堕天使と悪魔の黙示録

ミヤギリク

文字の大きさ
上 下
35 / 42

私の中のパンドラ ①

しおりを挟む
 ミライは長い間、組織のドーベルマンに過ぎなかった。
 彼女は、今まで離反したジェネシスに重症を負わせ、コントロールし再起不能にしてきた。
睨みを効かせ噛みつき、そして痛め付けてなぶるー。それは、組織からの絶対命令であり、自分の仕事でもあったからだ。
 しかし…唯一つー、誰も殺すことはできなかった。それは、自身の脳の深い深層心理の一つなのだろうー。どんなに命令されても、殺す直前で、手足が強い力で引っ張られるように動かなかったのだ。
 しかし、自分は組織に重宝され沢山同胞に手を上げた事は事実なのだ…。周りは戦慄し彼女の事を魔女だと、震撼していたのだ。
ミライは洗脳が溶けた今、自分の中にはどす黒い闇夜の怪物が暴走していたのかも知れないーと、悟ったのだった。



 次の日の朝ー、カケルはミライに新しい服を買ってあげることにした。
「お前、午後から服買いに行くが着たいのあるか?急な仕事の依頼入ったから、俺はどっちみち出ないといけない。」
「服…ですか?」
「この、メンズのダボダボのだとまずいだろ…」
「大鳥さん…家にいないんですか…?」
「ああ。午後に1件、仕事の依頼があるんだ。不安なら、家にいてそこにあるタブレットから服を注文しても…少なくともこの建物内は安全だ。外部の者を遮断する仕掛けがあるから。」
少なくともこの当たりは、誰も侵入できない様な強い仕掛けが施してある。それは、博士とカケルしか破ることができない。
「私も行きます。」
ミライは、相変わらず一人が不安だった。
「じゃあ、午後から出るよ。俺はちょっとやる事があるからそこでテレビでも見てな。」


 そこに、インターホンが鳴り宅配業者が来た。カケルは業者から段ボールを受けとると、サインをした。カケルは大きな段ボールの箱を開封する。中では女性型の自動人形オートマドールが眠っていた。
「こ、これは…」
ミライの瞳孔が、不安定に揺れた。
「…ああ、コイツはキョウコだ。レースの懸賞品で…最近、メンテナンスに出したんだ。」
 カケルは、キョウコの背中に螺子を嵌め、付属品のコンセントで繋げ充電を開始した。
 キョウコは、元々は懸賞で当てたマシンである。カケルが女性に慣れるようにと青木博士が複数の懸賞品の中から勝手に選んで持って来た女性型のマシンである。表情豊かで、生身の人間のようだ。
 ミライは自分の周りにオーラを囲み、スキルを発動しようとしている。VXだと思っているのだろうかー。
「…日比谷、大丈夫だ。コイツは俺の命令を聞くようにプログラミングされているから。お前には無害だよ。それに、この建物内ではお前のスキルは通用しない。防犯用のカラクリがあるから。」
ミライは睨みをきかせると、軽く炎を放った。
「キョウコの充電が完了したら、一緒に買いに行こうか。じゃあ、俺、ちょっと仕事があるから。」
「…近くに居ていいですか…?」
ミライはソワソワしながら、キョウコを見ている。
「ああ、分かったよ…」

 キョウコを充電している間ーカケルはパソコンを起動するとモニターを眺める。画面には真新しい白い自動人形オートマドールの姿が映し出された。
 コイツは…レイジといた時にチラッと見た覚えがある…。いや、気のせいだろうか…?
レイジが殺されたときにも姿を見たような…?
レイジが新しいマシンの開発に携わる時に、確かにそこに居たようなー。しかし、思い出せない…。しかし、このマシンは新しい型の構造をしている。ミライなら、分かるかもしれないー。
 カケルはチラッと、ミライを、横流しに見た。
「日比谷、ちょっと聞きたいんだが…」
「えっ…?すみません、近すぎますよね…」
ミライはビクッとすると、カケルと少し距離を置いた。
「いや、いい。」
ミライを不安にさせてはならない。


