魔人狩りのヴァルキリー

RYU

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悪魔のゆりかご ②

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サトコは、1週間ほど、黒須に言われた通り、肌身離さず御守りを携帯して行動するようにした。

黒須の死霊狩りに何度か同行はしてきたが、引き付けられるようなことはなくなった。

サトコは、霊に感情移入してしまう癖があり、それが引きつけの原因にもなってしまっていたのだ。

幸い、アオサには出会う事はなかったが、油断は出来ない。
奴は、この近くに潜伏しているらしいのだ。

黒須の話によると、アオサは黒須よりも古株であり、戦闘能力は彼女より遥かに強いらしい。




それは、買い物をしている夕暮れ時のことだった。

自転車で買い物をしていた帰り道、通りがかりの公園で7、8歳くらいの少年の霊が、涙ぐんで座り込んでいるのが見えた。


「どうしたの?」
サトコは、しゃがむと、少年に優しく尋ねた。
「お、お兄ちゃんに、ずっと付きまとう霊がいて…」
「付きまとう霊…?それって、どんななの?」
「すごく、強力で強いんだ。そして、目が怖い。多分、先祖霊ではないことは確か…」
「そのお兄ちゃんの所に、連れてって貰えるかな?」
「うん。分かった。」


少年は、兄の所までサトコを案内した。

バットとグローブを背負った少年が、友達複数人とはしゃぎながら校門を出てきた。

「お兄ちゃんだよ。」

サトコは少年に言われるまま、その兄の方へと視線を移した。

「ケンタ、また、河川敷野球やろうぜ。」
一人の友達が、少年の兄のランドセルを強く叩いた。
「オーケー。」
ケンタという名の少年は、満面の笑みを浮かべると、仲間を引き連れ河川敷の方までダッシュした。

河川敷には、別の学校の野球チームが待機していた。

「よう、随分待ちぼうけてたぜ…」

「委員会で、遅くなったんだよ!」
ケンタは、リーダー格の少年に負けじと言い返す。

「お前らが、例の最強のチームか?だが、今日、俺らがナンバーワンを頂戴するぜ。」

「さて、それはどうかな~」
ケンタの友達が、腕を組んで得意げにポーズする。


メンバーは各ポジションで待機し、笛が鳴り響き試合が開始された。
ボールは弾き、少年達は真剣な眼差しでボールを追いかける。

そして、3回周り、ケンタがボールを打ツ番になったその時だった。サトコは、そこで微妙な違和感を覚えた。

敵陣の投げたボールが、微妙にズれカーブを描きケンタのバットの中央に吸い込まれるように当たったのだ。

ケンタの身体の動きに合わせ、ボールがバットの中央に吸い込まれる。ボールが、一瞬、コマ送りのようにピタッと止まっては、微調整されているようにも、サトコは思えたのだ。ボールには、薄っすらと黒紫の奇妙なオーラが包み込んでいるのも見えた。

次の回も、その次の回も同じ現象が起きた。ケンタの打ち終わり走るスピードに呼応しているかのようであり、敵陣は空振りの連続だった。そして、とうとうケンタは、ホームランを打つー。

「おい、ケンタ…今日も絶好調だな。」

「へへへ。俺に、守護霊がついてるみたいだ。」

「ホントだな。」

周りは、誰も気づいてはいないようだ。少年とサトコしか気づかないー。

霊感が無い者には、感知できないようだ。

敵陣が脱帽しその場を去ろうとした、その時だった。

「あっ…」

サトコは、目を疑った。

ケンタのすぐ後ろに、17、18歳くらいのセーラー服の女の子が、ずっと背後にくっついているのが見えた。
さっきまで、姿は見えなかった筈だ。

サトコの霊感は、強い。今まで、霊を見落とすことなんてない。

「この娘だね…」
サトコは、少年に目配せする。
「うん。」
「この娘に、何か見覚えある?」
「ううん。多分、知らない人。けど、すんごく怖いんだ…最近、お兄ちゃん、段々、荒んでくるようになっちゃって…前までは、優しかったのに…」

少年は、涙ぐみガタガタ震えている。
この子は、兄が心配で成仏が出来ないのだ。

あの女子高生の霊を何とかしない限り、この少年は安心して成仏出来ない。

河川敷では、去り行く敵陣を見送りながら呑気にガッツポーズをする少年らの無邪気な姿がそこにあった。

女子高生の霊は、黒紫色のオーラを放ちながら少年の背後にピタリとくっついている。

「へぇー、子供の霊か…これは、興味深い。」

背後から、例の怪しげな声が聞こえ、サトコはビクッと仰け反り後ろを振り返った。

そこには、少女と少年の霊を交互に見つめるアオサの姿があった。

「いや…あ…」

アオサは、前かがみになると悪戯げに、少年を見た。

サトコは、ハッとした。

この子も、玩具にされ弄ばれ邪気にされてしまうのだろうかー。

サトコの胸の鼓動は、昂り出した。 

アオサは、マジマジと少年を見つめている。

少年は、ビクッと仰け反る。

重苦しい空気が流れ込むー。

「残念だなぁ。私、ここの管轄じゃないからさ。そうじゃなかったら、楽しく遊べたのにね。」

アオサは、苦笑いしながら子供の頭にポンと手を乗せた。
アオサのその言葉に、サトコはホッと胸を撫で下ろす。

だが、『そうじゃなかったら 』と、いう言葉が引っかかる。
もし、このエリアをアオサが配属されていたら、この少年はどうなってしまうのだろうー?
この死神は、子供の霊にも、手を掛けてきたというのかー?


河川敷の方から、再び子供の騒ぎ声が響き渡る。

小グループで再び野球をするも、ボールは黒紫のオーラに包まれケンタのバット中央に吸い込まれる。

ケンタはホームランを飛ばし、グループ皆が再び大歓声を上げた。


「成程。背後の彼女は、浮遊霊だね。あの少年に、何か想いがあるのだろう。しかも、執着心は、かなり強い。彼女は、あの少年を守ろうとする気持ちでいっぱいになっている。」
 
「彼女は、守護霊とか背後霊ですか…?」

「いいや。違うね。守護霊や背後霊は、人を護る霊だ。取り憑いた人には霊障を与えるようなことは決してしないし、周りにも危害も加えない。あの、少年を見てご覧。」

アオサは、そう言うと少年の方を顎で指し示した。

サトコは、少年を見るとハッとした。

少年の表情に、所々、違和感がある。 

「これは、明らかに周りにも悪影響を及ぼすだろうね。お友達全員ー、否、少年と関わりのある者全員に被害が及ぶことだろう。」

アオサは、興味深くこの光景を観察しながら林檎を齧った。
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