魔人狩りのヴァルキリー

RYU

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果てしなき深淵

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悪魔人形は、メラメラたちまち砂の粒と化し、氷のフィールドはたちまち無くなった。

サトコはハッとし、傍で倒れているアスナに駆け寄った。

「アスナちゃん!」

アスナは、軽く眼を見開きハッとする。

「サトコちゃん…私…」
状況はのめてないようだったが、彼女の意識が無事に戻り、サトコはホッと胸を撫で下ろす。
 
「サトコーーーー」
階段の方から、黒須の声が響いてきた。
「黒須…?」
黒須は、血相を変えて扉を開く。サトコは、ホッとし全身の力が抜けた。
「お前、大丈夫だったんだな…」
「うん、何とか…」
「良かった…」
黒須は、ホッとしたように安堵の溜息をついた。彼女は、全身擦り傷と黒い焦げたような跡があった。
彼女は、鉛のように身体をぐったりし、両膝を床につけた。

「黒須…大丈夫…?」
「ああ、大丈夫だ…ちょっと、力を使い過ぎたようだ…」
彼女は、ゼェゼェ荒い息をしている。裏で、何か敵と戦ってくれていたのだろうかー?

サトコは、不安に感じながらも、自分が見た奇妙な夢の話をした。
「奇妙な夢を見たの。薄暗い不気味なジメジメした森の中で、私そっくりの女の子と対峙してて…彼女の名前が、『アオイ』って、言うんだけど…」
「そうか…」
黒須は、表情や態度を微動だにせずじっとこちらを見つめている。
「うん。そして、彼女、私に白いボールのようなものを投げ渡したの。そのエネルギーのお陰か知らないけれど、私はそこで覚醒したかのような奇妙な力を得たんだ…」

しばらく、奇妙な沈黙が流れた。黒須は、何か深く感じたかのように真剣な眼差しを、サトコに向けて話した。
「だとしたら、彼女はお前の守護霊なのかも知れないな…」
「守護霊…?私に、守護霊がついてるの…?」
サトコは、驚き眼を大きく見開いた。たまに感じる、熱いエネルギーのような物の正体は、彼女なのだろうかー?

