堕天使と悪魔の黙示録

ミヤギリク

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日比谷 ミライ ①

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 月宮は真壁とミライを引き連れ、薄暗いトンネルをあるいていた。向こう側は霧がかかっており、全く見えない。
「どうやら狭間は修理が必要みたいだね。真壁、手配を頼む。」
「了解。」
真壁はボソッと言うと、通信機器を取り出した。
   すると、霧の向こう側から大男がのっそり姿を現した。男は全身汗だくであり、眉間に深い皺を刻んでいる。
「…貴様、俺に言う事あるだろ?」
男は杖をつきながらガタガタ震えていた。
「おや、まだそんな事言ってるのかい?」
月宮は優しい笑みを浮かべ、右手人差し指を突き刺した。
「むぐっ…!?」
すると男の首から上半身が、キレの良い刀で斬られたの様に血が迸ったしたのだった。男は膝を着き、そしてた倒れたのだった。
    その時、ミライもその場でばったり倒れてしまった。
「おや、どうやら時間が来たみたいだね。」
月宮はミライを背負い真壁を引き連れると、その場を後にした。

     ミライが目が覚めると、そこは見知らぬ光景が広がっていた。
    メルヘンな雰囲気の内装をした広々とした研究室の様な部屋でありった。天井は一階から三階まで突き抜けており、ガラス張りの囲いから3階まで見渡す事が出来た。日々谷の身体は重くカッターで切られたかのような痛みも伴っている。腕に点滴をしており全身が重くぐったりしていた。
    自分はレースの時、リゲルに襲われてからの先の記憶がない。競技場の崖から落ち、そこから意識を失っていた。黒い何かに覆われたのは覚えている。日々谷は自身の身体を確認したが、大きな負傷は何処にも見当たらなかったのだった。
    外を見るとそこには異世界が広がっていた。
漆黒のビル軍が夕日に照らされ、天まで届きそうな位怏々とそびえていた。空には無数の不思議な形の車が縦横無尽に飛び回っていた。別の窓からは巨大な要塞じみた建物に、巨大なビル軍が睨み付けるかの様にずっしり構えている。
    さっきまで見ていた馴染みのある雰囲気とは似ている様で全く違っている。
  科学技術をこれでもかと言うほどアピールしているが、それがとてつもなく恐ろしく感じてしまったのは初めてである。隙間なくみっしり建てられているビルには、優しさと温もりが感じられない。自然が、緑がほとんどない。しかも、時折見かける人々に覇気が感じられない。人々は心をすっぽり抜かれかのように、マシンの様にヒシヒシ働いていた。ほぼモノトーンしかない機械じみた景色に日々谷は呆気に取られていた。黒く重い物体に押し潰されそうな息が詰まる感覚に襲われたのだった。日々谷は目眩がしベッドに戻ると、呼吸を整えた。
     ここは、地球だろうか?それとも自分は夢を見ているのだろうか?
    幼少期、何故かアストロンに行った記憶だけががうっすらと残ってある。当時、純真無垢で真っ白な子供だった頃はお伽の国に来たような感じで全てが面白かった。子猫の様にはしゃいでいたのを覚えている。しかし大人になった今では、この光景に恐怖を覚えている。
    もしかして、ここはアストロンなのだろうかー?

