魔人狩りのヴァルキリー

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新たな道標 ④

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黒須は、いきなり自ら樹木の中へと猛突進して行った。

「黒須!!」

サトコは、力の限り叫ぶ。

黒須の鎌が、突然、巨大化した。

オーラの力なのだろうかー?



すると、黒須の身体は樹木の中へと吸収されてしまった。

「駄目ぇーーーーーー!!」

サトコは、力いっぱい叫び声を上げた。これ以上にないかと言う、声をめいいっぱい張り上げた。

黒須が居なくなるー。

でも、まだ、彼女に対して心残りがある。まだ、返してない沢山の恩がある。

「やめて、やめて、やめて、駄目だよ!!黒須!!」

サトコは、瞳孔を小刻みに揺らしながら大きく首を横に振った。


「そうだ!!」

サトコは、直感に従い霊の流れを読みながらしきりにバンバンと樹木の中心に全神経を込めて打ち続ける。

頭に、ビリビリ電流が流れてくる感覚を覚える。

全神経が、研ぎ澄まされる。

ーこの奇妙な感覚は、何なのだろうー?


弾丸を打つ手が、次第に強くなっていく。手が、感電したかのように痺れていく。

「ハアハア…」

サトコの全身は、鉛のように重くなっていく。


すると、黒須を吸収した樹木がぶくぶく泡立ち、中から黒須が姿を現した。

「サトコ、よくやったな。」

「く、黒須…?」

「お前が弾丸を打ってくれたお陰で、霊気の流れを変えることが出来たんだ。」

黒須は、泥粘土状の樹木を掻き分け練り出てくる。そして、少女の方を見た。

「お前ら、アリアの子分だろ?」

「え…?どういう事…?この子は、私に助けを求めて、それでも妹さんを…」

「実は、お前の調べはついてるんだよ。コイツは、20数年前に殺されて亡くなった、井伏アキと井伏サチの姉妹だ。例の連続少女誘拐殺人事件の被害者だよ。そして、この2人は、例の怪奇死事件の犯人だ。少し、何か引っかかるような奇妙な感じがしてね。」 

「あ、あれ…?ニュースでやってた、次々と若いヤンキー風の男が突然死して倒れたって…で、血塗れで倒れたっていう…」

黒須とサトコのその会話に、妹に寄り添う姉はぷるぷる激しく震えていた。
顔を赤らめ眉を寄せ、何か言いたげに唇を噛み締めている。

「な、何言ってるの?私は、妹のサチを…」

「こんな、見苦しい芝居はやめだ。お前らは、人の魂を貪り喰い、力を蓄えてきたんだ。お前らのしてきた事は、霊法99状に該当する、かなり重たい罪だぞ。死神として、それなりの裁きはさせてもらう。そして、きっちり償うんだ。煉獄で永遠にな。」

黒須は、冷徹な眼差しを姉の方に向けた。今までにない、ドライアイスのような、乾いた冷ややかでな眼差しである。

こうして黒須を見ていると、彼女は死神なんだと、改めて実感するのだった。


突然、寝ていた方の少女が、ぱっちり目を覚まし上体を起こした。

「ちょっと、お姉ちゃん、何やってるの!!『あたしに任せて』って、言ってたよね!?だから、私、それに乗ったの!!」

妹は、姉に詰め寄り早口でまくしたてた。さっきまで弱々しく眠っていたのが、幻のようだ。

「はぁ?大体、あんたが悪いのよ!!ただ、ぼーっと木に縛り着いていただけでしょう?あんたは、元々グズでトロいのよ!」

姉の方も、突然口調と表情を180度変え、怒り狂っている。まるで、二重人格のようだ。

「何言ってるの!?私、あの時、ずっと、エネルギーを集めてたんだから。疲れたんだからね。?」

「でもね、ノロマなあんたのせいで、計画は、みんなパーよ!」


「え、!?ちょっと何!?」

サトコは、困惑する。さっきまでしおらしかった、か弱そうな姉妹が急に血相を変え、口論している。

「やれやれ、だな。」

黒須は、深く溜め息をつくと、胸ポケットからセピア色に古びた新聞を取り出し広げて、サトコに見せた?