 昼食を済ませキョウコの充電が完了すると、カケルは博士の車にミライを乗せキョウコに運転させた。
「あの…大鳥さん…」
ミライは後部座席から、チラチラキョウコを確認している。
「大丈夫だ。キョウコは、VXなんかではない…」
カケルは優しくなだめた。

 しばらく車を走らせ、広いショッピングモールの駐車場まで車を止め、一階の婦人服売り場まできた。
「じゃあ、俺、外で待ってるから…キョウコ、後はよろしく。」
カケルはそう言うと、財布から万札を抜き取りキョウコに渡した。
「大鳥さんも来て…」
 ミライは、キョウコに警戒しているらしい。彼女は、キョウコと1メートル程距離を置いている。キョウコはマシンだ。ミライは相当マシンが怖いらしい。
「大丈夫だ。キョウコは、お前に何もしない。俺の意に反する事は一切しない。そうプログラムされているから。」
カケルは、ミライの背中を優しく押す。
「…」
しかし、ミライは固まって動かない。
「レディースに俺が行けるわけ無いだろ…」
カケルは困り果てた。

 ミライは恐る恐る店の中に入っていく。キョウコも続いて入る。ミライは不安げに辺りをキョロキョロ見渡し、胸に手を当てて俯いている。カケルは深くため息つくと、渋々後を付いていった。

 ミライはカケルの側に来ると、彼の上着の袖を掴みびったりくっついて歩いている。
「…悪いが、少し離れてくれないか?歩き辛いんだが…」
カケルは戸惑いながら軽くミライに視線をむける。しかし、ミライは激しく首を振る。
「怖い…何かに見られてそうで…」
ミライは、終始ずっと辺りをキョロキョロ警戒している。長年マシンの監視下にあったからだろうか…自分が付け狙われていると、思っているのだろう。普段ジェネシスは、組織を離反したらマシンに粛清されるか連れ戻され酷い扱いをされてしまう。組織の内情を周知されないようにする為である。それが、S級となれば直ちに粛清対象であろうー。驚異となる存在になる可能性が高いからだ。やはり、家に置いてきた方がよかっただろうか?しかし、ミライを一人にしておくわけにはいかないー。
 カケルは電磁波を読み取る能力に長けているー。マシンや同胞の気配を察知する事が得意だ。
「大丈夫だ。電磁波の流れを見たが、VXは何処にもいないから。」
すると、店員がにこやかに二人に話しかけてきた。
「お客様、ペアルックもありますよ。」
「いえ…私は彼女の付きそいで…」
 旗から見たら自分達は恋人のようなのだろう。これから先、しばらくこうして付き添わないといけなくなるのだろうかー?カケルは頭がクラクラし、苦虫を噛んだような顔になった。
 すると、ミライが外を見て酷く震えていた。その震えは尋常ではなく、世界の終焉でも見たかのようだった。
「日比谷…?」
「杜だ…」
ミライはショーウィンドウの外を見て指差ししている。
「え?同胞か?気配は感じなかったぞ…」
「…私を探してるんだ…!」
ジェネシスは互いの電磁波から、気配を感じ取る事ができる。強ければ強い程、感じ取る能力は高い。
 ショーウィンドウの外で金髪のパンクファッション風の大男が、キョロキョロしながら悠然と通路を歩いているのが見えた。強い電磁波から、彼だとカケルは見た。筋骨隆々で厳つい形相をしている。さっきまで、同胞の気配は全くなかった。彼は、余程自身の気配を隠す事に長けているのだろうか?
「杜だ…何で…?」
「え?杜って彼の事か…?あの、金髪でピアスをした…」
ミライは激しく首肯く。
カケルはミライと奥の方へと行くと、服の物陰に隠れた。
カケルは、彼の左肩にタトゥーが入れられているのを確認した。

ーS2…!?

