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番外編 ハリスside③

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心酔していたはずの神職者や神官達は明らかな嫌悪の目を私に向ける。

悪意の籠った声色で[奇異の聖女]と言っている者もいた。

……居心地が悪い。

部屋に幽閉されてイルと2人の時間を過ごしていた時の方が何十倍……いや、何百倍もよかった。

そんな私に比べてリアはみんなから“メルトニアの聖女様”と呼ばれて人気者だった。

その理由はすぐにわかった。リアが私を心酔していた神殿の人々を元の状態に戻したらしい。

リアが私の楽園を壊した張本人という事。

イルといられる時間が少なくなったのも、私が皆から嫌悪の目を向けられるようになったのも全てリアのせい。

私はリアに対して苛立ちを募らせる。

でも、力を制限されているから何もできない。

私がリアといる事をイルが望んだ。 
イルはリアを聖殿から連れてきた。
私とリアが共にしているとイルは嬉しそうに笑う。
毎日、微笑みながら私に気遣いの声をかけてくれる。

イルの期待には答えたい。
イルには嫌われたくない……

私はイルの為に自分の気持ちを押しつぶしてリアと常に共にいた。



それなのに私は見てしまった。

イルとリアが夜中に密会している所を……
月明かりの下、イルがリアを抱きしめている姿を……


私はイルにあんな風に抱きしめられた事なんてない。
イルにあんな優しい目で見られた事なんてない。


それからすぐに2人が夫婦となった事を噂話で耳にした。

なぜ?なぜ?なぜ?
私は知らない……聞いていない。
嘘でしょう?

イル……貴方には私がいるでしょう?


私はイルの特別ではなかったの?
私はこんなにもイルを想っているのに、イルは私よりリアを選ぶの?

信じられなかった。
裏切られた気分だった。

全てを吹き飛ばしたい位の怒りの感情が私の身体の中に渦巻くのにリアに……あの女のせいで力が出せなくて苛立ちのみが溜まっていく。

なんとか高ぶる感情を抑えて私はリアを問い詰めた。

するとリアは「イルからハリスにはしばらくは黙っておいた方が良いと言われて……ハリスにはいずれイルから話すと言っていました」と悪びれる事なく恥ずかしそうに言った。


思わず笑いが溢れた。


イルは私の想いに気付いている。気付いていた。
なのに知らないふりをして私ではなくこの女を選んだのだ。


私はイルの特別では無かったと言う事?
イルが私をここに連れて来たくせに……

「ハリス?」
リアは心配そうに私を見つめる。

この女リアは私の気持ちなど知らないのだろう。
こんなにイルを思っている私の気持ちに気づかないなんて鈍感な女……

憎たらしい。
この女もイルも……
憎い憎い憎い憎い

殺したいこの女を……

めちゃくちゃに残忍な方法で目の前にいるこの女を殺してしまいたい衝動に駆られるのに、今の私には何も出来ない。

私はグッとただただ堪える。

ここで騒ぎ立てるのは良策ではない。
周りに押さえ込まれてそれで終わりだ。

私は心配そうに見つめるリアに精一杯の笑顔を見せる。

「言ってくれたら祝福したのに。おめでとう」

私がそれだけ言うとリアは嬉しそうに笑った。

その笑顔が憎たらしい。
復讐してやる……絶対に……絶対に許さない。




しかし、自分のそんな気持ちとは裏腹に力が思うように使えず、苛立ちも抑えられなくて私は体調を崩しがちになった。

イルも忌々しい女も私の事を心配したが、その姿さえ私を苛立たせる原因だった。

もうイルの笑みも言葉も私にとって偽りの物にしか見えなくなっていた。

愛しさあまって憎さ百倍。
まさにそんな気持ちだった。



私はそれからはずっと復讐のチャンスを見計らっていた。
表向きは大人しく。穏やかに過ごして、頭の中ではどう復讐してやろうか? どう殺してやろうか? そればかり考えていた。



そのチャンスは思いがけずやってきた。

いつもの通りリアが力を制御しようと私に触れたが、いつもの様な力を抜き取られる様な感覚を感じない。

私がリアをみるとリアは真っ青な顔をして洗面所に走っていき嘔吐をした。

私はリアの背後に迫り肩に手を置く。

「どうしたの? リア。具合でも悪い?」
私の言葉にリアは首を振る。
「ごめんなさい……つわりが酷くて……」

つわり?
つわりという事は……

一瞬、胸がギュッと締め付けられたけど感情を無にしてその締め付けを振り払う。

そう。貴方のお腹にイルの子がいるの……憎き貴方と裏切者のイルの子が……


今の私は力を抜き取られていない。
最大限の力を思いっきり使える。

私は思わず口角を上げる。

私はリアの正面に立ってお腹をさする。
「そう。ここに貴方とイルの赤ちゃんがいるの?」

私はそう言ってリアに微笑む。

「よかったわね。でも、もうさようなら。イルとの赤ちゃんの顔見れなくて残念ね。リア」

「ハリス?……何を言って……」

そう言って私はリアのお腹をさすっていた手に力を込める。
久々に使う大きな力。身体が軋むけど笑いが止まらない。

リアは吹き飛ぶと壁に身体を打ち付けて口から血を吐くと床に力無く倒れ込む。

私はそんなリアに近づいて息を確認する。

「うん。死んでるわ。一撃ね。苦しめてから殺した方が良かったかしら? ……まぁ、今更よね」

ふふふ。
気分が高ぶってくる。
今の私に何も恐れる事など無い。

「さて。どうしようかしら……まだまだ力はいっぱいあるわ。せっかくだから私の居心地悪くした神官達にも復讐してあげましょうか……フフフ……ハハハ……アハハハハハハ」


久々の感覚に私は笑いが止まらなくなってしまった。
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