24 / 57
侍女レイシア
しおりを挟む
「殿下はお噂とはだいぶ印象がちがいますね。お嬢様が大切にされている様でノリエは安心しました。」
私が一人で悶々としていると、ノリエが私に向かって嬉しそうに本日微笑む。
「大切…」
トクンと胸が鳴る。
今日のユシン様は本当に優しかった。
大切にされていた。
普段とは大違い。
どっちが本当のユシン様なんだろ…ん?
んん?
そういえばユシン様は夜会で“ここは公の場だからな。私も色々弁えてる”って言ってた。
胸のトキメキが一気に引いていく。
やばっっ。
やばいやばいやばい。
思わず引っかかる所だった。
色々あって吹っ飛んでいたわ。
今日のユシン様は公の場だから社交用の仮面を被っていたに違いない。
あの優しさも、あの笑みも全て社交用よ。
いつ、どこで、誰に見られているか分からないものね。
恐ろしき貴族社会…
私は騙されないわ。
危なかった…
「お嬢様?」
「な…なんでもないわ。自分を戒めてたの。」
「戒め?」
ノリエは眉間に皺を寄せて怪訝な顔をする。
謎?が解けて1人納得していると、両親が私の部屋に入ってきて何も言わず私を優しく抱きしめてくれた。
「良かった。頬の赤みはだいぶ引いてきたわね。」
「大変だったろう。我が家に力がないばかりにお前に苦労を…申し訳なかったな。」
「お父様…お母様…」
ユシン様が両親にどう話をしたのかは分からない。
でも、上手く話してくれたのだろう…
帰る前にもう一度ユシン様は私の部屋に顔を出してくれるかと思っていたけど、お父様からユシン様はもう帰ったと聞いて少し悲しくなっ…いえ。悲しくなんてありません。
胸がギュッと締め付けられるけど、私はそれに気付かないフリをする。
寝て起きれば忘れる感情よ。
両親は私に対してどう対応したら良いか困り果てている。
弱小男爵家の我が家はこう言う貴族のいざこざに慣れていない。
いざこざに巻き込まれる前に我が家など弾かれてしまうから。
でも、私がユシン様の婚約者(仮)になった事で我が家の状況も変わる。
その事に両親も今更ながら気づいたのかもしれない。
お父様もお母様も貴族社会に馴染んでいないから貴族社会の泥臭い一面を目の当たりにしてどうしたらいいのか分からないのだろう。
2人が私を心配してくれているのは分かるけど…
嫌だな…こういうの…
コンコン
「失礼いたします。」
沈黙が続く私の部屋の扉がノックされると我が家のノリエ以外のもう1人の使用人であるサブーロ(55)が入ってくる。
「王城よりお嬢様に使いの者がきておりますがお通ししてもよろしいですか?」
「王城から?」
「はい。第一王女様の侍女と言う事ですが…」
「エリカ様の?」
「お嬢様の付人に任命されたとおっしゃっているのですが…」
…付人?
お父様とお母様にチラリと目線を送ると、2人は明らかに固まっている。
「…わかったわ。話を伺うわ。」
「かしこまりました。」
「お父様とお母様もご一緒して頂けますか?」
私がコテンと頭を傾げて両親にそう伝えると2人は目を見開いて驚いた表情をする。
「ま…マリア。どうしたの…そんな喋り方…貴方は本当にマリア?」
「正真正銘私ですけど?」
エリカ様の名前が出たから無意識に淑女教育の成果を思わず発揮してしまいましたわ。
下の応接室(と言ってもただのダイニング)に行くと、ドレスを着る際にコルセットをギュウギュウに締め上げた時のエリカ様の侍女が大きな鞄一つ持って立っていた。
「えっ…と…」
私が戸惑っていると、その侍女は私に対して満面な笑みを浮かべて深々と頭を下げる。
「マリア様。エリカ様より勅命いただき、今後マリア様の側付をさせて頂きます『レイシア』と申します。よろしくお願いします。」
え…側付?本気?
「いや。私に側付なんて…」
「エリカ様からのご命令ですので。」
「いや。でも…。」
「エリカ様だけではございません。陛下からも正式に要請されております。」
陛下からも?
それって断れないって事ですよね…
お父様とお母様は目が点になっています。
「わ…我が家は狭くて住み付きさせる事もできませんよ。」
「私の事はお気になさず。倉庫でも屋根裏でも空いているお部屋を少しお貸しいただければ。」
この人なにをいってるんですか?
王女様の侍女にそんな扱い出来るわけない。
「王女様の侍女なら貴族出身なのでは?そんな方に…」
「ご安心ください。私は平民出身ですので。」
平民出身?
王女様の侍女なのに?
「お嬢様。せっかく王女様がお嬢様の為にお寄越しになった方です。お嬢様は第四王子殿下の婚約者になられたのですからこれまで以上に気遣いが必要になってまいります。私やサブーロではまかないきれない部分も出て参ります。ありがたく受け入れられたらどうでしょう。ねぇ旦那様、奥様。」
私だけでなくお父様とお母様も固まっているとその状況を見ていたノリエが仕方なしに助言してくる。
「…そ…そうだな。陛下からの要請もあると言う事だし…」
「では、私は部屋の準備をしてまいりますよ。」
さすがはノリエ。我が家の年長者。
お爺様の頃から屋敷にいたノリエにはお父様も頭が上がりません。
「ありがとうございます。」
レイシアはノリエに対して深く頭を下げると私の方を見てニッコリする。
「マリア様。よろしくお願いします。まずはドレスを着替えましょう。それから、身体に傷など無いか確認させて頂きますね。」
「え…えぇ…」
だんだん周囲を固められてる感。
…一体、私はどうしたらいいのでしょうか?