ミライはS5ー。

「ソイツ、お前より強いのか…?」
ミライは激しく首を縦に振る。
「お前より上の奴らは、どれ位強い?」
「皆かなり強いです。特にS3以上は異次元レベルで、一人で300番台のVX1体を軽くねじ伏せる事だってできます。しかも、完全に洗脳されていて…制御不能です。私とは子供と大人程の差があります…」
VXは、弱い者程ナンバーが若い。長い年月の間に次々と最新のマシンが開発されていくからであろう。現在、VXは550体確認されて要る。

「分かった。キョウコ、向こうの適当な所に、電磁波を掻き集めてくれ。」
「分かりました。」

キョウコは、両手を地面に置くと、じっと丸く固まった。すると、電磁波は流れを帯びさざ波のように弱く揺らぎ、そして、杜と言う男の周りを取り囲んだ。
「な、なんだ…?」
杜が歩こうとすると、電磁波はバチバチ強い音を立てながらカーテンコールのように動きを封じた。

 その隙に、カケルはミライを連れて店の裏口に回った。
「す、すみません!」
「…あ、お客様…!」
 カケルとミライは駐車場目指して、ひたすら真っすぐ走る。


 すると、駐車場の奥の方から、キョウコが車に乗ってやって来た。
「…撒きました。」
二人は車に乗り込んだ。車は来た道と違うルートを走る事にした。
 車はスピードをあげ、市街地へと向かった市街地を抜け、誰もいないハイウェイへと目指した。被害を最小限に抑える為だ。
 車内で、ミライは酷く震えていた。その震えは尋常ではなかった。
 ーと、強い揺れを感じたー。
ふと、車は真っ二つに裂かれ火花を放ちながらクルクル回転させ、ガードレールに激突した。
 背後には、ファルコンに乗った男がバズーカを構えてコチラを睨みつけていた。
ー例のパンクファッションの男だー。
「…大鳥さん…」
ミライは酷く怯えていた。キョウコは運転席から降りると、杜目掛けてライフルを構えた。
「…フン…どんなに強いのかと思えば、只のマシンじゃないか…この俺をナメてるのか…」
杜と言う男は、関節をポキポキ鳴らしている。
「お前の目的は何だ…?」
「日比谷ミライを渡して貰おう。」
「…い、いや…!」
ミライは激しく首を振り、カケルの後ろに隠れている。
「そうか…。じゃないと、少々、痛い目見るがな…!」
男は突然変異地面コンクリートに強いパンチをした。地面に深いヒビが割れ、風の渦が巻き起こった。その渦はドリルの様に高速回転し、高密度で刃物のように鋭い。そして、周りは強い
風の精霊ジンが降臨したかのようだ。
 カケルは強烈なバリアの盾を張った。風に押されながらカケルは全力で自身のエネルギーを全て込めた。しかし、向こうはS級の上位ー。意識が持って行かれそうになるー。カケルは頭に熱がこもりクラクラしそうになった。
「俺の見立てだと、そのマシンはVXじゃないな…あと、お前はAランクの上位といったところかな…」
杜は動きを止め、得意げに睨みを効かせている
「なるほど…お前は、スキルを発揮しながら相手の力量を計測してた訳か…」
「ああ…で、お前は何で日比谷と共にいるんだ?」
「それがお前に関係あるのか?日比谷はもう組織から離脱したんだ。彼女は、もうお前らの仲間じゃない。」
「何ー?お前ら仲良く恋人ごっこか.笑わせるな…」

ー『ごっこ』ー?

