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戦慄の幕開け ①
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翌朝の天気は、快晴だった。
今日も、いつも通り、朝食を食べパン屋で仕事する。
クリームシチューとパンがより一層美味しく感じ、ヒカリは味を噛み締めて食べた。
「ヒカリちゃん、大分、慣れてきたんじゃないの…?」
モルガンが、微笑む。
「あ、ありがとうございます。」
モルガンの温かさが、ヒカリの胸に染みた。
洗い物の手伝いをし、ディスプレイにパンを並べ仕事に取り掛かった。
今日は、平穏な空気に包まれた。
ーもう、これで最後なんだ…
バイクの音が鳴り、赤ずきんが戻ってきた。
「ただいまー」
「お帰りなさい。そろそろ、お茶でもしましょうか?」
「おう。」
赤ずきんは、モルガンに代金を手渡す。
モルガンは、キッチンに向かいお茶とクッキーを用意する。
ヒカリはハッとし、スマイルウォッチを確認する。
今は、15時50分だ。
ーそう言えば、そろそろ時間だ…
時刻は、16時に近づいていく。
自分は、そろそろ消えるのだ。
楽しくて、時間が経つのを忘れ、すっかりその事を忘れていた。
もっと2人と、仲良く話がしたかった。
「二人とも、あ、ありがとうございます!」
「え…?」
「どうしたのよ?こんなに、かしこまっちゃって…」
二人は、首を傾げてヒカリを見ている。
「丁度、クッキーが焼けたみたい。」
モルガンが、クッキーと紅茶を持ってやって来た。
ヒカリは、紅茶を飲み干しクッキーをつまみその味を噛み締める。
「そういえば、今日、いよいよ祭りの日が来るわね。」
「はいはい、だからそういうのは行かねーって、言ってんだろ…」
「ヒカリちゃんの相手して欲しいの…」
「は?」
「だから、エスコートを…ダンスとか…ほら、ヒカリちゃん可愛いから、知らない男からナンパされたりしたら、可哀想でしょ?」
「わーったよ…お前は、キールと、ヨロシクやってろよ。おい、ヒカリ、お前、踊れるのか?…」
ーそろそろお別れだ…
ヒカリは、ごくりと唾を飲み込む。
スマイルウォッチは、15時57分を刻んだ。
ヒカリは、俯き紅茶を啜った。
身体の芯から、熱いもので満たされてくる。
心が温まる。
今まで、こんなにもてなしてもらったのは、何年ぶりだろうー?
泥の着いたボロ雑巾のような扱いの孤独な自分が、こんなに歓迎されたことが、とても信じられない。
でも、これも、今、夢で終わるー、
こんなに開放的になり、人との関わりを心の底から楽しんだのは、転生して初めてだった。
自分には、贅沢な至福のひとときだった。
スマイルウォッチは、59分を刻んだ。
もう、そろそろ時間だ…
ヒカリは、深呼吸し目を閉じた。
ーありがとう…
「…カリ!おい、ヒカリ!」
ーえ…?!
自分は、ここに居る。
ー何で…?!
期限が経過したのに、自分はまだここに居る。
スマイルウォッチは、16時01分を刻んでいた。
「おい、聞いてるか!?」
赤ずきん
「あ、はい…」
遠くの方から響き渡る赤ずきんの声に、ヒカリはハッとする。
「どういう事…」
「お前、踊れるのかって聞いてんだよ?」
「え…?いえ…全然…」
時刻は、2分、3分と、時を刻んでいた。
ーどうなってるんだろう…?
