魔人狩りのヴァルキリー

RYU

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絵画の中の女の子 ⑧

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     急に、サトコは悪寒がした。それは、ジメジメした気持ちの悪いものだった。
   「!?」
「ねえ、何で見つけてくれなかったの…?」
突如と響き渡る少女の声に、2人はハッとした。
    2人の向かい側の木の陰から、白いワンピースの女の子がじっと2人を見ていた。例の絵画の少女だと直感で分かり、サトコはハッとした。

「サトコ、離れるんだ!」
黒須は、そう叫ぶと鎌を構えて戦闘態勢になった。
「コイツは、ただの霊じゃない。魔物になり掛けた悪霊だ。」
黒須は、鎌の先から青磁色の炎を放出させた。

   いつの間にか、少女は2人の目の前に立っていた。彼女の周りには、突風が吹き荒れ木々が激しく揺らいでいた。
「サトコ、木陰に隠れろ!」
     黒須は、サトコを見ずにそう叫ぶと少女額目掛けて突進した。
    少女は、ニンマリほくそ笑むと、腕をぐにゃぐにゃ変形させ黒須目掛けてつきさそうとする。黒須は、それをかわし少女の額に鎌で切りつけた。
   辺りは青磁色の炎と激しい突風に襲われた。サトコは、吹き飛ばされないように木にひたすら捕まりながら眼をつぶった。
   辺りはぐらつき、強い地響きが巻き起こるー。 

   地響きはガンガン音を立て、風も巻き起こる。
     しばらくすると、辺りは落ち着きサトコは恐る恐る眼を開けた。
    そこには、無数の人面がボコボコ浮き出た泥のようなものが姿を現した。生臭いガスの匂いもし、サトコは鼻を摘んだ。

ー目の前には、黒須の姿がないー。食べられてしまったのだろうかー?

    巨大なボール状の奇怪な姿をした悪霊は、サトコをギロリと睨みつけていた。悪霊は、ゆっくりサトコの方まで転がっていく。辺りの木々や土は腐り果てていくー。
     サトコは、悲鳴を上げサジタリウスの引き金を連射した。しかし、弾丸は、次々と悪霊の肉体に虚しく飲み込まれた。

ーまだまだ、自分には、力が足りないのだろうかー?

    サトコは、絶望しガックリ両膝を地面に着けた。

     ーと、その時だった。魔物の動きは止まった。
    サトコは、不思議に思い恐る恐る魔物に近づいた。
     サトコは、銃口を魔物の頭部に向ける。身体がガクガク震える。
     そうこうしていると、魔物の身体はぱっくりと割れ中から黒須とリオが出てきた。
「サトコ、待たせたな!お前のお陰で助かった!」
     魔物は、ボコボコ形を変形させ辺りは眩い光に包まれた。そして、魔物は、粉々に爆発したのだった。
「黒須、大丈夫だったの?」
「ああ。無事さ。少女は私が連れて行く。 」
     粉々になった魔物の身体がくっつきあい、再びワンピース姿の女の子の姿に戻った。
    女の子の身体は、飴細工のようにぐにゃぐにゃ歪み身体はボコボコ音を立てた。
「お父さんも、お母さんも、お姉ちゃんも、私の事、無視したの…だから、寂しくて、遊び相手がずっと欲しくて…ごめんなさい…」
少女は、あどけない表情で泣いている。
「お前は、もう死んでいたんだ。それは、分かってるよな?」
黒須は、あえて優しく宥めた。霊に寄り添う事で、警戒させずに情報を聞き出そうとしているのだろう。少女は、霊力を抜かれたのか、随分弱体化していた。少女の辺りから火の玉のようなものが無数に飛び去った。喰われた者の魂だろうかー。
「私、そこに居たのに。皆私みんな、私を無視した。だから食べたの…」
「食べた?」
「ああ。恐くこの子は、事故で死んだんだろう。そして霊になった事を気づかず、そして、家族とずっと一緒に居たんだと思う。しかし、当然霊は実体がないから目では見えない。そして、家族は誰も霊感が無かった。」
「霊って、亡くなった時間のまま…?」
「ああ。自分が死んで一年位は、家族は深く悲しんでいた。しかし、家族は立ち直ろうと前を向いた。そして、この子は自分だけ置いて徐々に変わって行く家族に、強い不安と恐怖を覚えた。やがて、このマイナスな気持ちが爆発し家族を殺して魂を喰らったんだ。今も、家族の魂だけは少女の中にずっといるはずさ。」
「…え…?どうしてそんな事…?」
「だよな?リオ。」
黒須は、遠くね茂みでバズーカの手入れをしているリオに尋ねた。
「ああ。そんなとこだろう。」
「コイツは、情報通なんだ。事前に色々調べさせてもらっていたのさ。」
「もう、良いだろ?霊は弱体化して、現世へのトンネルが開いたみたいだし。」
    リオは、バズーカを抱えると木の枝をぴょんぴょん飛び越えて行った。

