堕天使と悪魔の黙示録

ミヤギリク

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デーモンロード

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「なんてざまだ。小娘如きに足を救われるなんてー。」
広大な城内の廊下には、3人の人か影があった。月の光に映し出された庭園の池から、3人の姿がくっきりと映し出されていた。
「しかしー、あの娘はあの日々谷ミライと聞いておりますぞ。」  
部下はチラチラ月宮柊ニの様子を伺いながら、ガッチリとした中年男に矢継ぎ早に話した。
「御託はもういい。柊ニには我が社の跡取りになるべく極上の訓練をさせてやったのだ。そこらのパンピー共に出し抜かれては困るのだ。しかし、あの娘が台頭してからコイツはずっとナンバー2だ。月宮家の名が聞いて呆れるわ。」
中年男は、腹の虫が暴れ回っているかの様にイライラしていた。
「ところで、五次元の扉|《ネオ・ホライズン》の件ですが…揺らぎが生じているらしく…並行宇宙から侵略者のが来たものだと聞いておりますぞ。」
部下はハンカチを額にあて、せかせかと早口で話した。
「当分、泳がせとけ。そこら辺にマシンをばら蒔いとけ。それでいい。」
父親は、いかにも無関心で塵でも扱うような物言いであった。
    月宮柊ニは苦い薬を飲んだかの様な顔をして、うつ向いていたのだった。


    翌朝、歯が欠けたような廃墟の中では数十人のジェネシスがバスに乗り、敵のあじとを目指していた。街はかつての輝きを失い、全てがモノクロで色褪せていたのだった。
「今日は、ラグナログの連中も来てるみたいだぜ。」
「当たり前だろ。今回の敵はジェネシスが全滅だったと聞いているぞ。皆、死んだんだよ。」
「え! ?じゃあ、俺達は棄てゴマかよー?」
棄てゴマとしか思えない仕打ちであった。こちらは、敵の情報は殆ど知らされてないのである。しかし、今回はNo.250番以上の新型のマシン相手に戦うのである。その為、戦いの時、必ずS級の者が全体の1割程度はいるのだ。その内、1人が自分である。残りは誰がいるのだろうかー?
    月宮は日比谷の姿を探した。すると、バスの最後部座席に日々谷が微睡みながら頬杖をついたのが見えた。
「アイツも来てるのかー。」
月宮は溜め息をついた。

    しばらく走ると辺り一面モノトーン調の街並に走ってきた。遠くの方で屈強なビル軍はドミノ倒しにガタガタ崩れ落ちる様を目の当たりにした。
「また、人がやられたのか?」
「いいや、あそこは保護エリアだ。今頃人間はシェルターに守られてるさ。」

「…し、柊ニ…」
「どうした!?」
さっきまでずっと月宮と話していた男が、自分の喉を手で締め付けている。
「お、お前…」
月宮は直感で敵の存在に気付いた。彼は仲間の手を掴み、無理やり引き離そうとしたが、仲間の手は石のようにみるみる固くなっていく。その強烈な力に、月宮は敵の気配を感じた。
「何処だ・・・?何処にいるんだ?」
不意に空気が重く沼の底に沈んでいくような気だるさを感じた。空気が淀み深く渦を巻いている。すると、仲間の背中に大きな目があるのに気が付いた。他の仲間達もほとんどが倒れこんでいる。
「-すまない。ちょっと我慢してくれぬか?」
月宮は拳を力を込め、深呼吸を始めた。月宮の右腕の周りに花火のような眩しい光線がチカチカ点滅した。するとそこには全長2メートルの金槌が出現したのだ。月宮はその金槌で、仲間の背中にある眼を叩きつけた。仲間は悲鳴を上げ、そして意識を失った。巨大な目は刃に吸収されると徐々に小さくなり消失した。
「月宮、後ろだ!」
後方から日比谷が声を張り上げた。
深い霧の向こうから3人の人影が見えた。
「何なんだよ…?アイツらは…」
残りのメンバー達は
「ふん、ジェネシス如きがこの儂《わし》に歯向かうなど、一億年早いわ。」
中年の男は、パイプをふかせながら夏だと言うのに、トレンチコートにマフラー、シルクハットと言った場違いな格好をしていた。
「あら、可愛い坊や達じゃない。」
妖艶な女が葉巻をふかせながら、ジェネシス達に冷めた視線を送っていた。月宮はそのドライアイスの様な冷たく乾いた視線に、冷や汗をかいていた。彼等から、鉛の塊の中にいるようなどんよりとしたオーラを感じた。周りの者の殆どが、喉に手を当て倒れこんでいた。コイツらは、覚醒したマシンであると、悟った。
「ダリー、早くチャッチャとやっちまおうぜー。」
物臭な少年型のマシンはあくびをしながら、木陰で蟻の行列を物色していた。
「もう、いいわ。こんな奴ら用済みだわ。」
中年男は懐からステッキを出すと、円盤の様にクルクル回転させた。すると、台風でもあったのようなとてつもなく強い風が辺りを覆い尽くしたのだ。砂埃と木の葉が入り乱れ、仲間は次々とミンチの様に切り刻まれ、血が迸る。すると視界全体に霧が立ち込めたのだった。
月宮は遠心力で遥か遠くへ飛ばされた。

