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遥かなる深淵 ④
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『黒須って言う人、このままだと、消えちゃうよ。』
「消える…?なら、今の内に私が撃つしかないでしょう。」
サトコは、サジタリウスの引き金を引こうとする。
『あ、だめよ。今は真空状態なんだから。今撃つと時空が歪み次元がバラバラになっちゃうわよ。』
アリアは優しく諭す。
「どうなろうが、同じでしょう。何かが変わるわけではないんだから…」
『この霊はね…特殊なの。レアケースなのよ。
死霊になって彷徨っていた所を道化師に保護されたの。この子は、元々は貴方とおんなじ。あの娘はドジな子でね…それで事故にあったの。可哀想に…いても居なくてもおんなじで存在感がないから…事故の時も、周りに誰もいなかったのよ。風のような切ない羽虫のような存在。』
サトコはアリアのその気だるげで小馬鹿にしたような喋りから、何処かしら胸にチクチク突き刺さる様な感覚を覚えた。
「道化師は、何処にいるの?
」
『じゃあ、私のとこに来てよ。教えてあげるから。』
「嫌だ。私はまだ生きてるよ。」
サトコは声を強めた。
『あ~、結局みんなコレだ。教えてあげない。』
時は再び流れ、黒須と霊は再び動き始めた。黒須は鎌を振るい、縛り付けた霊に向かって弾丸の様なスピードで投げつけた。
ブーメランのように霊に
霊はうねうね触手を伸ばし、ブーメランひ跳ね返した。触手は波打ちギザギザ伸び、二人に襲いかかる。化け物は縛られる程、徐々にパワーアップしているようだった。
「ーまずい…コイツ、益々強くなりやがってる…」
黒須は汗だくになる。
霊は徐々に大きくなっていく。
黒須は術を解くと、鎌を構え化け物目掛けてロケットの様に突進し首を切り落とした。
すると、黒い竜巻の様な物が巻き上がり、二人は目を覆った。
辛うじて目を開けたーと化け物全身にヒビが入り、そして、粉々に粉砕された。
「誰かそこにいるのか…?」
黒須は辺りを見渡す。
アリアがさっき、何か仕掛けたのだ。そうとしか考えられなかった。しかし、どのタイミングで何の為にー?
黒須は、案山子に魂を転移させた。
「どうも、おかしい…映写機が断続的に止まって見えているようだ。私が次の行動をする前に、霊がいつの間にか急激に弱まったんだ。これは、第三者が時間を止めて介入したとしか…」
感の良い黒須は、時間を操作出来る何者かが関与したと確信した。
「ねぇ、私、声聴いたの…」
「どんな…?」
「アリアの…アリアの声だった…」
「…アリアの声かー?」
サトコは、事の一部始終を黒須に話す事にした。黒須は頷くと、顔を歪ませていた。
「アリアなら、やりかねないな…」
「…アリアは何者なんだろう?何でサエコの姿で私なんかに絡んでくるんだろう?」
サトコは、アリアと自分の接点を考えたが、中々共通項が見いだせなかった。
「サトコ、御守だ。ずっと身に付けとけ。」
黒須は、懐から御守を取り出した。
時刻は夕暮れ時ー。サトコは家に帰ると疲労がたまり、ぐったりしていた。身体に鉛の様なもので重くなっていた。しばらく横になった。
夜の七時頃、目を覚まし台所に向かう。すると、施設の中が騒がしくなった。
「どうしたの…?」
サトコは近くの職員に尋ねた。
「サトコちゃん、あのね…」
職員は、不安げにサトコに目配せした。
「アカリちゃん…?」
職員の視線の先には、10歳くらいの少女が、目の前の青年と楽しく談笑しているのだった。
