堕天使と悪魔の黙示録

ミヤギリク

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果てしなき咆哮

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あんまり弄|《いじ》るなよ。これは試作品なんだ。」
「なぁ、ちょっとならいいだろう?」
広いドーム型の研究室で、レイジは武器の研究と開発を行っていた。
「うわぁー、カッチョいいなー。」
「お子ちゃまは、そろそろ寝る時間だぞ。もう11時だぜ。」
「なぁー、まだいいだろう。」
カケルはクレイモア型の剣をブンブン振り回しながら、走り回った。ふと、離れたところに直径3メートル程の青色の巨な液体の水が球を形づくりその場でプカプカ浮いていたのだ。その球の周りには強烈な電磁波を帯びた鉄の棒が四方を取り囲んでいた。
「なんだ?この水の球は?何か不思議だなぁー。」
「あぁ、これは『オシリスの泉』だ。まだ開発したばかりで不安定なんだ。」
「あそこのエリアは?」
少し離れた辺りに強烈な電磁波を帯びたエリアがあった。そこにも鉄の棒が四方を囲っていた。
「これはお前ら子供を守る為のバリケードだ。」
「ふうん。」
 そのときだった。異様な重苦しい気配がしたのだ。敵の気配か?しかし、異様に近すぎる。自動人形|《オートマドール》でも同胞でもない甘ったるい匂いが辺りを包み込んだ。
「カケル、その装置の中に逃げろ!!」
レイジはカケルを呼び止めるもカケルは恐怖で動けないでいた。お守りはコロコロ音を立て、向こう側の溝に転がっていった。
「あ、お守りが!!」
カケルは咄嗟にビー玉を取りに行こうと駆け込んだ。
「馬鹿!早くバリケードに入れ!」
レイジが止めに入るのも虚しく、数秒後カケルは悲鳴を上げたのだった。
「カケル!!!」
亀裂から触手が延びており、ソレはカケルの全身に巻き付いたのだった。そしてたちまち鋭い爆音がし、レイジはむせこんだ。
そこには化け物がいたのだ。全長5・5
メートル程の自動人形|《オートマドール》は、上半身は成人女性 下半身は蜘蛛の様な姿をしていた。口は魚の様にパックリ広がっており、口の隙間からギザギザした歯が見え隠れしている。尖った耳に全身が白灰色のおぞましい魔女の様な姿をしていたのだった。
「あら、美味しそうな坊やね。」
鋭い眼孔の自動人形は流暢に物臭そうに話す。
「くそう、離せ・・・、化け物!!!」
カケルは両足をバタバタさせる。
「お前らは、オイル以外喰えないんじゃないのか?ぶっ壊れるぞ?」
レイジは電気砲|《バズーカ》を構えると、蜘蛛女に照準を合わせた。  
「それにお前らは、作った覚えないぞ。」
「あらぁ~、知らないの『アポロン計画を』」
「ア・・・、『アポロン計画』だと・・・?」
「要は人間とジェネシス抹殺の為に私達が造られたのだ。」
「お前、元はジェネシスだな?」
「フフフ…、でも今はソレを遥かに超越したのだ。」
「人である事を棄て、抜け殻になったってのがかい?」
レイジは、自動人形≪オートマドール≫の額に照準を合わせ、リボルバーを引いた。砲弾は蜘蛛女の額に当たり、彼女は動きを停止した。そして、強烈な電流が火花を散らしながら、彼女を包み込んだのだった。
ーが、しかし届かないー。
これ程の強大な電磁波でも、コイツには効かないと言うのだろうか?
「カケル、結界の中に逃げろ!!」
レイジは蜘蛛女が怯んだ隙に、落ちてきたカケルキャッチした。カケルは言われるがまま、バリケードの中へ逃げ込んだ。そして、カケルが息を殺している隙に、すぐ横に長い鍵爪が棚を貫いた。
「カケル、もっと奥に引っ込んでろ!!」
カケルは恐怖で全身汗でびっしょりだった。カケルは頭を抱えながら奥に引っ込んだ。
 
