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なんか予兆だって
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「さてフミツキ様、なんとなくでしょうが魔力が実在する、ご自身の内に確かに存在する、という事を多少は実感できたのではないでしょうか?」
「うん、なんとなくだけど、まだ明確に言葉には出来ないけど、何となく分かりかけた気がします」
「それは重畳です」
アガサは満足げに頷いた。
「フミツキ様、そろそろ本当に休憩を挟んだら如何ですか?」
リグロルが文月に問いかける。
「あ、そうだね、アガサさんも立ちっぱなしじゃ疲れるもんね。どうぞ座って」
そう言って文月は自分の正面の席を勧めた。
「ありがとうございます。それでは失礼しますね」
アガサが歳を感じさせない優雅な動きで勧められた席に着く。
席に着いた二人の前に、すぐにお茶が置かれた。
「フミツキ様、どうぞ」
「ありがとう」
「アガサも、どうぞ」
「ありがとう」
紅茶と一緒に焼き菓子もそれぞれの前に置かれた。
「あ!」
「フミツキ様、どうなさいました?」
「今更、思い出した……、ドリン亭の焼菓子を買って来てって王妃様に頼まれてたんだった……」
「それでしたらご安心下さい。これがそのドリン亭の焼菓子です。私が買って来てジクドリア王妃様のお手元にも届いております」
「おぉーリグロル優秀……」
「とんでもない、恐れ入ります」
カチューシャの乗った頭を下げながらもリグロルは嬉しそうだ。
「お二人はとても良好なご関係を結ばれているんですね」
「うん、……えへへ」
そう言えば僕こっちに来てから一人で寝た事無いや。
アガサに仲の良さを指摘され、一人で寝てない事に気がついてしまった文月は照れ笑いを浮かべる。
「フミツキ様のおかげで楽しく仕えさせていただいてます」
リグロルは何処となく自慢げに、そして満足さを前面に出して答えた。
「僕、リグロルに甘えちゃって結構ワガママ言っちゃってるんだ」
「あら、フミツキ様。お気になさらずもっとわがまま言っていただいて良いんですよ」
「いやー、さすがにねー、照れくさいよ」
たははーと照れ笑いをしながら文月はカップを傾けて赤くなっているであろう顔を隠そうとする。
あらあら、確かにどんな我儘でも叶えて差し上げたくなっちゃいますね。周囲が甘やかしても増長されるようなお人柄でもないですし。タルドレム王子も良い伴侶に巡り合えたようで本当に何よりです。
そんな事を考えながらアガサも二人の仲の良さを微笑ましく眺めた。
「あ、美味しいね、このクッキー」
「お気に召されたようで何よりです」
「ジクドリア王妃様が気にいるだけはあるね」
文月はサクッとクッキーを、もう一口かじった。
「けどこれには魔力が入ってないって分かる」
「素晴らしい。お分かりになるようになられてきましたね」
「んー、魔力が入っている食べ物や飲み物って珍しいんですか?」
「そうですね。意図しないと口に入れるものに魔力が入る事はほとんど無いでしょう」
「なるほど」
「フミツキ様は今、ご自身の魔力を感じられましたが、ご自身以外の魔力は感じた経験はお有りですか?」
「うーん、うーん、……無い……かな?」
「何か靄のようなものが見えたり、気配を感じたりして魔力を知覚する人は多いですよ」
「うー……気づいていないだけ……かな?」
「そうですね、当たり前すぎてお気づきになっていないということも十分に考えられます」
そう言ってアガサは指を一本立てる。
「フミツキ様、これからこの指先に魔力を集めます。ただただ集めるだけですので何か見えたり、感じたりしたらお知らせください」
「はい」
文月はアガサの指先を凝視する。しかし特になにも見られない。
「……さらに凝縮します」
静かな声でアガサが宣言した。
……キィィィィィィィ!!!