私が一人で悶々としていると、ノリエが私に向かって嬉しそうに本日微笑む。
「大切…」
トクンと胸が鳴る。
今日のユシン様は本当に優しかった。
大切にされていた。
普段とは大違い。
どっちが本当のユシン様なんだろ…ん?
んん?
そういえばユシン様は夜会で“ここは公の場だからな。私も色々弁えてる”って言ってた。
胸のトキメキが一気に引いていく。
やばっっ。
やばいやばいやばい。
思わず引っかかる所だった。
色々あって吹っ飛んでいたわ。
今日のユシン様は公の場だから社交用の仮面を被っていたに違いない。
あの優しさも、あの笑みも全て社交用よ。
いつ、どこで、誰に見られているか分からないものね。
恐ろしき貴族社会…
私は騙されないわ。
危なかった…
「お嬢様?」
「な…なんでもないわ。自分を戒めてたの。」
「戒め?」
ノリエは眉間に皺を寄せて怪訝な顔をする。
謎?が解けて1人納得していると、両親が私の部屋に入ってきて何も言わず私を優しく抱きしめてくれた。
「良かった。頬の赤みはだいぶ引いてきたわね。」
「大変だったろう。我が家に力がないばかりにお前に苦労を…申し訳なかったな。」
「お父様…お母様…」
ユシン様が両親にどう話をしたのかは分からない。
でも、上手く話してくれたのだろう…
帰る前にもう一度ユシン様は私の部屋に顔を出してくれるかと思っていたけど、お父様からユシン様はもう帰ったと聞いて少し悲しくなっ…いえ。悲しくなんてありません。
胸がギュッと締め付けられるけど、私はそれに気付かないフリをする。
寝て起きれば忘れる感情よ。
両親は私に対してどう対応したら良いか困り果てている。
弱小男爵家の我が家はこう言う貴族のいざこざに慣れていない。
いざこざに巻き込まれる前に我が家など弾かれてしまうから。
でも、私がユシン様の婚約者(仮)になった事で我が家の状況も変わる。
その事に両親も今更ながら気づいたのかもしれない。
お父様もお母様も貴族社会に馴染んでいないから貴族社会の泥臭い一面を目の当たりにしてどうしたらいいのか分からないのだろう。
2人が私を心配してくれているのは分かるけど…
嫌だな…こういうの…
コンコン
「失礼いたします。」
沈黙が続く私の部屋の扉がノックされると我が家のノリエ以外のもう1人の使用人であるサブーロ(55)が入ってくる。
「王城よりお嬢様に使いの者がきておりますがお通ししてもよろしいですか?」
「王城から?」
「はい。第一王女様の侍女と言う事ですが…」
「エリカ様の?」
「お嬢様の付人に任命されたとおっしゃっているのですが…」
…付人?
お父様とお母様にチラリと目線を送ると、2人は明らかに固まっている。
「…わかったわ。話を伺うわ。」
「かしこまりました。」
「お父様とお母様もご一緒して頂けますか?」
私がコテンと頭を傾げて両親にそう伝えると2人は目を見開いて驚いた表情をする。
「ま…マリア。どうしたの…そんな喋り方…貴方は本当にマリア?」
「正真正銘私ですけど?」
エリカ様の名前が出たから無意識に淑女教育の成果を思わず発揮してしまいましたわ。
下の応接室(と言ってもただのダイニング)に行くと、ドレスを着る際にコルセットをギュウギュウに締め上げた時のエリカ様の侍女が大きな鞄一つ持って立っていた。
「えっ…と…」
私が戸惑っていると、その侍女は私に対して満面な笑みを浮かべて深々と頭を下げる。
「マリア様。エリカ様より勅命いただき、今後マリア様の側付をさせて頂きます『レイシア』と申します。よろしくお願いします。」
え…側付?本気?
「いや。私に側付なんて…」
「エリカ様からのご命令ですので。」
「いや。でも…。」
「エリカ様だけではございません。陛下からも正式に要請されております。」
陛下からも?
それって断れないって事ですよね…
お父様とお母様は目が点になっています。
「わ…我が家は狭くて住み付きさせる事もできませんよ。」
「私の事はお気になさず。倉庫でも屋根裏でも空いているお部屋を少しお貸しいただければ。」
この人なにをいってるんですか?
王女様の侍女にそんな扱い出来るわけない。
「王女様の侍女なら貴族出身なのでは?そんな方に…」
「ご安心ください。私は平民出身ですので。」
平民出身?
王女様の侍女なのに?
「お嬢様。せっかく王女様がお嬢様の為にお寄越しになった方です。お嬢様は第四王子殿下の婚約者になられたのですからこれまで以上に気遣いが必要になってまいります。私やサブーロではまかないきれない部分も出て参ります。ありがたく受け入れられたらどうでしょう。ねぇ旦那様、奥様。」
私だけでなくお父様とお母様も固まっているとその状況を見ていたノリエが仕方なしに助言してくる。
「…そ…そうだな。陛下からの要請もあると言う事だし…」
「では、私は部屋の準備をしてまいりますよ。」
さすがはノリエ。我が家の年長者。
お爺様の頃から屋敷にいたノリエにはお父様も頭が上がりません。
「ありがとうございます。」
レイシアはノリエに対して深く頭を下げると私の方を見てニッコリする。
「マリア様。よろしくお願いします。まずはドレスを着替えましょう。それから、身体に傷など無いか確認させて頂きますね。」
「え…えぇ…」
だんだん周囲を固められてる感。
…一体、私はどうしたらいいのでしょうか?
1
お気に入りに追加
325
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる