じていた私は全てが投げやりになり、無気力で常に無表情な人形のような存在だった。


私がちょうど五歳になった頃、国中に流行病に襲われた。
父上と正妃ミリア様。当時の国王であったお爺様と王妃であるお婆様が感染した。
きっと公務先からもらってきてしまったのだろう。

何の症状もなかった私は母上と王宮の離れの部屋に篭り誰とも会うことなく流行病の終息を待った。そして、部屋に篭っている最中に国王と王妃。そしてミリア様が亡くなった事を聞いた。

悲しいという感情は私にはなかったが、母上はずっと泣いていた。

流行病が終息してしばらくしてから医師達の尽力によってなんとか助かった父上と再会した。父上は痩せ細っていたが元気そうにしていた。しかし、父上は流行病の後遺症でもう子供が望めないと宣告された。

すでに正妃ミリア様も逝去されて、父上にもう子供ができない。
そうなると現時点で王族の血を引く正当な後継者となれるのは私しかいなかった。

父上の体調が回復すると父上は正式にこの国の国王となり、私は有無を言わずこの国の王太子となる事が決まった。

メルトニア人の純血を重要視する国の中で私は3世代目の濃血者。
そのため、王太子に立志するまでは私を非難する声は少なくなかったが、王太子と正式に認められるようになると周りの私に対する態度が今までと変わっていった。

どういう境遇であれ、最終的に権力がものをいう。
私はその時、周りのものは信用できないと幼ながら思い知った。

そして、私が王太子となった頃、父上からの宰相の息子。私よりひとつ年下のバルメルク公爵家のエリックを紹介された。

エリックは無表情な私と違いいつもニコニコと笑っているような子だった。

エリックは何に対しても反応しない私に飽きることなく話しかけ、何の反応もなくつまらないだろうに頻繁に王宮に来ては私のあとをついて回った。

エリックと過ごすようになって数ヶ月経ち、私が純粋に私に懐いてくれるエリックに心許し始めた頃、私は衝撃の事実を知る事となった。

宰相であるバルメルク公爵が前国王の義母弟…私の父上の叔父にあたり、エリックがこの国が重きを置くメルトニア人の純血だと知ってしまったのだ。

宰相が私と血のつながりがある叔父であることも、エリックが従兄弟に当たることも、バルメルク公爵家が純血を保っていると言うことも……エリックが王族の血を引く純血のメルトニア人ということも今まで誰も教えてくれなかったし、知らなかった。


いや、わざと私の耳には入らないようにしていたのか……


私はその真実を知り、エリックへの強い嫉妬を感じ、裏切られた感からもう何も信じることができなくなってしまいそれ以降エリックとは顔を合わせないようにした。


楽しいと思い始めていたエリックとの時間がなくなり、私は今まで以上に毎日同じ動きだけをする人形のように1人黙々とただただ王太子教育を受けた。


私の存在価値とは何か……
私が王太子である意味はどこになるのか……
私がこの国の君主となっても誰も喜ばない……
純血であるエリックが将来国王になればいいのに……

何故私がこんな思いをしなくてはならないのか……

疑問や不安は成長と共に解決する事などなく大きくなるばかりで毎日苦しい日々を送った。自分自身の存在価値を見出す事ができなくて捻くれた思いを胸にずっと抱いていた。



そんな中、私が7歳の頃に私の婚約者となる女の子が生まれたと母上と父上が嬉しそうに私に報告をしてきた。

その時、微かながら愛情を感じていた両親すら私のことを存在意義がないものと思われていたのだと改めて突きつけられたように感じた。


エリックの妹?
メルトニア人の最後の純血の女の子?
メルトニア人の最後の純血者???

そんな血が大事ならどんな手を使ってでもエリックを国王にするか、その産まれた子を私の婚約者にするのではなく女王にすればいいじゃないか……

イライラが募る。


婚約者の報告を聞いて1ヶ月たった頃、私は婚約者と会うことになった。
正直嫌だったが、私に決定権などない。
馬車に揺られバルメルク家に着くとエリックがすぐに出てきた。

エリックは私をみるなり少し申し訳なさそうにする。
そんな姿が私の冷めた感情を刺激する。

あぁ……イライラする。

案内をされて婚約者のいる部屋に行き、そして、私はそこで運命の出会いをする。


私の世界を……考えをすべて覆す出会いだった。
アエリアを見た瞬間に身体中から今まで感じたことの無い熱を感じた。

アエリア0歳。
ケンビット7歳。
この頃から私の世界は大きく変わり始める。


苦痛で黙々とやっていた王太子教育にも真面目に取り組む様になった。
私が頑張ると周りの者の私を見る目も変わってきた。
今まではただただ時間が過ぎていくだけだった日々にやりがいを感じるようになるまでに時間は掛からなかった。

私は忙しい時間を垣間見ては毎日のアエリアに逢いに行った。
アエリアは日に日に美しく成長をしていった。
毎日が「楽しい」「楽しみ」そう感じられる日々だった。

アエリアが2歳になる頃から王太子妃教育が始まった。
愛らしいアエリアはだんだん仮面をつけた様な笑みを浮かべる様になった
でも、時折私と一緒にいる時に純粋な笑みを見せてくれる。
私だけに見せてくれるであろうその心許した笑みは私にとって最高の幸せだった。

共にいる時間が増えるたび私はよりアエリアに惹かれていく。

アエリアは私の人生に色をつけてくれた。


辛いことがなくなったわけではない。
私の出生も血筋も何も変わらない。私を批判する声も0にはならない。
でも、アエリアと過ごす事でそんな事などどうでもよいように感じた。
『幸せ』というものがどんなものなのかを身体中で感じることができた。

私にとってアエリアは全て。
私はアエリアに出会うために生まれた来たのだ。
私はアエリアを守るために存在するんだ。

10歳の自分の生誕祝いの会で初めてアエリアをエスコートした。
3歳のアエリアは初めてのパーティーに目を輝かしていた。

色々なものに興味を示すのに、王太子妃教育のせいかそれらを我慢して失敗しないように経ち振る舞うその姿が意地らしくて可愛くて……自分の生誕祝いなどいつも億劫で仕方なかったが、その日はとても楽しかった。


アエリアの為に私はこの国の有能な君主になろう。

私はその時そう心に誓った。
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