「お前…人の心が読めるのか?」

「ああ、仲間のオーラや電磁場の揺らぎで大体は、分かるぜ。ーて、お前と日比谷の関係もなー。お前、日比谷を保護してるようだが…それは無駄だぜ?」
「お前どうやって、俺達を突き止めたんだ?」
キョウコはあの時、大量の電磁波を掻き集め、そしてダミーを造った筈だ。
「ああ、お前は知らないよなあ…何せ格が違うからな。」
男は、得意げに嘲笑った。
 カケルはその間にスキルを発動していた。右腕の義手に力を込めてオーラを集め、電化製品や電子機器等から大量の電気の粒子を掻き集めた。すると、街中の機械が動きを止めた。そして、杜の周りを強烈な電磁波が波のようにうねり盾となり、高密度の電磁波はカーテンコールの様に彼の周りを取り囲んだ。
 キョウコはライフルの引き金をひこうとするー。しかし、ミライがその手を制し激しく首を横に振った。
「…駄目…これ以上、戦わない方がいい…やられちゃうから…」
「…じゃあ、俺等はどうしたら…」
カケルは久しぶりに強いエネルギーを使った為、頭が金槌で叩かれたようにズキズキ痛いー。
「私に案があります。」
ミライはスキルを発動した。地響で出来た瓦礫が無重力状態にあるかの様に次々と宙に浮いた。そして、男の周りを取り囲んだ。男の周りには瓦礫が束の様にむらがり被さり、覆い尽くした。
「これで、しばらく時間を稼げます。今のうちに逃げましょう。」
「分かった。」

 タクシーの中、カケルは青木博士に電話を掛け、事の一部始終を話した。
 カケルが電話を切ると、ミライは小声で尋ねた。
「大鳥さん、今日…同じ部屋に寝てくれますか?私、ソファーで寝るから。」
「え…いや、キョウコ居るだろ。俺の味方ならお前の味方でもあるんだから。俺達、恋人じゃないから同じ部屋に寝れない。キョウコは大丈夫だから。俺を信じろ…な?」
カケルは、顔をしかめている。ミライは、不安げにキョウコに視線を送る。キョウコはミライに視線を送ると、軽く微笑んだ。
「…分かりました。」


 その5分後の事だったー。瓦礫の山から、杜が這い出てきた。彼は、全重量2トンもある重さのコンクリートの山を徐々に崩していき、そして突き破ったのだった。
「フン…大鳥カケル…貴様がウザくなった。」


 ジェネシスは強い者から順にAからCまでランク付けがなされているー。Aより格違いに強い者が10人いて、彼らはSランクと呼ばれるらしい。Sランクの者はベールに包まれており、本人同士でもお互いが分からないー。
 彼らは他のランクのジェネシスとの接触は殆どないー。彼らは基本的に300番台でも単独で倒せる為、他の者とはつるまないー。
どの者も、気難しく我が強い者ばかりである。
 もしミライが組織の都合によって長い間本来の力と重要な記憶を封印されていたとしたら、本来は5番の数字より強い筈である。
 では、組織はどういう何の為にそうしたのだろう?何か秘密があるのだろうか?ミライは、組織にとって不都合な真実を知ってしまったのだろう?それが、かつての惨劇に強い関わりがあるとしたらー?
カケルは、ミライは大きな鍵を握っているのだと見たのだった。
「じゃあ、俺は、これから仕事があるんだ。ついてくるか?」
 カケル達は、タクシーからおりホームセンターの中へと足を運んだ。
 辺りは多くの自動人形オートマドールが、辺りを行き来していた。ここは、都市部の有名なショッピングモールであり、多くの客で賑わっていた。
ミライはそれを見て、氷のように固まってしまった。
「…おい。」
カケルが声をかけてもそれには応じず、ミライはマネキンの様にビクリとも動かないー。
 カケルはミライを近くの家電製品売り場に連れて行く事にした。
 この場所は、自動人形オートマドール立ち入り禁止区間だった。辺りは高性能なハイテクな電子機器がずらりと取り囲んでいた。もし、自動人形オートマドールが半径1メートル以内に近づくと、強いショートを起こし、家電製品もろとも爆発する恐れがあるのだ。辺り一面、家電製品が取り囲んでいる。天井には監視カメラもついており、何かあれば発泡する仕組みになっている。ミライもそれが分かったのか、顔の緊張が緩んだ。
「お前、そこで待ってろ。外でキョウコが見てるから。」
ミライは小刻み首を縦にした。