「わっ!」
高音が聞こえて文月は思わず耳をふさぐ。
いや、元々聞こえてはいたのだが高音が大きくなって初めて聞こえていた事に気が付いたのだ。
この音ならずっと聞いていた。あまりにもいつも聞こえていたから意識の外になっていた音だった。
「何かお分かりになりましたか?」
アガサが手を下ろすと音も消えた。だが一旦意識をしてしまえば音はあらゆる方向から小さく聞こえていた事に気がついた。
今まで聞こえていたのに意識出来なかった為に認識できなかったのだ。だが気がついた今は音が世界を満たしているのを感じた。
文月の知覚が急速に広がる。
「高い音が聞こえました。いや、まだ小さいけど音が周りから聞こえてます」
おっかなびっくり文月は耳から手を離す。
「フミツキ様は魔力を音で知覚するようですね」
「今の音が、魔力の音?」
「はい、今度は目を閉じて聞いてみてください」
「うん」
文月が目を閉じるとアガサは再び指を立てて先端に魔力を集める。
「うん、聞こえる!」
先ほどよりもはるかに早く文月は魔力を聞いた。
「目はそのまま閉じられていてください。私はこれから動きますから私を指で指し続けてください」
「うん」
アガサは静かに立ち上がり足音を立てないように動き出す。毛足の長い絨毯が室内に敷かれているので静かにしようと意識して移動すれば足音は出ない。
アガサはゆっくりと文月から離れ大きく円を描くように動く。
しかし目を閉じた文月の指先は正確にアガサを指し続けた。
満足げにほほ笑んだアガサはリグロルに目配せする。
アガサの意図を汲んだリグロルが指を立てる。同時にアガサは手を下ろした。
「あ、リグロルだ」
文月は一瞬で魔力の発信元が変わったことに気が付きリグロルを指さした。
「素晴らしい。フミツキ様、もう目を開けていただいて結構ですよ」
「うーん、もうちょっと閉じてる」
「……理由を伺ってもよろしいですか?」
「えっと、うーん、良く見えるんだ」
「良く見える?」
「あ、いや、よく聞こえるって言った方が正しいんだろうけど、うーん、魔力が良く見えるんだ」
「……なるほど、どこまで見えますか?」
「えーっと、えーっと、あ、タルドレムの居場所が分かる。あ、ジクドリア王妃様の場所もわかる。マドリニア王の」
「お止めください」
アガサの冷たい声に文月は驚いて目を開けた。
アガサは微笑んだままだが微動だにしていない。驚いているのか緊張しているためなのか。
「フミツキ様、国王様の居場所を突き止める行為は今後絶対に控えてください」
「は、はい、分かった、しない」
顔は笑ったままだがアガサから放たれる圧力が半端ない。文月は思わずコクコクとうなずく。
次の瞬間アガサの圧力が消える。
「フミツキ様、失礼いたしました。うかつにどこまで見えるか等と伺ってしまった私の責です。申し訳ございませんでした」
アガサは膝をつき文月に深々と首を垂れた。金髪の先が絨毯に触れる。
「わっわっアガサさんごめんなさい!立って立って!僕また調子に乗っちゃった!」
「この咎はいかようにも」
「もぅ!そういうのイヤ!立ってよぉ!ぐずっ」
「フミツキ様?」
アガサが顔だけ上げると文月は目元を赤くして瞳を潤わせていた。
ポロリと涙がこぼれた。
リグロルが文月に駆け寄り抱きしめる。文月はリグロルの胸元にしがみつき小さく嗚咽し始めた。
「アガサ、立ってください。その姿勢はフミツキ様を傷つけます」
リグロルが文月をしっかり抱きしめたまま目線だけ動かしアガサを睨む。
アガサはすぐに立ち上がった。ゆっくりと二人に近づき静かに語り掛ける。
「フミツキ様、お許しください。フミツキ様を傷つけてしまいました。授業の続きは次回にいたしましょう」
リグロルの胸に顔を押し付けたまま文月はコクコクとうなずいた。
「失礼いたします」
自分で扉を開け、深々と頭を下げてアガサは退室した。
「っう……っう……うあぁあああああ!」
扉が閉まり、二人きりになった途端に文月は声を上げて泣き始めた。
