堕天使と悪魔の黙示録

RYU

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堕天使の羽 ①

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 グリーンシティ55のショッピングモールの一階の大広場で、少女とスーツ姿の男が何やら催し物をしていた。
 彼等の周りには、多くの人だかりが出来ており、人々は洗脳されたかのように恍惚とした表情をしていた。
「本日はお忙しい中、お集まり頂いてありがとうございました。今、皆様方は、人間を辞めたくてここに来ている訳でありますが、…」
男は、マイクを手に取るとボソボソと話した。
「早く、人間を辞めさせてくれ!もう、辛いんだよ!」
「早く私を楽にしてください!」
「お願いです。私を最強にしてください!アイツらに復讐をしたいのです。今まで地獄でした。」
会場内は異常であった。宗教の会場を連想させる異質な雰囲気をしており、群衆の目は死んだ魚の様に濁っていたのだ。
「信じれば、あなた方もきっと救われます。私についてきてください。」
男は額の汗を拭いながら話している。何処にでもいる様な特徴のないサラリーマン風の男である。グレーのシワのないスーツに綺麗に整えられた黒髪をしており、丸渕眼鏡を時折いじっていた。
 少女は陶器のような白い肌をしており、水色のワンピースを着ていた。ウェーブがかった鮮やかなバターブロンドの髪を両サイドで束ねている。西洋の妖精を彷彿させるかのような美少女は、始終無表情で、マネキンのように舞台の中央に立っていた。
「では、始めましょうか…」
男はそういうと、少女に目配せをした。すると、少女は背中の翼をふくろうのように左右に拡げた。そして翼を曲げると 弾丸の様に無数の羽を丸め、会場中に連射した。少女はくるりと回転しながら羽の弾丸を放射線を描きながら飛ばした。会場内の人々はパニックを起こし、蟻のようにあちこち逃げ惑った。翼の弾丸の威力は凄まじく、人々の胸や頭部を貫き100メートル先の柱や壁等も貫通し、太い柱がもろくなり軋みぐらついていた。

 しばらくすると、無数の人の遺体と血痕が辺り一面に散乱していた。少女は生存者がないか辺りを見渡した。
「居るか…?」
男は少女に確認した。少女は首を横に振ると、男とともにパーティー会場を後にした。



 カケルはファルコンやマシン修理の仕事を済ませ、午後からは青木博士とウォーリーの修理に取り掛かった。
「よし。出来たぞ。」
カケルはモニターを見ながら螺子や配線の最終確認をした。
「こっちとしても、造りは特に問題はないな…」
青木博士は、螺子をひとつひとつ慎重に回し配線の端子を型番と合わせはめていった。
「博士、どうなった…?」
「カケル君、元からの記憶はそのままでいいのか、後から復元できるが…  」
「ああ…コイツにも今迄築いてきた思い出があるだろ…ただ…今まで散々だったが…ネガティブな思い出は消せば良いってものではない。みんな、そこから成長していくんだからな。」
「そうだな。しかし、あの白鳥もよく考えたな…あの片割れだけをやたら手の混んだマシンにプログラミングして、人を殺すようにして…」
博士はウォーリーの前後のパーツを合わせると、外殻を取り出した。
「ああ…白鳥はアンドレアンにいつ何処で何をするか精密にプログラミングして、200年越しの復讐を果たしたんだ。」
「それは大きな掛けに出たよな…自分の命を削ってな…ところで、カケル君…」
「何だ?」
「ちょっと、これを見てくれ…彼の内部なんだが、複雑なんだよ。白鳥はパーツをこんなに複雑に造り合わせていたのか…?」
博士がピンセットでワイヤーを縫い合わせながらウォーリーのパーツの内部を見せた。彼の身体の内部は、螺子や配線が複雑に入り組んでおり、蟻の巣の様な構造になっていた。
「白鳥は、もしかしたらこの時代の組織に潜入していたのかも知れないな…」
「ああ…彼自身に自我はあったが、白鳥は彼の言動もプログラミングしていたに違いない…だから、技とウォーリーを螺子を緩めて設計したのかも知れない…」
博士は、ルーペでエンジンやモーターの最終確認をすると、丁寧に外部のパーツをはめ込んでいった。
「だったら、俺がウォーリーと会ったのは偶然じゃないのか…?」
「かも知れないな…白鳥はウォーリーを使って未来の人にメッセージを送っていたのかも知れないな。よし、これでつくだろう。」