周りは訝しがり、不安げにアカリを見つめていた。
「ねぇ、誰と話してるの?」
しかし、アカリはそれを無視し目の前の青年と楽しく談笑しているのだった。
サトコは、周りの不穏な空気と青年から感じる特殊なオーラとゾクゾクする感じから察知した。青年は紛れもなく霊だった。
「楽しそうだね。アカリちゃん、私も混ぜてくれるかな?」
サトコは恐る恐る話しかけるが、アカリはサトコを無視し青年と談笑し続けている。
「アカリちゃん。夕飯の時間だよ。」
施設の職員の人が、顔を引きつらせながらアカリに話しかけた。
「アカリちゃん…」
サトコは、意を決して青年に話しかけてみることにした。
「すみません…あなたは何処から来たのですか?」
青年は一瞬、サトコの方を見ると睨みつけた。その、睨みはにサトコは寒気が走った。まるで獲物を狙う狼のようであり、ゾクッとしたのである。
「サトコ…あなたまで…」
施設の職員が、顔を強張らせながらサトコに尋ねる。
サトコはズボンのポケットから、2丁のサジタリウスを取り出し、両手で構えた。
「お姉ちゃん、何してるの?」
周りの子供達は遠巻きにサトコを訝しがる。
サトコはゆっくり深呼吸をすると、引き金を引いた。玉はロケット花火のように光線を纏いながら青年の額に命中する。
しかし、青年の額は粘土の様にグニャグニャ歪み玉を吸収してしまったのだ。
「き、吸収した…?」
吸収すると、ブクブク身体は盛り上がり角が生え鬼の様な姿になった。
「黒須に、黒須に連絡しないと…」
サトコは、黒須から渡された通信機で連絡を取ろうとする。
ーしかし、繋がらないー。
すると、その場にいた者全員が、気絶したー。
ーと、たちまち青年の周りを赤い糸が取り囲んだ。糸には札がぶら下がっている。
「黒須!」
「悪い…ちょっと野暮用で、遅れちまった…」
窓が不思議と空き、そこには鎌を携えた黒須がしゃがんでいた。彼女の顔にうっすらあざができており、彼女はゼエゼエ荒い息を上げている。
「黒須…どうしたの?その痣…。」
「ちょっと、やっちまってな…また、すぐ楽になるから。」
黒須は、酷く苦しそうだった。
「ああ。私に案がある。」
「分かった。私はどうすればいい?」
すると、青年の身体は粘土細工のようになり巨大な丸い玉の様な形状になった。身体はボコボコと泡を立て、そして波打ち、粘土細工の様にグニャグニャしていた。
「ギャハハハハ!!!」
不気味な甲高い声が施設内に響き渡るー。まるで邪悪な悪魔が悪巧み嘲笑しているかのようである。
サトコは、サジタリウスの引き金を引き、再び玉を放った。化け物は泡立ちながらブクブク異臭を放ち、そしてドロ粘土のように不安定な形状になった。
黒須は鎌を携え、化け物目掛けて弾丸の様に突進していった。すると、化け物は大きな口を拡げて黒須を飲み込むと、べろりと舌なめずりした。舌から生臭い唾液が垂れている。そして、化け物の身体はブクブク泡の様になり、そして、八本の手脚がニョキニョキ生え、まるで蟹のようになった。
「黒須!!!」
化け物は、舌なめずりしながらサトコを見下ろしていた。
サトコはサジタリウスを連射したが、何度も打っても化け物の体内に吸収されてしまうー。まるで泥の沼のようである。
「…な、何で…?」
サトコは震えて脚がガクガクして固まっている。
ーと、その時だった。
化け物は悲鳴をあげると、粉々に爆発し、砂鉄の様な黒い塵を大量に巻き散らし消滅したのだった。
その黒い塵の中から鎖を携えた黒須が姿を現した。
「黒須、無事だったの…?」
「ああ。お前が玉を沢山ぶち込んでくれたお陰で、手間は省けたぞ。」
鎖は火花を放ち、消滅した。
「どうやったの?」