「こんにちは。お姉さん達。」
月宮が目を覚ますと、少年がしゃがみこんで顔を覗き込んでいたのが見えた。
ここはデパートの一階だろうかー?一階から三階まで天井が貫いており、天井のライトはチカチカ点滅していた。エスカレーターは虚しくガラガラ音を立ている。所々に商品が散乱しており、瓦礫のタワーが通路を塞いでいたのだった。
「動くな!撃つぞ!」
三階の手すり方から人影が見えてきた。聞き覚えのある声だ。人影は電気砲|《バズーカ》を構えると、振り向いた少年の額に照射した。少年の身体たちまちドロドロに溶け、金属の塊になりそして消えてしまったのだ。
    声の主は手すりから下に降り、着地した。
そこには電気砲|《バズーカ》を携えた日々谷ミライがいたのだった。
「あんた、立てるか?時間稼ぎをするぞ。」
「ああ、なんとか…。それより仲間は、仲間はどうした!?死んだのか !?」
「私が彼等を安全な所へ空間転移した。重症だが、皆、命に別状はないさ。しかし何故か、あんたにはその技は効かななかったんだ。あと、さっき組織の者達が駆けつけ、他の2体を捕縛したらしい。奴等は今はアルカナで尋問されてるみたいだ。」
日々谷は月宮を担ぐと、2人で出口を目指し歩いた。

     出口付近まで差し掛かると、そこには少年の姿があった。
「なにソレ、時間稼ぎ?僕に電気砲|《バズーカ》が、効かないのは知ってるよね?」
物臭な少年は、あくびをすると、自己紹介を始めた。
「僕はエルドラド。通称 エルって言われてるんだ。宜しく。」
例の3人組の1人である。木陰で蟻と遊んでいた少年である。10代半ばくらいのマシンである。彼は本当にVXなのだろうかー?只の少年にしか感じられない。
「コイツはvXなんかじゃない。元ジェネシスだ。奴等は『シグマ』と呼ばれている。彼等は力を使い果たし、身体中の蛋白質やカルシウムが金属に変化したのさ。ジェネシス時代の記憶はあるが、かつて理性で押さえつけてきた心の底の闇が、出現したんだ。私達の成れの果てだ。」
日々谷は重い口を開いた。
「おや、物知りなんだねー。おねーサン。君も仲間になっちゃう?」
少年はおどけたピエロの様に首を傾げ、満面の笑顔を向けた。
日々谷は電気砲|《バスーカ》を構えると、少年の額に照射した。レーザーは少年に命中し、
少年の顔はぐにゃぐにゃに変形した。
「なにそれ?言ったよね?こんなので僕にはきかないんだけど…」
日々谷ははエルの頭部を掴むと、そのまま遥か向こう側の壁に突き飛ばした。エルは5、60センチ程、壁にめり込んだ。壁は砂の塊様に簡単に崩れ落ちた。すると、強い衝撃と空間全体に地震の様な揺れとで、建物全体が大きく傾いた。
「へーやるねー。」
エルは余裕の表情で首をポキポキ揺らしている。日々谷彼の方へダッシュし、つかさず彼の頭部に回し蹴りを入れた。刃物が突き刺さる様な強烈な蹴りと、子気味のいい炸裂音がした。エルの頭部ははバチバチ音を立てると、時限爆弾の様にバチバチ音を立てていた。しかし、彼の頭部は凹んだかと思うと、泥人形の様にぐにゃりと変形してしまったのだった。
「じゃあ、僕からのお返しだね。」
泥人形はぐにゃぐにゃ歪むと、元の人の姿に変化したのだ。そして右腕をナイフの形状に変形させると、日々谷の腹部に突き刺した。日々谷はよろめくと、そのまま倒れこんだ。
「日々谷!!!」
月宮は声を張り出した。身体が動かなく、遥か遠くの方から眺めているしかなかった。
エルは右腕をナイフの形状に変形させると、矢のような素早さで月宮に向かってきた。一瞬、エルの残像が分身の様にチカチカ現れては消えた。シリウスは残りの力をふりしぼり、彼をかわし、彼の顔面に回し蹴りを食らわした。しかし、エルの顔面はバチバチ火花を放ったかと思うと、凹み再び綺麗に修復したのだった。
「折角、素敵なプレゼントくれたんだから、もらってくれなきゃ、困るよ?」
と、同時にエルは斧が突き刺さる様な鋭さで、月宮の脛を蹴りつけた。
「ぐはっ!!!」
脛に激痛を感じた。まるで無数の釘が突き刺さる様な痛みである。
ー!?
すると、少年の頭部に再び弾丸が貫かれた。後方から日々谷が電気砲を構えていた。
「へぇー、きみまだ動けるんだー。じゃあ、お返ししないとね。」
     エルは、全身から無数の釘の様な金属片を放出した。日々谷は転がり込むように近くのカウンターの後ろに隠れた。金属片は弾丸の様な威力があり、辺り一面に点在してあるマネキンに貫通した。そして、商品ディスプレイのガラスが破損したのだった。

