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天国と地獄 ⑤
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ヨウタは、尚も母親の首を掴んでいる。
サトコは、全神経を集中させ、サジタリウスの引き金を弾いた。
弾丸は、見事に彼の額に当たった。
ヨウタは倒れ、彼の身体から少年の霊が姿を現した。
「熱い、熱い、熱い!お前、僕に何をしたんだ?!」
彼は、聖水の影響で地面に片膝をついて、こちらを睨みつけていた。
「私は、あなたを止めに来ました。これ以上、重ねても何も解決しないから。」
「お前も、僕のことを邪魔しに来たのか?だとしたら、お前も地獄行きだな。この偽善者めが…!」
「違う、邪魔なんかしない。あなたが、浄化されて安らかになって欲しいから。私も、過去に虐めにあったことがあるから。こんな事し続けても、苦しみは増幅するだけだよ?」
「ああ、過去にもこういう偽善者が居たよな。分かったつもりになって、仲良しを装って、結局、表面上でしか見てなかったような人がな…!」
少年の霊は、嫌悪の眼差しをサトコに向けた。彼の顔面は、強烈な怒りに燃えていた。大きな鋭い眼光が、サトコを捉えて離さない。いつ襲いかかっても、おかしくない状況だった。
「あなたの生前の苦しみは、よく分かる。だって、私も経験してきたから。苦しくて、苦しくて、涙が出そうになるくらい、辛かったし、あまりの理不尽さで気が狂いそうになったから。」
「だから、何…?」
「罪を重ねても、あなたに何の利益はないんだよ。やがて、完全に闇堕ちしちゃうんだよ?」
「別に、構わないさ。僕は弱い者虐めが完全にない、理想の世界を目指すからね。」
少年の霊は、悪びれもせず不敵な笑みを浮かべている。
「槇山シンジ、今まで何人の人間に危害を与え、そして、殺めて来たんだ?」
黒須は、いつにも増して厳しい表情と口調をしている。
そこには、彼に闇堕ちして欲しくない、アリスの巻き添えになって欲しくないと言う強い思いも込められていた。
「僕は、僕の正義を貫いただけだよ。悪は完全に抹殺せねばならないならね。」
「これが、お前の動機なんだよな?」
黒須は、懐からセピア色に色褪せた新聞を拡げて見せた。少年は、眉を顰めながらその記事を読むと、ハッとし黒須の方を凝視した。サトコも近寄って、その記事を読む事にした。
「黒須…これって…?」
「ああ、これは、コイツに関する記事だ。コイツは、自分の歪んだ理想の為に愚行をやり続けてるんだよ。」
新聞には、次のように書かれていた。
『 昭和61年 七月一日 A区の西通りの団地の駐車場で、男子中学生の遺体が発見された。 少年は、七階から飛び降り自殺したと見られている。』
『 男子中学生の通っていた学校によると、彼は虐めにより不登校を起こしていたといわれている。彼の両親は、学校を訴える方針を出している。』
『 彼は、歌手のエバー・グリーンのファンであり、将来は歌手になって彼と共演するのが夢だったとの事。親は、彼の無念を晴らしたいと、述べている。』
黒須は、シンジの方を向き直り、冷淡な眼差しで彼を睨み付ける。
「虐めに虐待にと、さぞ辛い思いをしてきたことだろう。だがな、お前のしてきたことは、愚行以外の何ものでもないんだよ。」
「僕は自殺したんじゃない!殺されたんだよ。あいつらに。だけど、警察の者は誰もまともに仕事はしてはくれなかった。だから、僕は僕を死に追いやった者も学校関係者も警察も皆、地獄に送り付けてやったのさ。」
シンジは、不敵で邪悪な笑みを二人に向けた。
「お前は、自殺で死んだんだよ。」
「自殺で死ぬのは、他殺でしょう?だって、僕はアイツらに精神をぐじゃぐじゃに弄ばれ玩具のような扱い受けて、追い詰められたんだもの。」
「お前の走馬灯も一通り見させてもらった。確かに、気の毒だとは、思う。だがな、それでも人間を殺してはいい理由にはならないんだよ。分かるか?」
黒須は、鎌を構えた。
「だから、何が言いたいの?この新聞が何?今更、僕にお説教でもしようって言うの?お前さぁ、何様なの?」
少年の顔は、怒りに駆られていた。
辺りの風は不気味にざわめき、
木々が大きく揺れ動いた。
これは、紛れもなく霊障だ。