 カケルが去って5分後の事だった。外で杜がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
杜だー。いつの間につけて来たのだろうかー。
「…何で、ここに…」
「…ああ、分からないよな…俺は鼻が良いんでね…」
杜は、得意げに鼻を擦り、ミライに詰めよった。
「お前…強いショックにより、まだ本来の半分も力を出せてないよな…まだ、戦えないのか?」
「私は、戻りません。やるべき事がありますし…」
「ああ、かつての亡くなった仲間の敵討ちとやらか…美談だね…では、大人しくこちらに来てもらおうか?」
「あなたは、洗脳されています。」
ミライは3歩後ろへ下がった。二人の距離は徐々に近くなっていくー。ミライは冷や汗をかいた。ゾクゾクと強い湿った寒気がはしる。
「洗脳?それは、お前の事だろ…いつからそんなに温くなったんだよ?」
そう言うと、男は地面に強くパンチを浴びせた。地面はひび割れ、強い突風が巻き起こった。
 壁に強く深い亀裂が生じ、家電製品はビリビリ強く電圧を帯びた。

 その時だったー。杜の身体の全身に強い電流が取り囲んだ。
キョウコが自身の身体からワイヤーを取り出し、杜の辺りを取り囲んでいた。
「…な、な、何だ…?コレは…」
杜はキョロキョロ見渡す。
 杜は反撃しようとするが、高密度な電磁波の渦に取り囲まれて見動きが取れないでいた。その渦は、辺りの電化製品から掻き集めた物だと思われる。そして、激しく滝のように迸っている。
「…キョウコ、さん…?」
キョウコは、ガクガク震えショートした。
「大鳥カケル…このマシンに…仕込んだな…奴の能力は、電磁波の流れを操作する事…この俺の体内に流れている電磁波の流れを変えた…やったな…」
杜はそう言うと、地面に這いつくばる。ミライはキョウコに駆け寄ると担ぎ、そしてその場を離れる事にした。
 離れ際、ミライが恐る恐る振り向くと、杜はじっと固まっていたままだった。
「日比谷!」 
遠くの方からカケルの声が聞こえてきた。
「あ、大鳥さん…キョウコさんが…」
ミライはカケルに事の一部始終を話した。
キョウコは、幸い頭部の損傷はないが再びメーカーに修理に出す事にした。
「大鳥さん…キョウコさんに何かプログラム仕掛けたんですか…?」
「…ああ。少し、バージョンアップしたんだ。しかし、また、メーカーに出さなくては.」
カケルは、額に手を当て俯いた。


 その日の夕方ー、ミライは寝室のベットで体育座りで丸くなっていた。何か、物思いにふけっているのか、窓のソドをひたすら眺めていた。
「おい、出来たぞ…」
 カケルが話しかけてもミライは見向きもしない。しかし、どうもあの白いマシンがきがかりだ。どうしてもミライに聞きたいが、今の彼女に聞くのは残酷な気がしたのだ。
「大鳥さん…」
「何だ?」
「私は、今まで同胞に酷い事を沢山してきました。だから、これは報いなのです。この私が怯えているなんて、おかしな話ですよね…」
ミライは苦笑いをし、深く苦悩しているようだった。彼女は、終始ずっとうつむいているのだった。


