堕天使と悪魔の黙示録

ミヤギリク

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悪魔の系譜

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 あれから2週間が経ち、カケルの怪我は順調に回復しつつあった。
「お前…大丈夫なのか?復讐心を向けるのはいい…。しかしそれでお前自身が強い怒りの感情で壊れて破滅に向かわないか…儂は毎日ハラハラなんだよ。」
「俺の事は心配しなくて、いい。いつも加減は分かってるつもりさ。」
カケルは毅然とした面持ちで、ファルコンを走らせた。しかし、冷静さの中に強い怒りの感情があるのを、博士は見抜いていた。

     カケルはファルコンに乗って、自動人形|《オートマドール》の回収に向かった。今日は久しぶりの仕事である。街はすっかり廃墟の様になっており、人の姿は何処にもなかった。カケルは右腕からワイヤーを引き出すと、蜘蛛の様にポールにジグザグに引っ掛けながら走った。
    しばらく走ると、前方に6体の自動人形|《オートマドール》が、姿を現した。自動人形|《オートマドール》はファルコンに乗って、時速180キロで前方を走っていた。カケルは電気砲|《バズーカ》を構え撃とうとしたが、彼等はスピードをあげて忍者の様なすばしっこさで砲弾を避けている。
ーコイツらはVXだろうか?ー
並みのマシンの様な造りをしているが、動きが機敏である。それとも、ボスの様な者が後ろで操っているのだろうかー?彼等に近づく時、一瞬重苦しさを感じた。まるで巨大な星に飲み込まれる様な、あるいはブラックホールに吸い込まれる様な感覚がした。カケルはこれに既視感の様なものを覚えた。その感覚に、懐かしいが思い出してはいけない魔物を連想したのだ。
ーそうだ。この感じはショウやレオ達が殺られた時と同じだー。そして、レイジの時もー。
カケルはスピードを速め、自動人形|《オートマドール》を追い越した。そして右腕にワイヤーを巻き付けると、左手でキツく握った。その握る手は汗でぐっしょりになってカタカタ振動していた。カケルは駒の様にドリフトで旋回させせた。ファルコンは地面スレスレまで倒れた。一体の自動人形|《オートマドール》は、ワイヤーを掴むとそのままカケルを自身の方へ引き寄せようとした。しかしカケルは人形遣いの様に華麗な手さばきでワイヤーを強く引き、自動人形|《オートマドール》に絡ませた。自動人形|《オートマドール》は操り人形の様に次々とドミノ倒しになった。カケルは右腕から電磁波を放出させ、ワイヤーに伝わした。電磁波はビリビリショートした勢いで、自動人形|《オートマドール》を包み込み、彼らは動きを停止させた。