霊障と言うものは、霊の強い憎悪や悲しみといった負の感情で引き起こされる。そして、物体や人体にまで影響を及ぼす。
人の悲鳴が聞こえる。
猛風に煽られ、サトコは近くの鉄柵にしがみついた。
サトコの胸は、苦しくなった。
彼は、明らかにもがき苦しんでいる。本当は、誰か助けてくれる人を探していたに違いないー。
「いい加減、大人しくなって欲しいものだね。これ以上、罪を重ねると、更に辛い地獄が待ってるぞ。」
「じゃあ、君も悪だね。僕は、僕の正義を理想の世界を貫いてもらうよ。」
辺りの植木鉢が、ふわっと浮遊する。そして、それは黒須目掛けて飛んでくる。
「悪いが、それは、私には効かないんだよ。」
植木鉢は、黒須の目の前でパタリと止まり、そして、床に落ちた。
「貴様、何の術を使った…?!」
シンジは、瞠目し黒須を睨みつけ動きを止めた。
黒須は、胸ポケットから案山子型の人形を取り出した。
「槇山 シンジ、昭和48年5月12日生まれ。享年13歳。霊法第99条、憑依と殺害の罪により、煉獄送りとする。」
その人形は、みるみる大きく膨れ上がると、パックリ口を空けて掃除機のような勢いで彼を吸収していく。
「やめろ!やめてくれ!」
シンジの身体は、その人形の口の中へと引き寄せられていく。
シンジは、急に、目を大きく見開き、過呼吸を起こす、。
目を大きく見開き、瞳孔が小さく小刻みに揺れている。
サトコは、胸が苦しくなってきた。
彼は、生前の苦しみがフラッシュバックしてるのだろうかー?
自分に出来る事は何なのだろうー?
このままで、彼は本当に良いのだろうかー?
何か、救われるきっかけがあればー
ふと、黒須のかざした新聞記事の最後の内容を思い出した。
ハッとし、スマートフォンで、『 エバー・グリーン、ヒットソング』と検索した。
あった。サトコは、その曲の載ってあるサイトを開き、その曲のある動画をクリックした。
壮大で優しい、ジャズソングが流れる。
アメリカのお洒落なバーを連想するメロディー、優雅で優しい男性の声。
静かなストリングスが流れ、 次第に重厚なピアノの音色が加わる。曲が厚みを増 していき、力強く独特な強弱が響き渡る。
シンジは、大きく目を見開き瞳孔を震わせながら、サトコのスマートフォンから流れるメロディーに耳を傾けていた。
そして彼は、人形の口の中に吸収され閉じ込められた。
サトコは、全神経を集中させ、サジタリウスの引き金を弾いた。
弾丸は、見事に彼の額に当たった。
ヨウタは倒れ、彼の身体から少年の霊が姿を現した。
「熱い、熱い、熱い!お前、僕に何をしたんだ?!」
彼は、聖水の影響で地面に片膝をついて、こちらを睨みつけていた。
「私は、あなたを止めに来ました。これ以上、重ねても何も解決しないから。」
「お前も、僕のことを邪魔しに来たのか?だとしたら、お前も地獄行きだな。この偽善者めが…!」
「違う、邪魔なんかしない。あなたが、浄化されて安らかになって欲しいから。私も、過去に虐めにあったことがあるから。こんな事し続けても、苦しみは増幅するだけだよ?」
「ああ、過去にもこういう偽善者が居たよな。分かったつもりになって、仲良しを装って、結局、表面上でしか見てなかったような人がな…!」
少年の霊は、嫌悪の眼差しをサトコに向けた。彼の顔面は、強烈な怒りに燃えていた。大きな鋭い眼光が、サトコを捉えて離さない。いつ襲いかかっても、おかしくない状況だった。
「あなたの生前の苦しみは、よく分かる。だって、私も経験してきたから。苦しくて、苦しくて、涙が出そうになるくらい、辛かったし、あまりの理不尽さで気が狂いそうになったから。」
「だから、何…?」
「罪を重ねても、あなたに何の利益はないんだよ。やがて、完全に闇堕ちしちゃうんだよ?」
「別に、構わないさ。僕は弱い者虐めが完全にない、理想の世界を目指すからね。」
少年の霊は、悪びれもせず不敵な笑みを浮かべている。
「槇山シンジ、今まで何人の人間に危害を与え、そして、殺めて来たんだ?」
黒須は、いつにも増して厳しい表情と口調をしている。
そこには、彼に闇堕ちして欲しくない、アリスの巻き添えになって欲しくないと言う強い思いも込められていた。
「僕は、僕の正義を貫いただけだよ。悪は完全に抹殺せねばならないならね。」
「これが、お前の動機なんだよな?」
黒須は、懐からセピア色に色褪せた新聞を拡げて見せた。少年は、眉を顰めながらその記事を読むと、ハッとし黒須の方を凝視した。サトコも近寄って、その記事を読む事にした。
