堕天使と悪魔の黙示録

ミヤギリク

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堕天使の羽 ③

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 深い深い鬱蒼とした森を、二人の少女がひたすら走っていた。背後にはメタリックブルーのマシンがゆらりゆらりと歩いていた。
 二人の少女はどうやら姉妹の様だった。年長の少女が年長の少女の手を引っ張って走っていた。年少の少女はふと後ろを振り向こうとする。
「ミライ、駄目よ!振り向いちゃ…」
年長の少女は険しい顔をし、年少の少女を厳しく制する。
「…だ、だって、お姉ちゃん…」
ミライという名の少女は、小鹿の様にぶるぶるふる震えると目に涙を浮かべていた。
「死にたくないなら、奴と目を合わせるな。石にされちゃうよ…」
姉はキツくミライの腕を掴みながら、ひたすら真っ直ぐ向いていた。 
 森のあちこちには無数の人型の石が、散乱していた。二人はしばらく走っていた。マシンは徐々に二人に近づいてくる。しかし、マシンは未だに攻撃してこない。
 マシンは両腕を蛇腹の様にくねくねさせると、二人目掛けて伸びてきた。
ーもう駄目だー!
姉は咄嗟にミライを抱き抱えると、うつ伏せにしゃがみ込んだ。
「お、お姉ちゃん…?」
ミライは、不安気に姉の顔を見た。
 すると、マシンの右腕がゆらりゆらりと伸び人差し指で姉の背負ったリュックの取手を持ち上げた。そのリュックサックにつられて姉の身体は宙づりになった。姉はミライを抱く手を離した。
「お姉ちゃん!」

「ミライ、アンタは先に行きなさい!」
姉はひたすら右手を前後に揺らした。

「お姉ちゃん!嫌だよ!置いていかないで…お願い…!」
ミライは、黄色い声で泣き叫んだ。姉は軽く首を横に振った。マシンはクルリと背を向け、元来た道をゆらりゆらりと歩いていった。