「ヒカリ、この後、軽く練習するか…?」
「は、はい…」
お茶の時間が終わると、ヒカリは裏庭でダンスの練習をすることになった。
「まず、左足を回し…次に右手を、こうだな…」
「はい…」
ヒカリは、赤ずきんのお手本通りに身体を動かすが、思うように身体が回らないー。
「うわっ…」
ヒカリは大きくヨロケ、仰向けに転倒した。
「お前、ホントに初心者なんだな…」
赤ずきんは、ヒカリを抱き起こすと、呆れ顔でヒカリを見ている。
「はい、ゲームですらやった事なくて…」
「ゲーム…?」
「え、いえ、やったことありません。そういえば、赤ずきんさんは、一緒に踊る相手、居ないんですか…?赤ずきんさんのような美貌の持ち主なら…」
「ふん、そんなのに興味無いね。恋愛なんかに全く興味無い。あたしのやりたいのは、バトルだ。」
「なるほど、ですね…」
ヒカリは、口を詰まらせた。
今までに見てきた、おとぎ話の赤ずきんのイメージとは対称的であり、ヒカリは口を詰まらせた。
祭りは、賑わいを見せていた。
赤、黄、緑、青、紫などのカラフルな飾りが祭りの雰囲気を演出させた。
髑髏のような奇妙なお面を被った者やベネチアの祭を彷彿とするお面を被った者が練り歩き、巨大なドラゴンや精霊などを象った雄大で優美な山車が村の中を幻想的に彩った。
アコーディオンや鍵盤ハーモニカ、フルートやホルンなどの楽器の意気揚々とした音色が、場の空気を華やかに演出した。
酒場やスイーツ屋、肉屋屋などの屋台が立ち並び、独特な雰囲気に包まれた。
酒に酔って上機嫌な者や、はしゃぎ回る子供、ワイワイ盛り上がってる若者達、カップル同士良いムードになっている者まで居た。
「わあー結構、賑やかなんですね…」
ヒカリは、瞠目し眼を輝かせた。
「そうね。村の英雄の生誕祭でだからね。」
「英雄…?」
「ええ。古くからの言い伝えで、ジークという英雄が、獰猛な魔人達を追い払ったって、有名なの。」
「それは、凄いですね…そういえば、赤ずきんさんは、まだ来ないんですか?」
「ええ。彼女なら、村人達と祭りの打ち合わせなどをしていてね。」
「結構、頼られてるんですね…彼女は、何者なんですか?」
何故かは分からないが、赤ずきんについて、よく知りたくなってきた。
「彼女は、昔、軍隊にいた事があるの。それで、リーダーにまで上り詰めた経歴があるのよ。」
「…え、軍隊のリーダーですか?」
「赤ずきんは、12歳の頃、狼におばあちゃんを襲われて、守れなかった自分を、とても悔いて軍隊に入ったの。家出しておばあちゃんと2人で育ってきたから、おばあちゃん子なのよ。軍隊に入団して、あれから7年もの間、修行に修行を重ねて、そしてトップに上り詰めたのよ。今じゃ、村の者の人気者なの。ふふ、おかしな経歴でしょ…?」
「…そうなんですね…」
奇妙な人間もいるものだと、ヒカリは感じた。
彼女は、第一印象から経歴まで破天荒で強烈な人間だ…
しかしながら、自分のようなふわふわして現実逃避がちな人間とは、到底釣り合う筈がない。
高確率で、苛つく筈だ。
自分は、甘えてばかりいないで、そろそろ大人として振舞った方が良いのだろうかー?
ヒカリは、取り敢えず、外見は気に入ってるからそのままにして、今後、22歳として振る舞う事にした。
「あー悪い悪い、今、来た。さっき、あそこの赤い旗の所にキールが居たから、行ってみろよ?」
「そうね、じゃあ、お言葉に甘えて…ゴメンね…ヒカリちゃんの事をヨロシクね。」
モルガンはそう言うと、恥ずかしそうに顔を赤らめキールの所へと向かった。
ーうわ…怖い…
赤ずきんは、悪い人ではないが強烈な威圧感があるのだ。
彼女はドスが効いており、どうもヤが付く人にしか見えない。
彼女と二人きりだと、何話したら良いか分からなく、冷や汗が流れる。
こちらのマニアックなオタク話には、苦虫を噛み潰したような顔をすることだろう。
全身に冷や汗が流れ出てくる。心臓がバクバク鳴り響く。
そうこうしている内に、ダンスの催し物の時間がやってきた。
逃げ出したくなったが、その場に居る者全員が乗り気でヒカリの胃は収縮し始めた。
赤ずきんは、主催者側だから踊らない訳にはいかないだろうー。
「しょうがねぇ…じゃあ、やるとするか…」
「…」
ヒカリは赤ずきんに引き摺られ、しぶしぶ踊りに参加した。
「だから、お前は、こっちだ!」
「わっ、すみません…」
赤ずきんは、イラついたように強引にヒカリをリードする。
ヒカリは、右に左に赤ずきんに、半ば乱暴に振り回されている。
ヒカリは、戦慄が走り目が回りフラフラになる。
倒れそうになった時、赤ずきんのローブを引っ張った。
