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22.転性聖女の風評被害

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「おはよー!ハルママー!」
「ちょっと、ララ!朝から声が大きいよ」
「ん」

 引越しの挨拶をしに行くつもりが、図らずも開催されたパンケーキパーティーの翌朝、ロロ達三姉妹が我が家にやってきた。
 家の前で私が出てくるのを待っているようだ。
 こんな朝早くからの来訪を全く想定していなかったので寝巻きが着崩れた状態だ。
 幾ら同性の子供とは言え、この状況で出て行くのは憚られるな。
 目を擦るアキを尻目に、上着を羽織って玄関に向かう。

「おはよう御座います。どうかしましたか?」
「おはよう御座います。昨日今日ですみません。それにこんな早朝に・・・・・・」
「ハルママー、これ置いといて貰っていいー?」

 良く見ると、三姉妹の背中には衣服とバスタオルらしき物が背負われている。
 この様子から考えるに、昨日のお風呂が癖になったので服を持参して入りに来たという所だろうか。
 時間も時間だし、服を置いておきたいという事は、仕事終わりにお風呂に入りたいから汚れる前に服を持ってきたという事だろう。

「ええ、良いですよ。玄関の中にでも置いておいて下さい。」
「有難う御座います。ほら、ララとルルも!」
「ありがとー」
「ん」

 三姉妹は玄関内に荷物を降ろすと、荷物の中から手提げの鞄の様なものを取り出した。

「今日は森に薬草の採取にでも行くんですか?」
「違うよー。森でベルがファングボアに襲われたから安全確認するまで森には行くなってアルフがねー」
「なので、今日はアルフ達がホーンラビットの討伐依頼をこなしがてら安全確認しているみたいです」

 昨日はなかなかの醜態を晒していたアルフだが、甘いものさえ絡まなければ年長者としてしっかりと下の者の面倒を見ている様だ。

「それでねー、今日は町に行くんだー」
「そういうことですか。あ、昨日の残りのパンケーキがあるのでお弁当に持って行って下さい」
「ん!」
「何から何まですみません」

 お土産を持たせて三姉妹を送り出すと、大事そうに鞄を抱きしめながら町に向かって歩いていった。
 私も小さい頃はお財布の入った鞄を大事に抱きしめながらお使いに行ったものだ。
 何だか微笑ましい。

「ほら、アキもそろそろ起きて下さい」
「・・・・・・おはよう、かーさま」

 私は寝室に戻りアキを起こす。
 今日は私達も町に繰り出して買い物でもしよう。
 前回は冒険者ギルドで試験を受けた所為でゆっくりと回ることが出来なかったしね。


―――


「ルシルさん、こんにちは」
「あら、ハルちゃん、こんにちは。アキちゃんも」
「こん」

 町に到着した私は、取りあえず冒険者ギルドに顔を出す事にした。
 前回は疲れていた所為であまり話をしていなかったが、此処でならば色々と情報を得る事ができるだろう。
 それに、収入源も欲しいところだ。簡単な依頼などないだろうか。

「ルシルさん、何か簡単なお仕事とかありませんか?」
「そうねぇ、ハルちゃん達なら討伐依頼とかどうかな?
 それか、大型の魔獣を倒して素材を売るとか」

 ルシルさんは何食わぬ顔で討伐依頼を勧めてきたけれど、本気で言っているのだろうか。
 登録試験で私が脱臼して泣く姿を見ていなかったのか?
 ・・・・・・見ていなかったんだろうな。お酒をしこたま飲んでいたし。

「もう少し穏便と言いますか、危険の無いお仕事はありませんか?」
「うーん、そうなると簡単な薬草とかの採取とか、町中での調査かなぁ。
 でも、簡単な採取とかは討伐依頼ができない様な子供達に譲って欲しいかな」

 こう言われてしまうと、採取依頼を受け辛い。
 ベルや三姉妹の様な子供の仕事を奪いかねないと思うと、何とも気が引けてしまう。
 一応、私でもファングボアくらいなら狩ることができたし、狩りをして稼ぐしかないかな。 

「おー、呪いのお嬢ちゃん!」
「誰がですか!悪評を振り撒くのは止めてください!」

 何処からかやってきた支部長が、とんでもない呼び方で話しかけてきた。
 風評被害を受けそうなので、本当に止めて欲しい。
 あれ?名指しでは無いのに反応してしまったって事は自覚があるってこと・・・・・?
 いやいや、そんなわけない。

「がはは、すまねえな。
 お嬢ちゃんについては、呪いがすげえって事しか知らなくてな」
「治癒魔法もお見せしましたよね!?」

 人は悪いものに目が行きやすいと聞いたことがあるが、本当の様だ。
 世の中とは世知辛いものである。

「それはそうと、急に町の北に出来た石造りの家ってお嬢ちゃんの家だろ?」
「ええ、そうですけど」
「やっぱりそうなんだ。素敵で良いお家よね。凄いわねぇ」
「急に現れたデカイ家の事を皆気にしていたんだが、もしお嬢ちゃんの家だったら、下手に近づくと呪われるんじゃないかって、調べにも行けなかったんだわ。
 喉のつかえが取れたぜ」

