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邂逅 ②
しおりを挟むその日同じ部署の人間が、事情聴取を受けた。サトコだけ何故か尋問されずに帰った。そして昼前に終わり帰宅した。例の三人組は、サトコを苛めていた人達である。幸い、三人の命は無事であった。まともに仕事を教えず、その他色んな場面でサトコに嫌がらせをしていたのだった。周囲の人間は気づいており、そのことを話したのだろう。サトコに十分殺す動機がある。
サトコは昼食をとり、やる事がなくただベットでウトウトしていた。ーするとまた、フワリとした居心地の良さを感じた。
サトコは教室の中にいたー。先生が授業を始める。ギラギラ太陽が照り付けている。蝉の鳴き声が煩い。後ろの席にはサエコがいる。サトコは、教科書とノートを開く。国語の小テストが始まった。サトコは何故か答えが分かり、スラスラ解けた。授業もちゃんとついてこれた。今までのサトコにはありえないことだった。しかし、できる自分が当然のように感じられた。先生が答えを回収し、チャイムが鳴った。
「お詫びはちゃんとしといたからね。」
サエコが話しかけた。
「うん、勉強教えてくれてありがとう。」
サエコが首を横に振る。
「ううん、そうじゃなくてー。」
「じゃあ…、その“お詫び”って何?」
サエコは意味深に微笑んだー。
「あとで教えてあげる。」
サトコにはその“お詫び”の意味が理解できないでいた。
学校の帰り際、工場を見かけた。灰色の煙がモクモク吹き出ている。現実ではサトコの勤務場所であるが、サトコはどうでもよく思ったのだった。二人はイチゴクレープを手にし、自転車を引いている。
「このクレープ、おいしいね。」
サエコがえくぼを見せる。
「うん、、、凄くおいしい。」
サトコは、ムシャムシャ頬張った。
工場が視界に入った。何か厭な感じがした。しかし、その原因何なのかサトコは忘れていた。
サエコは、立ち止まった。
「ごめん、ちょっと用があるから先に行ってて」
「何…?バイトの面接?」
「うん、そんなとこ。」
「近くのコンビニで暇してるよ。」
「いや…、けっこう時間がかかるみたいだからさ。」
サエコは首を横に振った。
サトコは見送り、帰宅した。ふと、微かに胸騒ぎがしたが、気のせいだろうと思い、帰宅した。
ーーーーと、どこからかけたたましくベルの音が鳴り響いた。
サトコは目覚ましとともに起きた。昨日の夢の続きなのだろうか?凄く充実した夢であった。
外は大分薄暗くなっていた。サトコは着替え、学校へ向かった。未だにあのデジャブが気になっていた。サトコは昔から音に敏感な方だ。別れ際、サエコの鞄の中から微かにガチャガチャ音が漏れていた。何か金属が擦れる様な音がしたような……。しかし、所詮は夢。サエコはあの事件とは無関係だと、サトコは思った。
サトコは夕食を食べ、シャワーを浴びた。
そしてまた、意識は遠ざかるー。
サトコは身支度をし、学校へ向かう。門の前でサエコが待っていた。
「面接どうだった……?」
「うん……、まあまあかな?」
「サエコなら大丈夫だよ。」
「ありがとう。」
二人は自転車をこぐ。外は蒸し暑い。太陽が容赦なく二人を照りつける。蝉も相変わらず煩い。川の土手では、野球少年が声を張り上げ、ランニングをしている。
ふと、サトコは思い出したように例の件について、軽い気持ちで聞いてみた。
「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど、サエコの鞄の中身が気になっててー。」
サエコははにかんだ笑顔を見せた。
「ああ、私最近DIYにはまってて、学校でも花壇を作ったりしてるんだ。」
「…そうなんだ」
あのか弱そうなサエコがそんなことをしていたとは意外だった。
二人は学校に着いた。教室では相変わらず威勢のよい声が飛び交っている。チャイムが鳴り先生が入る。そして、身体がフワリと浮いた。
サトコはまた現実に引き戻された。微かに口の中で甘い味がした。ー何か、変な夢だった。サエコがDIYなんて笑えるよね……。サエコは生前おしとやかで活動的なイメージがが全くわかなかった。肌は白く身体は華奢でまるで人形のような感じだった。どちらかというとそんな感じの少女だった。
サトコはしばらく工場は休みだった。サトコは居間に降り、テレビのニュースを付けた。職員の人がテレビに釘付けになっている。キャスターが読み上げる。
『今朝がた、桜木工場の女子寮で人が次々に刃物で切りつけられれる事件が発生しました。被害者はS市在住の桜庭あやさん(23)で…』
一体、どうなってるのだろうー。自分に嫌がらせをしてきた人間が、次々と制裁を受けている。天罰で片付けるにも、こんな都合の良いことがあるのだろうか…。
サトコはいてもたってもいられず、工場へ向かった。
サトコは警官の目を盗んでテープを掻い潜り、中へ入った。女子寮の階段を上がリ、一人一人の部屋を拝見する。サトコは桜場、下川、宮野の順に回った。こじんまりとした8畳2間の和室の中で、辺り一面に血飛沫の跡があった。サトコは事の残酷さを思い知った。
すると、またキーンと、音がした。まただ……。サトコは偏頭痛がした。
夢の中ではこれが夢だと気づかないー。
しかし、此処で分かったことがある。現実にあるものは夢に反映されるということだ。例えば、現実で黄色いテープが張られていると、此れが夢に反映される。どうやら印象深いことが、反映されるようだ。
サトコは外に出ると、自転車を飛ばした。そして、わざと思いっきり転倒してみた。帰宅し一目散に階段をかけ上がり、部屋に入った。赤のマジックで『これは夢』と書いて、目をつぶる。
サトコは教室にいた。授業が始まる。サトコは淡々と授業をこなしていた。
帰り道、サトコはサエコとイチゴクレープを片手に自転車をひいていた。途中で工場が見える。
サエコが急に立ち止まり、訝しがる。
「サトコ、この傷どうしたのー?」
そういえば、さっきから右の脛がズキズキする。確認すると、大きな擦り傷がある。
この傷一体、何処でつけたのだろうー?