「うわ…ゴメンなさい…」
ふと、彼女の首筋に蠍のようなタトゥーがあるのが見えた。
「全く…気をつけろよ。」
赤ずきんは、顰めっ面でローブをつけ直した。
祭りは、佳境に入り大盛り上がりを見せていた。
ヒカリは赤ずきんと行動を共にしていたが、終始奇妙な緊張感で包まれていた。
会話も弾まず、ヒカリの胃は収縮しっぱなしだった。
「ちょっと、終わりの打ち合わせがあるから、ここで待ってな。この辺りは、変な人は居ない筈だから安全な筈だ。」
「分かりました。」
ヒカリは、赤ずきんが居なくなると、深く安堵のため息をついた。
木陰の向こう側から、男二人の深鬱そうな声が漏れ出てきた。
「最近、サジタリウスの連中が、この辺りを嗅ぎ回って居るらしいな。」
「ああ、そうだな…何だか、物騒になってきたよな。ずっと、行方をくらましていた筈なのだが…」
ヒカリは、興味本位に意を決して二人に話しかけてみることにした。
「あの…サジタリウスって、なんですか…?」
「お前、それを知らないのか?サジタリウスってのは、最恐の戦闘集団だよ。要は、殺し屋集団さ。」
「ああ。そうさ。人を食い殺すとも言われてるんだ。ほら、これを見てみろ。」
「はい…?」
ヒカリは、男の一人からビラを受け取りその内容に目を通す。
ビラの中から、映像が立体的に浮かび上がってきた。
その戦いぶりは、強烈だった。
鎌を振り回し、巨大なドラゴンを一刀両断する者や、500メートル離れた所から見事に獲物の額に弾丸を当てる物、爆弾で街を混乱に陥れる者、1人で数十体の魔人の相手をし葬る者、錬金術か魔力の力を使い、巨大な風の刃で建物を次々と破壊する者など、様々いた。
「奴らは、最恐と恐れられてる戦闘集団だよ。並の者の三倍以上の戦闘能力があり、全員魔力を有している。依頼の成功率は、100パーセント、約束を破り口外すると、確実に殺される。奴等は、魔人と人とのハーフ、キメラだとも言われているんだ。彼等、一人一人の身体の一部に蠍を象ったタトゥーがあるんだ。」
「そうなんですね…」
これは、前世でよく見てきたハリウッドやファンタジー作品のゾンビや魔物を駆逐する、アクション物に匹敵する、強烈な光景だ。
自分のような、インドアなオタクなら完全に殺されていたことだろうー。
そういえば、赤ずきんの左首筋に蠍のようなタトゥーがあった。
ーまさかね…自分を助けてくれた恩人だし、幾ら怖い人だとしてもね…
と、ヒカリは苦笑いをした。
今日も、いつも通り、朝食を食べパン屋で仕事する。
クリームシチューとパンがより一層美味しく感じ、ヒカリは味を噛み締めて食べた。
「ヒカリちゃん、大分、慣れてきたんじゃないの…?」
モルガンが、微笑む。
「あ、ありがとうございます。」
モルガンの温かさが、ヒカリの胸に染みた。
洗い物の手伝いをし、ディスプレイにパンを並べ仕事に取り掛かった。
今日は、平穏な空気に包まれた。
ーもう、これで最後なんだ…
バイクの音が鳴り、赤ずきんが戻ってきた。
「ただいまー」
「お帰りなさい。そろそろ、お茶でもしましょうか?」
「おう。」
赤ずきんは、モルガンに代金を手渡す。
モルガンは、キッチンに向かいお茶とクッキーを用意する。
ヒカリはハッとし、スマイルウォッチを確認する。
今は、15時50分だ。
ーそう言えば、そろそろ時間だ…
時刻は、16時に近づいていく。
自分は、そろそろ消えるのだ。
楽しくて、時間が経つのを忘れ、すっかりその事を忘れていた。
もっと2人と、仲良く話がしたかった。
「二人とも、あ、ありがとうございます!」
「え…?」
「どうしたのよ?こんなに、かしこまっちゃって…」
二人は、首を傾げてヒカリを見ている。
「丁度、クッキーが焼けたみたい。」
モルガンが、クッキーと紅茶を持ってやって来た。
ヒカリは、紅茶を飲み干しクッキーをつまみその味を噛み締める。
「そういえば、今日、いよいよ祭りの日が来るわね。」
「はいはい、だからそういうのは行かねーって、言ってんだろ…」
「ヒカリちゃんの相手して欲しいの…」
「は?」
「だから、エスコートを…ダンスとか…ほら、ヒカリちゃん可愛いから、知らない男からナンパされたりしたら、可哀想でしょ?」
「わーったよ…お前は、キールと、ヨロシクやってろよ。おい、ヒカリ、お前、踊れるのか?…」
ーそろそろお別れだ…
ヒカリは、ごくりと唾を飲み込む。
スマイルウォッチは、15時57分を刻んだ。
ヒカリは、俯き紅茶を啜った。
身体の芯から、熱いもので満たされてくる。
心が温まる。
今まで、こんなにもてなしてもらったのは、何年ぶりだろうー?