カケルはファルコンを止め、通信機を取り出した。
ーと、背後に大きな黒い影が覆いつくした。
カケルはびっくりし振り替えると、VXが襲いかかってきた。カケルが咄嗟にワイヤーを構えようとした所、VXはパタリと動きを停止させた。
「おい、久しぶりじゃねーか?カケル。」
後方から電気砲|《バズーカ》を構えた九曜が、煙草をくわえて手を振っていた。
「ふん、ジェネシスごときにやられるなんて、俺も救われないよなぁ…」
奇術師の様な格好をしたVXはそう言うと、再び動きだし、間接から火花を放ち首をクルクル回転させている。
「お前、また博士の差し金か何かか?俺を邪魔しに来たんだな?」
カケルは橋の上から見下ろす九曜を睨み付けた。
「は?俺は仕事で、たまたま通りかかっただけだよ。お前、『ありがとう』が言えないのかよ?てか、コイツ何なんだよ…?」
「コイツは多分、上級のVXだ。さあ、主《あるじ》を言ってもらおうか?コイツらはお前が操っていたんだろ。お前らのせいで街はグジャグジャなんだ。」
カケルはワイヤーで、VXの全身を縛り上げた。vXはカタカタ揺れ、身動きが取れなくなっていた。
「ふん、俺の主人を知りたいだと…?」
「さあ、言えよ。見せるんだ。」
マシンはめんどくさそうに眼をチカチカ点滅させた。そして自身の眼を光らせ、映写機の様に映像を壁に映し出した。
そこに、下半身がクラーケンの姿をした姿のマシンがくっきり映っていたのだ。
「はい、俺の主人です。」
VXは物臭に話した。
カケルの瞳孔が開いた。
ーこ、コイツ…、野郎だ…。ー
地獄の番人の様なソイツは周りには幾多のマシンの残骸やジェネシス、人間の遺体が山積みになっていたのだった。コイツが仲間をやったのだ。
「どうだ?あの、月宮とは次元が違うんだ。」
「月宮と奴は繋がってないのか?じゃあ、レイジも奴1人でやったんだな?」
「ああ、シリウスに大鳥レイジを殺す動機はない。殺す意味なんて無いんだよ…。奴は、亡くなった方の日々谷を蘇らせ、何か企んでいる様だ…。今宵、マシンがファルコンに乗って、貴様らのガイアを制圧するだろう。そしたら、貴様も仲間も終わりだ。」
カケルはVXの首根っこを掴んだ。
「でも…奴に勝つ唯一の方法がある。」
マシンはわなわな震え、矢継ぎ早に話した。
「だから、何だ?グリーンキャピタルもオデッセウスもお前ら『ラグナロク』や『アルカナ』の連中には渡さないぞ。」
カケルの顔は化け物の様に強張った。まるで、全ての怒りが凝縮した様である。
「…果たしてお前は、伝説のマシンに乗りこなす事が出来るかな?しかし、コイツはお前程度に乗りこなせるマシンじゃない。」
「なめてもらっては困るんだが…俺は、大体のマシンの構造から操作まで全て知ってるつもりだぜ?」
カケルの縛る手は益々強くなる。
「いいや。あんただって無理だね。コイツは元殺戮用マシンさ。戦闘型の乗り物だ。見た目はただのバイクだが、非常に気が荒いんだ。膨大なエネルギーを消費しちまうんだ。だから、今までコイツに乗って生きて帰った奴は居ない。要は相性が悪けりゃ、死ぬだけって事さ。」
「ソイツを扱っている組織の名前を言え。」
カケルはVXの首を掴み持ち上げると、電圧を1・5倍程あげた。
「『ブルー・スカイ・ウォーカー』だ…おい、苦しいから、そろそろ離してくれないか?」
マシンはギシギシ首を震わせていた。カケルの身体は熱を帯び、火傷しそうな位である。
「何故、そこまでペラペラ喋れる?自分達に不利益な事を…」
「ふん。あんたらがどう足掻いても無駄な事だ。」
「おい、カケル…。」
「大丈夫だ。モジュールを組み変えれば出来るさ。俺の得意分野だ。」
「…いや、そうじゃなくて…」
九曜は戸惑いながら、煙草をシガレットケースにしまった。
「お前は、所詮、誰も救えないんだ。笑わせるわ…半分、人間の血が流れてるもんな。」
VXは得意気に言い放った。
カケルは無言でワイヤーの電流を上げることにした。右腕からビリビリと花火のように火花が、歩飛ばした。マシンの身体は小刻みに揺れ、そして宙に浮いた。
「黙れ。」
カケルは、マシンをぶっ飛ばした。
「ひっ…」
「今、この腕1本で、お前のモジュールを全ておじゃんにする事だって出来るんだ。」
「そんなに俺たちの星を恨んでも無駄さ。アストロンもガイアも昔は1つの星だったのさ。しかも、お前の母親はアストロン出身者だったんだぜ?笑わせるわ。」
カケルの動きがピタリと止まる。

ーアストロン…?ー

「お前…何を言ってるんだ?」
「知らなかったのか…?あんたは、アストロンの血が流れてるのさ。あんたの母親は軍に属していて、そこであんたの父親に会ったのさ。」
「…どんな軍だ?」
「極秘組織『アポロン』さ。そこは警察庁のトップが運営している所さ。マシンや彼等の主が違法な事をしてないかチェックしてるんだ。そこは主にS級のジェネシスが活動しているが、裏方で人間がサポートしている訳なんだよ。」
「何で、お前がそれを知ってるんだ?」
カケルは更に強くワイヤーを縛り上げた。
「昔、月宮の元で働いていたことがあるからね。あんたらの事は何でも知ってるぜ。」
「だから何なんだ?お前はいまここで死ぬ運命なんだぞ。」
カケルは般若の様な形相になり、ワイヤーを強く引っ張った。VXの首にワイヤーがめり込んだ。VXはギシギシ音を立て、カチカチ音を鳴らした。そして眼をぎらつかせ、カケルの左腕に噛みついた。カケルは左腕に強烈な痛みを感じた。右腕の義手は熱を帯び、火花は3倍以上に強くなった。カケルは痛みを堪え、ワイヤーを更に強く引っ張った。
      するとVXの身体から、強烈な電磁波が流れ出た。電磁波は徐々に拡散していき、電磁波は溶ける様に小さくなっていき、静かになっていった。そして彼の身体は無惨にも粉々に破壊されたのだった。

「お前…カケルだよな?」
九曜は、わなわな震え眉を寄せた。
「…」
カケルの周りに青白い炎が覆いつくした。
「うわっ…。」
九曜は尻餅をついた。カケルの身体はから炎が迸る。
彼の右腕は溶け出しており、熱を帯びていた。
カケルは低く冷めた声を、絞り出した。
「なあ、少しだけでいいんだ。あんたの力を貸してくれないか?」
「は?」
「あんたも敵がいるんだろ?」
「まあ…そうだが…唐突すぎないか?…」
九曜は戸惑い、新しい煙草を取り出した。
「今すぐにとは言わない…ただ奴《月宮》と組織はこの手でボコらないと気が済まないんだ。」
カケルの顔は怒りで満ちていた。
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