 カケルはミライの精神を少しでも和らげようと、博士に電話を掛けた。
「はい…?」
「博士…今、何してるんだ?」
「今、博物館の展示場で下見してた所なんだよ。」
「キョウコが壊されたんだよ…ジェネシスに…」
「壊された…?」
「で…折り入って話しが…メンテナンスに出すから、新しい女型のマシンを…」
「お前…女性慣れしてきたのか?」
博士が、声のトーンを高くした。
「いや…違うくて…日比谷ミライにだよ。アイツ、色々不安だろうからさ…組織にずっといたんだから…」
カケルは面倒くさそうにイライラしている。
「ああ、なるほど。丁度今、マシンの展覧会に行っててな…新しいのが欲しくなった所なんだよ。」
「丁度いい…なるべく人間そっくりのマシンだ。その、動きが極力滑らかな感じのやつな…」
「ああ…いいが、ちょっと気になる事があってな…」
「何だ…?」
「マシンだよ。あの白いー。あ、『スターウォーズ』に出てくる奴の…」
 博士のその言葉にカケルはピンと来た。
「ソイツの特徴を、もっと詳しく教えてくれないか…?」
「ああ…ーで、肩に何のマークがないのだよ…あと、見た事のない紋章が刻まれて入る。」
「どんなだ?」
「ああ、六角形が入り組んだ幾何学模様なんだよ…」
博士のその言葉にカケルはハッとする。
「サンキュー。博士、後でその画像を送ってくれないか?」
「ああ…分かったよ。」

 そのマシンと遭遇したのは、廃墟の中ー、自分が敵に襲われている時だったー、
自分はひたすら暴徒化したマシン魔の手から逃れようとした。
 赤黒い地獄のような中、カケルはひたすら断末魔の叫びを上げていた。無垢な少年は、光を求め、悪魔の手からひたすら逃れようとしていた。
 そんな中ー、おもむろに手を差し伸べてくれたマシンがいたー。このマシンはそれどころか、暴徒化したマシンを殲滅してくれたのだ。手の平からまばゆい閃光を放ってー。唯一、覚えていたのが正六角形の幾何学模様の入ったマークである。その日以来ー、カケルはそのマシンを時々目にする様になった。
 滑らかで人の様な動きに白い光沢のある分厚いボディ、それは眩い光を纏っているかのようで、暗闇の中から現れた天使そのものに見えたのだった。
 ある日ー、そのマシンはレイジの死とともに突然姿を現さなくなった。何の目的で何の為に現れたのだろうか?
 このマシンは、レイジの死に深く関わっている可能性が高い。

彼は、何者なのだろうかー?

それは永遠の闇に包まれてしまったのだった。


 その日の夜も、カケルは仕方無くミライと同じ部屋で寝る事にした。ミライをベットに寝かせ、自分はソファーで横になった。
 ミライは明らかに脳に強いダメージを負っているらしい。彼女は、長い間無機質な灰色な世界で生きてきた。他に仲間や人間の死を沢山目の当たりにしてきたからでもあろう。彼女の記憶と本来の力完全に戻った訳ではない。
 ベットの方から泣くような震え声が漏れてきた。ソファーのヘリから軽く覗くと、ミライが毛布にすっぽり包まりガクガク震えていた。気づかないふりして寝ようとしても、どうしても落ち着かない。
カケルは、仕方なくミライの隣に移動した。
「大鳥さん…大丈夫…大丈夫ですから」
ミライの声は、蚊の鳴くようにか細いー。強がっているようだった。カケルはミライの肩に軽く手を乗せた。
「いいよ。側にいるから…寝るから、少し端の方に寄ってくれないか。」
カケルは、ミライの隣で横になった。

「皆、皆、ごめんなさい…ごめんなさい…。ーお姉ちゃん…」
カケルの背後で、ミライは寝言を漏らした。

 禍々しい怪物に侵食され、翼をもぎ取られた魔女は、無垢な人間となりひたすら怯えている事しかできなかったー。

 もしミライが組織の都合によって長い間重要な記憶と本来の力を封印されていたとしたら、本来は5番の数字より強い筈である。

それは、どういう何の為にそうしたのだろう?何か秘密があるのだろうか?

カケルはミライの事が色々気がかりであった。



    
しおりを挟む

処理中です...