泥の着いたボロ雑巾のような扱いの孤独な自分が、こんなに歓迎されたことが、とても信じられない。
でも、これも、今、夢で終わるー、
こんなに開放的になり、人との関わりを心の底から楽しんだのは、転生して初めてだった。
自分には、贅沢な至福のひとときだった。
スマイルウォッチは、59分を刻んだ。
もう、そろそろ時間だ…
ヒカリは、深呼吸し目を閉じた。
ーありがとう…
「…カリ!おい、ヒカリ!」
ーえ…?!
自分は、ここに居る。
ー何で…?!
期限が経過したのに、自分はまだここに居る。
スマイルウォッチは、16時01分を刻んでいた。
「おい、聞いてるか!?」
赤ずきん
「あ、はい…」
遠くの方から響き渡る赤ずきんの声に、ヒカリはハッとする。
「どういう事…」
「お前、踊れるのかって聞いてんだよ?」
「え…?いえ…全然…」
時刻は、2分、3分と、時を刻んでいた。
ーどうなってるんだろう…?
「ヒカリ、この後、軽く練習するか…?」
「は、はい…」
お茶の時間が終わると、ヒカリは裏庭でダンスの練習をすることになった。
「まず、左足を回し…次に右手を、こうだな…」
「はい…」
ヒカリは、赤ずきんのお手本通りに身体を動かすが、思うように身体が回らないー。
「うわっ…」
ヒカリは大きくヨロケ、仰向けに転倒した。
「お前、ホントに初心者なんだな…」
赤ずきんは、ヒカリを抱き起こすと、呆れ顔でヒカリを見ている。
「はい、ゲームですらやった事なくて…」
「ゲーム…?」
「え、いえ、やったことありません。そういえば、赤ずきんさんは、一緒に踊る相手、居ないんですか…?赤ずきんさんのような美貌の持ち主なら…」
「ふん、そんなのに興味無いね。恋愛なんかに全く興味無い。あたしのやりたいのは、バトルだ。」
「なるほど、ですね…」
ヒカリは、口を詰まらせた。
今までに見てきた、おとぎ話の赤ずきんのイメージとは対称的であり、ヒカリは口を詰まらせた。
祭りは、賑わいを見せていた。
赤、黄、緑、青、紫などのカラフルな飾りが祭りの雰囲気を演出させた。
髑髏のような奇妙なお面を被った者やベネチアの祭を彷彿とするお面を被った者が練り歩き、巨大なドラゴンや精霊などを象った雄大で優美な山車が村の中を幻想的に彩った。
アコーディオンや鍵盤ハーモニカ、フルートやホルンなどの楽器の意気揚々とした音色が、場の空気を華やかに演出した。
酒場やスイーツ屋、肉屋屋などの屋台が立ち並び、独特な雰囲気に包まれた。
酒に酔って上機嫌な者や、はしゃぎ回る子供、ワイワイ盛り上がってる若者達、カップル同士良いムードになっている者まで居た。
「わあー結構、賑やかなんですね…」
ヒカリは、瞠目し眼を輝かせた。
「そうね。村の英雄の生誕祭でだからね。」
「英雄…?」
「ええ。古くからの言い伝えで、ジークという英雄が、獰猛な魔人達を追い払ったって、有名なの。」
「それは、凄いですね…そういえば、赤ずきんさんは、まだ来ないんですか?」
「ええ。彼女なら、村人達と祭りの打ち合わせなどをしていてね。」
「結構、頼られてるんですね…彼女は、何者なんですか?」
何故かは分からないが、赤ずきんについて、よく知りたくなってきた。
「彼女は、昔、軍隊にいた事があるの。それで、リーダーにまで上り詰めた経歴があるのよ。」
「…え、軍隊のリーダーですか?」
「赤ずきんは、12歳の頃、狼におばあちゃんを襲われて、守れなかった自分を、とても悔いて軍隊に入ったの。家出しておばあちゃんと2人で育ってきたから、おばあちゃん子なのよ。軍隊に入団して、あれから7年もの間、修行に修行を重ねて、そしてトップに上り詰めたのよ。今じゃ、村の者の人気者なの。ふふ、おかしな経歴でしょ…?」
「…そうなんですね…」
奇妙な人間もいるものだと、ヒカリは感じた。
彼女は、第一印象から経歴まで破天荒で強烈な人間だ…
しかしながら、自分のようなふわふわして現実逃避がちな人間とは、到底釣り合う筈がない。
高確率で、苛つく筈だ。
自分は、甘えてばかりいないで、そろそろ大人として振舞った方が良いのだろうかー?