 すると、急にテレビの画面が切り替わり、切迫したアナウンサーが小刻みに震えているのが見えた。
『ー次のニュースです。今日の午前ー。グリーンシティ55番地のショッピングモールで、大量の人の遺体が発見されました。山口さん!』
すると、テレビ画面が切り替わり、女性記者がマイクを持ち、ガタガタ震えている姿映し出された。そこは、ショッピングモールだと思われる。瓦礫が散乱しており、柱が倒壊されていた。まるで廃墟の様になっていた。
『えー、コチラ現場です!内部の様子をご覧ください!先程…警察が…』
山口と言う記者がそう話かけた時だったー。いつの間にか、ワンピースの少女が立っており、彼女の頭部や全身を羽の様なドリルの様なもので貫通していた。山口記者は、即死であり血液が滴り落ちてきた。そして、そのドリルは画面の方に向かっていき、画面が急に砂嵐の状態になった。
『山口さん!山口さん!』
テレビのキャスターは、顔面蒼白になり瞳孔を小刻みに震わせていた。

「博士…これは、どう見てもVXじゃないな。第一、関節の動きからして不自然だ…螺子もナンバーも見えない…」
カケルはソファーに腰掛けると、突如起きたありえな光景に目を疑った。
「元人間の子で、体の一番がマシンになったってのが考えられるな。いや…この感じだと、大部分がマシンと化してるか…元々人をベースにしたものかも知れぬな…」
博士はウォーリーの電源を確認し終わると、あたりの小道具を片付けていた。
「あの、閣下と呼ばれた奴もか…?」
「ああ…恐らくな。元人間なら、頭部から胴体の部分がそのままだという事と、人間をベースにしたマシンなら元の人間に手掛かりがあるかも知れないな。ちょっとあの娘を調べてみるか…」
博士はそう言うと、テレビのリモコンのチャンネルを適当に押し、少女に関するニュースを探した。すると、監視カメラ映像が流れている番組が流れ、二人は画面を食い入るように眺めた。
「VXと、動きが明らかに違うな…なんか、滑らかと言うか、人間みたいだぞ?」
カケルは、首を傾げながら一部始終をじっくり検証していた。
「ああ…あの娘は、ベースになったモデルが居たはずだから、そのモデルを探ればいい。モデルも下手したら何らかの機関と繋がりがあるのかも知れない。元人間はどうしてこうなったかは定かではないが…人間としての記憶や感情はそのまま残ってはいるだろうな…しかし、スキルが増大するにしたがって中には心まで人である事を捨てた輩も存在するものだよ。しかし。脳に負荷がかかるがな…」




「いやー、計画は順調ですな。」
男は少女を引き連れて、とある団体の監視官に接見していた。監視官は、上機嫌に笑っていた。
「はい…アイギスも稼働している様ですし…ジェネシスの殲滅に役立つでしょう。」
男は監視官に丁寧にお辞儀をした。
「この娘は…?」
「ああ…この娘は特別でして、レアなんですよ。何せ、モデルとなった人間をベースにしてるから、マシンより使い勝手が良いと思いますよ。」
男は得意気に話すと、少女を手招きした。
「アリス、来なさい。」
男がそう言うと、少女は近寄り翼を拡げてそれをドリルの様な形状に変化させた。
「ほほう…これはまた本物ソックリの造りの様だが…パンドラにそのような技術力があったとは、知らなんだよ。」
監視官は、髭に手を当て感心しながら、アリスの翼をまじまじと眺めた。
「さあ、アリス、やりなさい。」
アリスはうなずくと、翼をくねらせドリルの様に回転させると、監視官の頭部と胸をに突き刺した。それは一瞬の事だった。監視官は串刺しになり頭部胸から大量の血液が滴り落ちてきた。
 アリスは監視官の遺体を放り投げると、男に引きつられその場を離れた。
 
 すると、トンネルのタイルの隙間からドロドロした黒い塊が湧き出てきた。その黒い塊はうねうねかいて人形に変形し、リゲル・ロードが姿を表わした。
「おお…リゲル、来たか?」
男は上機嫌に手を叩くと、リゲルを招き入れた。
「コチラの手配は済んだ。あとは、『アスクリピオス』を奪うだけだ。」
リゲルは、顔はロウのように血の気がなくマネキンの様な無表情をしている。
「ああ…しかしうまくいくのかぬ…?盗むのは」
男は不安気に尋ねる。
「問題ない。コレに情報が入っている。」
リゲルはそう言うと、ズボンの胸ポケットからUSBメモリを取り出すて、男に手渡した。
「ほほう。」
男は上機嫌になり、USBメモリを浮きとると鞄からノートパソコンを出して接続させた。リゲルは冷めた顔で秋空を眺めていた。
 リゲルの眼はは夕暮れの日に照らされても尚、瞳孔は微動だにしてなかった。彼の眼からは喜怒哀楽の感情は微塵も感じられなく、そこには宇宙のような何もない大きく深い闇が映っていた。
 彼は、全てを崩壊させ地獄へ導く堕天使の様な雰囲気をまとっていた。





    
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