堕天使と悪魔の黙示録

ミヤギリク

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魔女の帰還 ①

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 組織アルカナに、2人の瀕死の姉妹が運ばれた。一人は12歳位のー。もう一人は年場のまま鳴らない4歳位の少女だったー。
二人は重症だった。姉の方は左腕をー、妹の方は右脚に重症を負っていた。

 組織は2人の身体を手術し、姉妹それぞれに特殊な義手義足を充てた。その義手義足は使用者の神経とシンクロしており、前後左右に自在にに動かす事ができた。この義手義足には不思議な力が備わっていた。組織の研究者が開発した特注品であり、個人の能力を異次元のレベルにまで引き上げる事が出来るのだ。
 こうして姉妹は、ジェネシスと言う異能力を有する存在になった。
 ジェネシスとしての訓練は熾烈なものであった。それは生き残る為の訓練だと教え込まれ洗脳されていった。適応出来ない者達は次々と命を落としていった。
 組織は姉妹を完全に引き離し、孤立させ完全な戦闘マシンへと育てようと考えた。しかし、姉妹はそれを拒み妹の方は仔ウサギの様に酷く怯えていた。
 組織はとうとう姉妹を強制的に引き離す事にした。二人を騙して囲い込み、それぞれ違う部屋に隔離したのだ。
 姉はひたすら妹に会いたがったが、それは許される事なかった。妹はひたすら怯えていた。怯えるばかりで言葉を発する事はなかった。
 姉妹は週2度の面会が許されたが、それ以外は許されなかった。二人は常に監視下におり、精神はすり減っていった。二人で自由な時間はなかった。逃げ出したら殺されてしまうー。
姉は妹に御守を渡した。姉は妹が常に気がかりだった自分が変な事をしたら、妹が殺されてしまうー。

 姉は徐々に組織に洗脳されていき、そして精鋭部隊へと選出され、二人が合う時間は次第に減っていたのだった。

 妹は次第にジェネシスとの能力を開花するようになった。一番の仕事、整備不良の自動人形オートマドールを回収する事だ。
 少女の周りには子供は沢山いたが、少女だけ、特別であった。組織の幹部は少女の能力に目をつけ彼女を戦闘マシンにしようと画策したのだった。
 少女は毎日戦闘の実践訓練を受けた。毎日、4時間の現場同行に加え、組織に戻ると2~3時間の訓練があった。それは、生き残る為の訓練だと教え込まれた。毎日の組織からの刷り込みから、少女にとってそれが毎日朝食をとるような当たり前の日課の様になっていったのだった。
 16で姉が亡くなると、その訓練は苛烈さを増していった。戦い現場をシミュレーションした訓練をした事もある。実際に自動人形オートマドール数体を相手に実践訓練をしてきた。自分よりも倍以上の体躯のマシン数体を相手に戦ってきた。腕力や脚力は、他のジェネシスの遠く及ばない領域にまで達した。
褒めてもらえ、戦いは自分の生き甲斐で糧になっていったのだった。
 自分一人、広い倉庫の中で射撃や実際に自動人形オートマドールを使った体術、スキルの発動や制御方法等を身につけていった。骨折しようが手足が痙攣したり筋肉疲労を起こそうが、それは関係なく行われた。少女の身体能力は凄まじいものだった。屈強で体躯がふた周りも大きいマシン一体の腕をもぎ取る位の腕力ー、しなやかでヒョウの様に飛び跳ねる敏捷性のある脚力ー、そして何よりも、戦闘に対する集中力は並大抵のものでは無かったー。的確に的を得て狙い撃ちするその強い眼光は、冷徹に獲物を待ち構えるチーターのようであった。彼女が戦うと、周りに強い突風と火花がバチバチ巻き起こった。こうして、彼女は、戦闘マシンへと変貌を遂げたのである。
 少女はただ、言われるがままのことを操り人形であるかの様に淡々と無言でこなしていった。『戦え』と命令されれば戦い、『倒せ』と言われれば倒した。少女の中には辛いと言う感情はなかった。いや、感情は殆ど備わってなかった。
 18になった頃には、一通りの戦闘能力を身につけていった。並のジェネシス3人がかりでやっと対等に戦えるレベルであった。ジェネシス達は彼女を『魔女』『化け物』『組織の犬』『ドーベルマン』などと揶揄して、少女は誰からも畏れられ心を閉ざしてしまっていた。
少女にとってそれが当たり前の事であった。
 少女は、世間が持ち合わせている生活能力や一般常識が欠如していた。表情は殆ど無愛想であり、他者と世間話や他愛のない話ができなく、流行や生活していく上で知らないとまずい様な常識が欠けていたのだ。誰とも噛み合わなく、常に孤独であった。
 組織に反発したり逃げた者には制裁を与えるように刷り込まれた。
 自我は戦う為の自我でしかなく、感情は殆ど欠如していた。彼女の中には善悪や正義感と言うものは存在してなく、組織の従順なドーベルマンでしかなかった。