「奴の体内に毒と爆弾の様な物を仕込んだ。禁術だがな。奴は他の黄魔も吸収していたみたいで、その飲み込まれた黄魔にアレルゲンを吹き飛んだんだ。」
黒須は、息を切らしながら話している。
「黒須、大丈夫…じゃないね…?」
黒須の顔にほんのりと赤紫の痣が浮かびあがっていた。そして、彼女は突然ハッとし、身構えた。
「…黒須、どうしたの?」
すると突然、赤紫の炎が渦を巻き強い突風が巻き起こった。辺りにある物がたちまち一斉に吹き飛び、二人は目を閉じじっとすることしか出来なかった。
「黒須…何なの…?」
目の前には異形の怪物が翼を拡げて宙に浮いていた。身体の中央に大きな目玉があり、この周りを純白な翼が覆っていた。旧約聖書に出てくる上級天使の様な出で立ちである。
「お前は…ラプラス」
黒須は瞳孔を不安定に揺らしながら、2、3歩後退りする。
「ラプラス?化け物だよ…」
サトコはサジタリウスを構えると、
「いや、コイツは正真正銘の天使だ。」
「え…?」
「正式には、『アビスの天使』…別名『ラプラスの魔』だ。」
「アビス…ラプラス…」
「彼は、私とアオイを煉獄に落とした。私とアオイが地獄で暮らす変わりの条件として、私はハンターとして蘇った。およそ110年余りの間ー、私は800体以上の黄魔を狩ってきたんだ。」
「黄魔…?」
「亡者が魔人として蘇ったのが、黄魔と言われる存在なんだ。その黄魔を狩るのが私達ハンターの仕事なんだよ。」
「彼は、悪い奴なの…?」
「彼は全知全能の天使だ。私の上官だ。元々は私とアオイが巻き起こした事が発端なんだよ。」
黒須の額には汗が吹き出て滝のように流れていた。
「黒須カヤ、お前の仕事が鈍ってきたと思ったら、なるほど…小娘にうつつを抜かしてたとはな…」
ラプラスは、体内からドライアイスのように乾いた冷たくしわがれた声を発した。
「何言ってるんだい?私は…」
黒須は早口になる。
「私が知らぬとでも…?長年、冷淡なお前が、この娘がアオイそっくりで、お前の心が揺らいだ事もな…」
ラプラスは目玉をギョロリと動かし、サトコはゾッとした。彼の羽には無数の目玉がついており、その目玉はそれぞれ動いていた。
「私は、キチンと任務を遂行している。あんたに逆らった事はない。」
黒須は、強い口調で言い放った。
「私は、お前をずっと監視してるぞ…何かあったら、業火の炎でお前をアビスに落とす事だってできるのだよ。」
ラプラスはそう言うと、全身に赤紫の炎を纏い炎は渦を帯びて姿を消した。
時は江戸末期頃ー。
とある大都市の遊郭での出来事であった。
すっかり皆が寝静まった深夜12時頃ー、月の光に照らされた暗い廊下で寝巻姿の18歳の少女が、包丁を手に持ちゼエゼエ荒い息を上げていた。辺りには息を絶え絶えの重症者の姿と人の遺体が5つ横たわっていた。
「アオイ…!」
暗闇の向こうから、黒須が姿を表した。
「カヤ、やったよ…これで、私達…」
アオイの顔は清々しく、寧ろ安堵の表情が見られた。
「アオイ…お前…ホントにやったのか…?これからどうすんだよ?」
黒須は、恐る恐る近くの死体の胸に手を当てた。
「死体を燃やそう。そして逃げよう。その前に、お金だ!カヤ、レジからお金…早く!」
アオイは、そう言うと重症者や死体の懐から次々と財布をひったくる。
「確認なんたが…他の同僚達も殺るのか?仲間だろう?」
「そうした方が、彼女達の幸せに決まってるでしょ。この先、逃れられない地獄を味わう位なら、ここで楽にしてあげないとね。黒須、レジのお金を、全部コレにー」
アオイは黒須に風呂敷を投げ渡す。
「…分かったよ。」
黒須は、レジの中の金を全て取り出し風呂敷で包んだ。
「黒須、これで全部…?」
