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天使のような悪魔

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    その夜、マコトは吐き気がする位重苦しい夢にうなされていた。

 彼は古びた洋間の中でぼんやり立っていた。洋間は12畳位の広さであり、家具にはうっすら埃ほこりがのっていた。暗がりの部屋の一部の壁には、分不相応な広大な鏡が一面に広がっていた。鏡には、自分の姿ではなく、うっすらと少女の姿がある。歳は10歳から12歳位だろうかー?ツバの傷んだとんがり帽子に、古びたスカーフ、ダブダブのローブを身に纏って《まとって》いる。目元はツバで殆ど見えないー。マコト頭に鋭い針が突き刺さる様なキーンとしたものを感じた。

マコトの心臓の鼓動は昂り、感情の潮が迸った。鏡の中の少女は、にっこり微笑む。


ーコイツは、昔、ダチを殺した奴だー!ー

昔の、森の中での思い出が、フラッシュバックの様に鮮やかに蘇った。

『こんにちは。天野マコト君。』
蜜のように甘ったるくねっとりした感じの声である。
『お前、あの時の殺人鬼だな!!!』
『あらぁ、それは言いがかりよ。私、何もしてないわ。あの子達が勝手に死んでいったのよ。』
少女は、天使のように無垢な顔でキョトンと首を傾げた。
『嘘だろ!!!お前が殺したんだろ!!!』
マコトは歯軋りをして、鏡をドンドン叩いた。
『叩いたって、私に攻撃なんか効かないわ。』
少女は小馬鹿にした様な口調で微笑んでいる。
『彼等は弱いから、自滅していったのよ。そして、食べられたー。』
『俺は、友達に約束したんだ。仇を打つってな。そして、微塵に切り刻んでやるってー。』
『フフ・・・。昔の貴方みたいね。『微塵に切り刻んでやる』ってー。』
少女は、無邪気に笑う。
『これが、本当のあなたよー。思いださせてあげるわ。』
すると、鏡の中に映っているものは、少女は暗闇に包まれ、徐々に姿を消していき、それから、大太刀を担いだ長身の男に切り替わった。
『誰だ、こいつは?・・・ー』
『あら、何言ってるの?あなたよ。沢山食い殺?美味しそうに、ムシャムシャとー』
少女はほくそ笑むー。
『誰なんだお前は!?ー』
『あたし?昔からいるじゃない?忘れたの?ー』
『この男は誰だ?俺の父か?』
『これは、本来のあなたの姿よ。あなたは無様に処刑されたけどー、まあ、凄くそそられたわ。』
少女は両頬にてを当ててうっとりしている。
『俺の足元の髑髏は、骨の山は何なんだー?』
『あなたの食い殺してきた人達よ。』


ー!?ー


『あなたのしてきた事は、恥ずかしい事じゃないわ。だって、人間だって動物殺して食べてるでしょ?それと、同じー。何も変わらないわー。』
少女は、天使の様な優しさで、宥めるように話した。
『それ、屁理屈だろ!だから、コイツは誰なんだ!?』
すると、たちまちドクンと心臓が再び脈打つー。雷に打たれ方の様な衝撃を感じたー。
『あら、汗かいてるわよ。思い出した?』
少女は、見透かしたかの様にほくそ笑む。天使の様な顔で悪魔の様な表情をしていた。
 鏡に映っている人を見ると忌々しい戦慄を覚えると共に、デジャブの様な感覚を覚えたのだ。
    空は黒に近い鉛色で、大雨が滝のように降り注いでいた。所々に、雷でピカピカ光っていた。その空の元、廃墟の広場で大太刀を担いで得意気に仁王立ちしている自分がそこにいた。自分の足下には人骨の山が、冷たく無残に積み重なっているのが見えるー。この髑髏は自分とはどのような間柄なのかは分からないー。ただ、自分より弱かったというのは直感で分かった。コイツラは自分に狩り取られる立場だかから、食われたのだ。自分等が食物連鎖の頂点なのだ。少し食べ過ぎたと、思うことがある。しかし、自分らよりも弱者だから、仕方ないのである。コイツらは弱い人間だから、仕方ないのである。自分は、一体何者だろうかー?何か、悪い事をした様な感じがするが、今の自分とは関係のない事じゃないのかー?
『今は、まだいいのよ。天野マコト。あとは、ゆっくり覚えていきましょう。』
少女の甘く柔らかい声が木霊し、部屋中を反響していたー。
マコトはクラクラ立ちくらみを覚え、辺りがフィルターのかかったかのように曇っていったー。

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