サエコは鞄の中からウエットティッシュを取り出した。
「ありがとう。」
サトコは拭き取った。
ーあれーーー?
左の手のひらに赤のマジックで大きな落書きみたいなものがある。よく見ると、“これは夢”と、書いてあった。
しばらく歩くと道なりに桜木工場がある。サエコは立ち止まり、
「ちょっと、待っててね。」
と、中へ入っていった。
サエコの鞄の中は、相変わらずカシャカシャ音がする。
サトコの脳内で、何かがピーンと弾けた。いてもたってもいられず、黄色いテープを搔い潜り、そっとサエコの後をついていくことにした。
サエコは裏口へ回り、鍵をあけドアを開ける。長く薄暗い廊下を歩く。天井の電球が微かにカチカチ点滅しており、異様な静けさが漂った。サエコは階段を上がると、寮の中へ侵入した。階段はギシギシ音がする。サトコは見つからないように慎重に尾行する。そばにある棚に隠れ、様子を見ることにした。
サエコは奥の部屋の前に立った。『木村恵美子』という名札がぶらさがっている。木村恵美子はよくヒステリーを起こし、人の悪口をよく言う人だ。何かあると人のせいにしてサトコはよく被害に遭っていたのだった。
サエコは軽くノックをする。サトコの心臓はズキリとした。サトコは強張り、身体は動けなくなっていた。
ーダメダメダメ、やめてーーー!!
ドアをキーと音を立て、木村が不機嫌そうな顔で出てきた。
「…すみません、どちら様ですか?」
サエコが微笑む。
「此処の従業員の者です。これ、差し入れです。」
「あっそ。」
木村は訝しがりながらも、小堤を受け取った。サトコは力を振り絞り、叫んだ。
「サエコ!!」
サエコが振り向いた。
「サトコ、ダメだよ。ここから先は私の領域なんだから。」
サエコは諭すように穏やかに話した。サトコは全身に力を込めた。しかし、動けない。
すると、木村の部屋が大きく爆発した。長い廊下に白い煙が充満し、木村の部屋から炎がメラメラ吹き出ている。
サエコは閃いたように、
「そっか。皆、爆発させればいいのね。」
と、微笑んだ。
バーーーンと深い地響きのような音を立て、辺り一帯が炎の渦に飲み込まれた。
サトコは目を覚ました。目覚ましの針は午後五時を指している。全身汗ばんでおり、目まいを覚えた。
そういえば、今日は学校休みの日だ。サトコは軽く身なりを整え、居間に降りた。
居間では人がテレビの前に5,6人ほど集まってた。
テレビの中では、女性アナウンサーが深刻そうな顔をし、話しをしていた。画面右上には赤い文字で“緊急”と、テロップが入っている。
『えー、先ほどお伝えしたように、今日の夕方、М県の桜木工場の寮内で爆発があり、5名が負傷しました。犯人は未だ分かってない模様です。では、現場にいる佐々木さん!』
テレビの画面が切り替わり、桜木工場の寮が映し出された。マイクを持った中年の男がせかせか話す。
『はい、此方桜木工場です!この寮はもう跡形もなくー』
サトコの予感は的中したー。サエコのしたことがが現実になるー。しかし、肝心のサエコは夢の中にしか現れない…。どうすればいいのか・・・。現実でサエコのことを話すにも、信じてもらえそうにはないだろう。肝心な本人が現れないと…。
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