 すると、レイジの身体はみるみる岩のように硬くなり、鋭い眼光はグレーに光ったのだった。
「レイジ…、ソレは…?」
蜘蛛女の前肢がレイジの左足を目掛けて、前足を鞭の様に振るった。レイジは闘牛を押さえつけるかのような体勢で、蜘蛛女の前足を掴むと両足で踏ん張った。するとレイジの両腕の筋肉はらくだのコブの様に盛り上がりたちまち2倍ほどの太さになったのだった。両腕には血管が盛り上がっていた。しかし、その時蜘蛛女の前足がレイジの右脇腹を貫通していた。
「フン、お前等の弱点は既に知っているのだよ。」
「前に、俺の兄弟に会ったかのような口振りだな。だが・・・、ソレがどうしたって言うんだい?」
レイジは激痛に耐え、右脇腹に刺さっている前足を抜くと、深く深呼吸をした。
「だから、無駄無駄、無駄なのだよ!」
蜘蛛女は勝ち誇り、トドメの一撃を食らわす。レイジの巨腕は蜘蛛女の脚を掴み、そのまま力ずくで引きちぎった。
「何故だ!?その様なデータはなかった筈だぞ!?」
蜘蛛女は鬼のような形相で地団駄を踏んだ。
「どうした?これだけか?俺はまだ手札を持ってるぜ。」
「・・・。」
「強くなったとは言え、大したことは無いんだな。」
「ふざけるな!!!」
するとたちまち激しい火花が辺りを取り囲んだ。火花の中から再び幾度の耳を塞ぎたくなる様な爆音がした。まるで花火が打ち上げられているかのようだ。強烈な光線と爆音にカケルは両目を閉じ、耳を塞いだのだった。カケルが恐る恐る耳から手を話し、目を見開くと、鋭い咆哮の様な掛け声が聞こえてきたのだった。
 そして火花の中でレイジは蜘蛛女を軽々と持ち上げ、『オシリスの泉』に放り投げたのだった。
「ぎゃぁー。」
蜘蛛女は強烈な悲鳴を上げ、もがき苦しんだ。彼女の身体は徐々に溶け、すっかり胸部から上までしかなくなっていた。蜘蛛女は体勢を整え残りの力を振り絞った。レイジは蜘蛛女の方へ歩くと、彼女の頭を掴み、軽々と持ち上げた。
「・・・、どういう事だ?その様なデータはなかった筈だぞ。」
「もっと楽しめると思ってたのに残念だぜ。」
レイジは軽く溜め息をついた。
「ふざけるな…。お前らはまだ知らないのだ。この先の行く末を。偉大なる計画の先を…。」
蜘蛛女は蚊の泣くような声を絞り上げた。
 しかしレイジは、蜘蛛女の硬い頭部を、ビーチボールを扱うかのようにいとも簡単に握り潰したのだった。
 室内では、辺り一面で焦げ臭い煙が充満していた。煙が和らぐと、そこにはレイジの姿とぺしゃんこになった蜘蛛女の亡骸がそこにあった。
「レイジ、大丈夫か?」
カケルは乗り気では無い顔である。
「殺ったのか?」
「あぁ、殺ったさ。コイツは今まで沢山人を喰い殺してきた。だから始末したまでだ。」
「知ってるさ。そういう事。でもあんなの見ちゃうと…、俺、レイジが怖いよ。」
「すまんな。力の制御が効かないもんでね。」
レイジはタオルをお腹に当てるとその場でしゃがみこんだ。
「レ、レイジ…人呼ばないと…。血がダバダバ出てるよ…。」
「俺は化け物なんでね。ステーキ喰って良くなる。」
「肉ならあるよ。くすねてきたんだ。」
カケルは右ポケットから、ビーフジャーキーの入った袋を手渡した。
レイジは苦虫を噛み締めた顔つきで脇腹を押さえ、ビーフジャーキーを口に放り込んだ。するとレイジの傷は、魔法にかかったかのようにみるみる綺麗に完治したのだ。

 その日以来、カケルはレイジが遠くの世界の違う人種であるかの感じがして恐怖を覚えたのだった。これが、大鳥レイジの本来の力なのか…?いつか自分も殺られてしまうのではないだろうかと…。
 非力な少年の心の中で、憧れと恐怖と言う2つの矛盾した思いが入り交じっていたのだった。
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