「うん。レジは空だよ。」
カヤが急いで風呂敷を担ぐと、アオイは懐からマッチを取り出し火を放った。
「…ま、待て…」
重症者の一人が、アオイの足にまとわりついた。アオイは冷徹に睨みつけると、彼の顔面に蹴りをつけ、床に炎を放った。そして、黒須の手を引いた。
「カヤ、行くよ!」
二人は裏口にダッシュすると、小道に出てそのまま裏山目指してひたすら走った。
炎は燃え広がり、館全体がガラガラ揺れ柱がドミノ倒しになりそして崩れた。辺りは騒然となる中ー、二人はひたすら森の中の山道を走った。
しばらく走っていると、河原へと辿り着いた。二人はゼエゼエ息を切らしながら、風呂敷を下ろすと、近くの岩に腰を降ろした。
「しばらく、ここで休もう。」
「…うん。」
黒須は不安げに横を向いたが、アオイは大樹の様に堂々していた。
「アオイ、怖くないの…?捕まったら、死刑になっちゃうんだよ…」
黒須は、震えながら俯いた。自分は、生まれて初めて犯罪者となったというは事実に戦慄し、夢であって欲しいと右頬を引っ張った。頬は痛く、川に映し出された自分の顔を呆然となり眺めていた。
「怖くないよ。悪いのはアイツらだよ。それに、あんたは何もしてない。殺ったのは私。」
アオイは、堂々と言い放つ。彼女の表情から、恐怖心が微塵も感じる事がなく、寧ろ爽やかな感じであった。
「ホントに、殺るんだよな…私達…」
黒須は、声がか細く震えていたが何とか奮い立たせた。
「うん。今はまだ、始まりの終わりだからね。」
アオイの声は強かった。
月の光に照らされたアオイの顔は凛としており、マネキンの様に終始真顔であった。その目からは、何か悪魔と契約するかの様な強い決意が現れていた。
「消える…?なら、今の内に私が撃つしかないでしょう。」
サトコは、サジタリウスの引き金を引こうとする。
『あ、だめよ。今は真空状態なんだから。今撃つと時空が歪み次元がバラバラになっちゃうわよ。』
アリアは優しく諭す。
「どうなろうが、同じでしょう。何かが変わるわけではないんだから…」
『この霊はね…特殊なの。レアケースなのよ。
死霊になって彷徨っていた所を道化師に保護されたの。この子は、元々は貴方とおんなじ。あの娘はドジな子でね…それで事故にあったの。可哀想に…いても居なくてもおんなじで存在感がないから…事故の時も、周りに誰もいなかったのよ。風のような切ない羽虫のような存在。』
サトコはアリアのその気だるげで小馬鹿にしたような喋りから、何処かしら胸にチクチク突き刺さる様な感覚を覚えた。
「道化師は、何処にいるの?
」
『じゃあ、私のとこに来てよ。教えてあげるから。』
「嫌だ。私はまだ生きてるよ。」
サトコは声を強めた。
『あ~、結局みんなコレだ。教えてあげない。』
時は再び流れ、黒須と霊は再び動き始めた。黒須は鎌を振るい、縛り付けた霊に向かって弾丸の様なスピードで投げつけた。
ブーメランのように霊に
霊はうねうね触手を伸ばし、ブーメランひ跳ね返した。触手は波打ちギザギザ伸び、二人に襲いかかる。化け物は縛られる程、徐々にパワーアップしているようだった。
「ーまずい…コイツ、益々強くなりやがってる…」
黒須は汗だくになる。
霊は徐々に大きくなっていく。
黒須は術を解くと、鎌を構え化け物目掛けてロケットの様に突進し首を切り落とした。
すると、黒い竜巻の様な物が巻き上がり、二人は目を覆った。
辛うじて目を開けたーと化け物全身にヒビが入り、そして、粉々に粉砕された。
「誰かそこにいるのか…?」
黒須は辺りを見渡す。
アリアがさっき、何か仕掛けたのだ。そうとしか考えられなかった。しかし、どのタイミングで何の為にー?