「やめるんだ!」

「バーカ。やめろと言われてやめる馬鹿が、何処に居るんだよ。人間もジェネシスも皆、知恵が回らないっていうか、いざと言うとき『来るな』とか、『よすんだ』とか、そういう事しか言えないんだよねー。」
エルは、溜め息をついた。
「違う。僕は君への警告の意味合いを含めて言ったんだが…」
そこには、月宮は眼をエメラルド色に光らせ、エルを睨み付けていたのだった。
「何だと?」
エルは眉をハの字に歪めた。
「これは力の制御が効かないんだよ。」
凄まじい位の突風が巻き起きた。
「ふざけるな!」
エルは再び金属片を放った。月宮は金属片睨み付けると、それらは見事にエルに跳ね返ったのだった。
「…なんだよ?」
エルは顔に皺を寄せると、再び金属片を放った。しかし金属片は、見事に跳ね返るのだった。


「あの時あんたが自分の片腕を私のお腹に突き刺した時から、あんたの敗北は決まっていたんだ。」
「お、お前、それは…」
エルは身震いした。日々谷がジャージを捲ると、そこにはメラメラと燃えている内蔵が透けて見えた。
「お前等、騙したのか?」
エルの身体はチョコレートの様にドロドロに溶け始めた。
「あんたは身体全体が液体金属で出来ているだろ?多分、銀かな?だからあんたは、何らかの力で炎系の攻撃から身を守る為に、あたしの能力を封印したんだ。あんたは日頃から熱系統の攻撃には敏感だった。しかし、あたしはわずかな時間だが、自分の身体の温度を自在に変化することが出来るんだ。35度から3000度位にな。」
日々谷は微笑み、電気砲を放った。
「貴様ー!!!」
エルは雄叫びをあげたが、彼は声ごと炎に包まれ、消えて消失した。





「月宮、やったぞ。しっかりしろ。」
日々谷はシリウスの元へ駆け寄ると、傷口に手を当てた。すると、シリウスの傷はすっかり消失していたのだ。
「それより、お前、その能力は何だ?」
「錬金術さ。僕は空間の物質を自在に操れるんだ。しかし、お前の作戦はひどかったよ。しばらく動けないふりをさせられるなんてなー。」
「いいじゃん。倒したんだからさ。」
「まあ、それはそうなんだが…」
「そんな事より、折角美味しい話を持って来たんだが…、聞きたくないか?」
日々谷は得意気に腕を組んだ。
「美味しい?」

「近々、5次元の扉|《ネオ・ホライズン》の扉が開かれる事になるんだってよ?」
「は?5次元の扉|《ネオ・ホライズン》か?あそこは確か並行世界に繋がってるんだよな…。」
月宮は漫然とした表情で顎に手を当てた。
「ああ。『ガイア』さ。もうひとつの地球だよ。あたしもその内、向こうに行く予定さ。」
その言葉に月宮の瞳孔は弾ける様に大きくなった。日々谷の言葉には、何か期待に胸を膨らませているようなそんな響きがあった。
「行ってどうする気だ?」
「昔、お世話になった人に会いたくなってな。そこに何人か、仲間達もいる筈なんだ。」
「…お前、他に隠してる事があるな?」
「…あんたが知った所で、何も変えられやしないさ。」
日々谷は眼を細め、口をへの字に曲げた。
「でも今のままじゃ、世界は救えない。『ガイア』に行った所で、を潰さないと話にはならないのさ…。」
「…かー?」
「言っとくが、お前みたいな少女1人で何ができる程、世界は生温くはないんだぞ。」
「失礼だなぁ。あたしはあんたと同い年だよ。確かに童顔だが、もうとっくに成人してるよ。」
日々谷はやきもきすると、めんどくさそうに頭をかいていた。
「…お前、大人だったのか…」
月宮は、彗星でも見るかの様な目でまじまじと日々谷を見ていた。彼女は素っぴんであり、黒のキャップハットに全身黒のジャージを着ていた。スニーカーも随分年季の入ったかんじである。
「私は、元B級だったんだ。ーで、今から3、4年前、機械兵に襲われて身体の殆どを負傷してしまったんた。一時、麻痺状態になってな。」
「お前がB級だったってのか?あり得ないだろう。」
「それから何故か知らんが、能力値が異常に高くなってな…。底に眠る狂気が沸いてきたのかな?」
「3、4年前ってが関係してるんだろ?」
「あんたは知らなくていい事だ。」
日々谷は苦笑いをしていた。ジェネシスは解放した力の度合いによって、身体が蝕まれ最終的にマシンになる運命にある。
「…向こうの仲間と連絡取ってるのか?」
「いいや、音沙汰無しさ。」
日々谷の眼は何処か虚ろで遠くの星を眺めていた。
「あの雨の時、どうして僕なんかに力を解放したんだ?」
「さあな。あんたがあたしと似ていたからさ。」
日々谷は口を緩めた。彼女はどこかしら寂しげに空を眺めていたのだった。
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