新聞の見出し記事には、こう書かれていた。

『2001年、1月8日、M県S市のA区の郊外の倉庫で、姉妹の変死体が目撃される。姉が、妹の上に覆い被さるような感じで、亡くなっていた。死後1週間以上経過していると思われ、2人は血塗れで倒れていた。警察は犯人の行方を探っている。』

顔写真には、姉妹の顔写真が掲載されていた。

サトコは、ハッとし姉妹の顔と見比べる。

それは、目の前で喧嘩している姉妹の顔とそっくりだ。


「もしかして、妹さんも死んでるの?霊なの?」
「ああ。とっくに死んでいる。この姉妹は、アリアの子分だ。」
「黒須、この子をキャッチしたじゃない?」
「この姉妹は、自在に質量を変化させる事が出来るんだよ。」
「そんな事出来るの?」


 
「ああ。コイツらは、アリアから力を分けてもらったからな。アリアに素質を見込まれて、弱みに付け込まれ子分にでもなったのだろうよ。で、私は、ちょっと、霊気の流れを読んで変えたんだよ。軽く捻って流れを変えたんだ。」

「そんな事、出来るの?」

「私は、鼻が利くんでこんなの慣れっこだよ。アリアとの繋がりも遮断させてもらった。悪いな、お前らの計画は、ここで終わりだ。」


黒須のその言葉に、姉妹はハッとする。

「そ、そんな、そんな事って…」
サチは、急に血相を変えぶるぶる震えている。

「こうなったら、グズグズしてられないわよ、サチ、」

「そうだね。行くよ、お姉ちゃん。」

姉妹は、互いに目を合わせると頷き合い

粘土状にドロドロになった木々が、逆再生されたかのようにみるみる元の形状に戻った。

辺りの樹木も蛇のようにしなやかにうねり、にょきにょき姉妹の方まで伸びてくる。

姉妹は、手を取り合い手を拡げた。

眼は吊り上がり紅く光る。口は頬いっぱいに裂け、中からギザギザの歯がチラ見した。


竜巻状の突風が地面を突き破り、次々と露出してくる。
ドリル状の猛烈な風に、サトコは引っ張られそうになる。

「な、何これ…?」

「これは、霊気だ。この、アキとサチは、悪霊化が進行しててきている。アリアに力を分けてもらったといえ、ここまで強いとはな…サトコ、引き付けられるなよ。」

黒須は、鎌を構えて霊気の流れを探ろうとした。だが、大量の霊気が入り乱れ、読み当てるのに困難を極めた。

「分かった。」

サトコは頷くと、サジタリウスを構えチャンスを伺おうとした。どんなに強そうな敵でも、何処かしらに隙があり、それが綻びとなり脆くなっていくものだ。それは、黒須から教わった教訓である。


大蛇のように次々と襲ってくる樹木の枝を、黒須は、一刀両断した。


切り落ちた枝は、霧のように消えていき、無数のオーブが出現した。


「これは、この子らが食らってきた魂の一部…?」

「ああ。そうだ。」


姉妹は、次々と木の枝を二人目掛けて延ばしてくる。

枝は、ゴツゴツとした硬い形状になっていき黒須の鎌を構える腕とサトコのサジタリウスを握る手は、徐々に重くなっていった。

サトコは、あの時の、アリアと対峙した時の感覚を覚えた。

「質量が、重たくなってる!?」

 
「恐らく、奴らが初めに寄越したのは、囮のようなものだ。一番、霊力が弱い霊だよ。」

樹木は益々大きく伸び、枝はみるみる大きく長く波のように激しくうねる。姉妹の顔に皺が深く無数に刻まれていく。早く、何とかせねば、姉妹は完全な悪霊になってしまう。


黒須は、体勢を立て直し眉をひそめる。霊気の流れを読むにも、激しくうねり乱れており、どうも掴むことが出来ないー。


突然、サトコの脳内にキーンという音が響き渡る。

その瞬間、時は止まった。黒須も、姉妹も互いに睨み合ったまま動きを停止している。


ーサトコ…

天の何処かからか、聞き覚えのある懐かしい声がサトコの脳内に優しくささやく。

「え?サエコ、サエコなの?」


「サトコ、ゴメンね、先に行っちゃって。」

声の主は、紛れもなく本物の優しいサエコである。何故、自分を置いて自殺してしまったのかが、どうしても胸にずっと突っかかる。

「何で、私を置いて先に行っちゃうの?私、何かした…?」

サトコは、涙ぐんだ。今までの後悔や、寂しさ孤独感が一気にどっと、胸に溢れ出た。

「ううん。違うの。だけど、これ以上は、言えない。でも、これだけは覚えといて。私は、ずっとサトコの味方だから。何が何でも、決して見捨てたりはしない。」

「サエコ…」

サトコは、涙ぐむ。溢れ出る感情を、どうしても抑えずにはいられないー。

「この子らには、弱点があるの。霊気の流れを読めば、あなたなら見極められる筈よ。」

「弱点…?」

サトコは、涙を拭いハッと顔を上げる。

「大丈夫。サトコなら出来る。」


「…うん、分かった。」

サトコは、ごクリと唾を飲み前を向き直った。

全身に、熱いマグマのようなものがメラメラ湧き上がった。
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