黒須は、案山子に魂を転移させた。
「どうも、おかしい…映写機が断続的に止まって見えているようだ。私が次の行動をする前に、霊がいつの間にか急激に弱まったんだ。これは、第三者が時間を止めて介入したとしか…」
感の良い黒須は、時間を操作出来る何者かが関与したと確信した。
「ねぇ、私、声聴いたの…」
「どんな…?」
「アリアの…アリアの声だった…」
「…アリアの声かー?」
サトコは、事の一部始終を黒須に話す事にした。黒須は頷くと、顔を歪ませていた。
「アリアなら、やりかねないな…」
「…アリアは何者なんだろう?何でサエコの姿で私なんかに絡んでくるんだろう?」
サトコは、アリアと自分の接点を考えたが、中々共通項が見いだせなかった。
「サトコ、御守だ。ずっと身に付けとけ。」
黒須は、懐から御守を取り出した。
時刻は夕暮れ時ー。サトコは家に帰ると疲労がたまり、ぐったりしていた。身体に鉛の様なもので重くなっていた。しばらく横になった。
夜の七時頃、目を覚まし台所に向かう。すると、施設の中が騒がしくなった。
「どうしたの…?」
サトコは近くの職員に尋ねた。
「サトコちゃん、あのね…」
職員は、不安げにサトコに目配せした。
「アカリちゃん…?」
職員の視線の先には、10歳くらいの少女が、目の前の青年と楽しく談笑しているのだった。
周りは訝しがり、不安げにアカリを見つめていた。
「ねぇ、誰と話してるの?」
しかし、アカリはそれを無視し目の前の青年と楽しく談笑しているのだった。
サトコは、周りの不穏な空気と青年から感じる特殊なオーラとゾクゾクする感じから察知した。青年は紛れもなく霊だった。
「楽しそうだね。アカリちゃん、私も混ぜてくれるかな?」
サトコは恐る恐る話しかけるが、アカリはサトコを無視し青年と談笑し続けている。
「アカリちゃん。夕飯の時間だよ。」
施設の職員の人が、顔を引きつらせながらアカリに話しかけた。
「アカリちゃん…」
サトコは、意を決して青年に話しかけてみることにした。
「すみません…あなたは何処から来たのですか?」
青年は一瞬、サトコの方を見ると睨みつけた。その、睨みはにサトコは寒気が走った。まるで獲物を狙う狼のようであり、ゾクッとしたのである。
「サトコ…あなたまで…」
施設の職員が、顔を強張らせながらサトコに尋ねる。
サトコはズボンのポケットから、2丁のサジタリウスを取り出し、両手で構えた。
「お姉ちゃん、何してるの?」
周りの子供達は遠巻きにサトコを訝しがる。
サトコはゆっくり深呼吸をすると、引き金を引いた。玉はロケット花火のように光線を纏いながら青年の額に命中する。
しかし、青年の額は粘土の様にグニャグニャ歪み玉を吸収してしまったのだ。
「き、吸収した…?」
吸収すると、ブクブク身体は盛り上がり角が生え鬼の様な姿になった。
「黒須に、黒須に連絡しないと…」
サトコは、黒須から渡された通信機で連絡を取ろうとする。
ーしかし、繋がらないー。
すると、その場にいた者全員が、気絶したー。
ーと、たちまち青年の周りを赤い糸が取り囲んだ。糸には札がぶら下がっている。
「黒須!」
「悪い…ちょっと野暮用で、遅れちまった…」
窓が不思議と空き、そこには鎌を携えた黒須がしゃがんでいた。彼女の顔にうっすらあざができており、彼女はゼエゼエ荒い息を上げている。
「黒須…どうしたの?その痣…。」
「ちょっと、やっちまってな…また、すぐ楽になるから。」
黒須は、酷く苦しそうだった。