あの時、彼女が言ってた事を思い出す。口を横に広げ、そして、縦に動かし、すぼめ、そしてまた、縦に動かした。

『あなたは、私の、い…』

ーでも、まさかね…彼女と自分は雰囲気が違い過ぎる。見間違い、聞き間違いだよ…

でも、彼女を見てると、何処かしら胸が大きくざわつき既視感のようなものを、サトコは感じてしまったのだ。

サトコは胸の奥で、熱い物が溢れ返るような奇妙な感覚を覚えた。

「アオイは、己の強い正義が暴走し、やってはいけない過ちを犯して、煉獄に突き落とされた。生前の人徳と強い霊力のお陰で、何とか地獄行きを免れたがな…」

黒須は、遠い眼を向け窓の外を眺めていた。




時代は、江戸末期。
とある農家の産屋敷に双子の姉妹が生まれた。

双子の名前は、アオイとイオリといった。

両親は、二人が13の頃に亡くなり、二人は寄り添うように共に過ごした。姉妹は、全くの瓜二つであり、仲むつまじくいつも一緒にいたのだった。

アオイは、優しくお淑やかで献身的な性格だった。

彼女は、人に寄り添い、常に他人の為に行動出来る少女だった。

誰に対しても思いやりがあり、責任感が強く、真面目で、人のために尽力するような少女だ。

思慮深くて観察力が高くあり、周囲と調和が取れた。そして、場の空気が読めそれを良くしようと勤めていた。

彼女は、独立性が高く芯が強かった。 理不尽なことにも果敢に立ち向かい、持ち前の直感と思いやりの心を大切にしながら、和を大事にしていた。

そんな彼女には、不思議な霊力が備わっていた。

彼女は、霊と交流することが出来た。
迷える魂らの中には、苦しみを抱えた者、憤怒の情に囚われた者など、様々存在していた。

アオイには、神通力のような神秘的な力が備わっているかのようだ。
彼女は直感力が高く、ずっと先の未来を見通す力が強かった。凛とした意志の強さが、目立っていた。

妹のイオリは、優しく控えめな性格であり常に姉を慕っていた。だが、彼女は病弱であり、アオイが常に気にかけていた。

そんな最中、冷害が起き、借金取りに追われ、姉妹は家を売り払い生きる為に遊郭へと行くことになった。

遊郭の者は、皆、親切だった。
路頭に迷った二人を手厚く保護し、衣食住と不便することは無かった、そして、彼等は生きる為の技を教えてくれた。

男性客に接待をし、お酌をついで談笑した。
姉妹は清楚で朗らかであり、人気が高く看板娘となった。

そんなある日、妹のイオリが先に客に売られて行った。

客は、眉目秀麗で才色兼備な御曹司であった。彼は紳士的な性格であり、リオにゾッコンだった。

イオリはアオイと離れるのが嫌だったが、アオイはリオが幸せになれるのなら…と、ひたすら耐え見送った。

そんなある日、イオリは病により亡くなったという知らせが届いた。
彼女は、病で亡くなった。

アオイは頭が真っ白になり、しばらく殆ど眠りにつけない日々が続いた。

それから、ひと月程して、用を足しに廊下を歩いている、満月の夜のことだった。

部屋の中から、ヒソヒソ話し声が聞こえてきた。

店の経営者である旦那と女将が、居間で帳簿を捲りながらそろばんを叩いていた。
「しかし、また、梅毒だったとはね…身体の弱い子だったから。」
旦那は、残念とばかりに沈痛な表情を浮かべていた。
「そうだね…だが、売られたことで100円入るのだから、高いもんだったね…」※今の380万円くらい
女将が、真顔でキセルを吹かせた。
「そうだな…金が入ったことだし…あそこの旦那さんに、何かお詫びをしなくては…」
「それは、後でいいさ。また、可愛い子が入ったら紹介するだけさ。ウチは、金で売る商売なんだよ。」
女将は、魔女のような悪魔のような歪んだ笑みを浮かべた。
「相変わらず、女将はがめついな…裏の顔を女の子らに見せてやりたいよ…ウチは、高額取りだと悪評も立たないんだよ…」
主人は、冷や汗をかきながら、「やれやれ」と、眉をひそめていた。
「だから、ウチは可愛い子専門なんだよ。」
女将は、底意地の悪い笑みを浮かべていた。

アオイは、瞠目した。
いつも、自分らに親切で面倒見の良い親のように慕っていた二人の裏の顔を初めて見た。

女将は、邪気に満ちた魔女のようであり、店の主人はヘラヘラ従っていた。


そこで、アオイは店の内情を調べる為に、皆が寝静まったあと、帳簿を盗むと、今まで感じた違和感の正体が分かった。

この店は、貧しい女の子に優しい振りをし、裏では次々と金持ちな男等に高値で売り付ける。

売られた女の子らは、次々と失踪や死者の噂が耐えない。

きっと、良いように扱き使われ脱走したか、病を移され亡くなったのだろう。


そこで、張り詰めていたアオイの糸は、プツリと切れた。

彼女は、遊郭に裏切られた。
遊郭は、グルだったのだ。

アオイは、元来、正義感の強い人間だ。

弱い人間の為なら、何でもする。いじめらた、貧しい子供を手厚く保護し、作物を分け与えた。また、不思議な霊力で病人を看護し病を癒しパワーを与えた。

強欲で薄汚い大人は、大っ嫌いだ。
マグマのような熱いものが、胸な奥深くから、フツフツと湧き上がった。
全身の奥の強い怒りが、起爆剤となった。松明に火をつけて、
その館を燃やした。


館は、オレンジ色の業火に包まれる。
メラメラと、炎が燃え広がる。
この炎は、アオイの怒りが暴発したかのように強く燃え広がる。


アオイは、弱い者に優しく常に思いやりを持って過ごしていた。

常に清楚に振舞って生きてきたが、プツリと糸が切れてしまい、胸の内に隠していた物が暴発してしまったのだろう。

アオイは、考えた。
己の正義は、弱い者を守る為には、必要悪だと感じた。

店の大人は、皆、焼け死んで、地獄に堕ちろー!

ふと、遊郭で寝ている仲間らのことを考えた。

ー彼女たちは、決して報われない…薄汚い大人らにいいようにされてしまうのだ。だったら、彼女たちもここで解放してあげよう。

アオイは、幼少の頃から人間の醜さを知っていた。
世の中は、汚い。全て上辺だけの虚構で塗り固められた世界なのだとー

ならば、自分が直ちにこの泥の世界を浄化してあげよう。

彼女は、冷徹な眼差しで燃え広がる館内を見詰めていた。
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