リグロルはぎゅっと文月を抱きしめる。
「お、お姫様になんて、なんて、なりたくなんて、なかったのに!勝手にされたのに!」
リグロルは文月を抱きしめ続ける。
「リグロル!優しくなんてしないでよ!どうせ僕なんだから!」
「フミツキ様……」
相手を拒否し、自分を拒否しながらも文月はリグロルにしがみつき泣き続けた。
リグロルは情緒不安定な文月を抱きしめながらも内心は落ち着いていた。
そろそろですね、ご準備はお任せください。
「うん、なんとなくだけど、まだ明確に言葉には出来ないけど、何となく分かりかけた気がします」
「それは重畳です」
アガサは満足げに頷いた。
「フミツキ様、そろそろ本当に休憩を挟んだら如何ですか?」
リグロルが文月に問いかける。
「あ、そうだね、アガサさんも立ちっぱなしじゃ疲れるもんね。どうぞ座って」
そう言って文月は自分の正面の席を勧めた。
「ありがとうございます。それでは失礼しますね」
アガサが歳を感じさせない優雅な動きで勧められた席に着く。
席に着いた二人の前に、すぐにお茶が置かれた。
「フミツキ様、どうぞ」
「ありがとう」
「アガサも、どうぞ」
「ありがとう」
紅茶と一緒に焼き菓子もそれぞれの前に置かれた。
「あ!」
「フミツキ様、どうなさいました?」
「今更、思い出した……、ドリン亭の焼菓子を買って来てって王妃様に頼まれてたんだった……」
「それでしたらご安心下さい。これがそのドリン亭の焼菓子です。私が買って来てジクドリア王妃様のお手元にも届いております」
「おぉーリグロル優秀……」
「とんでもない、恐れ入ります」
カチューシャの乗った頭を下げながらもリグロルは嬉しそうだ。
「お二人はとても良好なご関係を結ばれているんですね」
「うん、……えへへ」
そう言えば僕こっちに来てから一人で寝た事無いや。
アガサに仲の良さを指摘され、一人で寝てない事に気がついてしまった文月は照れ笑いを浮かべる。
「フミツキ様のおかげで楽しく仕えさせていただいてます」
リグロルは何処となく自慢げに、そして満足さを前面に出して答えた。
「僕、リグロルに甘えちゃって結構ワガママ言っちゃってるんだ」
「あら、フミツキ様。お気になさらずもっとわがまま言っていただいて良いんですよ」
「いやー、さすがにねー、照れくさいよ」
たははーと照れ笑いをしながら文月はカップを傾けて赤くなっているであろう顔を隠そうとする。
あらあら、確かにどんな我儘でも叶えて差し上げたくなっちゃいますね。周囲が甘やかしても増長されるようなお人柄でもないですし。タルドレム王子も良い伴侶に巡り合えたようで本当に何よりです。
そんな事を考えながらアガサも二人の仲の良さを微笑ましく眺めた。
「あ、美味しいね、このクッキー」
「お気に召されたようで何よりです」
「ジクドリア王妃様が気にいるだけはあるね」
文月はサクッとクッキーを、もう一口かじった。
「けどこれには魔力が入ってないって分かる」
「素晴らしい。お分かりになるようになられてきましたね」
「んー、魔力が入っている食べ物や飲み物って珍しいんですか?」
「そうですね。意図しないと口に入れるものに魔力が入る事はほとんど無いでしょう」
「なるほど」
「フミツキ様は今、ご自身の魔力を感じられましたが、ご自身以外の魔力は感じた経験はお有りですか?」
「うーん、うーん、……無い……かな?」
「何か靄のようなものが見えたり、気配を感じたりして魔力を知覚する人は多いですよ」
「うー……気づいていないだけ……かな?」
「そうですね、当たり前すぎてお気づきになっていないということも十分に考えられます」
そう言ってアガサは指を一本立てる。
「フミツキ様、これからこの指先に魔力を集めます。ただただ集めるだけですので何か見えたり、感じたりしたらお知らせください」
「はい」
文月はアガサの指先を凝視する。しかし特になにも見られない。
「……さらに凝縮します」
静かな声でアガサが宣言した。
……キィィィィィィィ!!!