「黒須…これって…?」
「ああ、これは、コイツに関する記事だ。コイツは、自分の歪んだ理想の為に愚行をやり続けてるんだよ。」
新聞には、次のように書かれていた。
『 昭和61年 七月一日 A区の西通りの団地の駐車場で、男子中学生の遺体が発見された。 少年は、七階から飛び降り自殺したと見られている。』
『 男子中学生の通っていた学校によると、彼は虐めにより不登校を起こしていたといわれている。彼の両親は、学校を訴える方針を出している。』
『 彼は、歌手のエバー・グリーンのファンであり、将来は歌手になって彼と共演するのが夢だったとの事。親は、彼の無念を晴らしたいと、述べている。』
黒須は、シンジの方を向き直り、冷淡な眼差しで彼を睨み付ける。
「虐めに虐待にと、さぞ辛い思いをしてきたことだろう。だがな、お前のしてきたことは、愚行以外の何ものでもないんだよ。」
「僕は自殺したんじゃない!殺されたんだよ。あいつらに。だけど、警察の者は誰もまともに仕事はしてはくれなかった。だから、僕は僕を死に追いやった者も学校関係者も警察も皆、地獄に送り付けてやったのさ。」
シンジは、不敵で邪悪な笑みを二人に向けた。
「お前は、自殺で死んだんだよ。」
「自殺で死ぬのは、他殺でしょう?だって、僕はアイツらに精神をぐじゃぐじゃに弄ばれ玩具のような扱い受けて、追い詰められたんだもの。」
「お前の走馬灯も一通り見させてもらった。確かに、気の毒だとは、思う。だがな、それでも人間を殺してはいい理由にはならないんだよ。分かるか?」
黒須は、鎌を構えた。
「だから、何が言いたいの?この新聞が何?今更、僕にお説教でもしようって言うの?お前さぁ、何様なの?」
少年の顔は、怒りに駆られていた。
辺りの風は不気味にざわめき、
木々が大きく揺れ動いた。
これは、紛れもなく霊障だ。
霊障と言うものは、霊の強い憎悪や悲しみといった負の感情で引き起こされる。そして、物体や人体にまで影響を及ぼす。
人の悲鳴が聞こえる。
猛風に煽られ、サトコは近くの鉄柵にしがみついた。
サトコの胸は、苦しくなった。
彼は、明らかにもがき苦しんでいる。本当は、誰か助けてくれる人を探していたに違いないー。
「いい加減、大人しくなって欲しいものだね。これ以上、罪を重ねると、更に辛い地獄が待ってるぞ。」
「じゃあ、君も悪だね。僕は、僕の正義を理想の世界を貫いてもらうよ。」
辺りの植木鉢が、ふわっと浮遊する。そして、それは黒須目掛けて飛んでくる。
「悪いが、それは、私には効かないんだよ。」
植木鉢は、黒須の目の前でパタリと止まり、そして、床に落ちた。
「貴様、何の術を使った…?!」
シンジは、瞠目し黒須を睨みつけ動きを止めた。
黒須は、胸ポケットから案山子型の人形を取り出した。
「槇山 シンジ、昭和48年5月12日生まれ。享年13歳。霊法第99条、憑依と殺害の罪により、煉獄送りとする。」
その人形は、みるみる大きく膨れ上がると、パックリ口を空けて掃除機のような勢いで彼を吸収していく。
「やめろ!やめてくれ!」
シンジの身体は、その人形の口の中へと引き寄せられていく。
シンジは、急に、目を大きく見開き、過呼吸を起こす、。
目を大きく見開き、瞳孔が小さく小刻みに揺れている。
サトコは、胸が苦しくなってきた。
彼は、生前の苦しみがフラッシュバックしてるのだろうかー?
自分に出来る事は何なのだろうー?
このままで、彼は本当に良いのだろうかー?
何か、救われるきっかけがあればー
ふと、黒須のかざした新聞記事の最後の内容を思い出した。
ハッとし、スマートフォンで、『 エバー・グリーン、ヒットソング』と検索した。
あった。サトコは、その曲の載ってあるサイトを開き、その曲のある動画をクリックした。
壮大で優しい、ジャズソングが流れる。
アメリカのお洒落なバーを連想するメロディー、優雅で優しい男性の声。
静かなストリングスが流れ、 次第に重厚なピアノの音色が加わる。曲が厚みを増 していき、力強く独特な強弱が響き渡る。
シンジは、大きく目を見開き瞳孔を震わせながら、サトコのスマートフォンから流れるメロディーに耳を傾けていた。
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