「やあ、起きたかい?」
3階の奥のエスカレーターから月宮が顔を出してきた。彼の顔や口調で、ミライは直感で悟った。
「…私の知る月宮柊ニじゃありませんね?」
日々谷は月宮を睨み付けた。
「流石、S級ランクだ。組織が目をかけただけの事はある。僕は月宮だ。だが、君の知っている月宮柊ニとは赤の他人だよ。」
月宮は、エスカレーターを降りながら天使の様な眼差しを向けた。
「…彼を殺したのですね?」
「殺した?どういう事だ…?僕はただ、彼に忠告してあげただけだよ。『 狭間は危ないから気をつける様に』と、ね…」
月宮は表情を微動だにせず、日々谷の方へゆっくり歩み寄る。
「…でも、結局、彼は死にました。」
日々谷は冷や汗をかき、5メートル程後退りをした。
「ははは、君に僕が人殺しに見えるかい?それは、それは…。」
「現に、大量に殺してるでしょう?あと、私の身体から何かを抜き取りましたね?」
「君の体内にある動力源を全て抜きとったんだよ。その代わり、こちらで用意した物を注入した。」
「…注入?」
アストロン側の日々谷はその動力源でおかしくなり、ミレニアムと化したと聞いていた。自分もその内、こうなってしまうのだろうか?
「今はまだ身体が拒絶反応しているから痛みを感じてるだろうが、今しばらくすれば慣れるよ。」
「何…何なんですか?あなたは…」
ミライは戸惑いを隠せない…目の前の男は全く知らない赤の他人なのだから。
「まあ。安心し給えよ。そうだ。君にプレゼントを持って来たんだよ。気に入ってくれたかな?」
月宮は微笑む。
ベット右脇にはスーツケースが置かれていた。
「さあ、開けて着るのだよ。」
ミライは何らかの強い糸に引っ張られるかのような感覚を覚え、身体が勝手に動いた。中を開けると、そこには見慣れないジャージ等の衣類が入っていたのだ。
「このダサいライダースーツは、君に相応しくない。今すぐ着替えなさい。」
「ふざけないでください!私は、あなたの望む日々谷ミライじゃありませんよ。」
ミライは震える声で早口で話し、深呼吸をした。
「君に通じるとでも言うのかいー?」
月宮はわざとらしく感心し、いたずらげに微笑んだ。
「あなたの力なら、熟知してますよ。」
「ほほう。」
月宮は目を細めると、冷めた眼差しでこちらを見ている。
ミライはギラギラと左腕を光らせた。
そして、目の前のスーツケースを月宮に押し付けた。スーツケースは、電磁波に包み込まれながらシリウスに突進した。
「ほほう。考えたね。僕に直接攻撃すると、君のダメージが大きいからね。」
月宮は感心した様に大袈裟に手を叩く。
「しかし、無駄さ。」
スーツケースは月宮の手前で跳ね返り、宙に水平浮いた。日々谷は避けようとしたが何故か身体は動かない。しかもスーツケースは膨大な電磁波を帯びていた。日々谷の腹を直撃した。あまりの眩しさに日々谷は目をつぶり、30メートル程吹っ飛ばされた。彼女はスーツケースの下敷きになり、仰向けに倒れた。
「だから、無理なんだよ。皆、僕に挑もうとしてきたが、結局皆、命を落とすか廃人になるかでね…」
月宮はゆっくり日々谷に近づく。ミライはゼエゼエ荒い呼吸をしながら体勢を整えた。全身におびただしい量の火傷を負い、ガウンは焦げまみれになっていた。
「流石、器である事はある。僕に挑んでそのまま生きて正気を保っているのは、君とカケル君だけなんだよ。」
「言っている意味が分かりませんが…」
ミライは月宮を睨みつけた。彼女の火傷は時間が一瞬で巻き戻ったかのように、跡形もなく綺麗に無くなっていたー。
「寂しいね…だから、君は器なんだ…僕は、君の身体を傷つけたくはない。僕としてもこういう下らない茶番は終わりにしたいのだが…」
月宮はわざとらしく眉を八の字にし、眉間に指を当てている。
「私は、私です!」
日々谷は再び深呼吸をすると、彼女の周囲を炎が取り囲んだ。炎は強さを増し、大蛇の様な形状を象った。蛇は月宮を覆い、空間中に灼熱の炎が充満した。
     しかし、灼熱の炎は消火器でかき消されたかの様に徐々に小さくなった。そのの炎は、月宮の右肩でロウソクサイズ程に小さくなり、そして消えた。線香のように煙が小さく残って、空間全体の炎は何事も無かったかの様に無と化した。
    すると、ミライの喉からへそ辺りまで鮮血が吹き出した。と、両肩と両脛からも血が迸った。日々谷は身体中ににノコギリで斬られたかの様な裂ける様な鋭い痛みを感じた。
「…!?」
      そして、ミライは自身の喉に触れた。呼吸が苦しくなってきたのだ。彼女の身体は操り人形であるかの様にそのまま60センチ程宙に浮き振り子の様に揺れ、そして60メートル後方へ弾き出された。ミライの身体はスクーターがぶつかる勢いで壁に激突し、うつ伏せに倒れた。
「よしたまえ。君のやっている事は全て、悪あがきと言うのだよ」
遠くの方から月宮が悠然と歩いてくる。
「な、んで…?」
ミライは上体を起こし、左肩の出血を押さえつけた。呼吸は出きる様になったが、ゼェゼェ荒く乱れていた。
「何で?それは君が僕を知らなさすぎたからさ。もう1人の僕も僕と同じ能力を有していた。しかし、君達はを知ろうとしないじゃないか?」
「マシンの割に、随分お喋りなんですね…。」
ミライは体勢を立て直すと、唇を噛み締めた。
彼との距離はまだ50メートル程ある。
     ミライは呼吸を整え、深く息を吸むみ勢い良く吐き出したー。すると、ガラス張りの囲いや窓が次々と全て、粉々に砕け落ちた。
      そして、空間全体で、グラグラ地響きが沸き上がった。そして、地面の至る所に徐々に亀裂が刻み込まれ、空間内の太い支柱がぐらついた。今にも天井が崩れ落ちそうである。
   しかし、は微動だにせず、薄ら笑いを浮かべていた。
「何かと思えば、何だ、そういう事かー。」
そして彼は、パチンと、手を叩いた。
ミライは、渾身の力を込めて炎で月宮を包み込んだ。
しかし、その直後炎は一瞬でかき消された。煙の中から月宮が姿を現した。

「いやー、残念だったよ…。器がこの程度だと困るなあ。」
月宮の左側の額から血が滴っていた。しかし、彼は平然としていた。そして、彼の身体は右半分が金属になっていた。表の人工の皮膚が剥け《むけ》出したのだろう。彼の身体の右半分は機械なのだ。まるで、ターミネーターを彷彿《ホウフツ》とさせる重厚な造りとなっている。関節には配線が幾つも剥き出しになっていた。右半身の赤い眼がチカチカ点滅している。
     月宮は、自動人形オートマドールだったのだ。
ミライはガクガク震え、後付さりをした。
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