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昔と違う大人びた笑み。
久々に見たはずのアロンの笑み。
本当なら嬉しい気持ちになるはずなのに、何故か私は悲しくなった。
「…さんっ」
「カロリーナさんっっ」
「えっ…」
アロンの笑みを見た後、なんだか意識がボーっ遠のいてしまい、気がついたらもう入学式は終わっていた。
エリーさんの声で正気に戻り、慌てて席を立つ。
周りを見るともうほとんどの生徒が退場していた。
マルク様の席の方を見ると、既にマルク様の姿はない。
それだけでホッとする。
「エリーさん。ごめんなさい…なんだかボーとしてしまって…」
「慣れない環境で疲れますよね。今日はこれで終わりなので部屋に戻りましょう。明日からは授業が始まりますし、今日はもうゆっくり休んでください」
「ええ…そうします」
私の返答にエリーさんはニッコリと笑って、私に腕を組んでくる。
初めてされる事に私は戸惑うものの、エリーさんの可愛らしい笑みにほだされてしまう。
でも、なんだかこんな風に親しげにされる事が今までの生活の中でなかったからちょっと嬉しい…かも…
「カロリーナ・ミスドナさん」
エリーさんと腕を組んだまま共に会場を出ようすると、後ろから誰に声をかけられて私はピタリと足を止める。
振り返るとそこには満面の笑みを浮かべたサムル王太子殿下と、その隣に眉間に皺を寄せたアロンが立っていた。
「あら。サムルにアローン…どうしたの?」
私より先にエリーさんが反応する。
「義母弟の婚約者にやっとお会いできたからね。きちんと挨拶をしておきたいと思って。先程は挨拶もままならなくて申し訳ありませんでした。改めまして、カルリーナさん。マルクの義母兄のサムル・マキシマスです。」
サムル王太子殿下は私に対して紳士の礼を取る。
っっ。
王太子殿下が私の様なものに頭を下げるなんて…
あまりの事に私は混乱してしまう。
「おっ…王太子殿下がおやめくださいっっ…私こそご挨拶が中々出来ず申し訳ありません。」
「…カロリーナさん。学園内でその呼び名はやめてください。学園内では私は王太子というしがらみを捨ててサムルとして皆と共に学び、考え、作っていきたいんです」
私の反応に対して笑顔で応対してくれるけど、その言葉にはかなり威圧感がある。
この方は…間違いなく上に立つお方だ。疑う事なくそう思える。
「申し訳ありませんっっ」
私が慌てて謝るとサムル王太子殿下は少し困りげに微笑む。
“王太子というしがらみを捨てて”…か…
私も、この学園内ではマルク様の婚約者という責務…妃教育から逃れると思って胸を弾ませていた。
天地ほどの差があるけど、その気持ちは同じ感じなのかもしれない。
そう思うと、勝手にサムル王太子殿下に親近感をもってしまう。
「カロリーナさん。そんな畏まらなくて大丈夫ですよ」
「あ…いぇ…はい」
「私のことはそうですね。サムル義兄さんとでも呼んでいただきましょうかね」
サ…サムル義兄さん!!??
「む…無理です」
私は頭がもげるのでは無いかと言うくらいが激しく首を左右に振る。
「じゃあ、サムルで」
呼び捨て???
「もっと無理です」
「じゃあなんで呼ぶ?」
ジャアナンテヨブ???
そんな事聞かれても…
助けを求める様に私に腕を組んだままのエリーさんの方を見ると、エリーさんは呆れ返った顔をサムル王太子殿下に向けている。
チラリとアロンの方をみると、アロンは何故だかエリーさんを睨みつけていた。
久々に見たはずのアロンの笑み。
本当なら嬉しい気持ちになるはずなのに、何故か私は悲しくなった。
「…さんっ」
「カロリーナさんっっ」
「えっ…」
アロンの笑みを見た後、なんだか意識がボーっ遠のいてしまい、気がついたらもう入学式は終わっていた。
エリーさんの声で正気に戻り、慌てて席を立つ。
周りを見るともうほとんどの生徒が退場していた。
マルク様の席の方を見ると、既にマルク様の姿はない。
それだけでホッとする。
「エリーさん。ごめんなさい…なんだかボーとしてしまって…」
「慣れない環境で疲れますよね。今日はこれで終わりなので部屋に戻りましょう。明日からは授業が始まりますし、今日はもうゆっくり休んでください」
「ええ…そうします」
私の返答にエリーさんはニッコリと笑って、私に腕を組んでくる。
初めてされる事に私は戸惑うものの、エリーさんの可愛らしい笑みにほだされてしまう。
でも、なんだかこんな風に親しげにされる事が今までの生活の中でなかったからちょっと嬉しい…かも…
「カロリーナ・ミスドナさん」
エリーさんと腕を組んだまま共に会場を出ようすると、後ろから誰に声をかけられて私はピタリと足を止める。
振り返るとそこには満面の笑みを浮かべたサムル王太子殿下と、その隣に眉間に皺を寄せたアロンが立っていた。
「あら。サムルにアローン…どうしたの?」
私より先にエリーさんが反応する。
「義母弟の婚約者にやっとお会いできたからね。きちんと挨拶をしておきたいと思って。先程は挨拶もままならなくて申し訳ありませんでした。改めまして、カルリーナさん。マルクの義母兄のサムル・マキシマスです。」
サムル王太子殿下は私に対して紳士の礼を取る。
っっ。
王太子殿下が私の様なものに頭を下げるなんて…
あまりの事に私は混乱してしまう。
「おっ…王太子殿下がおやめくださいっっ…私こそご挨拶が中々出来ず申し訳ありません。」
「…カロリーナさん。学園内でその呼び名はやめてください。学園内では私は王太子というしがらみを捨ててサムルとして皆と共に学び、考え、作っていきたいんです」
私の反応に対して笑顔で応対してくれるけど、その言葉にはかなり威圧感がある。
この方は…間違いなく上に立つお方だ。疑う事なくそう思える。
「申し訳ありませんっっ」
私が慌てて謝るとサムル王太子殿下は少し困りげに微笑む。
“王太子というしがらみを捨てて”…か…
私も、この学園内ではマルク様の婚約者という責務…妃教育から逃れると思って胸を弾ませていた。
天地ほどの差があるけど、その気持ちは同じ感じなのかもしれない。
そう思うと、勝手にサムル王太子殿下に親近感をもってしまう。
「カロリーナさん。そんな畏まらなくて大丈夫ですよ」
「あ…いぇ…はい」
「私のことはそうですね。サムル義兄さんとでも呼んでいただきましょうかね」
サ…サムル義兄さん!!??
「む…無理です」
私は頭がもげるのでは無いかと言うくらいが激しく首を左右に振る。
「じゃあ、サムルで」
呼び捨て???
「もっと無理です」
「じゃあなんで呼ぶ?」
ジャアナンテヨブ???
そんな事聞かれても…
助けを求める様に私に腕を組んだままのエリーさんの方を見ると、エリーさんは呆れ返った顔をサムル王太子殿下に向けている。
チラリとアロンの方をみると、アロンは何故だかエリーさんを睨みつけていた。
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