「ああ。私に案がある。」
「分かった。私はどうすればいい?」
すると、青年の身体は粘土細工のようになり巨大な丸い玉の様な形状になった。身体はボコボコと泡を立て、そして波打ち、粘土細工の様にグニャグニャしていた。
「ギャハハハハ!!!」
不気味な甲高い声が施設内に響き渡るー。まるで邪悪な悪魔が悪巧み嘲笑しているかのようである。
サトコは、サジタリウスの引き金を引き、再び玉を放った。化け物は泡立ちながらブクブク異臭を放ち、そしてドロ粘土のように不安定な形状になった。
黒須は鎌を携え、化け物目掛けて弾丸の様に突進していった。すると、化け物は大きな口を拡げて黒須を飲み込むと、べろりと舌なめずりした。舌から生臭い唾液が垂れている。そして、化け物の身体はブクブク泡の様になり、そして、八本の手脚がニョキニョキ生え、まるで蟹のようになった。
「黒須!!!」
化け物は、舌なめずりしながらサトコを見下ろしていた。
サトコはサジタリウスを連射したが、何度も打っても化け物の体内に吸収されてしまうー。まるで泥の沼のようである。
「…な、何で…?」
サトコは震えて脚がガクガクして固まっている。
ーと、その時だった。
化け物は悲鳴をあげると、粉々に爆発し、砂鉄の様な黒い塵を大量に巻き散らし消滅したのだった。
その黒い塵の中から鎖を携えた黒須が姿を現した。
「黒須、無事だったの…?」
「ああ。お前が玉を沢山ぶち込んでくれたお陰で、手間は省けたぞ。」
鎖は火花を放ち、消滅した。
「どうやったの?」
「奴の体内に毒と爆弾の様な物を仕込んだ。禁術だがな。奴は他の黄魔も吸収していたみたいで、その飲み込まれた黄魔にアレルゲンを吹き飛んだんだ。」
黒須は、息を切らしながら話している。
「黒須、大丈夫…じゃないね…?」
黒須の顔にほんのりと赤紫の痣が浮かびあがっていた。そして、彼女は突然ハッとし、身構えた。
「…黒須、どうしたの?」
すると突然、赤紫の炎が渦を巻き強い突風が巻き起こった。辺りにある物がたちまち一斉に吹き飛び、二人は目を閉じじっとすることしか出来なかった。
「黒須…何なの…?」
目の前には異形の怪物が翼を拡げて宙に浮いていた。身体の中央に大きな目玉があり、この周りを純白な翼が覆っていた。旧約聖書に出てくる上級天使の様な出で立ちである。
「お前は…ラプラス」
黒須は瞳孔を不安定に揺らしながら、2、3歩後退りする。
「ラプラス?化け物だよ…」
サトコはサジタリウスを構えると、
「いや、コイツは正真正銘の天使だ。」
「え…?」
「正式には、『アビスの天使』…別名『ラプラスの魔』だ。」
「アビス…ラプラス…」
「彼は、私とアオイを煉獄に落とした。私とアオイが地獄で暮らす変わりの条件として、私はハンターとして蘇った。およそ110年余りの間ー、私は800体以上の黄魔を狩ってきたんだ。」
「黄魔…?」
「亡者が魔人として蘇ったのが、黄魔と言われる存在なんだ。その黄魔を狩るのが私達ハンターの仕事なんだよ。」
「彼は、悪い奴なの…?」
「彼は全知全能の天使だ。私の上官だ。元々は私とアオイが巻き起こした事が発端なんだよ。」
黒須の額には汗が吹き出て滝のように流れていた。
「黒須カヤ、お前の仕事が鈍ってきたと思ったら、なるほど…小娘にうつつを抜かしてたとはな…」
ラプラスは、体内からドライアイスのように乾いた冷たくしわがれた声を発した。
「何言ってるんだい?私は…」
黒須は早口になる。