   ーと、再び竜巻のような突風が巻き起こり、サトコはびっくりし眼をつぶった。今までよりも強く、木の枝が強くゆれているー。
     目を開けると、そこには軍服姿の少女が目の前にいた。
「この子が、例の問題児とやらか?」
「ああ、お前、ずっと私らを監視してたんだろ?相変わらずいやらしいな。」
黒須は、軍服の少女を面倒くさそうに見ると軽く足踏みした。「ああ。監視するのが我々の仕事だからな。では、ご苦労だった。現世までの道も繋がったようだし。ーと、言う事で、その子を引き渡して貰おうかー?」
軍服の少女は、顔色人使えずに抑揚のない声で機械的に話した。
「…ち、ちょっと、待って…!その子は、その子は、どうなるの?」
サトコは、咄嗟に叫んだような超えを出した。目の前のワンピースの少女が、何処と無く寂しそうだったのだ。
「サトコ、この子を助けてお前に何が出来るんだ?」
黒須は、厳しい声を出した。
「…え…?」
「お前の気持ちは、分かる。だがな、次々と殺した罪は重い。あの子を放置すると、被害者が増大してしまう。我々の仕事にも影響してしまう。」
「でも…」
「ああ。悪霊は、どんどん他の霊を吸収していき魔物になる。そしてその魔物は、質量が膨大で街中に損害をもたらす。そして、徐々に力を蓄えていく。霊障を受け心身に異常を来す者、最悪、死に至る場合もある。最強になると、攻撃力は上位の死神が三人以上束になっても、敵わない事がある。厄介なんだよ。」
「どうにか救えないの…?まだ、女の子だよ…」
サトコは、恐る恐る駄目元で聞いてみる事にした。
「いや、無理だ。救えたらとっくにそうしてる。あの子は、もう手遅れだ。あの子を野放しにしておく事で、多くの犠牲者が出るんだ。これは仕事だし、今のうちに手を打たねばならないんだ。」
「そんな……」
   綺麗事だけでは済まされない事は、薄々分かっていた。だが、不幸に少女が不憫でならない。
「私だって、救えるなら救いたいさ。だが、これは決まり事なんだ。世界の均衡が保てなくななり崩壊しかけるかも知れない。」
「分かった。黒須がそう言うなら、私は従うよ。」
「なら、いい。」
「お前らの事は、報告してもらう。覚悟しておくように。」
軍服の少女は、ワンピースの少女にぐるぐるクサリで縛り付けると、指を鳴らした。すると辺りに再び竜巻が発生し、2人は姿を消した。

「黒須、私、思ったの。優しさだけでは通用しないんだって…。」

「ああ。これから私達には、まだやらなくてはならない仕事があるんだ。私らは、強くなって前を向いていかないといけない。」

    まだ、母親の事が脳裏の片隅にこびりついていたが、サトコは前を向く事にした。

ー今の自分は、今までの自分とは違うー。

    前方から、光が拡がり鬱蒼とした盛りが照らされ眩しくなっていった。
    2人は前を向き、現世迄の道程をひたすら歩いた。
 

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