ヒカリは、取り敢えず、外見は気に入ってるからそのままにして、今後、22歳として振る舞う事にした。
「あー悪い悪い、今、来た。さっき、あそこの赤い旗の所にキールが居たから、行ってみろよ?」
「そうね、じゃあ、お言葉に甘えて…ゴメンね…ヒカリちゃんの事をヨロシクね。」
モルガンはそう言うと、恥ずかしそうに顔を赤らめキールの所へと向かった。
ーうわ…怖い…
赤ずきんは、悪い人ではないが強烈な威圧感があるのだ。
彼女はドスが効いており、どうもヤが付く人にしか見えない。
彼女と二人きりだと、何話したら良いか分からなく、冷や汗が流れる。
こちらのマニアックなオタク話には、苦虫を噛み潰したような顔をすることだろう。
全身に冷や汗が流れ出てくる。心臓がバクバク鳴り響く。
そうこうしている内に、ダンスの催し物の時間がやってきた。
逃げ出したくなったが、その場に居る者全員が乗り気でヒカリの胃は収縮し始めた。
赤ずきんは、主催者側だから踊らない訳にはいかないだろうー。
「しょうがねぇ…じゃあ、やるとするか…」
「…」
ヒカリは赤ずきんに引き摺られ、しぶしぶ踊りに参加した。
「だから、お前は、こっちだ!」
「わっ、すみません…」
赤ずきんは、イラついたように強引にヒカリをリードする。
ヒカリは、右に左に赤ずきんに、半ば乱暴に振り回されている。
ヒカリは、戦慄が走り目が回りフラフラになる。
倒れそうになった時、赤ずきんのローブを引っ張った。
「うわ…ゴメンなさい…」
ふと、彼女の首筋に蠍のようなタトゥーがあるのが見えた。
「全く…気をつけろよ。」
赤ずきんは、顰めっ面でローブをつけ直した。
祭りは、佳境に入り大盛り上がりを見せていた。
ヒカリは赤ずきんと行動を共にしていたが、終始奇妙な緊張感で包まれていた。
会話も弾まず、ヒカリの胃は収縮しっぱなしだった。
「ちょっと、終わりの打ち合わせがあるから、ここで待ってな。この辺りは、変な人は居ない筈だから安全な筈だ。」
「分かりました。」
ヒカリは、赤ずきんが居なくなると、深く安堵のため息をついた。
木陰の向こう側から、男二人の深鬱そうな声が漏れ出てきた。
「最近、サジタリウスの連中が、この辺りを嗅ぎ回って居るらしいな。」
「ああ、そうだな…何だか、物騒になってきたよな。ずっと、行方をくらましていた筈なのだが…」
ヒカリは、興味本位に意を決して二人に話しかけてみることにした。
「あの…サジタリウスって、なんですか…?」
「お前、それを知らないのか?サジタリウスってのは、最恐の戦闘集団だよ。要は、殺し屋集団さ。」
「ああ。そうさ。人を食い殺すとも言われてるんだ。ほら、これを見てみろ。」
「はい…?」
ヒカリは、男の一人からビラを受け取りその内容に目を通す。
ビラの中から、映像が立体的に浮かび上がってきた。
その戦いぶりは、強烈だった。
鎌を振り回し、巨大なドラゴンを一刀両断する者や、500メートル離れた所から見事に獲物の額に弾丸を当てる物、爆弾で街を混乱に陥れる者、1人で数十体の魔人の相手をし葬る者、錬金術か魔力の力を使い、巨大な風の刃で建物を次々と破壊する者など、様々いた。
「奴らは、最恐と恐れられてる戦闘集団だよ。並の者の三倍以上の戦闘能力があり、全員魔力を有している。依頼の成功率は、100パーセント、約束を破り口外すると、確実に殺される。奴等は、魔人と人とのハーフ、キメラだとも言われているんだ。彼等、一人一人の身体の一部に蠍を象ったタトゥーがあるんだ。」
「そうなんですね…」
これは、前世でよく見てきたハリウッドやファンタジー作品のゾンビや魔物を駆逐する、アクション物に匹敵する、強烈な光景だ。
自分のような、インドアなオタクなら完全に殺されていたことだろうー。
そういえば、赤ずきんの左首筋に蠍のようなタトゥーがあった。
ーまさかね…自分を助けてくれた恩人だし、幾ら怖い人だとしてもね…
と、ヒカリは苦笑いをした。
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