「私が知らぬとでも…?長年、冷淡なお前が、この娘がアオイそっくりで、お前の心が揺らいだ事もな…」
ラプラスは目玉をギョロリと動かし、サトコはゾッとした。彼の羽には無数の目玉がついており、その目玉はそれぞれ動いていた。
「私は、キチンと任務を遂行している。あんたに逆らった事はない。」
黒須は、強い口調で言い放った。
「私は、お前をずっと監視してるぞ…何かあったら、業火の炎でお前をアビスに落とす事だってできるのだよ。」
ラプラスはそう言うと、全身に赤紫の炎を纏い炎は渦を帯びて姿を消した。
時は江戸末期頃ー。
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「アオイ…!」
暗闇の向こうから、黒須が姿を表した。
「カヤ、やったよ…これで、私達…」
アオイの顔は清々しく、寧ろ安堵の表情が見られた。
「アオイ…お前…ホントにやったのか…?これからどうすんだよ?」
黒須は、恐る恐る近くの死体の胸に手を当てた。
「死体を燃やそう。そして逃げよう。その前に、お金だ!カヤ、レジからお金…早く!」
アオイは、そう言うと重症者や死体の懐から次々と財布をひったくる。
「確認なんたが…他の同僚達も殺るのか?仲間だろう?」
「そうした方が、彼女達の幸せに決まってるでしょ。この先、逃れられない地獄を味わう位なら、ここで楽にしてあげないとね。黒須、レジのお金を、全部コレにー」
アオイは黒須に風呂敷を投げ渡す。
「…分かったよ。」
黒須は、レジの中の金を全て取り出し風呂敷で包んだ。
「黒須、これで全部…?」
「うん。レジは空だよ。」
カヤが急いで風呂敷を担ぐと、アオイは懐からマッチを取り出し火を放った。
「…ま、待て…」
重症者の一人が、アオイの足にまとわりついた。アオイは冷徹に睨みつけると、彼の顔面に蹴りをつけ、床に炎を放った。そして、黒須の手を引いた。
「カヤ、行くよ!」
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炎は燃え広がり、館全体がガラガラ揺れ柱がドミノ倒しになりそして崩れた。辺りは騒然となる中ー、二人はひたすら森の中の山道を走った。
しばらく走っていると、河原へと辿り着いた。二人はゼエゼエ息を切らしながら、風呂敷を下ろすと、近くの岩に腰を降ろした。
「しばらく、ここで休もう。」
「…うん。」
黒須は不安げに横を向いたが、アオイは大樹の様に堂々していた。
「アオイ、怖くないの…?捕まったら、死刑になっちゃうんだよ…」
黒須は、震えながら俯いた。自分は、生まれて初めて犯罪者となったというは事実に戦慄し、夢であって欲しいと右頬を引っ張った。頬は痛く、川に映し出された自分の顔を呆然となり眺めていた。
「怖くないよ。悪いのはアイツらだよ。それに、あんたは何もしてない。殺ったのは私。」
アオイは、堂々と言い放つ。彼女の表情から、恐怖心が微塵も感じる事がなく、寧ろ爽やかな感じであった。
「ホントに、殺るんだよな…私達…」
黒須は、声がか細く震えていたが何とか奮い立たせた。
「うん。今はまだ、始まりの終わりだからね。」
アオイの声は強かった。
月の光に照らされたアオイの顔は凛としており、マネキンの様に終始真顔であった。その目からは、何か悪魔と契約するかの様な強い決意が現れていた。
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