魔人狩りのヴァルキリー

RYU

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蝉の抜け殻・死神と殺意の円舞曲 ①

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私が生まれたのは、戦争が激しかった昭和17年の夏の頃だ。

私は、4人兄弟の末っ子であり、
父親は、私が物心つく前に蒸発した。
兄や姉は才色兼備で器量良しであり、顔立ちも母にそっくりであった。


母は、私の顔を見る度に『お父さんそっくり!!』 と、溜め息を漏らしていた。

父は勉強が不得意であり何をするにも不器用で要領が悪かった。おまけに癇癪持ちであり、感情のコントロールが不得意だったらしい。

そして、どうやら私だけ、父の遺伝を色濃く受け継いだようであり、母は私にあまり愛情を注いではくれなかった。

私は、兄や姉らを引け目に感じながら、生きてきた。


そんなある日の事だ、私は13歳の時、秀樹と出会い交流することになった。

私が秀樹と出逢い交流するきっかけとなったのは、私が万引きしたのを彼が庇ってくれた事から始まる。


秀樹は、爽やかな40過ぎの男だった。彼は、ちょい不良オヤジと言うイメージが強くあり、全身に龍の刺青がびっしり刻まれていた。その上、やや吊り目がちであり、傍から見たら怖い印象があるみたいだった。

だが、第一印象とは裏腹に不思議と威圧感はなかった。寧ろ、義理堅く情に厚い人であり常に周りには人が沢山いた。

身長185センチ。当時の平均身長より20センチ以上はあった。褐色色の肌に、凸凹に盛り上がった筋肉、オールバックの短髪に、端正な顔立ちをしていた。

秀樹は、何でも要領が良く器用できた。気道の達人であり、誰も歯が立たなかった。自分よりもガタイの良い不良を簡単に投げ飛ばしていた。
彼はカリスマ性が高く、人の心に訴える不思議な力があった。投げ飛ばされた不良は、彼のそのカリスマ性に惚れ込み子分になってしまう程だ。

しまいには、彼は精密機械の修理に、麻雀、囲碁、将棋、チェス、オセロ…しまいには料理まで何でもこなしていた。
こういう人を、完全無欠、優智高才、秀外恵中などというらしい。

彼は正に人格的にも優れており、容姿端麗、高身長で『欠けたる月なし』と、言う者まで居た。

こんな情に厚い完璧無欠な感じの秀樹だが、欠点が一つだけあった。

それは、女癖の悪いことだ。


彼の周りにはいつも女がいた。
彼は、芸妓を呼び宴会を開いていた。

芸妓は、ほぼ全員彼に惚れていた。女の扱いが上手い。明るい女からお淑やかな女まで、その人に
人の心を読むのが上手かった。僅かな表情や雰囲気から女の気持ちを読み取り、適切な対応をしていた。
彼は、色んな女と夜を共に過ごした。それは彼からしたら至福のひとときだったのだろう。

私は呆れて何も言えないでいたが、秀樹は影には光を照らし、しおれている花には水をかけてあげる男だった。

彼は、話術が巧みで共感力高くユーモアがあった。おまけに、容姿端麗で万能な彼を悪く言う女は誰も居なかった。その上、酒豪だ。

対する私は、地味な容姿だったし、おまけにそばかすだらけで天パも酷い。厚ぼったい一重まぶたに、鼻翼が悪目立ちするニンニク鼻。頭も悪く、無愛想で対人能力も低く何をするにも不器用だった。

そんな私を、秀樹は可愛がってくれたのが信じられなかった。

秀樹は、決してお世辞を言ったり変に気を遣うような人ではなかった。

彼からしたら、子供は皆宝なのだ。

秀樹の本業はヤクザだが、決して私にその現場に近づかせることはなかった。

過去に、300人以上の人とやり合い勝ち抜いてきたという伝説があるが、私に、まともに育って欲しかったのかも知れない。

秀樹が、何故私を気に入るようになったかは定かではない。

彼は、人の長所を見抜く能力があったから、きっと、私の長所もずっと前から熟知していたことだろう。


そんなある日、秀樹は死んだ。

額の中央に、弾丸を浴びてー。

彼は、人から恨みを買われるような人ではなかった。寧ろ、誰からも慕われるような人だった筈だ。

秀樹の訃報を聞いたその時、私は、何故か涙は出なかったが、後になってどっと涙が溢れ出てきた。涙が、滝のように無限に溢れ出てきた。

そして、彼を殺した者への怒り、憎しみ、そして深い絶望と哀しみと言うあらゆる負の感情が襲ってきたのだ。


犯人は、ずっと行方知らずだ。奴が、図太くのこのこ生きてのうのうと生活してるだなんて、虫唾が走る。
秀樹が、一体、何をしたと言うのだ…?
絶対に、許さないー。
この手で、犯人に制裁を下してやるんだー。


秀樹は、成仏して天国へ行けただろうか?

残された者で、無事に天国へと送り出してあげたい。

だからこそ、犯人に制裁を加えるのだ。


あれから、五年の年月が経過した。
母が病で亡くなった。私は、何の哀しみも襲って来ず、「やれやれ」と言う、安堵の気持ちが強かった。

私にとって、母の死は大したこと無く秀樹の死によるダメージが強かった。

母に対しては、何の感情も湧かないでいた。好きの反対は嫌いではなく無関心だとよく言われているが、正しくそういう感覚だったのかも知れない。


それは、とある奇妙な死神から聞いた話だ。

人は死んだら、死神次第でどこへ配属されるか分からないらしい。そして、レベルにより、どの階層のどのエリアに飛ばされるか、魂ごとに異なる。その人の生前の心の在り方や行いにより、死後の住処は異なるからだ。血縁者は多少の配慮はあるらしいが、私と秀樹は血縁者じゃない。その為、私は亡くなったら秀樹に再会出来る確率は限りなく低いことだろう。

だが、私は秀樹が天国でずっと見守ってくれていますように。と、願ってやまなかった。


そんなある日、私は、コホコホ咳を高熱にうなされた。

私は、結核にかかったのだろうかー?

咳は止まらず、時折、血を吐くようになった。
血が迸り、悪魔が私の体内に住み着き精力を喰らいつくそうとしている。
頭がクラクラする。意識が朦朧とする。脳が、アイスクリームのように溶けてしまいそうだ。
私の体力は、限界に近づいててきた。

人には、それぞれ寿命が予め決まっているらしい。それは、天命であり変えるのは不可能であるらしい。


そろそろ、私の命の期限が尽きようとしているのだろうかー?

もしかして、あの奇妙な死神は、私の死期が近いから、それを伝える為に私の元へと来たのだろうかー?


死んだら、秀樹に会えるだろうかー?

秀樹と、何を話そうかー?

また、麻雀や囲碁でもしてみようかー?

それとも、オセロやチェスが良いだろうかー?

眩いオレンジ色の光線が、ピカッ私の頭の中を、脳内を駆け巡る。これは、私の幻覚だろうかー?

私の頭の中で、貧乏で寂しい少女時代、秀樹との思い出がセピア色に次々と出現したのだ。

私の胸は熱くなり、涙が込み上げた。瞼は、徐々に重くなっていった。

秀樹は、暗闇だった私の世界に光を灯してくれた。
深い沼の底にいた私を、引っ張り出して新しい世界を色々見せてくれた。

彼は、鉛のようにどんよりとした重苦しいわたしのどん日常を、カラフルに色鮮やかな虹色に塗り尽くしてくれた。

私は、とても満ち足りた至福の日々を過ごした。

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