「わっ!」
高音が聞こえて文月は思わず耳をふさぐ。
いや、元々聞こえてはいたのだが高音が大きくなって初めて聞こえていた事に気が付いたのだ。
この音ならずっと聞いていた。あまりにもいつも聞こえていたから意識の外になっていた音だった。
「何かお分かりになりましたか?」
アガサが手を下ろすと音も消えた。だが一旦意識をしてしまえば音はあらゆる方向から小さく聞こえていた事に気がついた。
今まで聞こえていたのに意識出来なかった為に認識できなかったのだ。だが気がついた今は音が世界を満たしているのを感じた。
文月の知覚が急速に広がる。
「高い音が聞こえました。いや、まだ小さいけど音が周りから聞こえてます」
おっかなびっくり文月は耳から手を離す。
「フミツキ様は魔力を音で知覚するようですね」
「今の音が、魔力の音?」
「はい、今度は目を閉じて聞いてみてください」
「うん」
文月が目を閉じるとアガサは再び指を立てて先端に魔力を集める。
「うん、聞こえる!」
先ほどよりもはるかに早く文月は魔力を聞いた。
「目はそのまま閉じられていてください。私はこれから動きますから私を指で指し続けてください」
「うん」
アガサは静かに立ち上がり足音を立てないように動き出す。毛足の長い絨毯が室内に敷かれているので静かにしようと意識して移動すれば足音は出ない。
アガサはゆっくりと文月から離れ大きく円を描くように動く。
しかし目を閉じた文月の指先は正確にアガサを指し続けた。
満足げにほほ笑んだアガサはリグロルに目配せする。
アガサの意図を汲んだリグロルが指を立てる。同時にアガサは手を下ろした。
「あ、リグロルだ」
文月は一瞬で魔力の発信元が変わったことに気が付きリグロルを指さした。
「素晴らしい。フミツキ様、もう目を開けていただいて結構ですよ」
「うーん、もうちょっと閉じてる」
「……理由を伺ってもよろしいですか?」
「えっと、うーん、良く見えるんだ」
「良く見える?」
「あ、いや、よく聞こえるって言った方が正しいんだろうけど、うーん、魔力が良く見えるんだ」
「……なるほど、どこまで見えますか?」
「えーっと、えーっと、あ、タルドレムの居場所が分かる。あ、ジクドリア王妃様の場所もわかる。マドリニア王の」
「お止めください」
アガサの冷たい声に文月は驚いて目を開けた。
アガサは微笑んだままだが微動だにしていない。驚いているのか緊張しているためなのか。
「フミツキ様、国王様の居場所を突き止める行為は今後絶対に控えてください」
「は、はい、分かった、しない」
顔は笑ったままだがアガサから放たれる圧力が半端ない。文月は思わずコクコクとうなずく。
次の瞬間アガサの圧力が消える。
「フミツキ様、失礼いたしました。うかつにどこまで見えるか等と伺ってしまった私の責です。申し訳ございませんでした」
アガサは膝をつき文月に深々と首を垂れた。金髪の先が絨毯に触れる。
「わっわっアガサさんごめんなさい!立って立って!僕また調子に乗っちゃった!」
「この咎はいかようにも」
「もぅ!そういうのイヤ!立ってよぉ!ぐずっ」
「フミツキ様?」
アガサが顔だけ上げると文月は目元を赤くして瞳を潤わせていた。
ポロリと涙がこぼれた。
リグロルが文月に駆け寄り抱きしめる。文月はリグロルの胸元にしがみつき小さく嗚咽し始めた。
「アガサ、立ってください。その姿勢はフミツキ様を傷つけます」
リグロルが文月をしっかり抱きしめたまま目線だけ動かしアガサを睨む。
アガサはすぐに立ち上がった。ゆっくりと二人に近づき静かに語り掛ける。
「フミツキ様、お許しください。フミツキ様を傷つけてしまいました。授業の続きは次回にいたしましょう」
リグロルの胸に顔を押し付けたまま文月はコクコクとうなずいた。
「失礼いたします」
自分で扉を開け、深々と頭を下げてアガサは退室した。
「っう……っう……うあぁあああああ!」
扉が閉まり、二人きりになった途端に文月は声を上げて泣き始めた。
リグロルはぎゅっと文月を抱きしめる。
「お、お姫様になんて、なんて、なりたくなんて、なかったのに!勝手にされたのに!」
リグロルは文月を抱きしめ続ける。
「リグロル!優しくなんてしないでよ!どうせ僕なんだから!」
「フミツキ様……」
相手を拒否し、自分を拒否しながらも文月はリグロルにしがみつき泣き続けた。
リグロルは情緒不安定な文月を抱きしめながらも内心は落ち着いていた。
そろそろですね、ご準備はお任せください。
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