 男とアリスは幾何学模様の広い通路を悠然と歩いていた。
「アリス、分かってるだろうな?ちゃんとやるのだよ。」
男は、アリスに目配せをした。アリスは無言で頷いた。
「私の正体がバレたら大変な事になるかな…」
男は、鼻ひげを軽くいじるとニンマリと悪魔の笑みを浮かべていた。
 すると、その幾何学模様の隙間から人型の黒い泥粘土の様な物がくねくねと湧いて出てきた。
「やあ…リゲル…準備は整ったか?」
人型の泥粘土は、徐々に人の姿に変貌しリゲルが、姿を、現わした。
「ああ…ゲートは繋がった。アビスの門をこじ開ける鍵が必要になるが…」
リゲルは、真顔で淡々と話す。
「そう言えば、お前…大鳥カケルとやらと知り合いなのか?」
「…知らない。それは奴と俺のモデルの話だろう…」
リゲルは瞳孔を微動だにせず、涼し気な顔をしていた。
「ああ…そうだな…お前も、人間のクローンだったか…」
男が手をパンと叩く。
「…ねぇ、あれ…」
アリスが男のトレンチコートをしきりに引っ張る。
 目の前にはメタリックブルーのマシンが突っ立っていた。両眼をチカチカ赤く点滅させていた。
「何だ…?お前のお役目はもう終わったんだ…もう用無しだよ。」
男は軽く手を払いのけた。
「ニンゲン…タクサン石にした…でも私は何の為ニ、コンナコトヲシテキタノダロウ…?」
マシンはゆらりゆらりと3人に向かって歩いてくる。男は、ため息つくとアリスに軽く目配せをした。
 アリスは軽く頷くと、背中の翼を拡げてマシン目掛けて二本のドリルの様に伸ばすと、マシンの身体を垂直に真っ二つに切り裂いた。
 全長五メートル程の巨大はグラグラ揺れると、鈍い音を立てながらドスンと倒れた。
「コイツはもう用済みだ…マシンにはそれぞれの役割があるんだ。皆、その通りに設計されその通りにプログラミングされたんだ。奴が人を石にしたのは、奴の御主人が、その様に設計したからだ。マシンは皆、そのプログラミングには逆らえない。要は因果関係があるんだよ。マシンは皆必然からは逃れられない…」
男は、胸ポケットからライターを取り出すとパイプに日をつけた。
「…何か変だ。」
リゲルが訝しげにあたりをキョロキョロ見渡した。
「おい、リゲル…速く急がねば…」
男が目を細めた。
 ーと、その瞬間アリスは身体を小刻みに揺らして口をパクパク開けていた。アリスのワンピースの右端から軽くワイヤーの様な物がピンと伸びているのだった。
「…こ、これはいつの間に…」
アリスは小刻みに激しく揺れると、その場に倒れた。
「…!」
リゲルはハッとすると、ワイヤーの行く先をじっと感覚を頼りに辿った。
「…おのれ、あの小僧め…」
男は、顔を強ばらせると歯ぎしりをした。
リゲルは右腕を粘土の様にうねらせると、空間にある見えないワイヤーを絡ませ、熱を伝線させていった。
茂みの向こうから、ジェネシスの青年が姿を現した。
「…成程…これはお前等の計算外か…」
「お、お前…何でここに…」
男が両手の握りこぶしをキツく締めた。この辺りは監視用のマシンが門番をしている筈だが…
「残念だが、お前等は…」
青年は赤く熱を帯びたワイヤーを右手の義手にぐるぐる巻きつけた。すると彼の右腕の紋章が赤く光る。そして彼は、リゲル目掛けて紋章から光線を放った。リゲルは、赤い光を纏いながらビリビリ感電し泥粘土の様に姿を変貌させた。
「無駄だ…お前の身体の構造は大体分かってるんだよなぁ…」
青年はそう言うと、泥粘土の様な塊目掛けて液体をかけた。しかし、彼の瞳孔は不安定に萎縮いしゅくし、何処かしらそわそわした感じもある。
 すると、泥粘土の様な塊はぐにゃぐにゃ激しく不安定に歪んで、巨大なハリネズミの様な姿になった。そこから無数のハリを伸ばし、青年目掛けて飛ばしてきた。青年はバズーカの引き金を引くと、連射した。彼の放った弾丸は眩い閃光を放出し、リゲルに命中した。光線は花火の様なギラギラとした光を放ちそして、たちまち消失した。すると泥の様な塊が、いつの間にか青年の身体を囲い込んでいたのだ。そしてそこから、リゲルが頭をニョキっと出してきた。
「お前、大鳥カケルとやらの差し金か…?成程、考えたな。このワイヤーとやらに何か仕組みがあるのか…?」
リゲルは、軽く首を傾げた。
「やはりな…コレは見せかけだな…何でお前がそちら側に荷担してるんだ…?」
「さあ…そんな事は忘れたな…」
リゲルはそう言うと、身体を鉄の様に歪め硬化し青年の身体をキツく縛った。リゲルの身体は再び赤く溶け出し熱を帯び、青年はその強烈な熱さに悲鳴を上げた。その上からに再びワイヤーで縛り付けようとしたが、身体が段々と鉛の様に重くなっていった。青年は右腕の紋章を再び光らせ、全ての念力を込めた。すると、二人の周りに花火の様な強い閃光がバチバチ点滅し、その眩しさにトレンチコートの男は目を覆った。
 すると、泥の様な塊が閃光を放つと無数に飛び散った。
青年はゼエゼエ荒い息をすると、バズーカを構えアリスと男に詰め寄ってきた。
「な、な、な、何だ…?お前は…ま、まさか」
男は尻もちをつきながらそのままの体勢で後付さりをした。
「…無駄だ…お前の正体も、分かってるんだ…」
青年はそう言うと、バズーカの照準をアリスに向けた。アリスは未だに小刻みに震えながら口をパクパク開けている。そして、青年はバズーカの引き金を引いた。

 


 

















    
    
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