 既に酷い風評被害が発生している様だ。
 そんな危ない事、考えてもいなかった。
 ・・・・・・でも、そういった仕掛けがあると思われた方が防犯を考えると良いかも知れないな。
 これでも、年端も行かない少女二人の家庭だ。

「あはは、流石冒険者。
 皆さん勘が鋭いですね。
 もちろんトラップは仕掛けていますよ。
 か弱い女の子二人で住んでいるので」
「おー、やっぱりか。おっかねぇなぁ。
 まぁ、そもそもあんな戦いをする相手を狙う奴なんて、そうそういねーがな」

 ガハハと支部長は笑っているが、何か周りから"ああ、やっぱり"とか"恐ろしい"とか聞こえてくる。
 こんなにも無害な少女に対する風評被害が加速した気がする。
 このままでは何かと今後の生活に支障が出てしまわないか?
 もしや少しだけ、回答を失敗しただろうか。
 ・・・・・・過ぎたことはしようがない。切り替えていこう。

「それでだ、お嬢ちゃん。
 安全な仕事を探しているって言うなら、ギルドで野郎共の治療をしねえか?
 最近、エクリプスの影響で教会が人手不足で気軽に治療して貰えないってのに、治癒のポーションの値段も高騰しててな。
 低級のポーションなら通常は小銀貨2枚くらい何だが、今は小銀貨5枚もしやがんだ」

 エクリプスで大量のポーションが消費された影響で高騰したのだろう。
 確かに、治癒魔法を使えれば一儲けできそうだ。
 お安く治療すれば、冒険者達の覚えも良いだろう。

「わかりました。
 小銀貨1枚で治療をさせて頂きます」
「おう、助かるぜ。
 どしどし治療してくれや」

 そう言って支部長が辺りに居る冒険者達に声をかけていく。
 すると、何処にこんなに人が居たのか、そもそもこんなに怪我人がいたのか不明だが、私の前に長蛇の列ができあがる。
 あ、これは今日はこれ以外何も出来ないやつだ。
 まぁ、やると言ったからには、やるしかない。

「治療して欲しい部位を直ぐに出せるようにして並んでください!」


―――


 やっと最後の怪我人に治癒魔法をかけ終わると、数時間経過していた。
 冒険者が自分の傷にまつわる武勇伝を語ったり、老人や子供が世間話をしてきたりと、治療した人数の割りに時間が相当取られてしまった。
 老人と子供は明らかに冒険者ギルドと関係無さそうだったけれど、何処から紛れ込んだんだ。
 でも、お陰で今日一日でそこそこの金額を稼ぐ事が出来た。
 小銀貨を入れた袋のずっしりとした重みに手応えを感じる。

「ハルちゃんお疲れ様」
「あ、ルシルさん。お疲れ様です」
「ハルちゃんのお陰で皆助かったわー。
 ありがとう。
 エクリプスの影響で教会の人が減ってなければねぇ」

 非常に疲れたが、これで私達の生活も少し潤うだろう。
 ・・・・・・よりによって、このタイミングで私は気が付いてしまった。
 もしかして私の行為は教会の利益を損なう行為だったのではないだろうか。
 いくら教会が処置し切れていない怪我人とは言え、本来は教会が受け取るべき寄付金を横取りしたと思われるかもしれない。
 私が知っている教会と言えば、無垢な私を戦場に放り込んで使い潰した非道な行為。
 うん、教会組織の全員が悪人とは思わないが、確実に上の人間は腐っていそう。
 
「ルシルさん、このお金は教会に寄付してください」
「え!?なんで!?本当にいいの?」
「良いんです。そうすれば教会のお薬の在庫や人材に少しでも余裕ができますよね。
 それが町の怪我人や病人の為になると思いますので」

 過去のトラウマの所為で教会が怖いので、恨みを買いたくないんです!とは流石に言えないので、少し歯が浮きそうな言い訳をする。
 自分の笑顔が少し引きつっていないか心配だ。

「流石、かーさま」

 そんな私の行為に対して、アキが目をキラキラとさせながら此方を見つめてくる。
 止めてください。
 そんな純粋な眼差しは心に刺さります。痛い痛い。

 そうしていると、いつの間にか周囲の人々からの視線が柔らかくなった気がする。
 それに、私の方を見ながら"聖女"という単語が微かに聞こえてくる。
 聖女の呼び名に良い思いでが無いから気乗りはしないが、印象が少しでもよくなったならば良しとしておこう。

「今日は疲れたので帰ります」
「今日はありがとうね、ハルちゃん」

 ルシルさんに挨拶をしてその場から離れると、帰る道すがら冒険者達の会話が良く聞こえる。
 よくよく聞くと、"聖女"じゃなくて周囲から"呪いの聖女"なんて呼ばれている!?
 良いことをしたのに、結局呪い要素が取れてないじゃない!
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