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ユシンside①

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マリア・バウンドル

最初は変な女だと思った。
想像通りバカでからかいがいのある奴だったけど、今まで俺の周りにはいないタイプで面白い女だと思った。

俺が知っているどの女とは違っていて自分の気持ちに正直で裏表のない奴。会ったその時から仮面を被る事なく不思議と自然体でいられた。

正直、観察対象として興味が湧いた。

俺とユア、キュアとマリア4人でいる時間が多くなった。
面倒だと思う事もあったが、何度か過ごすうちに悪くないと思える様になって来ていた。

慣れとは怖いものだ。


ユアにキュアに対する自分の気持ちがバレるなんて想像していなかった。2人の邪魔をする気持ちは全くなかったし、自分は上手くやっていると思っていた。


俺とした事が迂闊だった。

普段の俺ならもっと上手くやれたはずなのに余りにも急な予想外の言葉に頭が真っ白になってしまった。

人生で初めての経験だった。
思わず口に出たのは自分のでも信じられない言葉だった。

「俺が好きなのはマリアだ。」

言葉に出した瞬間、自分自身その言葉に驚いた。

キュアとマリアの事が気になっていたから思わず出てしまったのだと思う。

でもそれ以上に同時に聞こえたマリアの言葉に体が硬直した。

「私が好きなのはユシン様だから」

背筋が凍るってこうゆう事を言うんだな。

それからまともな思考ができない中、俺達は大切な友人とその恋人のために偽装カップルになる事を決めた。

でもそんな経緯の中でも、マリアのあまりに露骨な反応が面白くて“いい暇つぶしになりそうだ“という気持ちが出てくる。

不本意な事であることには違いないのに不思議と嫌な気分にはならなかった。

それどころか、心の奥底で『学園生活が楽しくなりそうだ』と思った。


マリアは俺の考えている想像以上の反応を見せてくれる。
その反応を見るのが俺の微かな楽しみになっていた。


ただ、厄介な事もあった。
周りの目だ。

身分違いだとか本当に付き合っているのかとかマリアが色仕掛けしたとか…関係ない奴らが色々推測して噂話を流す。

俺がマリアなんかの色仕掛けに引っ掛かる訳がないのに…

色々な意味で虫唾が走る。

学園内ではまともにマリアと話す事すらできなかった。
マリアは良く言えば正直者。悪く言えば貴族らしくない。

すぐに顔にでるから変な話を人目につきそうな所ではできなかった。

でも、今後の事を話す必要がある。
俺は第4王子だ。このままの状況をずっと続けるのは色々問題が出てくる。

俺が悩んでいると、従者のレックスが「じゃあ王城で話せばいいじゃないですか。一応学園では恋人なんですから。」とシレッと言ってきた。

確かに…と思い、王城にマリアを連れて行こうとすると案の定マリアは逃げた。

女は普通、王城に行けるとなったら喜ぶもんじゃないのか?
少なくても私に言い寄ってくる女は王城に招待されたがっていた。

レックスがマリアを捕まえてほぼ強制的に王城に連れて行き自身の自室に連れて行くとマリアは狼狽だした。

「おいっ何考えてんのこの王子バカっっ。未婚の男女。しかも無関係なほぼ他人を私室に通すとかありえないでしょ。こんだけでかい城に住んでるんだから部屋なんて山ほどあるでしょーに。」

緊張してるのか?と思ったら至極まともな事を言ってきたので、バカだけど、全く教養がない訳では無いと驚いた。

やっぱりマリアは面白い。


しかし状況は一転する。

城にいた誰かがマリアの姿を見て報告をしたのか、急に父上が私の部屋を訪ねて来たのだ。

流石に焦った。

どう父上に穏便に立ち去ってもらおうかと考えている私をよそに父上はマリアを見定めるように名前を聞き出す。

この国では男女の関係を否定する際に名を名乗る前にそれを伝える暗黙のルールがある。

マリアが貴族の嗜みとしてその事を知っている事を願ったが、マリアはその暗黙のルールを無視して挨拶をしてしまった。


自身は私の恋人であると明言したのと同じ事だ。


父上は明らかに喜びの笑みを浮かべて、俺は思わず項垂れてしまう。

否定をしたいが、否定したところでこの笑みを浮かべた父上には何を言ってももう遅い。

温厚に見える父上ではあるけど、父上は猫の仮面を被ったライオンだ。

逆らうことはできない。

案の定、父上は大喜びでマリアを俺の婚約者にすると宣言した。

それから父上の手の回し用は早かった。
マリアの実家に書面を送り、すぐさま俺とマリアの婚約を国中に発表された。


周りを完全に固められてもうこうなったらもう流石になす素手などない。

面倒くさい…
そう思うけど“仕方ないな…”とすぐに諦めがついた。


本当に嫌なら結果どうなろうと父上に理由を説明してでも宣言を取り消してもらう様にすべきだと思う。

でも、何故だかマリアと婚約者として過ごす事よりも父上に反抗する方が面倒だと思う気持ちが何故か勝っていた。


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