 そんなある日の事だったー。少女はいつも通り中庭のベンチに座り微睡んでいた。
 そこに一体の自動人形オートマドールが姿を現した。そのマシンは、少女の様な姿ををしていた。
 少女とマシンは、毎日顔を合わせるようになった。少女はマシンに誰から造られたか尋ねたが、マシンは教えてはくれなかった。しかし、雰囲気や見た目からは、アルカナの造ったマシンではない事を直感で感じた。
 すると、マシンは淡々と声を発した。
「名前は、何ですか?」
少女は驚いていた。
「ミライです。」
 ミライと言う名の少女はそのマシンと仲良くなった。一人と一体は、互いにただ黙っていても、お互いの事が分かっており、シンクロしていた。まるで双子のようであった。二人の間には無機質だが、温かく居心地の良さがあった。孤独な少女の冷たく乾いた心を優しく温かく溶かしていった。時はゆっくり流れていくー。
 そんなある日の事だった。少女はいつものベンチに座っていた。しかし、マシンは姿を現さなかった。その次の日もそのまた次の日も、マシンは姿を現さなかった。


 月日は流れー、ミライは上からの命令で、暴走したマシンの回収に赴いた。どうやら、少女にしか頼めない仕事らしい。

 土砂降りの雨の下、ミライはライフルを携え、廃墟となった市街地へ向かった。そこには暴れ散らして人間を次々と殺戮していたマシンをみかけた。当たりには血塗れの人の遺体が無惨に散在してあり、無機質なコンクリートの景色を冷たい鮮血で染め上げていたのだった。不気味で静寂な空気が辺りを覆い尽くしていた。まるで真空空間にいるようだった。
 そこには悪魔がいた。いや、天使の様な美少女の姿をした自動人形オートマドールが、そこにいた。白いワンピースが鮮血で染まっていた。堕天使だー。ミライはライフルを構え、ゆっくり近づく。自動人形オートマドールも、ミライに気づくとゆっくり近づくー。
 その顔を見た瞬間ー、ミライは言葉に詰まった。いつも中庭で見るマシンだー。最近、姿を全く現さなかったが、

一体、何の為に殺戮なぞしてきたのだろうー?

 自動人形オートマドールもミライの方をじっと見つめていた。そして、何故かゆっくり動きを止めた。

『ミライ、何もたもたしている。早くやれ!』

 無線から発せられた仲間の声にミライはハッとするも、ライフルを構え、自動人形オートマドールの頭部目掛けて引き金を引いた。
 景色は何処までも無機質で、灰色一色だった。



 眩い閃光に包まれた部屋の中で、ミライの脳内に走馬灯の様に沢山記憶が駆け巡る。

ー私には姉がいた!姉は洗脳されていた…
そして、殺された…
 私の他に犠牲者が沢山いた…

 これは、上官が一番恐れていた事である。記憶と力を封じていた物がパンドラの箱の様に溢れ出てきた。上官は、わなわな震え自身の身の危険を感じた。

ー姉は、洗脳されていた事になるー。組織を信じるように刷り込まれ、安心だと思わせられた。

 姉は洗脳されていた。ただー、今は組織に従いなさい。あなたは生きなさいー。強くなりなさいー。今大人しくしていれば、組織は何もしてこない。そして、いつか私の言っていた意味がわかる。等と話していた。
 だから、姉は自分を連れて組織を逃げ出さなかったのだ。組織は安心安全だからだ。姉と自分にとって組織は家族の様なものだからだ。
しかし、自分がこうして生きているのは姉が自分にスキルを発動していたからだと思われた。
また、姉は第三者に頼み込んで自分を守るように頼んだのだとしたらー?
だが、その相手は誰であろうー?
 何で自分は、姉にまで心を閉ざしてしまっていたのだろうー?
 自然と涙がミライの頬に伝い、そして零れ落ちた。
 それは、今まででない初めての感情のようであった。熱く優しいものに包まれるかのような、身体全身が電流で震える様なそんな感じがしたのだ。

 ミライの周りに朱色の炎が取り囲んだ。その炎は大蛇の様に脈打ち、そして強烈な熱波が覆い尽くした。
『日比谷ミライー。さあ、ご一緒にー。』
 マキナは優しい声を発した。ミライは、それを無視し強烈な熱波で部品を溶かすと部品はどろどろに溶け出し、何処かに消えてしまった。
 そして、建物全体の揺れは収まった。ミライは、上官も連れ出そうとしたが彼はブルブル怯え首を振っていた。
「…い、いいや…私はすぐ後から向う。」
ミライはその言葉を信じるとそのまま部屋を出て、カケルの元へと急いだのだった。

 狭い廊下の隙間から、液体金属が漏れ出した。その金属は、マキナその物だった。
『まあ、良いでしょう…これも想定の範囲内…これから計画を実行します。』
マキナは自身の、液体金属の塊になっており金属の細い棒の様な姿になった。そして、震えていた通りがかりの人を刺し殺すと、彼の姿をそのままコピーしたのだった。そして、外に出るとミライの後を負った。
 両腕は鋭利なドリルの様になっており、すれ違う人を次々と斬りつけていったのだった。辺りは死傷者と鮮血が飛び散りその様は、地獄絵図の様になっているのだった。






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